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帰途につくローリーを見送った後、マーガレットはエイミーに向き直った。
「……私はローリー様と婚約解消をするから、貴方が彼と結婚なさい。私は貴方たちの結婚を見届けた後に修道院にでも行くつもりだから。この歳ではもう他の縁を見つけることできないでしょうしね」
「お姉さま!?」
マーガレットの宣言に、エイミーはその可愛らしい顔に驚愕の表情を浮かべる。
「なんで婚約解消するんですか!?」
「なんでもも何もないでしょう? 私はローリー様に嫌われているんだし。貴方は彼に好かれているのだから、これでいいじゃない」
マーガレットがため息をつきながらサバサバした様子でいうと、エイミーは全力でかぶりを振る。
「ローリー様、私のことなんか好きではないですよ?!」
「そんなことないでしょう? 貴方、どこに目をつけているの?」
「顔についてます! そうではなくて、ローリー様がお好きなのはお姉さまですよっ!」
(何をとち狂ったことを言っているのかしら)
マーガレットは生暖かい笑みを浮かべると、車椅子に座る妹の肩に優しく手を置き、囁いた。
「私とローリー様が婚約して5年?6年?それくらい経つけど、あの方が私と楽しく語らったことなんて、初めてお会いした時から1度たりとてないのよ?」
「それはあの方がお姉さま相手だと緊張して話せないからでしょう?」
「なんで婚約者相手に緊張する必要があるというの? 貴方と彼の方がよほど婚約者らしいとメイドにも言われているのに」
「メイドたちは私とお姉さまとしか比べてないからそう思うのでしょう」
「貴方だっていつ他の女と私を比べることができたの?」
足が悪いエイミーは、外の外出が制限されてしまう。外のパーティーに行って他の女と一緒にいるローリーを見たことがないはずだ。
「お姉さまのことが好きだからこそ、ローリー様は素直になれなくてぶっきらぼうなんですよ!」
「それ、言葉を変えれば、私のことだけ粗雑に扱っているということにならない?」
「粗雑ではないでしょう? ローリー様、お姉さまへのプレゼントも配慮されてますし! ああ、もう話してしまいますけど、私、お姉さまへのプレゼントの相談とかもかなりな割合でのってました。あの方は単に口下手なだけです! お姉さまの前でだけ無表情になって挙動不審になってるんです」
「あら、随分とセンスいいと思ったら、貴方が選んでくれていたのね。でもねえ……なんでそこで妹とはいえ、他の女にきくの? 私をダシにして、貴方に近づいていると言う方が納得いくわよ」
「いえ、そのような意図はないと思われますよ? そこまで器用な方じゃないですし」
もっとも彼が器用だったら、婚約者にこのようなことを陰で言われているはずもない。
「たとえ私のことが本命だとしても、惚れている女を邪険にして不愉快な思いをさせるような男より、たとえ愛していなくても、気持ちよく過ごさせてくれる男の方がいいわよ」
「そんなの、悲しいだけじゃないですか……自分のことを好きでもない人からの優しさなんて」
「たとえ話よ。目の前にいる相手にあっち行けって婚約者に言うような男と側にいたいと思う?」
「……」
エイミーはぐっと黙りこんでしまった。
「身内に対するツンデレならまだしも、私たちまだ結婚してない間柄なのよ? つまり他人。ほぼ結婚が確定してて付き合いが長いからって図に乗りすぎじゃない? 素直になれないにしても最低限の礼儀は守るべき。それが大人の対応よ。エチケットとマナーすら守れない人間はうちの人間として不要なの。これが平民同士の結婚ならここまで文句も言われないでしょうけれどね」
「……婚約破棄しないで、せめて、お灸をすえる程度でいいんじゃないですか?」
これはもうかばいきれないと判断したのだろう。エイミーは14という年齢の割には冷静に妥協案を出してくる。
ローリーとマーガレットは政略的に決められた間柄であるのでどうしてもマーガレットがローリーと結婚しなくてはいけないなら諦めるしかない。
しかしエイミーでもいいわけだし、そもそも彼が感情を顔に出しすぎているというところが子供すぎて不安なのだ。
貴族の交流で大事である腹芸ができてないとなれば、アセイム伯爵家はお先真っ暗なのだから。
「じゃあ、貴方が彼を躾ける?教育する?私が婚約破棄したら、今度は貴方がローリーのあの塩対応のターゲットになるのよ。本命にこそあんな態度になるというならね。貴方、それに耐えられる?」
それに対するエイミーの返事はなかった。
「……私はローリー様と婚約解消をするから、貴方が彼と結婚なさい。私は貴方たちの結婚を見届けた後に修道院にでも行くつもりだから。この歳ではもう他の縁を見つけることできないでしょうしね」
「お姉さま!?」
マーガレットの宣言に、エイミーはその可愛らしい顔に驚愕の表情を浮かべる。
「なんで婚約解消するんですか!?」
「なんでもも何もないでしょう? 私はローリー様に嫌われているんだし。貴方は彼に好かれているのだから、これでいいじゃない」
マーガレットがため息をつきながらサバサバした様子でいうと、エイミーは全力でかぶりを振る。
「ローリー様、私のことなんか好きではないですよ?!」
「そんなことないでしょう? 貴方、どこに目をつけているの?」
「顔についてます! そうではなくて、ローリー様がお好きなのはお姉さまですよっ!」
(何をとち狂ったことを言っているのかしら)
マーガレットは生暖かい笑みを浮かべると、車椅子に座る妹の肩に優しく手を置き、囁いた。
「私とローリー様が婚約して5年?6年?それくらい経つけど、あの方が私と楽しく語らったことなんて、初めてお会いした時から1度たりとてないのよ?」
「それはあの方がお姉さま相手だと緊張して話せないからでしょう?」
「なんで婚約者相手に緊張する必要があるというの? 貴方と彼の方がよほど婚約者らしいとメイドにも言われているのに」
「メイドたちは私とお姉さまとしか比べてないからそう思うのでしょう」
「貴方だっていつ他の女と私を比べることができたの?」
足が悪いエイミーは、外の外出が制限されてしまう。外のパーティーに行って他の女と一緒にいるローリーを見たことがないはずだ。
「お姉さまのことが好きだからこそ、ローリー様は素直になれなくてぶっきらぼうなんですよ!」
「それ、言葉を変えれば、私のことだけ粗雑に扱っているということにならない?」
「粗雑ではないでしょう? ローリー様、お姉さまへのプレゼントも配慮されてますし! ああ、もう話してしまいますけど、私、お姉さまへのプレゼントの相談とかもかなりな割合でのってました。あの方は単に口下手なだけです! お姉さまの前でだけ無表情になって挙動不審になってるんです」
「あら、随分とセンスいいと思ったら、貴方が選んでくれていたのね。でもねえ……なんでそこで妹とはいえ、他の女にきくの? 私をダシにして、貴方に近づいていると言う方が納得いくわよ」
「いえ、そのような意図はないと思われますよ? そこまで器用な方じゃないですし」
もっとも彼が器用だったら、婚約者にこのようなことを陰で言われているはずもない。
「たとえ私のことが本命だとしても、惚れている女を邪険にして不愉快な思いをさせるような男より、たとえ愛していなくても、気持ちよく過ごさせてくれる男の方がいいわよ」
「そんなの、悲しいだけじゃないですか……自分のことを好きでもない人からの優しさなんて」
「たとえ話よ。目の前にいる相手にあっち行けって婚約者に言うような男と側にいたいと思う?」
「……」
エイミーはぐっと黙りこんでしまった。
「身内に対するツンデレならまだしも、私たちまだ結婚してない間柄なのよ? つまり他人。ほぼ結婚が確定してて付き合いが長いからって図に乗りすぎじゃない? 素直になれないにしても最低限の礼儀は守るべき。それが大人の対応よ。エチケットとマナーすら守れない人間はうちの人間として不要なの。これが平民同士の結婚ならここまで文句も言われないでしょうけれどね」
「……婚約破棄しないで、せめて、お灸をすえる程度でいいんじゃないですか?」
これはもうかばいきれないと判断したのだろう。エイミーは14という年齢の割には冷静に妥協案を出してくる。
ローリーとマーガレットは政略的に決められた間柄であるのでどうしてもマーガレットがローリーと結婚しなくてはいけないなら諦めるしかない。
しかしエイミーでもいいわけだし、そもそも彼が感情を顔に出しすぎているというところが子供すぎて不安なのだ。
貴族の交流で大事である腹芸ができてないとなれば、アセイム伯爵家はお先真っ暗なのだから。
「じゃあ、貴方が彼を躾ける?教育する?私が婚約破棄したら、今度は貴方がローリーのあの塩対応のターゲットになるのよ。本命にこそあんな態度になるというならね。貴方、それに耐えられる?」
それに対するエイミーの返事はなかった。
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