ずっと好きだった人に、好きでもない人との結婚の外堀を埋められようとして困っています

麻宮デコ@SS短編

文字の大きさ
1 / 4

しおりを挟む
ジゼル(17)……コレルタ伯爵家の令嬢。そろそろ結婚適齢期

レヴィン(29)……ジゼルの父であるコレルタ伯爵の護衛騎士

エリック(21)……ガルダ侯爵令息。偶然出会ったジゼルを偏執的に思っていてストーカーぽいところがある。



*****


 ジゼルの幼い頃の記憶の中には、いつも背の高い一人の騎士が存在している。

「私、レヴィンの事が大好き! 大きくなったら、お嫁さんにしてね」

 彼の長い脚にまとわりついて、そう何度もお願いをしたジゼルの頭をその大きな手で優しく撫でてもらたのを覚えている。

「そういえば、子供のたわごと相手でも、絶対に私のプロポーズに頷いてくださらなかったわよね、あの方……」

 そうジゼルはため息をついて愚痴をこぼした。

 父の護衛騎士であるレヴィンは、いつでも主の娘である自分に対しても、その紳士で丁重な姿を崩したことはない。その距離のある関係を思うと、この恋に望みはなかったのではないか、とジゼルはしょげてしまう。

「自分の主の娘って恋愛の対象外になってしまうのかしら」
「というより、レヴィン様の中では、まだお嬢様はお小さいイメージのままなのが問題と思いますよ」
「小さい頃を知られているのってそういう弊害あるわよね」

 侍女のマーリンがお茶のお代わりを注いでくれるのにお礼を言って受け取った。

 ――記憶の上書きをなかなかしてもらえない。

 目の前にいる自分を一人の女性と見てもらえなければ、関係の発展がない。もっとも彼が幼い女の子をそういう対象で見るような男でないのは安心なのだが。

「私がレヴィンのことが好きなのって、わかりやすいと思わない? がんばってアピールしていると思うのだけどな……」

 レヴィンを見つければ声をかけ、ことあるごとにプレゼントをし、パーティーがあればエスコートのお願いをし(断られるが)、これ以上ジゼルから何をしろというのだろう。
 見る目が変わらないのは歳を重ねてもあまり伸びなかった身長と幼児体型のせいだろうか。そんなの神様に文句を言いたい話だ。

「レヴィン様もお嬢様のご好意自体には気づいてるとは思いますが、恋愛感情だとは思ってないみたいですよね。それにご主人様のことを考えると、本気にもしにくいでしょうし……」

 主の娘に手を出したと思われるのは、騎士としても困るだろう。その気持ちが分かるからこそ、こちらからアピールをしているというのに。

「お嬢様も結婚適齢期で、縁談もそろそろ来ております。レヴィン様とまとまるならまとまる、諦めるなら諦めると身のふりをお決めにならないと、将来、修道院行きしかなくなりますよ?」

 恐ろしい現実を突きつけられてしまった。こういう時、侍女は容赦がない。

「そう簡単に諦められてたら、こんなこじれていないわよ……」

 ジゼルがため息をついてテーブルに肘をついたところ、低い男の声が聞こえた。

「お嬢様、こんなところにいらしたとは」

 その声だけで誰かすぐにわかる。声の方向に振り返れば話題の主、レヴィンが小走りにこちらにやってくるのが見えた。

「レヴィン!? ま、ま、マーリン、お茶の支度をして!」

「いえ、用事はすぐにすみますので」

 マーリンを指で制してあらためてレヴィンがこちらを向く。
 レヴィンは懐から何かを取り出すと、恭しくこちらに差し出した。

 ああ、そんな何気ない仕草すら、無駄がなくて恰好いい。そう思ってジゼルはレヴィンにうっとりと見とれてしまった。しかし。
 
「ガルダ侯爵令息から、お嬢様への恋文を預かっております。どうぞ」

 にこやかな笑顔でレヴィンの放った言葉で、その辺りの空気が凍った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧乏令嬢の私は婚約破棄されたので、優雅な生活を送りたいと思います。

coco
恋愛
「お前みたいな貧乏人は、もういらない!」 私との婚約を破棄し、金持ちの女に走った婚約者。 貧乏だなんて、いつ私が言いました? あなたに婚約破棄されたので、私は優雅な生活を送りたいと思います─。

婚約者の王子は正面突破する~関心がなかった婚約者に、ある日突然執着し始める残念王子の話

buchi
恋愛
大富豪の伯爵家に婿入り予定のイケメンの第三王子エドワード。学園ではモテまくり、いまいち幼い婚約者に関心がない。婚約解消について婚約者マリゴールド嬢の意向を確認しようと伯爵家を訪れた王子は、そこで意外なモノを発見して連れ帰ってしまう。そこから王子の逆回転な溺愛が始まった……1万7千文字。 ネコ動画見ていて、思いついた。

お前は整形した醜い顔だと婚約破棄されたので溺愛してくれる王子に乗り換えます! 実は整形なんてしていなかったと気づいてももう遅い

朱之ユク
恋愛
 美しい顔をしたスカーレットは突如それまで付き合ってくれていた彼氏にお前の顔は整形だと言われて婚約破棄を言い渡されてしまう。彼氏はそのままスカーレットのことを罵りまくるが実はスカーレットは整形なんてしてない。  正真正銘の美しい顔でいただけだ。多少メイクはしているけど、醜いと罵られる覚えはありません。  溺愛してくれる王子と新たに婚約することになったので、いまさら復縁したいと言ってももう遅い!  

イベント無視して勉強ばかりしていたのに、恋愛のフラグが立っていた件について

くじら
恋愛
研究に力を入れるあまり、男性とのお付き合いを放置してきたアロセール。 ドレスもアクセサリーも、学園祭もコンサートも全部スルーしてきたが…。

“妖精なんていない”と笑った王子を捨てた令嬢、幼馴染と婚約する件

大井町 鶴(おおいまち つる)
恋愛
伯爵令嬢アデリナを誕生日嫌いにしたのは、当時恋していたレアンドロ王子。 彼がくれた“妖精のプレゼント”は、少女の心に深い傷を残した。 (ひどいわ……!) それ以来、誕生日は、苦い記憶がよみがえる日となった。 幼馴染のマテオは、そんな彼女を放っておけず、毎年ささやかな贈り物を届け続けている。 心の中ではずっと、アデリナが誕生日を笑って迎えられる日を願って。 そして今、アデリナが見つけたのは──幼い頃に書いた日記。 そこには、祖母から聞いた“妖精の森”の話と、秘密の地図が残されていた。 かつての記憶と、埋もれていた小さな願い。 2人は、妖精の秘密を確かめるため、もう一度“あの場所”へ向かう。 切なさと幸せ、そして、王子へのささやかな反撃も絡めた、癒しのハッピーエンド・ストーリー。

婚約を解消したら、何故か元婚約者の家で養われることになった

下菊みこと
恋愛
気付いたら好きな人に捕まっていたお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

どうせ愛されない子なので、呪われた婚約者のために命を使ってみようと思います

下菊みこと
恋愛
愛されずに育った少女が、唯一優しくしてくれた婚約者のために自分の命をかけて呪いを解こうとするお話。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

特殊能力を持つ妹に婚約者を取られた姉、義兄になるはずだった第一王子と新たに婚約する

下菊みこと
恋愛
妹のために尽くしてきた姉、妹の裏切りで幸せになる。 ナタリアはルリアに婚約者を取られる。しかしそのおかげで力を遺憾なく発揮できるようになる。周りはルリアから手のひらを返してナタリアを歓迎するようになる。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...