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それからルーシュは時間があるとすぐにタニアの家にまで押しかけてくるようになった。
あんまりしつこいので辟易したタニアが居留守を使えば、今度は家族の方にもタニアを出せとわめき始める。
タニアの婚約者は少し調べればすぐにわかってしまったのだろう。
何をしてもタニアに会えないとなると、今度は婚約者の家の方に非難と苦情を昼夜となく言い始めたようだ。
タニアと自分は将来を誓い合った仲だった。
それを知っていたのに、強引に彼女を奪った、という怪文書を作り、周囲にも配り始める。
それを見て、何も知らない人達はあそこまで必死になるのは本当のことに違いない、という憶測をし始めた。そしてタニアに対しても男をもてあそんだ悪女、という悪い噂まで流し始める始末だ。
タニアがルーシュの実家であるシード家に苦情を言おうにも、あちらもあちらでルーシュの言動に手を焼いているらしく、謝罪されるだけでどうしようもなかった。
ルーシュのせいでそれまで仲が良かった家同士の仲も疎遠になっていってしまった。
婚約者の家にも事情を説明すれば、そういう男に粘着されるなんて隙があったのでは? とあべこべにタニアが非難されてしまい、結局、タニア自身に非はないとしても、気持ちの悪い男に執着されている事実にこちらが迷惑を掛けられたくないと、婚約破棄をされてしまった。
(私のせいではないのに……)
タニアからすれば、これはどうしようもない天災のようなものであるが、他の人はそう見ない。
タニアに対しても白い目で見てくる。
男女関係のもつれだと結局はそう非難されるのである。
タニアが婚約破棄されてルーシュは小躍りして喜んだらしい。
今度は自分が正式にタニアの婚約者になれると思っていたようだ。
しかし、メルテ子爵家としては面子を潰されたあげく、迷惑をかけられた相手と結婚を許すはずもないし、タニアからしても、怒りを覚える以前に恐怖しか感じていない。
ルーシュと婚約をしないと決めていても、面と向かってそれを言うと、またあのルーシュが家に特攻してくるのではないかと考えると恐ろしかった。
なにしろ相手は剣の扱いに長けた騎士である。
タニアと結婚できないということで逆恨みをして腹いせに殺されでもしたら、と思うと怖くて家にもいられなかった。
「このままだと、貴方の命にもかかわるかもしれないわ。うちにいらっしゃい」
そう言って救いの手を差し伸べてくれたのは、タニアが慈善活動の最中に会ったことのあるマグリット侯爵夫人だった。
タニアを気にいってくれて仲良くしてくれた年配のご夫人で、この騒動が起き始めた当初からなにくれとなく心配をして、声をかけてくれていた。
マグリット侯爵家はこの国でも指折りの古い家門であり名家でもある。
例えルーシュがタニアの身を隠した先がわかっても、名だたる私設騎士団を擁するこの家には入り込むこともできないだろう。
それでも迷惑をかけるわけには、と尻込みをするタニアと家族を「命には代えられない」と半ば強引に説き伏せて、彼女は自邸に引き取ってくれた。
「ほとぼりが冷めるまで、うちにいなさい。そのうち、いいようになるから大丈夫よ」
「はい……」
外に出ることも迂闊にできない状況になったが、侯爵夫人はタニアの鬱屈とした感情を思いやってくれ、彼女の友人を色々と招いてくれた。
その中に思いがけない出会いがあった。
あんまりしつこいので辟易したタニアが居留守を使えば、今度は家族の方にもタニアを出せとわめき始める。
タニアの婚約者は少し調べればすぐにわかってしまったのだろう。
何をしてもタニアに会えないとなると、今度は婚約者の家の方に非難と苦情を昼夜となく言い始めたようだ。
タニアと自分は将来を誓い合った仲だった。
それを知っていたのに、強引に彼女を奪った、という怪文書を作り、周囲にも配り始める。
それを見て、何も知らない人達はあそこまで必死になるのは本当のことに違いない、という憶測をし始めた。そしてタニアに対しても男をもてあそんだ悪女、という悪い噂まで流し始める始末だ。
タニアがルーシュの実家であるシード家に苦情を言おうにも、あちらもあちらでルーシュの言動に手を焼いているらしく、謝罪されるだけでどうしようもなかった。
ルーシュのせいでそれまで仲が良かった家同士の仲も疎遠になっていってしまった。
婚約者の家にも事情を説明すれば、そういう男に粘着されるなんて隙があったのでは? とあべこべにタニアが非難されてしまい、結局、タニア自身に非はないとしても、気持ちの悪い男に執着されている事実にこちらが迷惑を掛けられたくないと、婚約破棄をされてしまった。
(私のせいではないのに……)
タニアからすれば、これはどうしようもない天災のようなものであるが、他の人はそう見ない。
タニアに対しても白い目で見てくる。
男女関係のもつれだと結局はそう非難されるのである。
タニアが婚約破棄されてルーシュは小躍りして喜んだらしい。
今度は自分が正式にタニアの婚約者になれると思っていたようだ。
しかし、メルテ子爵家としては面子を潰されたあげく、迷惑をかけられた相手と結婚を許すはずもないし、タニアからしても、怒りを覚える以前に恐怖しか感じていない。
ルーシュと婚約をしないと決めていても、面と向かってそれを言うと、またあのルーシュが家に特攻してくるのではないかと考えると恐ろしかった。
なにしろ相手は剣の扱いに長けた騎士である。
タニアと結婚できないということで逆恨みをして腹いせに殺されでもしたら、と思うと怖くて家にもいられなかった。
「このままだと、貴方の命にもかかわるかもしれないわ。うちにいらっしゃい」
そう言って救いの手を差し伸べてくれたのは、タニアが慈善活動の最中に会ったことのあるマグリット侯爵夫人だった。
タニアを気にいってくれて仲良くしてくれた年配のご夫人で、この騒動が起き始めた当初からなにくれとなく心配をして、声をかけてくれていた。
マグリット侯爵家はこの国でも指折りの古い家門であり名家でもある。
例えルーシュがタニアの身を隠した先がわかっても、名だたる私設騎士団を擁するこの家には入り込むこともできないだろう。
それでも迷惑をかけるわけには、と尻込みをするタニアと家族を「命には代えられない」と半ば強引に説き伏せて、彼女は自邸に引き取ってくれた。
「ほとぼりが冷めるまで、うちにいなさい。そのうち、いいようになるから大丈夫よ」
「はい……」
外に出ることも迂闊にできない状況になったが、侯爵夫人はタニアの鬱屈とした感情を思いやってくれ、彼女の友人を色々と招いてくれた。
その中に思いがけない出会いがあった。
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