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マーガレット(18)……アセイム伯爵家の令嬢。長女
エイミー(14)……マーガレットの妹でアセイム伯爵家の次女。花が好きで足が悪い。
ローリー(18)……イングリット伯爵令息で次男。マーガレットと結婚してアセイム伯爵家に入るよう決められている。
* *
今日もマーガレットの婚約者のローリーこと、イングリット伯爵令息は、家に訪れている。
彼はこの邸宅の温室が好きなのか、アセイム伯爵家に来ると真っ先にそこに足を運ぶ。
そして、そこの主のような妹のエイミーと楽しく語らうのだ。
婚約者であるマーガレットより、歳の離れた妹との方が話が合うなんて。もしかして自分の婚約者はそういう趣味の持ち主なのだろうかと疑ってしまうがそうではない。彼はマーガレット以外には感じがいいのだ。
「今日もローリー様は温室の方にいるの?」
マーガレットの問いにメイドは頷いた。わかっていても呆れてマーガレットはため息を吐く。
「婚約者の家に来て、婚約者に挨拶もせずにその妹との話を優先するなんてね」
そう愚痴りながら、時間を見計らってから温室の方に赴いた。
温室は温度が高く設定されているから湿度が高い。むあっとした空気の中、喋っている二人に声をかけた。
エイミーは背を向けていたが、ドア側に顔を向けていたローリーは、入ってきたマーガレットを見て、さっと顔の表情を変えた。
それに気づかないふりをしながら、マーガレットは声をかける。
「二人とも、いいかしら」
顔を固くして目をそらすローリーはエイミーをマーガレットの方に向かせるために車いすの向きを変える。
マーガレットの妹のエイミーは生まれつき足が悪い。立つのがやっとで歩くことができない。しかし、それを補って余りあるくらいの愛らしさと可愛らしさがある。
ローリーがマーガレットではなく、エイミーの方に惹かれるのは当然だろうと、冷静なところでマーガレットは判断をしていた。
「お昼を用意させるけど、ダイニングに移動する? それともこちらで軽くつまむものにする?」
エイミーは客であるローリーを優先するので、自分で答えず、ローリーに決めさせる。
ローリーはマーガレットの問いかけるような視線を受けて、口をわずかに動かして答える。
「ここで、いい」
先ほどまであんなに饒舌だったくせに、マーガレットとは話したくないとでもいうのか。
続けて飲み物には何を、と訊こうとしたら、じれったそうなローリーが続ける。
「なんでもいいから早く出てってくれないか?」
「ここ、私の家なんだけれど?」
「……」
早く二人きりになりたいということだろうか。
エイミーは心配そうにマーガレットとローリーを見比べている。
板挟みになってしまって可哀想に。
こんなに蒸し暑い場所だというのに、ここだけ空気が冷え切った気がする。
マーガレットは諦めて温室から出ていった。
マーガレットがメイドたちに軽食を用意させている間に遠目から温室の方を見れば、ガラス越しに、大口を開けて笑っているローリーの顔が見えた。
マーガレットは確かに近づきがたい雰囲気があるとは言われている。
使用人たちの目にも、ローリーがマーガレットに拒絶されている様子は明らからしく、エイミーとローリーの方がよほど婚約者らしいのではないかと噂になっているのも知っていた。
長女から順に結婚するという暗黙の了解があったため、そして男子が産まれていないアセイム伯爵家を継ぐ人が必要なため、マーガレットがローリーと婚約しているが、そうでない方が皆、幸せなのではないか。
「しょせん、私はこの伯爵という爵位のおまけなのよね」
ローリーが結婚したいのはマーガレットだからではなく、アセイム伯爵家の継承権を持つ娘なのだろうから。
それなら、結婚相手は自分ではなくエイミーでもいいだろうに。
エイミー(14)……マーガレットの妹でアセイム伯爵家の次女。花が好きで足が悪い。
ローリー(18)……イングリット伯爵令息で次男。マーガレットと結婚してアセイム伯爵家に入るよう決められている。
* *
今日もマーガレットの婚約者のローリーこと、イングリット伯爵令息は、家に訪れている。
彼はこの邸宅の温室が好きなのか、アセイム伯爵家に来ると真っ先にそこに足を運ぶ。
そして、そこの主のような妹のエイミーと楽しく語らうのだ。
婚約者であるマーガレットより、歳の離れた妹との方が話が合うなんて。もしかして自分の婚約者はそういう趣味の持ち主なのだろうかと疑ってしまうがそうではない。彼はマーガレット以外には感じがいいのだ。
「今日もローリー様は温室の方にいるの?」
マーガレットの問いにメイドは頷いた。わかっていても呆れてマーガレットはため息を吐く。
「婚約者の家に来て、婚約者に挨拶もせずにその妹との話を優先するなんてね」
そう愚痴りながら、時間を見計らってから温室の方に赴いた。
温室は温度が高く設定されているから湿度が高い。むあっとした空気の中、喋っている二人に声をかけた。
エイミーは背を向けていたが、ドア側に顔を向けていたローリーは、入ってきたマーガレットを見て、さっと顔の表情を変えた。
それに気づかないふりをしながら、マーガレットは声をかける。
「二人とも、いいかしら」
顔を固くして目をそらすローリーはエイミーをマーガレットの方に向かせるために車いすの向きを変える。
マーガレットの妹のエイミーは生まれつき足が悪い。立つのがやっとで歩くことができない。しかし、それを補って余りあるくらいの愛らしさと可愛らしさがある。
ローリーがマーガレットではなく、エイミーの方に惹かれるのは当然だろうと、冷静なところでマーガレットは判断をしていた。
「お昼を用意させるけど、ダイニングに移動する? それともこちらで軽くつまむものにする?」
エイミーは客であるローリーを優先するので、自分で答えず、ローリーに決めさせる。
ローリーはマーガレットの問いかけるような視線を受けて、口をわずかに動かして答える。
「ここで、いい」
先ほどまであんなに饒舌だったくせに、マーガレットとは話したくないとでもいうのか。
続けて飲み物には何を、と訊こうとしたら、じれったそうなローリーが続ける。
「なんでもいいから早く出てってくれないか?」
「ここ、私の家なんだけれど?」
「……」
早く二人きりになりたいということだろうか。
エイミーは心配そうにマーガレットとローリーを見比べている。
板挟みになってしまって可哀想に。
こんなに蒸し暑い場所だというのに、ここだけ空気が冷え切った気がする。
マーガレットは諦めて温室から出ていった。
マーガレットがメイドたちに軽食を用意させている間に遠目から温室の方を見れば、ガラス越しに、大口を開けて笑っているローリーの顔が見えた。
マーガレットは確かに近づきがたい雰囲気があるとは言われている。
使用人たちの目にも、ローリーがマーガレットに拒絶されている様子は明らからしく、エイミーとローリーの方がよほど婚約者らしいのではないかと噂になっているのも知っていた。
長女から順に結婚するという暗黙の了解があったため、そして男子が産まれていないアセイム伯爵家を継ぐ人が必要なため、マーガレットがローリーと婚約しているが、そうでない方が皆、幸せなのではないか。
「しょせん、私はこの伯爵という爵位のおまけなのよね」
ローリーが結婚したいのはマーガレットだからではなく、アセイム伯爵家の継承権を持つ娘なのだろうから。
それなら、結婚相手は自分ではなくエイミーでもいいだろうに。
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