勘違いストーカー野郎のせいで人生めちゃくちゃにされたけれど、おかげで玉の輿にのれました!

麻宮デコ@SS短編

文字の大きさ
2 / 3

しおりを挟む
 それからルーシュは時間があるとすぐにタニアの家にまで押しかけてくるようになった。
 あんまりしつこいので辟易したタニアが居留守を使えば、今度は家族の方にもタニアを出せとわめき始める。

 タニアの婚約者は少し調べればすぐにわかってしまったのだろう。 
 何をしてもタニアに会えないとなると、今度は婚約者の家の方に非難と苦情を昼夜となく言い始めたようだ。

 タニアと自分は将来を誓い合った仲だった。
 それを知っていたのに、強引に彼女を奪った、という怪文書を作り、周囲にも配り始める。

 それを見て、何も知らない人達はあそこまで必死になるのは本当のことに違いない、という憶測をし始めた。そしてタニアに対しても男をもてあそんだ悪女、という悪い噂まで流し始める始末だ。

 タニアがルーシュの実家であるシード家に苦情を言おうにも、あちらもあちらでルーシュの言動に手を焼いているらしく、謝罪されるだけでどうしようもなかった。
 ルーシュのせいでそれまで仲が良かった家同士の仲も疎遠になっていってしまった。

 婚約者の家にも事情を説明すれば、そういう男に粘着されるなんて隙があったのでは? とあべこべにタニアが非難されてしまい、結局、タニア自身に非はないとしても、気持ちの悪い男に執着されている事実にこちらが迷惑を掛けられたくないと、婚約破棄をされてしまった。

(私のせいではないのに……)

 タニアからすれば、これはどうしようもない天災のようなものであるが、他の人はそう見ない。
 タニアに対しても白い目で見てくる。
 男女関係のもつれだと結局はそう非難されるのである。
 
 タニアが婚約破棄されてルーシュは小躍りして喜んだらしい。

 今度は自分が正式にタニアの婚約者になれると思っていたようだ。
 しかし、メルテ子爵家としては面子を潰されたあげく、迷惑をかけられた相手と結婚を許すはずもないし、タニアからしても、怒りを覚える以前に恐怖しか感じていない。

 ルーシュと婚約をしないと決めていても、面と向かってそれを言うと、またあのルーシュが家に特攻してくるのではないかと考えると恐ろしかった。

 なにしろ相手は剣の扱いに長けた騎士である。
 タニアと結婚できないということで逆恨みをして腹いせに殺されでもしたら、と思うと怖くて家にもいられなかった。

「このままだと、貴方の命にもかかわるかもしれないわ。うちにいらっしゃい」

 そう言って救いの手を差し伸べてくれたのは、タニアが慈善活動の最中に会ったことのあるマグリット侯爵夫人だった。
 タニアを気にいってくれて仲良くしてくれた年配のご夫人で、この騒動が起き始めた当初からなにくれとなく心配をして、声をかけてくれていた。
 
 マグリット侯爵家はこの国でも指折りの古い家門であり名家でもある。
 例えルーシュがタニアの身を隠した先がわかっても、名だたる私設騎士団を擁するこの家には入り込むこともできないだろう。
 それでも迷惑をかけるわけには、と尻込みをするタニアと家族を「命には代えられない」と半ば強引に説き伏せて、彼女は自邸に引き取ってくれた。

「ほとぼりが冷めるまで、うちにいなさい。そのうち、いいようになるから大丈夫よ」
「はい……」

 外に出ることも迂闊うかつにできない状況になったが、侯爵夫人はタニアの鬱屈うっくつとした感情を思いやってくれ、彼女の友人を色々と招いてくれた。

 その中に思いがけない出会いがあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢ですがいじめっ子たちが王子様からの溺愛を受けたことが無いのは驚きでした!

朱之ユク
恋愛
 貴族令嬢スカーレットはクラスメイトのイジメっ子たちから目をつけられていた。  理由はその美しい容姿だった。道行く人すべてがスカーレットに振り返るほどの美貌を持ち、多くの人間が彼女に一目ぼれする容姿を持っていた。  だから、彼女はイジメにあっていたのだ。  しかし、スカーレットは知ってしまう。  クラスメイトのイジメっ子はこの国の王子様に溺愛を受けたことが無いのだ。  スカーレットからすれば当たり前の光景。婚約者に愛されるなど当然のことだった。  だから、スカーレットは可哀そうな彼女たちを許すことにしました。だって、あまりにみじめなんだから。

獣の娘だと皆から迫害されていた私は、真の愛を得る為にこの地を出て行く事にします─。

coco
恋愛
幼い頃に森で拾われた私。 その傍らには大きな獣が居たと言う。 そのせいで獣の娘と呼ばれ、迫害されてきた私だけど…? 私は真の愛を得る為に、この地を出て行く事にします─。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

妹が「この世界って乙女ゲーじゃん!」とかわけのわからないことを言い出した

無色
恋愛
「この世界って乙女ゲーじゃん!」と言い出した、転生者を名乗る妹フェノンは、ゲーム知識を駆使してハーレムを作ろうとするが……彼女が狙った王子アクシオは、姉メイティアの婚約者だった。  静かな姉の中に眠る“狂気”に気付いたとき、フェノンは……

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

悪役令息の婚約者に転生した。何を言ってるかと正気を疑われるだろうが、そういうことである。

下菊みこと
恋愛
悪役令息のフラグをへし折るお話 小説家になろう様でも投稿しています

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

逆ハーレムの構成員になった後最終的に選ばれなかった男と結婚したら、人生薔薇色になりました。

下菊みこと
恋愛
逆ハーレム構成員のその後に寄り添う女性のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...