1 / 3
1
しおりを挟む
「ニコル様、女性と接触しました」
「ええ、こちらも確認しているわ」
耳にかけているイヤリングからは、声を飛ばす魔道具が仕込まれている。
大金を払って買ったものだけあって、今日も感度良好だ。
そして同じように高い金を払って手に入れたオペラグラスで遠くを見る。
このオペラグラスが高価なのは、フレームが金で、宝石がちりばめてあるからではなく遠くまで歪みなく見通せるその精度ゆえだ。
紅茶を飲みながら、私は独りの男性をオペラグラスで追いかけていた。
私の視線の先には端正な顔立ちからあふれるこぼれんばかりの輝く笑顔を自分の知らない美しい女性に注ぐ婚約者がいた。
そんなキラキラな表情を浮かべる彼をいままで私は見たことはない。
婚約者の名はニコル。生真面目な騎士の家風である子爵家の男性だった。
「そんでもってあのチェリーブロンドの女がニコル様の本命ってことよね」
「そうなりますね」
私の視界には、彼とお似合いの美女がいっぱいに写りこんだ。
うーん、女の目から見ても、なんとも可愛くて愛らしいことか。
やめなさい、お嬢さん。その男、二股かけてるから、と教えてあげたいくらいの純真無垢な笑顔を振りまいている。
私はオペラグラスをテーブルに置いて、私の側で控えている私専属のメイド、マリーに話しかけた。
「要するに世間的な本妻は私で、本命はあちら。我が家からお金を吸い上げて、あちらに流すための布石に私と婚約した、ということなんでしょうね」
私の端的な状況まとめに肯定もしづらいのか、マリーは黙ったままだ。
今、私の目の前で他の女と逢引しているニコルは、数か月前に私の婚約者となったばかりの男だ。
正直いって、我が家は男爵家とはいえ金持ちである。
そんじょそこらの高位の貴族が足元にも及ばないレベルどころか、追随を許さないレベルのぶっちぎりの金持ちである。
しかし、そこの一人娘である私はデブ! ブス! 気がきかない!の三拍子そろっているところに、お嬢様らしく生きることをことごとく嫌うという三重苦プラスワンの女であったりする。
そんな私のところに舞い込む縁談は、見るからに実家に金がないような、家の金目当てなものでしかないのだが、そういう家柄は私に話がたどり着く前に、親によって蹴られてしまうのだ。
逆にいえばそのガードをくぐり抜けてくるような家柄のおぼっちゃまは、私なんぞに求婚するわけはない。
しかし、その優良物件が私に結婚の申し入れしてくるなんて、見るからに怪しいではないの、と即座に私のセンサーがビンビンに反応した。
その女の勘に従って調べさせたら案の定、彼には女がいたというだけの話である。
「やっぱりねえ、おかしいと思ったのよね。この私に言い寄ってくる男がいるという時点で、なにかあるって気づくって。モテない女の嗅覚を舐めんじゃないわよ」
それを見抜ける私ってばえらい! 賢い! 鋭い! そう言って自画自賛して悦に入っていたが。
「お嬢様、それはいささか悲しすぎる現状認識でございます」
マリーにたしなめられてしまった。こんな時くらい調子に乗らせてくれたっていいじゃないのよ。
一応うちの親もニコルのことを調べさせていたようだったが、彼の性癖が貴族男子ではあまりあり得ないところだったから、どうもスルーされていたようだった。
私の婚約者、ニコルは平民専だったのだ。恋のお相手に平民の女が好きな男。
貴族は貴族以外と恋愛関係になると面倒くさいことが多いし、大体話が合わないというのもあって、平民と触れ合うこと自体を好まないものなのに、ニコルは真逆なようだ。
「どちらにしろ、随分と舐めた真似をしてくれてるわよね。どうやってとっちめてやろうかしら」
扇をパチン、と閉めて、私はにんまりと笑う。
「お嬢様、騙された人がそんなに楽しそうな顔をしてはいけません」
「あら、そんなことないわよ? 私は可哀想な被害者なのよ。マリーったらひどい!」
よよよ、と泣き崩れるふりをしたら、それはもういいから、みたいな醒めた目で見られてしまった。私は咳払いをしてごまかすとマリーに命じる。
「とりあえず、ジャックを呼んでね。手伝わせるから」
「はあ……ジャック様にあまりご無理を言いつけないであげてくださいませ」
マリーはすでに諦めたように肩を落としていた。
「ええ、こちらも確認しているわ」
耳にかけているイヤリングからは、声を飛ばす魔道具が仕込まれている。
大金を払って買ったものだけあって、今日も感度良好だ。
そして同じように高い金を払って手に入れたオペラグラスで遠くを見る。
このオペラグラスが高価なのは、フレームが金で、宝石がちりばめてあるからではなく遠くまで歪みなく見通せるその精度ゆえだ。
紅茶を飲みながら、私は独りの男性をオペラグラスで追いかけていた。
私の視線の先には端正な顔立ちからあふれるこぼれんばかりの輝く笑顔を自分の知らない美しい女性に注ぐ婚約者がいた。
そんなキラキラな表情を浮かべる彼をいままで私は見たことはない。
婚約者の名はニコル。生真面目な騎士の家風である子爵家の男性だった。
「そんでもってあのチェリーブロンドの女がニコル様の本命ってことよね」
「そうなりますね」
私の視界には、彼とお似合いの美女がいっぱいに写りこんだ。
うーん、女の目から見ても、なんとも可愛くて愛らしいことか。
やめなさい、お嬢さん。その男、二股かけてるから、と教えてあげたいくらいの純真無垢な笑顔を振りまいている。
私はオペラグラスをテーブルに置いて、私の側で控えている私専属のメイド、マリーに話しかけた。
「要するに世間的な本妻は私で、本命はあちら。我が家からお金を吸い上げて、あちらに流すための布石に私と婚約した、ということなんでしょうね」
私の端的な状況まとめに肯定もしづらいのか、マリーは黙ったままだ。
今、私の目の前で他の女と逢引しているニコルは、数か月前に私の婚約者となったばかりの男だ。
正直いって、我が家は男爵家とはいえ金持ちである。
そんじょそこらの高位の貴族が足元にも及ばないレベルどころか、追随を許さないレベルのぶっちぎりの金持ちである。
しかし、そこの一人娘である私はデブ! ブス! 気がきかない!の三拍子そろっているところに、お嬢様らしく生きることをことごとく嫌うという三重苦プラスワンの女であったりする。
そんな私のところに舞い込む縁談は、見るからに実家に金がないような、家の金目当てなものでしかないのだが、そういう家柄は私に話がたどり着く前に、親によって蹴られてしまうのだ。
逆にいえばそのガードをくぐり抜けてくるような家柄のおぼっちゃまは、私なんぞに求婚するわけはない。
しかし、その優良物件が私に結婚の申し入れしてくるなんて、見るからに怪しいではないの、と即座に私のセンサーがビンビンに反応した。
その女の勘に従って調べさせたら案の定、彼には女がいたというだけの話である。
「やっぱりねえ、おかしいと思ったのよね。この私に言い寄ってくる男がいるという時点で、なにかあるって気づくって。モテない女の嗅覚を舐めんじゃないわよ」
それを見抜ける私ってばえらい! 賢い! 鋭い! そう言って自画自賛して悦に入っていたが。
「お嬢様、それはいささか悲しすぎる現状認識でございます」
マリーにたしなめられてしまった。こんな時くらい調子に乗らせてくれたっていいじゃないのよ。
一応うちの親もニコルのことを調べさせていたようだったが、彼の性癖が貴族男子ではあまりあり得ないところだったから、どうもスルーされていたようだった。
私の婚約者、ニコルは平民専だったのだ。恋のお相手に平民の女が好きな男。
貴族は貴族以外と恋愛関係になると面倒くさいことが多いし、大体話が合わないというのもあって、平民と触れ合うこと自体を好まないものなのに、ニコルは真逆なようだ。
「どちらにしろ、随分と舐めた真似をしてくれてるわよね。どうやってとっちめてやろうかしら」
扇をパチン、と閉めて、私はにんまりと笑う。
「お嬢様、騙された人がそんなに楽しそうな顔をしてはいけません」
「あら、そんなことないわよ? 私は可哀想な被害者なのよ。マリーったらひどい!」
よよよ、と泣き崩れるふりをしたら、それはもういいから、みたいな醒めた目で見られてしまった。私は咳払いをしてごまかすとマリーに命じる。
「とりあえず、ジャックを呼んでね。手伝わせるから」
「はあ……ジャック様にあまりご無理を言いつけないであげてくださいませ」
マリーはすでに諦めたように肩を落としていた。
37
あなたにおすすめの小説
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
離婚するはずの旦那様を、なぜか看病しています
鍛高譚
恋愛
「結婚とは、貴族の義務。そこに愛など不要――」
そう割り切っていた公爵令嬢アルタイは、王命により辺境伯ベガと契約結婚することに。
お互い深入りしない仮面夫婦として過ごすはずが、ある日ベガが戦地へ赴くことになり、彼はアルタイにこう告げる。
「俺は生きて帰れる自信がない。……だから、お前を自由にしてやりたい」
あっさりと“離婚”を申し出る彼に、アルタイは皮肉めいた笑みを浮かべる。
「では、戦争が終わり、貴方が帰るまで離婚は待ちましょう。
戦地で女でも作ってきてください。そうすれば、心置きなく別れられます」
――しかし、戦争は長引き、何年も経ったのちにようやく帰還したベガは、深い傷を負っていた。
彼を看病しながら、アルタイは自分の心が変化していることに気づく。
「早く元気になってもらわないと、離婚できませんね?」
「……本当に、離婚したいのか?」
最初は“義務”だったはずの結婚。しかし、夫婦として過ごすうちに、仮面は次第に剥がれていく。
やがて、二人の離婚を巡る噂が王宮を騒がせる中、ベガは決意を固める――。
前世調理師の婚約破棄された公爵令嬢料理人録 B級グルメで王太子殿下の胃袋を掴めるように頑張ります!
青の雀
恋愛
婚約破棄から玉の輿 148話スピンオフ
王立魔法学院で第2王子殿下ウィリアム様から婚約破棄を言い渡されるが、それは冤罪であったのだ。そのショックで前世の記憶を思い出すミルフィーユ。前世日本人で茶懐石の店に嫁ぎ、子供が一人いたのだ。子供を置いて先に死ぬことへの未練を、ショックで思い出してしまい、子供が好きだった家庭料理を中心に店を開き、大儲けするというお話。
まだ最後、誰と結婚させるか決めていません。
各話のタイトル変えました。今日の献立を考えるとき、あまり続かないようにするためです。
全てが中途半端な俺のお見合い顛末
黒木メイ
恋愛
伯爵家の四男の俺は、昔から全てが中途半端だった。
立場も、能力も。けれど、鬼才と名高い王国軍第三騎士団の団長の目に留まり、副団長に任命された。その日から俺についたあだ名は『ダヴィデ団長の世話係』。実際、俺は騎士としては半人前。他団の副団長は実力が伴っているが、俺は違う。周りからそう言われても仕方ない。と、割り切れなかった。
仕事量は多く、他団の団員からの嫌がらせは日常茶飯事。体力よりも精神が先に限界を迎えそうだった。そんな時に降って湧いた見合い話。俺は深く考えることなく、その話に飛びついた。
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※小説家になろう様からの転載。
※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のエミリオ視点です。
※他視点はいずれ投稿するかも?
「出て行け!」と言われたのですから、本当に出て行ってあげます!
睡蓮
恋愛
アレス第一王子はイザベラとの婚約関係の中で、彼女の事を激しく束縛していた。それに対してイザベラが言葉を返したところ、アレスは「気に入らないなら出て行ってくれて構わない」と口にしてしまう。イザベラがそんな大それた行動をとることはないだろうと踏んでアレスはその言葉をかけたわけであったが、その日の夜にイザベラは本当に姿を消してしまう…。自分の行いを必死に隠しにかかるアレスであったが、それから間もなくこの一件は国王の耳にまで入ることとなり…。
【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜
きゅちゃん
恋愛
名門エルトリア公爵家レオンと婚約していた伯爵令嬢のエレナ・ローズウッドは、レオンから婚約破棄を宣言される。屈辱に震えるエレナだが、その瞬間、彼女にしか見えない精霊王アキュラが現れて...?!地味で魔法の才能にも恵まれなかったエレナが、新たな自分と恋を見つけていくうちに、大冒険に巻き込まれてしまう物語。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる