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ジゼル(17)……コレルタ伯爵家の令嬢。そろそろ結婚適齢期
レヴィン(29)……ジゼルの父であるコレルタ伯爵の護衛騎士
エリック(21)……ガルダ侯爵令息。偶然出会ったジゼルを偏執的に思っていてストーカーぽいところがある。
*****
ジゼルの幼い頃の記憶の中には、いつも背の高い一人の騎士が存在している。
「私、レヴィンの事が大好き! 大きくなったら、お嫁さんにしてね」
彼の長い脚にまとわりついて、そう何度もお願いをしたジゼルの頭をその大きな手で優しく撫でてもらたのを覚えている。
「そういえば、子供のたわごと相手でも、絶対に私のプロポーズに頷いてくださらなかったわよね、あの方……」
そうジゼルはため息をついて愚痴をこぼした。
父の護衛騎士であるレヴィンは、いつでも主の娘である自分に対しても、その紳士で丁重な姿を崩したことはない。その距離のある関係を思うと、この恋に望みはなかったのではないか、とジゼルはしょげてしまう。
「自分の主の娘って恋愛の対象外になってしまうのかしら」
「というより、レヴィン様の中では、まだお嬢様はお小さいイメージのままなのが問題と思いますよ」
「小さい頃を知られているのってそういう弊害あるわよね」
侍女のマーリンがお茶のお代わりを注いでくれるのにお礼を言って受け取った。
――記憶の上書きをなかなかしてもらえない。
目の前にいる自分を一人の女性と見てもらえなければ、関係の発展がない。もっとも彼が幼い女の子をそういう対象で見るような男でないのは安心なのだが。
「私がレヴィンのことが好きなのって、わかりやすいと思わない? がんばってアピールしていると思うのだけどな……」
レヴィンを見つければ声をかけ、ことあるごとにプレゼントをし、パーティーがあればエスコートのお願いをし(断られるが)、これ以上ジゼルから何をしろというのだろう。
見る目が変わらないのは歳を重ねてもあまり伸びなかった身長と幼児体型のせいだろうか。そんなの神様に文句を言いたい話だ。
「レヴィン様もお嬢様のご好意自体には気づいてるとは思いますが、恋愛感情だとは思ってないみたいですよね。それにご主人様のことを考えると、本気にもしにくいでしょうし……」
主の娘に手を出したと思われるのは、騎士としても困るだろう。その気持ちが分かるからこそ、こちらからアピールをしているというのに。
「お嬢様も結婚適齢期で、縁談もそろそろ来ております。レヴィン様とまとまるならまとまる、諦めるなら諦めると身のふりをお決めにならないと、将来、修道院行きしかなくなりますよ?」
恐ろしい現実を突きつけられてしまった。こういう時、侍女は容赦がない。
「そう簡単に諦められてたら、こんなこじれていないわよ……」
ジゼルがため息をついてテーブルに肘をついたところ、低い男の声が聞こえた。
「お嬢様、こんなところにいらしたとは」
その声だけで誰かすぐにわかる。声の方向に振り返れば話題の主、レヴィンが小走りにこちらにやってくるのが見えた。
「レヴィン!? ま、ま、マーリン、お茶の支度をして!」
「いえ、用事はすぐにすみますので」
マーリンを指で制してあらためてレヴィンがこちらを向く。
レヴィンは懐から何かを取り出すと、恭しくこちらに差し出した。
ああ、そんな何気ない仕草すら、無駄がなくて恰好いい。そう思ってジゼルはレヴィンにうっとりと見とれてしまった。しかし。
「ガルダ侯爵令息から、お嬢様への恋文を預かっております。どうぞ」
にこやかな笑顔でレヴィンの放った言葉で、その辺りの空気が凍った。
レヴィン(29)……ジゼルの父であるコレルタ伯爵の護衛騎士
エリック(21)……ガルダ侯爵令息。偶然出会ったジゼルを偏執的に思っていてストーカーぽいところがある。
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ジゼルの幼い頃の記憶の中には、いつも背の高い一人の騎士が存在している。
「私、レヴィンの事が大好き! 大きくなったら、お嫁さんにしてね」
彼の長い脚にまとわりついて、そう何度もお願いをしたジゼルの頭をその大きな手で優しく撫でてもらたのを覚えている。
「そういえば、子供のたわごと相手でも、絶対に私のプロポーズに頷いてくださらなかったわよね、あの方……」
そうジゼルはため息をついて愚痴をこぼした。
父の護衛騎士であるレヴィンは、いつでも主の娘である自分に対しても、その紳士で丁重な姿を崩したことはない。その距離のある関係を思うと、この恋に望みはなかったのではないか、とジゼルはしょげてしまう。
「自分の主の娘って恋愛の対象外になってしまうのかしら」
「というより、レヴィン様の中では、まだお嬢様はお小さいイメージのままなのが問題と思いますよ」
「小さい頃を知られているのってそういう弊害あるわよね」
侍女のマーリンがお茶のお代わりを注いでくれるのにお礼を言って受け取った。
――記憶の上書きをなかなかしてもらえない。
目の前にいる自分を一人の女性と見てもらえなければ、関係の発展がない。もっとも彼が幼い女の子をそういう対象で見るような男でないのは安心なのだが。
「私がレヴィンのことが好きなのって、わかりやすいと思わない? がんばってアピールしていると思うのだけどな……」
レヴィンを見つければ声をかけ、ことあるごとにプレゼントをし、パーティーがあればエスコートのお願いをし(断られるが)、これ以上ジゼルから何をしろというのだろう。
見る目が変わらないのは歳を重ねてもあまり伸びなかった身長と幼児体型のせいだろうか。そんなの神様に文句を言いたい話だ。
「レヴィン様もお嬢様のご好意自体には気づいてるとは思いますが、恋愛感情だとは思ってないみたいですよね。それにご主人様のことを考えると、本気にもしにくいでしょうし……」
主の娘に手を出したと思われるのは、騎士としても困るだろう。その気持ちが分かるからこそ、こちらからアピールをしているというのに。
「お嬢様も結婚適齢期で、縁談もそろそろ来ております。レヴィン様とまとまるならまとまる、諦めるなら諦めると身のふりをお決めにならないと、将来、修道院行きしかなくなりますよ?」
恐ろしい現実を突きつけられてしまった。こういう時、侍女は容赦がない。
「そう簡単に諦められてたら、こんなこじれていないわよ……」
ジゼルがため息をついてテーブルに肘をついたところ、低い男の声が聞こえた。
「お嬢様、こんなところにいらしたとは」
その声だけで誰かすぐにわかる。声の方向に振り返れば話題の主、レヴィンが小走りにこちらにやってくるのが見えた。
「レヴィン!? ま、ま、マーリン、お茶の支度をして!」
「いえ、用事はすぐにすみますので」
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レヴィンは懐から何かを取り出すと、恭しくこちらに差し出した。
ああ、そんな何気ない仕草すら、無駄がなくて恰好いい。そう思ってジゼルはレヴィンにうっとりと見とれてしまった。しかし。
「ガルダ侯爵令息から、お嬢様への恋文を預かっております。どうぞ」
にこやかな笑顔でレヴィンの放った言葉で、その辺りの空気が凍った。
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