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五話
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——遅いな。
僕はベッドの上で寝返りを打つ。
いつもは狭いダブルベッドが、一人だと妙に広く感じた。
珍しく、つむぎはまだ仕事をしていた。
僕がいる間は残業することは滅多にないが、今日は急ぎの案件が発生したらしく、対応に追われているようだった。
つむぎに『リビングで仕事するから先に寝てて』と言われて、僕はやむなく先に寝室へ向かった。
しばらく待てば、つむぎも来るだろうと、ベッドに寝転がってタブレットで絵を描いていたものの、全く来る気配がない。
タブレットを置いて、代わりにタオルケットに手を伸ばす。それをギュッと抱き締めても、つむぎの代わりになる筈もなかった。
あの温もりに慣れてしまった身体は、物足りなさを訴える。
——つむぎのせいだ。
八つ当たりして、子供のように丸くなる。
耳を澄ましても、聞こえるのはエアコンのカタカタした音だけで、リビングからは何も聞こえない。
——一人でも寝れるし。
不貞腐れて、僕は無理矢理目を閉じた。
——ギシッ。
ベッドが軋む音に、うとうとしていた僕は薄っすら目を開けた。
ぼんやりと感じる夜の空気は重く、時刻はとっくに零時を過ぎている頃だろうか。
エアコンで冷えた指先に、風呂上がりなのか湿った熱い指が絡んできた。
「つむ……ぎ……」
かすれた声で名を呼べば、つむぎの顔が近づく気配がした。
暗闇の中、表情は見えないけれど、いつものようにつむぎの唇が僕の唇に触れた。
甘い吐息混じりに、啄むような口付けが降って来る。
熱い舌が差し込まれると同時に、いつもと違う匂いがすることに気づいた。
——お酒……?
冷蔵庫に缶ビールも常備されているのは知ってるが、僕がいる間、つむぎが飲んでるところを見たことはなかった。
もしかすると、今夜は仕事終わりの開放感で飲んだのかもしれない。
酒のせいか、触れてくるつむぎの体温はいつもより高い。フゥフゥ呼吸を荒げながら、角度を変えて深く口付けてくる。
——酔ってんのかな。
今夜はやけに荒々しかった。
求められているのは嬉しいが、酒の匂いがどうにも邪魔をする。
苦手な匂いに我慢できず、つむぎをやんわりと押し退ければ、不満そうに唇が離れた。
「嫌か……?」
声は不安げに揺れているけど、どんな顔をしてるかはわからない。
ただ安心させたくて。
「おさけ……のんだ? におい……いやかも」
舌足らずに返事をして、僕はつむぎの頬に這わす。すると、つむぎは小さく笑って。安堵したように、僕の手に頬擦りした。
それから、つむぎは僕の手を掴んで掌にキスをする。そのまま、柔らかな唇は指先まで優しく唇を落とした。
——嗚呼、駄目だ。
ぶわりと胸に集まる熱が、僕の下半身に熱を灯していく。
思わず腰を引けば、グッと引き寄せられて、互いの兆したものがゴリッと当たる。
布越しに伝わってくるつむぎの興奮に、僕は息を飲んだ。
「つむ……ぎ」
名を呼べば、押し倒されるようにシーツに縫い付けられて、Tシャツを捲し上げられた。冷たい空気に晒された胸を、熱い掌が弄って、指先が捉えた胸の先をクニクニと扱く。
「あっ……まって……」
こんなことをされるのは初めてで、頭が沸騰しそうになる。
——なんで。
唇同士を触れ合わせることはあっても、それ以上進むことは今までなかったのに。
咀嚼できないまま、もう片方の胸に熱い吐息がかかって。すぐに温かな口内に包まれた。チロチロと舌が胸の先を弄って、勝手に鼻から抜けたような甘い声が漏れた。
舌で舐められ、唇で吸われて。
卑猥な水音が、静かな室内に響き渡った。
そして、つむぎの手がそろりと下へ撫で進んで、僕の股の間に滑り込んでくる。
——だめ。
このままなし崩しに進んでいいのか、わからなくなって。
「つむぎ……まって……やめて……」
震える声で懇願すれば、ビクリと目の前の身体が跳ねる。
ほどなくして熱い熱の塊が離れていった。
互いに呼吸を荒げたまま、暗闇で見つめ合う。
息の詰まるような沈黙の後、つむぎは重々しく口を開いた。
「イチ、来年はもうここに来るな」
一瞬、何を言われたか理解できなかった。
その言葉を頭の中で何度も反芻して、ようやく理解した時、頭がサーッと冷めたくなっていく。
拒絶されたのは、これが初めてだった。
「なん……で」
「受験だろ」
当たり障りのない答えだった。
違う、そうじゃなくて。
それだけじゃない気がして。
今日はどうしたのか。
何を考えているのか。
僕のことどう思っているのか。
伝えたいことは山ほどあるのに、震える唇が上手く動かなくて、何も言葉にできなかった。
「おやすみ」
強引に会話を終わらせて、つむぎは僕に背中を向ける。
僕は途方に暮れたまま、その冷たい背中の輪郭を見つめ続けた。
僕はベッドの上で寝返りを打つ。
いつもは狭いダブルベッドが、一人だと妙に広く感じた。
珍しく、つむぎはまだ仕事をしていた。
僕がいる間は残業することは滅多にないが、今日は急ぎの案件が発生したらしく、対応に追われているようだった。
つむぎに『リビングで仕事するから先に寝てて』と言われて、僕はやむなく先に寝室へ向かった。
しばらく待てば、つむぎも来るだろうと、ベッドに寝転がってタブレットで絵を描いていたものの、全く来る気配がない。
タブレットを置いて、代わりにタオルケットに手を伸ばす。それをギュッと抱き締めても、つむぎの代わりになる筈もなかった。
あの温もりに慣れてしまった身体は、物足りなさを訴える。
——つむぎのせいだ。
八つ当たりして、子供のように丸くなる。
耳を澄ましても、聞こえるのはエアコンのカタカタした音だけで、リビングからは何も聞こえない。
——一人でも寝れるし。
不貞腐れて、僕は無理矢理目を閉じた。
——ギシッ。
ベッドが軋む音に、うとうとしていた僕は薄っすら目を開けた。
ぼんやりと感じる夜の空気は重く、時刻はとっくに零時を過ぎている頃だろうか。
エアコンで冷えた指先に、風呂上がりなのか湿った熱い指が絡んできた。
「つむ……ぎ……」
かすれた声で名を呼べば、つむぎの顔が近づく気配がした。
暗闇の中、表情は見えないけれど、いつものようにつむぎの唇が僕の唇に触れた。
甘い吐息混じりに、啄むような口付けが降って来る。
熱い舌が差し込まれると同時に、いつもと違う匂いがすることに気づいた。
——お酒……?
冷蔵庫に缶ビールも常備されているのは知ってるが、僕がいる間、つむぎが飲んでるところを見たことはなかった。
もしかすると、今夜は仕事終わりの開放感で飲んだのかもしれない。
酒のせいか、触れてくるつむぎの体温はいつもより高い。フゥフゥ呼吸を荒げながら、角度を変えて深く口付けてくる。
——酔ってんのかな。
今夜はやけに荒々しかった。
求められているのは嬉しいが、酒の匂いがどうにも邪魔をする。
苦手な匂いに我慢できず、つむぎをやんわりと押し退ければ、不満そうに唇が離れた。
「嫌か……?」
声は不安げに揺れているけど、どんな顔をしてるかはわからない。
ただ安心させたくて。
「おさけ……のんだ? におい……いやかも」
舌足らずに返事をして、僕はつむぎの頬に這わす。すると、つむぎは小さく笑って。安堵したように、僕の手に頬擦りした。
それから、つむぎは僕の手を掴んで掌にキスをする。そのまま、柔らかな唇は指先まで優しく唇を落とした。
——嗚呼、駄目だ。
ぶわりと胸に集まる熱が、僕の下半身に熱を灯していく。
思わず腰を引けば、グッと引き寄せられて、互いの兆したものがゴリッと当たる。
布越しに伝わってくるつむぎの興奮に、僕は息を飲んだ。
「つむ……ぎ」
名を呼べば、押し倒されるようにシーツに縫い付けられて、Tシャツを捲し上げられた。冷たい空気に晒された胸を、熱い掌が弄って、指先が捉えた胸の先をクニクニと扱く。
「あっ……まって……」
こんなことをされるのは初めてで、頭が沸騰しそうになる。
——なんで。
唇同士を触れ合わせることはあっても、それ以上進むことは今までなかったのに。
咀嚼できないまま、もう片方の胸に熱い吐息がかかって。すぐに温かな口内に包まれた。チロチロと舌が胸の先を弄って、勝手に鼻から抜けたような甘い声が漏れた。
舌で舐められ、唇で吸われて。
卑猥な水音が、静かな室内に響き渡った。
そして、つむぎの手がそろりと下へ撫で進んで、僕の股の間に滑り込んでくる。
——だめ。
このままなし崩しに進んでいいのか、わからなくなって。
「つむぎ……まって……やめて……」
震える声で懇願すれば、ビクリと目の前の身体が跳ねる。
ほどなくして熱い熱の塊が離れていった。
互いに呼吸を荒げたまま、暗闇で見つめ合う。
息の詰まるような沈黙の後、つむぎは重々しく口を開いた。
「イチ、来年はもうここに来るな」
一瞬、何を言われたか理解できなかった。
その言葉を頭の中で何度も反芻して、ようやく理解した時、頭がサーッと冷めたくなっていく。
拒絶されたのは、これが初めてだった。
「なん……で」
「受験だろ」
当たり障りのない答えだった。
違う、そうじゃなくて。
それだけじゃない気がして。
今日はどうしたのか。
何を考えているのか。
僕のことどう思っているのか。
伝えたいことは山ほどあるのに、震える唇が上手く動かなくて、何も言葉にできなかった。
「おやすみ」
強引に会話を終わらせて、つむぎは僕に背中を向ける。
僕は途方に暮れたまま、その冷たい背中の輪郭を見つめ続けた。
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