超絶ゴミ恩恵『消毒液』で無双する

びゃくし

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第二十一話 因縁のAランク冒険者

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「アルコ、あんたには俺たちのパーティーを抜けてもらう」

 レットが冒険者ギルド併設の酒場でそう声を荒げた時、俺はその言葉の意味をわかっていなかった。

「な、なにを……!?」

「今伝えた通りだ。このパーティーを結成して一年半近くになるがあんたは一向に強くならない。何よりあんたの恩恵『消毒液』は何の役にも立たない正体すらわからない恩恵。これ以上同じパーティーにいたとしても足手纏いなだけだ」

「そうね。私たちがそれぞれ強力な恩恵と実力によって強くなっている間アンタは何してたの? そんな意味のわからない恩恵に縋って、なに? 一日に手の平一杯分しか出せないじゃない。そんなものゴミよゴミ」

 パーティーの紅一点、水魔法使いのライミーは普段から口が悪い。
 それでも、その時の言葉はオレの心の奥底に突き刺さっていた。

「フ、フリーゲル、お前もレットやライミーと同じ意見なのか? オレをこのパーティーから追い出そうって、そういうのか?」

 オレはパーティーの中でも口数は少ないが温和なフリーゲルに一縷の望みを託していた。
 彼ならレットやライミーに反論してくれる。
 オレが必要だと言ってくれる。

 そんな今考えても虫のいい、甘い考えを口走っていた。

「リーダー。アンタを信じて孤児院を出て一緒に冒険者としてやってきた。だが、おれもレットやライミーと同じ意見だ。ゴブリン一体にすら苦戦するアンタは……この先の冒険にはついてこれない」

「そ、そんな……」

 レット、ライミー、フリーゲル。
 この三人は同じ孤児院で育った幼馴染みだ。
 孤児院を十四歳の時に飛び出して以来共に冒険者となり同じパーティーとして活動してきた。

 オレをリーダーとしての冒険は初めこそ訓練の日々ばかりで苦戦したものの決して悪くはなかった。
 冒険者ギルドの訓練場で行われる講習で日々鍛錬しながらも、依頼をこなし徐々に地力を増し、知識を蓄えていった。

 その日の生活費を稼ぐだけで精一杯の毎日。
 宿屋に無理をいって大部屋を借り受け四人でそこに暮らした。
 孤児院にいる時に学んだ節約料理でなるべく食費を抑え、貯めた金で冒険に必要な武器や防具を揃えた。

 ただひたすらに楽しかった。
 四人一緒に強くなっている実感があった。

 だが、そんなオレたちの関係に転機が訪れたとすればそれは恩恵を与えられた日のことだろう。
 十五歳の誕生日に唐突に与えられる恩恵は自らの意思で選ぶことは出来ない。

 そして、その日からオレを見る周囲の目は変わってしまった。
 勿論同じパーティーである彼らの目も。

「『ツーハンドソード』」

 椅子から立ち上がったレットは、自らの恩恵で作り出した両手持ちの長剣をオレの首元に向ける。
 その全長は約百八十センチメートル、両手でしっかりと握るための長い柄をレットは片手で軽々と支えながらオレを嫌悪の眼差しで見詰めている。

 突然の行動に酒場の中は一瞬騒然となった。
 何事かと大衆の注目が集まる。
 しかし、レットはそんな雑音は気にしないといった様子で続ける。

「次のリーダーは俺だ。そしてあんたをこのパーティーから追放する。……文句はないな。ライミー」

「まあ、私はリーダーってガラじゃないし。レットがリーダーでいいんじゃない。そこの“ゴミ恩恵”は居なくなるんだし」

「……フリーゲル、お前は?」

「構わない」

 レットはオレの意見を聞くことはなかった。
 すでに決定したことを語っているにすぎなかった。

「大体コイツは私たちのお陰でDランクに上がれただけでそうじゃなかったら一生Eランクだったでしょうね。まあ、これから昇格することもないだろうから“万年Dランク”のアンタは精々私たち抜きで頑張ってちょうだい。その“ゴミ恩恵”でね」

「ライミー……言い過ぎだ」

 この時ライミーの呼んだ“万年Dランク”と“ゴミ恩恵”という呼び名が定着するのはそう時間はかからなかった。

「そういう訳だ。パーティーの過半数が俺の提案に同意してくれた。あんたにはこのパーティーを抜けてもらう。……じゃあなリーダー。俺たちはもっともっと強くなる」

 最早オレのことなど眼中にないと言わんばかりに、レットはライミーとフリーゲルを連れ迷いなく酒場を立ち去った。

 オレはパーティーを追放されて当然だった。

 恩恵は正体不明、体術も剣技もゴブリンにすら敵わない。
 恩恵が発覚してからは余計にその差は顕著になり、戦闘では禄にサポートもできず、レットたちに任せきりだった。
 ライミーの言う通りDランクに昇格できたのも彼らの力があったからだ。

 ただ、あの時のオレは共に冒険をしてきた仲間にすら見捨てられ、失意のどん底にいたことは間違いない。





「はい、これで薬草採取の依頼は達成ですね。おめでとうございます」

 冒険者ギルドの受付でマリネッタに採取した薬草を渡し依頼達成を報告する。
 昼間セブランと模擬戦もどきをしたせいか、オレたちが現れた時若干ギルド内がざわついたけど、強引にマリネッタが受付カウンターまで連れてきて手続きをしてくれた。
 
 依頼の品も無事納品し、今日の夕飯はどうしようかなと思案しているその時。

 冒険者ギルドの入口方面がにわかに騒がしくなる。

 なんだ?

「おいおい、いつ帰って来たんだ? 水臭えじゃねぇか俺たちにも知らせてくれよ!」

「このギルド期待の星のご帰還だ!!」

「あの孤児の坊主たちが王都で活躍してるなんてな! ランクルの街出身の冒険者がこんなに有名になるなんて俺たちも鼻が高いぜ!」

 あまりのギルド内の騒々しい様に耐えかねた師匠がマリネッタに尋ねる。

「……あの三人組はそんなに有名なのか?」

 その返事が返って来る前に件の三人組が歓声と共に近づいてくる。

「よう、アルコ。久しぶりだな。元気にやってたか?」

「レット……」

 あの日オレが追放されたパーティー〈輝く極星〉。
 今やAランク冒険者となったレットたちが目の前で不敵に笑っていた。
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