超絶ゴミ恩恵『消毒液』で無双する

びゃくし

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第三十九話 とある冒険者たち

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 ランクルの街大規模ダンジョン、通称『底なし沼』。
 そこには王国中、大陸中から数多の冒険者が集まり、一攫千金を求めて日々危険を承知で潜り続けている。

 現在第五層まで確認されているこのダンジョンは、第一層ですらその余りにも広大な面積から全容が掴めず、階層は一体どれほど深く続いているのかはまだ誰にも把握されていない。
 それ故に手つかずのお宝が眠っていると冒険者たちは信じており、まさに砂糖に群がる蟻のように我先にと潜っていく。

 そこを訪れた僕たちCランク冒険者パーティー〈雷鳴斬震〉の三人は今窮地に立たされていた。

「ギャギャッ、ギャッ」

 僕たちを取囲み笑うホブゴブリンの集団。
 腰にボロ布だけを纏った灰色の小人は数にして十体はいる。

 突然の奇襲はこの『底なし沼』の第一層では日常茶飯事だ。
 少しでも鬱蒼とした森林地帯を進めばたちまちに魔物に襲われることになる。

 森の中を徘徊している魔物たちは、獲物や外敵に対して周囲の仲間を呼び寄せ奇襲を行う。
 それは自身の生命が危険に陥っているときも同じ。

 僕たちは失敗した。

 即座に止めを刺すべき瀕死のホブゴブリン一体に手間取り、仲間を呼び寄せさせる隙を与えてしまった。
 いつもなら二、三体のホブゴブリンかゴブリンが集まって来るだけだった。
 失敗は失敗でも取り返せる筈のミス。
 それが……。

「なんなんだよ、今日は! なんでこんなにゴブリン共が集まってくるんだ! おかしいだろ!」

 焦りが頂点に達したのかパーティーの攻撃役であるセントールが、ゴブリンに槍を突き刺しながら文句を叫ぶ。
 ひっきりなしに襲いかかってくるホブゴブリンとゴブリンの混成集団。
 倒しても倒しても補充され集団はなくならない。

「クソッ、うっとおしいんだよ! 『アイアンスピア・シュートレイン』!」

 ダリオの恩恵『アイアンスピア』がゴブリンたちの集団の真上から雨のように降り注ぐ。
 ダリオの切り札の恩恵技。

「ギャギャ」

「やれ! マークス!」

「仕方ないですね。こんな状況では出し惜しみはなしです。風爆烈《ウィンドブラスト》」

 弾丸のような風が着弾と同時に爆発し激流が生まれる。
 複数のゴブリンが肉片になるほどの衝撃。
 マークスの放つ中級風魔法は群がるゴブリンたちを一時的に一掃する。

 それでも……。

「途切れない。ゴブリンたちの波が……」

 どうしたらいい。

 どうしたらこの状況を脱せる?

 僕たちはもう疲弊しきっている。
 ダリオもマークスもすでに傷だらけで、満身創痍だ。
 
 ひたすら続く戦いに体力も魔力もなく必死で喰らいついているだけ。
 限界は極めて近い。

「……オレが、オレが囮になる。二人とも逃げろ」

「ダリオ、なにを言い出すんだ!」

「このまま戦っていてもいずれオレたちが力尽きるのは時間の問題だ。逃げるにしたってこれだけのゴブリン共の大集団の包囲を突破するのは難しい。誰かが……殿になって引きつける必要がある」

「そんな……ダリオだけを置いて行くなんて……」

 振り返ったダリオはすでに決意を固めていた。
 この死地に一人残る決意を。
 彼は笑う。

「迷ってる時間はねぇ。ここはオレに任せて先に行くんだ!」

「……ダリオだけでは手が足りないでしょう。私も残ります」

「マークス、お前……」

 やれやれと息を吐いたマークスに、ダリオが目を見開いて驚く。
 同じパーティーでありながら二人は普段からいつもいがみ合っていた。
 それなのに、この危機的状況において告げたマークスの提案は、自らも死地に身を置くことを表していた。

「ダリオ一人ではゴブリン共も大して寄ってきませんからね。私のような明確な脅威になる相手でないと囮役は難しいでしょう」

「な、なんだと!? オレはお前らのことを思ってだな」

「ええ……ですから、私の護衛は任せましたよ。私に寄ってきた魔物を貴方が倒し、貴方に引き寄せられた魔物を私が倒す。……二人なら囮としては上出来でしょう」

 マークスもまた決意を固めていた。
 ダリオにこそ厭味ったらしく伝えているものの、彼もまたすでにここに残る決断を下していた。

「貴方は逃げて下さい」

「そうだ、ここはオレたちに任せろ。お前は逃げろ。いいな、振り返るんじゃねぇぞ。ただひたすら逃げて地上に行くんだ」

 どうして、どうしてこんなことになったんだ。

 僕たちは故郷の街からずっと幼馴染み三人で冒険を続けてきた。

 それなのに、周囲は醜悪に笑うゴブリンたちに包囲され、最早逃げ場は存在しない。
 大切な仲間二人は自分を犠牲にする決意を固め、僕に逃げろと叫んでいる。

 ゴブリンたちを引き連れたホブゴブリンが二人に襲いかかる。

  僕は?

 僕はどうする。
 
 このまま言われるがまま逃げるのか?

 いいや、そんなことできやしない!

「だあああああっ!!」

 二人に纏わりつくゴブリンを斬りつける。
 鮮血が舞い、生臭い液体が顔にかかる。
 構うもんか。
 僕はがむしゃらに身体を動かす。
 斬る、斬る、斬る。

 無我夢中だった。

 二人を守りたかった。

 それでも……ゴブリンたちは途切れない。
 どこからか汚い咆哮が響く。
 ゴブリンの仲間を呼ぶ咆哮。

 新手だった。
 
「ギャギャギャ、ギャギャッ」

 またもゴブリンたちが騒がしくなる。
 なんだ?
 僕たちを殺せるのがそんなに嬉しいの?

 しかし、その騒ぎは僕の予想とはまったく違う意味を持っていた。

「『消毒液連撃波刃サニタイザー・コンティニュアススライサー』」

 ゴブリンの包囲の一角が瞬くまに斬り伏せられ崩壊する。

 そこには一人の男の人が立っていた。
 
「うわー、また面倒くさい状況だなこれは。おい、そこの君、血だらけだけど大丈夫か? いま助けてやる」

 これは運命の出会い。

 僕の、ううん、私の王子様との運命の再会。
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