ずっと好きだった人に、好きでもない人との結婚の外堀を埋められようとして困っています

麻宮デコ@SS短編

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 ガルダ侯爵令息というと、あいつだ。エリックだ。
 社交辞令で優しくしてやっただけなのに、なぜか「君は僕のことが好きなんだね」と勘違いして付きまとってくるようになったストーカー野郎だ。
 ジゼルが嫌がっているのを知った侍女たちが必死にガードしてくれて、接触できないようにしてくれたのに、父の護衛を使って突破口を開こうというのか。

 (しかも、よくもよりによってレヴィンを使ってくれたわね……!)

 そう思えばなおさら腹立たしくなってくる。

「そう、恋文を……」

 努めて冷静にレヴィンに声をかけるジゼル。そんなジゼルの怒りに気づかないレヴィンは嬉しそうに彼女に手にした封筒を捧げた。

「あの方はよほどお嬢様を大事に思っていらっしゃるようですよ。私に切々とお嬢様への恋心を訴えられ、思わずもらい泣きをしそうになってしまいました」

 レヴィンが、エリックを褒める言葉を言えば言うほどジゼルの機嫌がどんどん悪くなっていくのに気づかない。

 逆に周囲の侍女たちが顔色を無くしていっている。

「どんなことを言われたの?」

「かのお方はいつもお嬢様のことを考えて、影から常に見守っている、とおっしゃってましたね」

 それは精神面ではなく、物理でということだろうか。
 どおりで出かける時に、誰かの気配を感じるはずだ、とその言葉を聞いて、思ってしまう。

「お嬢様がお好きなものを調べ、買ったものと同じものを購入し、お嬢様と同じしつらえにしたベッドで就寝し、お嬢様の夢の中に入りたいとか。ロマンチックなお方ですね」

 それを聞いて、周囲の侍女は、うわぁという顔を隠さない。もちろんジゼルもだ。

 無理すぎる、気持ちが悪い!
 夢の中ですら追いかけてこようとしているのか!

 レヴィンもレヴィンだ。そこに感動なんかしないでほしい。よりによって一番やばい奴を押し付けてきている自覚がないのが困る。

「断ってきて! 二度と持ってこないでよ、こんな手紙!」
「お嬢様!? お嬢様をこんなに慕ってる男性なんですよ!? もっと優しい言葉をかけて差し上げても……」
「はぁ? 相手の思いさえ強ければいいわけ? 私の思いはどうでもいいの?」

 そのレヴィンの言い草にはさすがにカチンときた。
 自分の思いを長年スルーしてきている男が言っていいセリフではない。
 他の人の恋心には気づけるくせに、なぜよりによって自分に対する視線は気づかないのか。無視するのか!

「レヴィンは私を大事にしているようで、ちっとも私のことなんて大事にしてないじゃないのよ」

「お嬢様!?」

 困惑したような顔のレヴィンに、自分の感情の爆発の押さえがきかない。

「レヴィンなんて、大嫌い~~~!!!!」

 ジゼルは手にしていたティーカップを思い切りレヴィンに向かって投げた。

 仕事柄、動体視力も反射神経もいいレヴィンはとっさにそれを割れないように受け止めてくれたのすら憎らしい。ジゼルの怒り具合に慌てて逃げだしていったが(正確には侍女に追い出されたが)、それでよかっただろう。
 今のジゼルは乙女として恋する相手に見られていい顔をしていなかったので。

「お嬢様、落ち着いてくださいませ」

「だって!」

 レヴィンが去った後、怒り狂うジゼルを必死で侍女たちがなだめる。

「あのにぶちん男に嫌いなんて言ってしまっていいのですか? そんなこと言うと本気にされますよ」

「そうそう、そのままの言葉しか受け止められない人なんですから」

 そういう彼女たちにジゼルが言い返した。

「好きという言葉を直接言っても、そのまま受け取ってもらえてないんだけれど!?」

 確かにそうだと、侍女たちはおし黙る。



 ジゼルがレヴィンにこのような怒りを露わにしたのはいつぶりだろう。

 彼のことが好きだと自覚してから、レヴィンのことを見ていると、いつでも嬉しくなってしまうから、怒りも立ち消えていたが、好きな相手にいいところを見せたいとばかりに感情を押さえていなかっただろうか。

 しかし、今日はとてもではないが相手への怒りが抑えられなかった。

「このままじゃダメだわ」

 レヴィンが自分の恋心を受け止めた上でふってくるならまだしも、いつまでも気づかずスルーするのが許せない。

「周囲を巻き込む手を使ってきたのは相手なのだから、こっちが同じことをしてもいいわよね」

 そうほくそ笑むと、レヴィンが置いていった封筒を手にして密かに笑った。
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