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次の日、レヴィンはジゼルに呼び出された。
あんなに怒っていた後なので、ジゼルと顔を合わせるのが少し気まずい。
しかし、ジゼルの父であるコレルタ伯爵からの命令であるので、断るわけにはいかない。
レヴィンの前に立つジゼルは、何事もなかったかのように、レヴィンに言った。
「レヴィン、貴方はしばらく私の護衛をしてもらうわ。お父様から許可はもらっております」
「はっ。承りました」
ジゼルは未婚女性ということで護衛は普段、女騎士か武術のたしなみのある侍女が担当をしている。それを配慮しているのか、レヴィンは少し離れた距離で護衛するようにというお達しがあった。
「お嬢様は、エリック様とお会いになるようです」
「そうですか」
エリックというのは自分が手紙を持っていったガルダ侯爵令息のことだ。
家臣ではなく自ら手紙を思う相手の家まで運んでいたのがお嬢様への好感の強さを表しているようで、レヴィンがその恋を応援している相手だ。
ジゼルはどうもエリックのことが気に入らないようだが、ちゃんと会ってやるようでほっとした。
「いい? よほどのことがなかったら出てこなくていいけれど、ちゃんと見張っていてね」
ジゼルはレヴィンだけでなく、周囲の侍女にも言っている。
そしてまるで決戦におもむくような固い表情でエリックの待つ応接室に入っていった。
彼女のその表情の理由がよくわからず、レヴィンはその後ろ姿を見送っていた。
仕切り布の向こうから様子をうかがえば、興奮したエリックはジゼルに犬のように駆け寄っていた。
「ああ、ジゼル嬢。わざわざ応接室なんて待たせなくても君の部屋に直接案内してくれていいのに。なんなら君を我が家に招待するし、君ならいつでも来てくれて構わないんだよ」
「あの、ちょっと、もう少し離れてくれません?」
まるで体当たりでもしているかのようにエリックはジゼルにくっついていく。ジゼルは必死に彼から離れようとして、まるで応接室の中で追いかけっこをしているようにぐるぐる回っている。
「君がいつも俺のことを意識しているってわかってるよ。俺のことを愛しすぎちゃってどうしようもなくて、そんな態度を取っているんだろう?」
エリックはなんとかして離れようとするジゼルの腕を掴もうとした。
「ガルダ侯爵令息! お控えください」
「なんだ? 使用人は黙ってろ」
お茶を運んできた侍女が思い余って止めているようだが、エリックは無視してジゼルを離さない。あわよくば抱きしめようとでもしているかのようだ。
レヴィンは自分が止めよう、と布の向こうに行こうとそちらに足を向けるが、侍女のマーリンに腕を掴まれて引き留められた。
「お嬢様のご命令です。貴方はここにいなさい」
「ですが、これはお嬢様がおっしゃるよほどのことにあたるのでは!?」
マーリンはぎっとレヴィンのことを睨みつける。
「これしきのことは、よほどのことにはあたりません。普段、女はこのような中で戦っているのですよ。男である貴方が出て、それでこの場だけ収まってもなんの解決にならないでしょう?」
「ですが……!」
二人で言い争っていると、向こう側と隔てていた布が揺れて落ちてしまった。元々簡単に布をかけているだけだったのだ。ジゼル側にこちらに護衛が控えているのが丸見えになってしまって、マーリンとレヴィンは慌てた。
しかし、よかったのかもしれない。そこに男の騎士の存在を知り、ようやくエリックは動きを止めていた。
その後も何かとレヴィンの様子をうかがいながらも図々しいことを言うエリックだったが、とうとうジゼルの堪忍袋の緒が切れ、邸宅の外に叩きだされることとなった。
ティーカップ片手に疲れ切った表情のジゼルにレヴィンが言い募る。
「お嬢様、あの男はおやめになってください。まさかあんな人だったとは……」
ジゼルはそんなレヴィンを冷ややかに見つめるだけだ。
「あの人は私を思ってくれる相手だから、私が幸せになれるんでしょう?」
「お嬢様……!?」
「貴方はあの男と結婚したら幸せになれると思って手紙を持ってきたのでしょう? それならなんのつもりだったの? 自分の行動に責任を取る覚悟もなく、軽い気持ちで持ってきたというの?」
そう言われてはレヴィンも何も言い返せない。
まさか、あのような男がこの世に存在するとは知らなかったのだ。
それはレヴィンが男で強く生まれつき、あのように異性に対して卑屈で非礼なことをする必要がなかったからであるし、そういう人間が害を与えてくるような対象になりえなかったから、視界に入っていなかったからだ。
自分の浅はかさに気づき、レヴィンは唇を噛む。
「私が考えなしでした……」
「……」
謝罪をしてもジゼルは返事もしない。いつも自分に優しかったジゼルの冷たい態度にレヴィンはどうしたらいいかわからず、大きな体をいっそう縮こまらせていた。
ジゼルがレヴィンを見るのは軽蔑の目だろうか。
彼女を見返すことも恐ろしくてできなかった。
あんなに怒っていた後なので、ジゼルと顔を合わせるのが少し気まずい。
しかし、ジゼルの父であるコレルタ伯爵からの命令であるので、断るわけにはいかない。
レヴィンの前に立つジゼルは、何事もなかったかのように、レヴィンに言った。
「レヴィン、貴方はしばらく私の護衛をしてもらうわ。お父様から許可はもらっております」
「はっ。承りました」
ジゼルは未婚女性ということで護衛は普段、女騎士か武術のたしなみのある侍女が担当をしている。それを配慮しているのか、レヴィンは少し離れた距離で護衛するようにというお達しがあった。
「お嬢様は、エリック様とお会いになるようです」
「そうですか」
エリックというのは自分が手紙を持っていったガルダ侯爵令息のことだ。
家臣ではなく自ら手紙を思う相手の家まで運んでいたのがお嬢様への好感の強さを表しているようで、レヴィンがその恋を応援している相手だ。
ジゼルはどうもエリックのことが気に入らないようだが、ちゃんと会ってやるようでほっとした。
「いい? よほどのことがなかったら出てこなくていいけれど、ちゃんと見張っていてね」
ジゼルはレヴィンだけでなく、周囲の侍女にも言っている。
そしてまるで決戦におもむくような固い表情でエリックの待つ応接室に入っていった。
彼女のその表情の理由がよくわからず、レヴィンはその後ろ姿を見送っていた。
仕切り布の向こうから様子をうかがえば、興奮したエリックはジゼルに犬のように駆け寄っていた。
「ああ、ジゼル嬢。わざわざ応接室なんて待たせなくても君の部屋に直接案内してくれていいのに。なんなら君を我が家に招待するし、君ならいつでも来てくれて構わないんだよ」
「あの、ちょっと、もう少し離れてくれません?」
まるで体当たりでもしているかのようにエリックはジゼルにくっついていく。ジゼルは必死に彼から離れようとして、まるで応接室の中で追いかけっこをしているようにぐるぐる回っている。
「君がいつも俺のことを意識しているってわかってるよ。俺のことを愛しすぎちゃってどうしようもなくて、そんな態度を取っているんだろう?」
エリックはなんとかして離れようとするジゼルの腕を掴もうとした。
「ガルダ侯爵令息! お控えください」
「なんだ? 使用人は黙ってろ」
お茶を運んできた侍女が思い余って止めているようだが、エリックは無視してジゼルを離さない。あわよくば抱きしめようとでもしているかのようだ。
レヴィンは自分が止めよう、と布の向こうに行こうとそちらに足を向けるが、侍女のマーリンに腕を掴まれて引き留められた。
「お嬢様のご命令です。貴方はここにいなさい」
「ですが、これはお嬢様がおっしゃるよほどのことにあたるのでは!?」
マーリンはぎっとレヴィンのことを睨みつける。
「これしきのことは、よほどのことにはあたりません。普段、女はこのような中で戦っているのですよ。男である貴方が出て、それでこの場だけ収まってもなんの解決にならないでしょう?」
「ですが……!」
二人で言い争っていると、向こう側と隔てていた布が揺れて落ちてしまった。元々簡単に布をかけているだけだったのだ。ジゼル側にこちらに護衛が控えているのが丸見えになってしまって、マーリンとレヴィンは慌てた。
しかし、よかったのかもしれない。そこに男の騎士の存在を知り、ようやくエリックは動きを止めていた。
その後も何かとレヴィンの様子をうかがいながらも図々しいことを言うエリックだったが、とうとうジゼルの堪忍袋の緒が切れ、邸宅の外に叩きだされることとなった。
ティーカップ片手に疲れ切った表情のジゼルにレヴィンが言い募る。
「お嬢様、あの男はおやめになってください。まさかあんな人だったとは……」
ジゼルはそんなレヴィンを冷ややかに見つめるだけだ。
「あの人は私を思ってくれる相手だから、私が幸せになれるんでしょう?」
「お嬢様……!?」
「貴方はあの男と結婚したら幸せになれると思って手紙を持ってきたのでしょう? それならなんのつもりだったの? 自分の行動に責任を取る覚悟もなく、軽い気持ちで持ってきたというの?」
そう言われてはレヴィンも何も言い返せない。
まさか、あのような男がこの世に存在するとは知らなかったのだ。
それはレヴィンが男で強く生まれつき、あのように異性に対して卑屈で非礼なことをする必要がなかったからであるし、そういう人間が害を与えてくるような対象になりえなかったから、視界に入っていなかったからだ。
自分の浅はかさに気づき、レヴィンは唇を噛む。
「私が考えなしでした……」
「……」
謝罪をしてもジゼルは返事もしない。いつも自分に優しかったジゼルの冷たい態度にレヴィンはどうしたらいいかわからず、大きな体をいっそう縮こまらせていた。
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