2 / 4
2
しおりを挟む
ガルダ侯爵令息というと、あいつだ。エリックだ。
社交辞令で優しくしてやっただけなのに、なぜか「君は僕のことが好きなんだね」と勘違いして付きまとってくるようになったストーカー野郎だ。
ジゼルが嫌がっているのを知った侍女たちが必死にガードしてくれて、接触できないようにしてくれたのに、父の護衛を使って突破口を開こうというのか。
(しかも、よくもよりによってレヴィンを使ってくれたわね……!)
そう思えばなおさら腹立たしくなってくる。
「そう、恋文を……」
努めて冷静にレヴィンに声をかけるジゼル。そんなジゼルの怒りに気づかないレヴィンは嬉しそうに彼女に手にした封筒を捧げた。
「あの方はよほどお嬢様を大事に思っていらっしゃるようですよ。私に切々とお嬢様への恋心を訴えられ、思わずもらい泣きをしそうになってしまいました」
レヴィンが、エリックを褒める言葉を言えば言うほどジゼルの機嫌がどんどん悪くなっていくのに気づかない。
逆に周囲の侍女たちが顔色を無くしていっている。
「どんなことを言われたの?」
「かのお方はいつもお嬢様のことを考えて、影から常に見守っている、とおっしゃってましたね」
それは精神面ではなく、物理でということだろうか。
どおりで出かける時に、誰かの気配を感じるはずだ、とその言葉を聞いて、思ってしまう。
「お嬢様がお好きなものを調べ、買ったものと同じものを購入し、お嬢様と同じ設えにしたベッドで就寝し、お嬢様の夢の中に入りたいとか。ロマンチックなお方ですね」
それを聞いて、周囲の侍女は、うわぁという顔を隠さない。もちろんジゼルもだ。
無理すぎる、気持ちが悪い!
夢の中ですら追いかけてこようとしているのか!
レヴィンもレヴィンだ。そこに感動なんかしないでほしい。よりによって一番やばい奴を押し付けてきている自覚がないのが困る。
「断ってきて! 二度と持ってこないでよ、こんな手紙!」
「お嬢様!? お嬢様をこんなに慕ってる男性なんですよ!? もっと優しい言葉をかけて差し上げても……」
「はぁ? 相手の思いさえ強ければいいわけ? 私の思いはどうでもいいの?」
そのレヴィンの言い草にはさすがにカチンときた。
自分の思いを長年スルーしてきている男が言っていいセリフではない。
他の人の恋心には気づけるくせに、なぜよりによって自分に対する視線は気づかないのか。無視するのか!
「レヴィンは私を大事にしているようで、ちっとも私のことなんて大事にしてないじゃないのよ」
「お嬢様!?」
困惑したような顔のレヴィンに、自分の感情の爆発の押さえがきかない。
「レヴィンなんて、大嫌い~~~!!!!」
ジゼルは手にしていたティーカップを思い切りレヴィンに向かって投げた。
仕事柄、動体視力も反射神経もいいレヴィンはとっさにそれを割れないように受け止めてくれたのすら憎らしい。ジゼルの怒り具合に慌てて逃げだしていったが(正確には侍女に追い出されたが)、それでよかっただろう。
今のジゼルは乙女として恋する相手に見られていい顔をしていなかったので。
「お嬢様、落ち着いてくださいませ」
「だって!」
レヴィンが去った後、怒り狂うジゼルを必死で侍女たちがなだめる。
「あのにぶちん男に嫌いなんて言ってしまっていいのですか? そんなこと言うと本気にされますよ」
「そうそう、そのままの言葉しか受け止められない人なんですから」
そういう彼女たちにジゼルが言い返した。
「好きという言葉を直接言っても、そのまま受け取ってもらえてないんだけれど!?」
確かにそうだと、侍女たちはおし黙る。
ジゼルがレヴィンにこのような怒りを露わにしたのはいつぶりだろう。
彼のことが好きだと自覚してから、レヴィンのことを見ていると、いつでも嬉しくなってしまうから、怒りも立ち消えていたが、好きな相手にいいところを見せたいとばかりに感情を押さえていなかっただろうか。
しかし、今日はとてもではないが相手への怒りが抑えられなかった。
「このままじゃダメだわ」
レヴィンが自分の恋心を受け止めた上でふってくるならまだしも、いつまでも気づかずスルーするのが許せない。
「周囲を巻き込む手を使ってきたのは相手なのだから、こっちが同じことをしてもいいわよね」
そうほくそ笑むと、レヴィンが置いていった封筒を手にして密かに笑った。
社交辞令で優しくしてやっただけなのに、なぜか「君は僕のことが好きなんだね」と勘違いして付きまとってくるようになったストーカー野郎だ。
ジゼルが嫌がっているのを知った侍女たちが必死にガードしてくれて、接触できないようにしてくれたのに、父の護衛を使って突破口を開こうというのか。
(しかも、よくもよりによってレヴィンを使ってくれたわね……!)
そう思えばなおさら腹立たしくなってくる。
「そう、恋文を……」
努めて冷静にレヴィンに声をかけるジゼル。そんなジゼルの怒りに気づかないレヴィンは嬉しそうに彼女に手にした封筒を捧げた。
「あの方はよほどお嬢様を大事に思っていらっしゃるようですよ。私に切々とお嬢様への恋心を訴えられ、思わずもらい泣きをしそうになってしまいました」
レヴィンが、エリックを褒める言葉を言えば言うほどジゼルの機嫌がどんどん悪くなっていくのに気づかない。
逆に周囲の侍女たちが顔色を無くしていっている。
「どんなことを言われたの?」
「かのお方はいつもお嬢様のことを考えて、影から常に見守っている、とおっしゃってましたね」
それは精神面ではなく、物理でということだろうか。
どおりで出かける時に、誰かの気配を感じるはずだ、とその言葉を聞いて、思ってしまう。
「お嬢様がお好きなものを調べ、買ったものと同じものを購入し、お嬢様と同じ設えにしたベッドで就寝し、お嬢様の夢の中に入りたいとか。ロマンチックなお方ですね」
それを聞いて、周囲の侍女は、うわぁという顔を隠さない。もちろんジゼルもだ。
無理すぎる、気持ちが悪い!
夢の中ですら追いかけてこようとしているのか!
レヴィンもレヴィンだ。そこに感動なんかしないでほしい。よりによって一番やばい奴を押し付けてきている自覚がないのが困る。
「断ってきて! 二度と持ってこないでよ、こんな手紙!」
「お嬢様!? お嬢様をこんなに慕ってる男性なんですよ!? もっと優しい言葉をかけて差し上げても……」
「はぁ? 相手の思いさえ強ければいいわけ? 私の思いはどうでもいいの?」
そのレヴィンの言い草にはさすがにカチンときた。
自分の思いを長年スルーしてきている男が言っていいセリフではない。
他の人の恋心には気づけるくせに、なぜよりによって自分に対する視線は気づかないのか。無視するのか!
「レヴィンは私を大事にしているようで、ちっとも私のことなんて大事にしてないじゃないのよ」
「お嬢様!?」
困惑したような顔のレヴィンに、自分の感情の爆発の押さえがきかない。
「レヴィンなんて、大嫌い~~~!!!!」
ジゼルは手にしていたティーカップを思い切りレヴィンに向かって投げた。
仕事柄、動体視力も反射神経もいいレヴィンはとっさにそれを割れないように受け止めてくれたのすら憎らしい。ジゼルの怒り具合に慌てて逃げだしていったが(正確には侍女に追い出されたが)、それでよかっただろう。
今のジゼルは乙女として恋する相手に見られていい顔をしていなかったので。
「お嬢様、落ち着いてくださいませ」
「だって!」
レヴィンが去った後、怒り狂うジゼルを必死で侍女たちがなだめる。
「あのにぶちん男に嫌いなんて言ってしまっていいのですか? そんなこと言うと本気にされますよ」
「そうそう、そのままの言葉しか受け止められない人なんですから」
そういう彼女たちにジゼルが言い返した。
「好きという言葉を直接言っても、そのまま受け取ってもらえてないんだけれど!?」
確かにそうだと、侍女たちはおし黙る。
ジゼルがレヴィンにこのような怒りを露わにしたのはいつぶりだろう。
彼のことが好きだと自覚してから、レヴィンのことを見ていると、いつでも嬉しくなってしまうから、怒りも立ち消えていたが、好きな相手にいいところを見せたいとばかりに感情を押さえていなかっただろうか。
しかし、今日はとてもではないが相手への怒りが抑えられなかった。
「このままじゃダメだわ」
レヴィンが自分の恋心を受け止めた上でふってくるならまだしも、いつまでも気づかずスルーするのが許せない。
「周囲を巻き込む手を使ってきたのは相手なのだから、こっちが同じことをしてもいいわよね」
そうほくそ笑むと、レヴィンが置いていった封筒を手にして密かに笑った。
46
あなたにおすすめの小説
放蕩な血
イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。
だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。
冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。
その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。
「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」
過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。
光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。
⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。
“妖精なんていない”と笑った王子を捨てた令嬢、幼馴染と婚約する件
大井町 鶴
恋愛
伯爵令嬢アデリナを誕生日嫌いにしたのは、当時恋していたレアンドロ王子。
彼がくれた“妖精のプレゼント”は、少女の心に深い傷を残した。
(ひどいわ……!)
それ以来、誕生日は、苦い記憶がよみがえる日となった。
幼馴染のマテオは、そんな彼女を放っておけず、毎年ささやかな贈り物を届け続けている。
心の中ではずっと、アデリナが誕生日を笑って迎えられる日を願って。
そして今、アデリナが見つけたのは──幼い頃に書いた日記。
そこには、祖母から聞いた“妖精の森”の話と、秘密の地図が残されていた。
かつての記憶と、埋もれていた小さな願い。
2人は、妖精の秘密を確かめるため、もう一度“あの場所”へ向かう。
切なさと幸せ、そして、王子へのささやかな反撃も絡めた、癒しのハッピーエンド・ストーリー。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
答えられません、国家機密ですから
ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
婚約破棄までにしたい10のこと
みねバイヤーン
恋愛
デイジーは聞いてしまった。婚約者のルークがピンク髪の女の子に言い聞かせている。
「フィービー、もう少しだけ待ってくれ。次の夜会でデイジーに婚約破棄を伝えるから。そうすれば、次はフィービーが正式な婚約者だ。私の真実の愛は君だけだ」
「ルーク、分かった。アタシ、ルークを信じて待ってる」
屋敷に戻ったデイジーは紙に綴った。
『婚約破棄までにしたい10のこと』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる