40 / 52
第三十九話 とある冒険者たち
しおりを挟むランクルの街大規模ダンジョン、通称『底なし沼』。
そこには王国中、大陸中から数多の冒険者が集まり、一攫千金を求めて日々危険を承知で潜り続けている。
現在第五層まで確認されているこのダンジョンは、第一層ですらその余りにも広大な面積から全容が掴めず、階層は一体どれほど深く続いているのかはまだ誰にも把握されていない。
それ故に手つかずのお宝が眠っていると冒険者たちは信じており、まさに砂糖に群がる蟻のように我先にと潜っていく。
そこを訪れた僕たちCランク冒険者パーティー〈雷鳴斬震〉の三人は今窮地に立たされていた。
「ギャギャッ、ギャッ」
僕たちを取囲み笑うホブゴブリンの集団。
腰にボロ布だけを纏った灰色の小人は数にして十体はいる。
突然の奇襲はこの『底なし沼』の第一層では日常茶飯事だ。
少しでも鬱蒼とした森林地帯を進めばたちまちに魔物に襲われることになる。
森の中を徘徊している魔物たちは、獲物や外敵に対して周囲の仲間を呼び寄せ奇襲を行う。
それは自身の生命が危険に陥っているときも同じ。
僕たちは失敗した。
即座に止めを刺すべき瀕死のホブゴブリン一体に手間取り、仲間を呼び寄せさせる隙を与えてしまった。
いつもなら二、三体のホブゴブリンかゴブリンが集まって来るだけだった。
失敗は失敗でも取り返せる筈のミス。
それが……。
「なんなんだよ、今日は! なんでこんなにゴブリン共が集まってくるんだ! おかしいだろ!」
焦りが頂点に達したのかパーティーの攻撃役であるセントールが、ゴブリンに槍を突き刺しながら文句を叫ぶ。
ひっきりなしに襲いかかってくるホブゴブリンとゴブリンの混成集団。
倒しても倒しても補充され集団はなくならない。
「クソッ、うっとおしいんだよ! 『アイアンスピア・シュートレイン』!」
ダリオの恩恵『アイアンスピア』がゴブリンたちの集団の真上から雨のように降り注ぐ。
ダリオの切り札の恩恵技。
「ギャギャ」
「やれ! マークス!」
「仕方ないですね。こんな状況では出し惜しみはなしです。風爆烈《ウィンドブラスト》」
弾丸のような風が着弾と同時に爆発し激流が生まれる。
複数のゴブリンが肉片になるほどの衝撃。
マークスの放つ中級風魔法は群がるゴブリンたちを一時的に一掃する。
それでも……。
「途切れない。ゴブリンたちの波が……」
どうしたらいい。
どうしたらこの状況を脱せる?
僕たちはもう疲弊しきっている。
ダリオもマークスもすでに傷だらけで、満身創痍だ。
ひたすら続く戦いに体力も魔力もなく必死で喰らいついているだけ。
限界は極めて近い。
「……オレが、オレが囮になる。二人とも逃げろ」
「ダリオ、なにを言い出すんだ!」
「このまま戦っていてもいずれオレたちが力尽きるのは時間の問題だ。逃げるにしたってこれだけのゴブリン共の大集団の包囲を突破するのは難しい。誰かが……殿になって引きつける必要がある」
「そんな……ダリオだけを置いて行くなんて……」
振り返ったダリオはすでに決意を固めていた。
この死地に一人残る決意を。
彼は笑う。
「迷ってる時間はねぇ。ここはオレに任せて先に行くんだ!」
「……ダリオだけでは手が足りないでしょう。私も残ります」
「マークス、お前……」
やれやれと息を吐いたマークスに、ダリオが目を見開いて驚く。
同じパーティーでありながら二人は普段からいつもいがみ合っていた。
それなのに、この危機的状況において告げたマークスの提案は、自らも死地に身を置くことを表していた。
「ダリオ一人ではゴブリン共も大して寄ってきませんからね。私のような明確な脅威になる相手でないと囮役は難しいでしょう」
「な、なんだと!? オレはお前らのことを思ってだな」
「ええ……ですから、私の護衛は任せましたよ。私に寄ってきた魔物を貴方が倒し、貴方に引き寄せられた魔物を私が倒す。……二人なら囮としては上出来でしょう」
マークスもまた決意を固めていた。
ダリオにこそ厭味ったらしく伝えているものの、彼もまたすでにここに残る決断を下していた。
「貴方は逃げて下さい」
「そうだ、ここはオレたちに任せろ。お前は逃げろ。いいな、振り返るんじゃねぇぞ。ただひたすら逃げて地上に行くんだ」
どうして、どうしてこんなことになったんだ。
僕たちは故郷の街からずっと幼馴染み三人で冒険を続けてきた。
それなのに、周囲は醜悪に笑うゴブリンたちに包囲され、最早逃げ場は存在しない。
大切な仲間二人は自分を犠牲にする決意を固め、僕に逃げろと叫んでいる。
ゴブリンたちを引き連れたホブゴブリンが二人に襲いかかる。
僕は?
僕はどうする。
このまま言われるがまま逃げるのか?
いいや、そんなことできやしない!
「だあああああっ!!」
二人に纏わりつくゴブリンを斬りつける。
鮮血が舞い、生臭い液体が顔にかかる。
構うもんか。
僕はがむしゃらに身体を動かす。
斬る、斬る、斬る。
無我夢中だった。
二人を守りたかった。
それでも……ゴブリンたちは途切れない。
どこからか汚い咆哮が響く。
ゴブリンの仲間を呼ぶ咆哮。
新手だった。
「ギャギャギャ、ギャギャッ」
またもゴブリンたちが騒がしくなる。
なんだ?
僕たちを殺せるのがそんなに嬉しいの?
しかし、その騒ぎは僕の予想とはまったく違う意味を持っていた。
「『消毒液連撃波刃』」
ゴブリンの包囲の一角が瞬くまに斬り伏せられ崩壊する。
そこには一人の男の人が立っていた。
「うわー、また面倒くさい状況だなこれは。おい、そこの君、血だらけだけど大丈夫か? いま助けてやる」
これは運命の出会い。
僕の、ううん、私の王子様との運命の再会。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について
沢田美
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。
クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~
仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる