39 / 52
第三十八話 決意表明
しおりを挟む「おい、アルコ! いるんだろ! 出てこいよ!」
朝っぱらからマジでうるさい。
何なの?
こちとら昨日はヴィルジニーが顔を真っ赤にして『不束者ですが……』なんて泊まりにきて、ドキドキして眠れなかったんだぞ。
まあ、勿論寝る場所はラーツィアたちと同じく居間だけどな。
今じゃ、居間の一角はカーテンで仕切られてラーツィアの恩恵でベットを出すため専用の場所になってるよ。
そこで女三人で仲睦まじく過ごしているようだ。
オレか? オレは一人寂しく部屋で寝たよ。
「あ~、はいはい。何の用だ?」
「何の用だとぉ? このボクが直々に君の家を訪ねてあげたんだぞ! なんだその態度は!」
頼んでないし。
唾でも飛ばす勢いで急接近してくるロガン。
そこに騒ぎを聞きつけた不思議そうな顔をしたヴィルジニーが外にでてくる。
水着で。
「な、な、な、っ――――」
おいおい、なんだ気持ち悪いな。
ヴィルジニーを目撃した途端、発声の仕方を忘れてしまったかのように、一音しか出せなくなるロガン。
挙動不審で意味もなくキョロキョロとしだし、額には汗が浮かんでいる。
えー、なんか怖いんですけど。
「アルコ、この人は誰なのかしら? 突然固まってしまったみたいだけど」
小首を傾げるヴィルジニー。
その仕草はどこか上品で貴族のお嬢様というのも間違いではないなと感じさせる所作だった。
「あー、そのヴィルジニー、コイツはだな……」
「……ヴィルジニー、さん……め、女神様?」
ホ、ホントに気持ち悪いんだけど!?
視線を一点に集中し、うわ言のように名前を呟く頬を赤らめたロガンは、普段から変な奴だとは思っていたけど、今日は輪をかけておかしかった。
「その……はじめまして。私はヴィルジニー・シャノワール。なんの御用でこちらを訪ねたのかは知らないけど、取り敢えずよろしくお願いするわ」
「も、勿論です! ボクはロガン。こ、こちらこそよろしくお願いします!!」
ロガンの本性を知らないヴィルジニーは優雅に挨拶をする。
それに、まるで突然好青年にでもなったかのような気持ち悪い上目遣いで挨拶を返すロガン。
いや、お前誰だよ!
「そ、そ、その! 女神様は! なぜこんな廃屋に? アルコ君がなにか粗相を致しましたでしょうか? でしたらボクから言って聞かせますよ。ボクは彼とはほら、無二の親友ですから!」
いや、ホントお前誰だ!
それとお前みたいな親友はこっちから願い下げだから、悍ましいことを言うんじゃねぇよ!
後、肩を組もうと近づいてくるな。
オレは渾身の力でロガンの手を払うが、ヤツはまったく気にしない。
おい、痛覚とかどこいったんだ。
結構な炸裂音がしたんだけど、一切オレの方を見ないでヴィルジニーしか目に入ってないんだけど……。
「ん? アルコには別に迷惑はかけられてないわよ? むしろ私が押しかけたんだもの。迷惑をかけたのも私だわ」
「へ? ……押し、かけ、た?」
「ええ、一緒に住んでるもの」
「こ、こ、ここでですか? このボロ家でアルコと一緒に?」
「そうよ? 私からお願いしたの」
「…………」
ロガンの動きが完全に止まる。
ゆっくりとこちらに振り返る。
それは血の涙でも流しそうな凄い形相だった。
この世のすべてを憎むような怨嗟の表情。
「ぐ、ぐ、ぐぅぅぅぅ」
ロガンの取り巻きたちもあまりの迫力に最早存在感を無くし隠れることしかできない。
いや、アイツらは元からそんな奴らか。
ともかくロガンは並々ならぬ想いをヴィルジニーに向けていたようだ。
そして、その想いの矛先は一緒に生活を共にしているオレに今度は向けられている。
純粋な殺意となって。
「オマエェェ、オマエ如きがボクの女神様と一緒に生活しているだとぉぉぉ」
地の底から這い上がるような声だった。
「薄汚い“ゴミ恩恵”のお前如きが、女神様と共にいることなど許されないだろうがぁぁぁ。誰の許可を得てここで過ごしていると思ってるんだぁ! ボクの、このボクの温情でここに住まわしてやってるんだぞぉ! それがなぜわからない! お前なんか大人しく野垂れ死んでいればいいものを、ボクの逆鱗に触れやがって、金の期日なんてどうでもいい、追い出してやる! 追い出してやるぞ!」
激昂するロガン。
髪を振り乱し、目は血走り、思い通りにならない事態に地団駄を踏む。
それは正しく発狂だった。
怒りを全身から表していた。
だが、そんなロガンの激情の渦を……オレは切り裂く。
「約束だろ」
「約束ぅ? なんのことだ?」
「土地の売買だよ。オレに金貨三千枚で売るとお前は約束した」
「そんなもの関係ない。関係ないんだよ! そもそもお前なんか“ゴミ恩恵”と――――」
「いいのか? お前商人だろ? 書類の上での約束だ。それを自ら破るのか?」
「ぐ……う……」
ロガンは商人だ。
正確には商人一家の一人息子。
勿論バカ息子だが……商売の上での約束を自ら故意に破ることなど出来はしない。
そんなことをすれば商会の名は地に落ちる。
なぜなら土地売買の約束は、商会を運営するトップであるロガンの父を交えて行われたものだからだ。
ロガンはこんなだが、その祖父が爺さんと知り合いだったように、ロガンの父も悪い人ではない。
ただ優しくもないだけだ。
ロガンがオレに吹っかけた金貨三千枚もビタ一文まけることはなかった。
しかし、商人としては非常に厳しい人だ。
ロガンの一時の癇癪で約束を破棄したと知ったら、ロガンはこの先商会での居場所を失う。
信用で成り立つ商売において、自ら結んだ約束を破棄する者をロガンの父は許しはしないだろう。
それどころか、どんな目に会わされるかわかったものじゃない。
それに気づいたからこそロガンは怒りに狂っていても、僅かに冷静さを取り戻していた。
さて、ここからはオレのターンだ。
ボロクソに言ってくれた礼をしないとな。
「ロガン」
「な、なんだ……」
「お前は少し黙ってろ! 催促されなくとも金は必ず用意してやる!」
「な、なんだと!?」
「ヴィルジニーはオレの、オレたちの仲間だ! お前の女神なんかじゃない! オレたちは必ず目標に到達する! だから期日まで大人しく待っていろ!」
「お、お前如きがっ、お前如きがっ……ク、クソ」
反論もできないロガンは取り巻きに連れられ悔しそうに去っていった。
その背を見て思う。
誰だろうとオレたちの道を阻ませない。
オレは得た。
真に信頼できる仲間を。
だからこそ、仲間と共に前に進む。
この幸福な時間を誰にも奪わせはしない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる