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二章
花渡しのしきたり
部屋を出て玄関ホールまで向かうと、祖父母とともに、今日結婚するリオが待っていた。
ユウナの兄のノアが隣国から仕入れてきた虹糸でできた生地を使って作ったおそろいの衣装は、純白ながら、光の加減で虹色にキラキラときらめく。
室内なので輝きはさほど分からないが、それでも二人の衣装の美しさは十分周囲に伝わる。
おそらくこれから向かう教会では、ステンドグラスの窓から差し込む日の光で最大限の美しさを発揮することだろう。
虹糸を使ったウエディングドレスは、ユウナが着ているものが初めての作品だ。
今日が初お目見えでもあり、シャロン商会の今後の売れ行きも左右する大事な場でもある。
けれど、それは別として、ユウナは自分と同じ虹糸で作られたタキシードを着たリオに、見惚れてしまう。
まるでリオのためにあるかのようなデザインは、陽だまりのような優しい笑みを浮かべるリオの魅力を十分にひきだしていた。
彼と今日結婚するのかと思うと、ユウナは途端に恥ずかしくなり頬を染める。
リオとは毎日のように会っていて、今さら会っただけで恥ずかしくなるような間柄ではないというのに今日は特別かっこよく見える。
「とても綺麗だよ、ユウナ」
ふわりと柔らかく笑うリオの言葉で、さらにユウナは恥ずかしくなった。
「リ、リオもすごくかっこいい、です……」
まともに見られないユウナは頬をさらに紅潮させながら、蚊の鳴くような声で呟く。
しかし、リオはしっかりと聞きとっており、ユウナの手を取ると、指輪をはめている指に軽くキスを落とした。
もうユウナは爆発寸前だ。
と、そこで、ごほんと咳払いがされユウナは我に返る。
そう、ここにいるのはユウナとリオの二人きりではないのだ。
ぱっと咳払いが聞こえてきた方を見ると、祖父が呆れたようでこちらを見ていた。
「時間はまだあるが、これから面倒なのが待っているからそろそろ出発した方がいい」
「面倒?」
ユウナは意味が分からずこてんと首をかしげるが、祖母と他の使用人達はうんうんと深く頷いている。
使用人までが反応するのはいかがなものだろうか。
しかし、それだけの面倒があるということなのだろう。
「リオ殿、花を」
「ええ、そうでしたね」
祖父から声をかけられたリオが、公爵家の使用人に視線を向けると、いろんな種類の花がたくさん入った籠を持った教会の服を着た女性が前に出てリオに見せる。
リオはその中からリオは白いアイリスを選び、ユウナの前に差し出した。
白いアイリス。
それはリオが初めてユウナに渡してくれた花だ。
花言葉は『あなたを大切にします』
ユウナにとっては『愛している』という言葉以上にはないかもしれない、嬉しい言葉だった。
「ユウナ、受け取ってくれる?」
「もちろん」
渡された花を迷わず手にしたユウナに、わずかながら緊張をはらんでいた周囲がほっと胸をなで下ろした。
「よかった、これで突き返されたらどうしようかと思ったよ」
安堵したような言葉を口にしているが、いつものように微笑むリオからは、不安など微塵も感じてはいなかっただろうにとしか思えない。
「さすがにマリッジブルーを起こしたとしても、アールス公爵家を敵に回す馬鹿はいないと思うけど?」
「なんだ、僕を愛してるからじゃないの?」
「そそ、それはもちろんそうだけど……」
またもや甘い空気を出し始めたユウナ達に、祖父母はもう好きにしてくれという様子。
使用人達は、ある意味教会での誓いよりも重要なイベントを終えたので、微笑ましく見ているだけだ。
この国の結婚式では、朝、新郎が新婦の家を訪れ花を渡す。
それを新婦が受け取ることで、結婚の意思があることを伝えるのだ。
花を受け取らなかったらどうするんだと疑問が生まれるが、これが結構受け取らないパターンが珍しくないらしい。
政略結婚でも、恋愛婚でも、結婚式当日になって結婚を拒否する新婦がいるのだとか。
逆もまたしかりで、迎えに来ない新郎がいるのだとか。
それはまた修羅場だろうなと当事者やその周囲の人のことを考えて気が遠くなりそうだが、幸いにもユウナにそんな心配は無用なようで一安心だ。
なんでも、昔に結婚の誓いを果たす時になって誓いを拒否する者が続出した頃があったらしく、先に結婚の意思を問うという習慣が作られたそうな。
貴族の場合だと政略結婚は当然のようなものなので、多くの人がいる前で最後の手段に打って出たのだろう。
平民の場合はその親族周辺の人達が騒ぎになるだけで済むが、貴族の結婚ともなると政治的な意味を持つ者も多い。
教会でそんな事態を起こされたらたまったものではないと、貴族の花渡しの時には、きちんと教会の人間が見届け人として付き添うのだ。
先程リオに花の入った籠を渡したのが、その教会の人間だ。
「見届け人殿、これでよろしいか?」
祖父が教会の人間に声をかけると、女性は頷いた。
「はい。見届け人として、強要されたわけではなく、花嫁の意思で花を受け取り、結婚の誓いをする心があったとみなします」
「見届けありがとうございます」
祖父が深く礼をすると、ユウナとリオ達も同じように見届け人に礼をする。
教会はあくまで中立の存在だ。
国に居を構えていようと、国が従える機関ではなく、あくまで対等。
どちらが上で、下とかはないが、敵に回せないという意味では教会の力の方が若干上になるかもしれない。
なので、貴族であろうと教会に命じる力はない。
しっかり礼をもって接しなければならない関係だった。
それはアールス公爵家であってもだ。
ユウナの兄のノアが隣国から仕入れてきた虹糸でできた生地を使って作ったおそろいの衣装は、純白ながら、光の加減で虹色にキラキラときらめく。
室内なので輝きはさほど分からないが、それでも二人の衣装の美しさは十分周囲に伝わる。
おそらくこれから向かう教会では、ステンドグラスの窓から差し込む日の光で最大限の美しさを発揮することだろう。
虹糸を使ったウエディングドレスは、ユウナが着ているものが初めての作品だ。
今日が初お目見えでもあり、シャロン商会の今後の売れ行きも左右する大事な場でもある。
けれど、それは別として、ユウナは自分と同じ虹糸で作られたタキシードを着たリオに、見惚れてしまう。
まるでリオのためにあるかのようなデザインは、陽だまりのような優しい笑みを浮かべるリオの魅力を十分にひきだしていた。
彼と今日結婚するのかと思うと、ユウナは途端に恥ずかしくなり頬を染める。
リオとは毎日のように会っていて、今さら会っただけで恥ずかしくなるような間柄ではないというのに今日は特別かっこよく見える。
「とても綺麗だよ、ユウナ」
ふわりと柔らかく笑うリオの言葉で、さらにユウナは恥ずかしくなった。
「リ、リオもすごくかっこいい、です……」
まともに見られないユウナは頬をさらに紅潮させながら、蚊の鳴くような声で呟く。
しかし、リオはしっかりと聞きとっており、ユウナの手を取ると、指輪をはめている指に軽くキスを落とした。
もうユウナは爆発寸前だ。
と、そこで、ごほんと咳払いがされユウナは我に返る。
そう、ここにいるのはユウナとリオの二人きりではないのだ。
ぱっと咳払いが聞こえてきた方を見ると、祖父が呆れたようでこちらを見ていた。
「時間はまだあるが、これから面倒なのが待っているからそろそろ出発した方がいい」
「面倒?」
ユウナは意味が分からずこてんと首をかしげるが、祖母と他の使用人達はうんうんと深く頷いている。
使用人までが反応するのはいかがなものだろうか。
しかし、それだけの面倒があるということなのだろう。
「リオ殿、花を」
「ええ、そうでしたね」
祖父から声をかけられたリオが、公爵家の使用人に視線を向けると、いろんな種類の花がたくさん入った籠を持った教会の服を着た女性が前に出てリオに見せる。
リオはその中からリオは白いアイリスを選び、ユウナの前に差し出した。
白いアイリス。
それはリオが初めてユウナに渡してくれた花だ。
花言葉は『あなたを大切にします』
ユウナにとっては『愛している』という言葉以上にはないかもしれない、嬉しい言葉だった。
「ユウナ、受け取ってくれる?」
「もちろん」
渡された花を迷わず手にしたユウナに、わずかながら緊張をはらんでいた周囲がほっと胸をなで下ろした。
「よかった、これで突き返されたらどうしようかと思ったよ」
安堵したような言葉を口にしているが、いつものように微笑むリオからは、不安など微塵も感じてはいなかっただろうにとしか思えない。
「さすがにマリッジブルーを起こしたとしても、アールス公爵家を敵に回す馬鹿はいないと思うけど?」
「なんだ、僕を愛してるからじゃないの?」
「そそ、それはもちろんそうだけど……」
またもや甘い空気を出し始めたユウナ達に、祖父母はもう好きにしてくれという様子。
使用人達は、ある意味教会での誓いよりも重要なイベントを終えたので、微笑ましく見ているだけだ。
この国の結婚式では、朝、新郎が新婦の家を訪れ花を渡す。
それを新婦が受け取ることで、結婚の意思があることを伝えるのだ。
花を受け取らなかったらどうするんだと疑問が生まれるが、これが結構受け取らないパターンが珍しくないらしい。
政略結婚でも、恋愛婚でも、結婚式当日になって結婚を拒否する新婦がいるのだとか。
逆もまたしかりで、迎えに来ない新郎がいるのだとか。
それはまた修羅場だろうなと当事者やその周囲の人のことを考えて気が遠くなりそうだが、幸いにもユウナにそんな心配は無用なようで一安心だ。
なんでも、昔に結婚の誓いを果たす時になって誓いを拒否する者が続出した頃があったらしく、先に結婚の意思を問うという習慣が作られたそうな。
貴族の場合だと政略結婚は当然のようなものなので、多くの人がいる前で最後の手段に打って出たのだろう。
平民の場合はその親族周辺の人達が騒ぎになるだけで済むが、貴族の結婚ともなると政治的な意味を持つ者も多い。
教会でそんな事態を起こされたらたまったものではないと、貴族の花渡しの時には、きちんと教会の人間が見届け人として付き添うのだ。
先程リオに花の入った籠を渡したのが、その教会の人間だ。
「見届け人殿、これでよろしいか?」
祖父が教会の人間に声をかけると、女性は頷いた。
「はい。見届け人として、強要されたわけではなく、花嫁の意思で花を受け取り、結婚の誓いをする心があったとみなします」
「見届けありがとうございます」
祖父が深く礼をすると、ユウナとリオ達も同じように見届け人に礼をする。
教会はあくまで中立の存在だ。
国に居を構えていようと、国が従える機関ではなく、あくまで対等。
どちらが上で、下とかはないが、敵に回せないという意味では教会の力の方が若干上になるかもしれない。
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