半分の、君へ

nikka

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六話

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 翌朝、つむぎはいつも通りで。
 昨晩のことについて、何も言わなかった。
 記憶がないほど飲んでいたとは思えなくて、このままなかったことにするつもりなんだろうか。
 ——来年はもうここに来るな。
 その言葉が頭の中にこびり付いて離れない。
 つむぎはどう思っているんだろう。
 でも、自分から聞くこともできなくて、どうしたらいいのかわからずに立ち竦んだ。
 
 そして、そんな日に限って、つむぎは朝食も食べずに早朝から出社してしまった。
 寧ろ、昨夜のことがあったからなのかもしれない。
 急激に色を失った冷たい部屋に、僕はポツンと一人取り残される。
 頭の中は、ぐるぐると同じことばかり考えてしまって。
 つむぎに拒絶されたことが、ずしりと胸にのしかかかる。
 いくら考えようが答えの出ない堂々巡りで、僕は逃げるように勉強に向かった。
 カリカリとシャーペンを動かしていれば、何も考えずにすむ。
 でも、心の奥底の物悲しさはずっと付き纏った。
 つむぎの側にいたいという願いが宙に浮いて、胸のどこかにぽっかり穴が空いたような気分になる。
 
 二時間ほど机に向かっていただろうか。
 不意に、玄関の方からガチャッとドアの開く音がして、僕は顔を上げた。
 ——忘れ物でもしたんだろうか。
 つむぎと今顔を合わせても、何を言えばいいのかわからない。
 緊張しながらリビングのドアを開けて覗いてみれば、そこにいたのはつむぎでなく、雨宮さんだった。
「あ、イチちゃんいたぁ」
 僕と目が合うと、いつもの柄シャツ姿の雨宮さんは人の良い笑みを浮かべて、ひょいひょいと手招きする。
「昼まだ? 食べ行こ」
「あの……つむ……兄ちゃんは今日は会社に……」
 つむぎが出社してることは、雨宮さんも知ってる筈だと思っていた。入れ違いにでもなったのかと、僕は首を捻る。
「うん、つむぎ打ち合わせ長引いててな。僕だけ昼食べに出て来たんやけど。せっかくならイチちゃん誘おー思て」
「え……でも」
 つむぎがいないのに——そう言いそうになって、失礼かもしれないと思い直して口を噤む。
 雨宮さんとはある程度気安く話せる間柄ではあるが、あくまで兄の同僚兼友人という間柄でしかない。雨宮さんと会う時は必ずつむぎがいて、今まで二人きりで会ったことはなかった。
 だからこそ、わざわざ僕を誘いに来たのが不思議だった。
「まぁまぁ、そんな変な顔せんで。ただ、イチちゃんとゆっくり話したかったんだけやから」
「はぁ……」
「俺の奢りやから! な? な?」
 負び強引に誘われて、断る理由も思いつかず、僕は「あ、じゃあ……」と曖昧に返事を返す。
 すると、雨宮さんは「よっしゃ」と満面の笑みを浮かべた。
 ——大丈夫だろう。
 雨宮さんはよく喋るし、二人でも気まずくはなることはない。
「すぐ着替えてきます」
 Tシャツとハーフパンツという部屋着だったため、せめて下だけでも着替えようと、僕は慌ててリビングに戻る。
 背後から「急がんでええよー」と声が聞こえるも、急いで僕は部屋着のハーフパンツをカーゴパンツに着替えて、さっと玄関に向かう。
「早着替えやなぁ」
 クスクス笑って、先に玄関を出て行く雨宮さんの背中を、僕はスニーカーの踵を踏みながら追いかけた。
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