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第二十話 初めての依頼と疑問
しおりを挟む「『消毒液光線』」
「ギャッ!?」
「あっ……」
薬草採取の依頼の途中、偶然出会ってしまったゴブリンを相手していた。
あんなに苦戦していたゴブリンを一撃で倒せたことに妙な呆気無さを感じる。
それでもオレは確実に強くなっている。
……たとえ吸魔の指輪に頼り切っているとしても。
「模擬戦でも見させていただきましたけど、すごい恩恵の使い方ですね! ゴブリンさんの胸を貫いたかと思ったら一発で倒してしまうなんてすごいです!」
ランクルの街で急遽手に入れた簡素な革鎧を身に着けたラーツィアが、ゴブリンの絶命の瞬間を見てはしゃいでいる。
新人の冒険者はゴブリンのような人型の魔物を殺した時、その嫌悪感や罪悪感から吐いてしまう者も少なくないんだけど……全然大丈夫そうだ。
お姫様なのにまったく動揺もないのが不思議だ。
まあ、心配ごとが一つ減ったから良かったけど……ラーツィアもこの追っ手に追われている状況に気を張り続けてゴブリンのことまでは気にしていられないだけかもしれない。
後でそれとなくフォローしてあげないとな。
「つくづく思うが何なんだお前の恩恵は……何故そんなことが出来る」
師匠はオレが恩恵技を短時間で開発しすぎだと呆れた顔でいう。
「う~ん……なんとなく?」
「なんとなくでは出来ない筈なのに……まったくコイツは……」
落ち込む師匠、そんなに変かな?
「それよりレオ師匠、吸魔の指輪について疑問があるんだけど……」
「なんだ?」
「この指輪をレオ師匠が着けたらどうなるんだ? 使える魔力が増えて、例えばファルシオンを大量に出せるようになったりするのか?」
そう、そこが疑問だった。
オレはこの指輪の魔力によって恩恵を十全に扱えている。
ただ、この指輪を外せば当然指輪の魔力は使えない。
それはわかっていたことだ。
しかし、この指輪は嵌めれば誰でもその魔力を使えるものなのか。
それだけが疑問だった。
「結論から言えば無理だ」
「え?」
真剣に聞いたつもりだったけど、師匠は切って捨てるように断言した。
「吸魔の指輪は姫様の魔力暴走を抑えるために女王様の用意した物だが、それ故に私も護衛騎士として確認のために一度だけお借りして身に着けさせていただいたことがある」
「そういえばレオパルラが持ち帰って調べるといっていましたね。あの後、ものすごく顔色の悪いまま返しに来てくれましたけど……あれは何だったのですか?」
「姫様……あの時のことは忘れもしません。姫様にお借りした吸魔の指輪を調査のために身に着けたのですが……」
なんだ?
凄く言いづらそうに口籠る師匠。
「……余りの膨大な魔力に魔力酔いのような症状になってしまい、これは姫様のような選ばれた方にしか使えない物だと考えまして、すぐにお返しした次第です」
「そんな……指輪のせいでレオパルラが苦しんでいたなんて……わたし……」
「ひ、姫様、姫様が気に病むことではございません。アレは私が自主的に調べたいといったことを姫様がお許しして下さっただけのこと。たった三日程寝込んだだけですぐに回復しましたから何も問題はありません」
おい、三日も寝込んだのかよ!
それに魔力酔い?
確か許容量以上に身体に魔力を貯め込んでしまうことで引き起こされる症状だったはずだ。
吐き気や目眩、倦怠感なんかの風邪に近い症状が現れ、酷い場合は意識を失うこともある。
ただ、魔力総量が急激に成長した時や空気中に漂う魔力の多い土地でも起こる現象のはずだから、割と身近な症状とも言える。
まあ、魔力が全然成長しないオレには無縁のことだったけど。
「ん? レオ師匠がそれならオレは何で大丈夫なんだ? 全然気持ち悪くもならないし体調に変化はないぞ」
「それはお前が異常だからだ」
めちゃくちゃズバっというな。
「私が魔力酔いの症状が出た以上、お前もすぐに症状が出ておかしくない。それが吸魔の指輪を長時間身に着けていても何ともない。それどころか指輪の魔力を自分の物として操れる。……異常以外の何ものでもないだろ」
師匠は恐ろしいものを見るような目でこちらを見ている。
そうなのか?
自分ではわからない。
指輪を嵌めた時からなんとなく魔力を引き出せる感覚がした。
まあ、そのお陰でオーガとも戦えたんだが……。
あれ?
じゃあオーガと戦う時に指輪を見てオレに任せてくれたのは……。
「あの時はお前を囮にして逃げるつもりだった」
「おい! そんなにはっきり言う奴がいるか! しかも本人の前で!」
「姫様の身を最優先するのは当然のことだ。……だが、お前がオーガを倒す姿は目に焼き付いている……そうでなければお前を弟子になどしない」
段々と小声で話す師匠は照れくさそうに視線を逸らす。
ま、まあ師匠の気持ちもわからなくもない。
初対面の相手を信じろと言う方が無理があるからな。
少し気まずい雰囲気のまま俺たちは薬草の群生地に向かう。
いままで薬草採取ばっかりしていたから取れる場所は何か所も把握している。
ラーツィアと師匠を一番近い群生地に案内した。
外を出歩くことの少なかったラーツィアは薬草採取ですら楽しいらしく、張り切って採取をしてくれる。
『孤児院の子供たちにも持っていきましょう』と提案してくれた時には驚くと同時に嬉しかった。
これで依頼の必要数は集まった。
俺たちは報告のため冒険者ギルドへの帰路につく。
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