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第一章
第百話 商品券の説明会(改稿済)
―――時は、数日前に遡る。
薬師ギルドの試験合格を果たしたミオは、無事に薬師ギルドの登録を済ませた。その翌日には、商業ギルドの会議室で、商品券の説明会が行われようとしていた。
「噂では、有効証券に近い扱いらしいぞ?」
会議室で待つとある商人の口から零れ出た言葉に、一人の店主は眉を顰めた。
「有効証券だって? 金券じゃないのかい? まあ、金券というものがどんなものか。もし、有効証券と似たものなら、私たち一般商店には、ほど遠い存在だよ。私たちは、間違って呼ばれたわけじゃないだろうね?」
「商業ギルドが、そんなミスをするはずがねえよ」
「そうですよ。なんと言っても、今回の召集相手が、アターキル領都の商店街の商店全てですからね。間違える相手がおりません」
「そうだよなあ。全店だもんなあ。一体、どんな話になるんだか……」
宝石店のオーナーの言葉に、鍛冶屋のおやじは頭を掻きながら、眉間に皺を寄せた。ここに来ているのは、商業ギルドの呼び掛けに応じた商店街の商人たちばかり。
ちなみに、話題にあがった【有効証券】は、商業ギルドが行っている預金業で、白金貨一枚以上の金額を預けた者へ、商業ギルドが発行する証券だ。
この証券が発行される事は、商人の一種のステータスとなっている。
「待たせたな」
商業ギルドアターキル支部のギルドマスター――フェルディナント・ロギシーが、意気揚々と入室してきた。
今回の説明会場となるギルドの会議室は、誰でも入れるように、会議室の片扉が開け放たれていた。
「さて、まずは忙しい中集まってくれてありがとう。既に速報紙で書かれている【商品券】という言葉を知っている者もいると思うが、これはお金と同等の価値を持つ新しい金券制度だ。注目すべきは、新製法で作製された紙を使った商品ということ。今までになかった技法で、本物か区別できること。そしてなにより、これが贈答品の常識を覆す商品となること! 私はこのアターキル支部から、この商品券を発信したい! 今日は、その【商品券】の協力提携店を呼びかける為に集まってもらった」
「「「「「……」」」」」
私の熱弁に、私の普段と違う姿を見た商人たちは、ポカンとしている。だが仕方ない。若い時に諦めた願いが、実現する一歩手前まで来ているのだ。
「……おほん! まずは、商品券の見本を見てもらったほうが早いだろう。皆には、商品券の見本・確認事項・注意事項・やり方・協力提携店の利点を書いた書類と魔道具を配る」
私がマットに目配せをすれば、彼と職員らが、商人たちへ順番に手渡していった。
「薄いっ! それに白い!」
「これを、硬貨と同じ扱いだと?」
「羊皮紙より断然すべすべだわ!」
物珍しそうに裏返したり、怪訝な表情でペラペラと揺らしたり、恍惚な表情で頬にすりすりする者まで……実に三者三様の反応である。
「「「「「……」」」」」
「商品券発行の用途だが、様々だ。先ほども言った贈答用は勿論だが、今回は、この秋に行われる収穫祭の景品の一つにする予定だ」
「収穫祭の景品だと?」
皆が真剣に書類を見つめる中、私は話を進めた。そして、祭りの景品と聞いた瞬間に食いついた年寄り衆の代表格・鍛冶職人――アルベント。彼は、書類から目を離し、こちらを見据えた。
「ああ。祭り実行委員の要望通りの『例年にない企画』となるんだし、文句はないだろ?」
(商品券は景品扱いだから、催し用の支度金を購入に当てることができる。商品券の半券で、商店の売上計算も容易だ。今後の商品券作成も、今回の動きを見て、ギルドの予算を組めば大丈夫だろう)
「それはそうだが、どんな催しをするつもりだ?」
「速報紙に、ゲームと書いてあっただろ?」
「それは知っている。儂は、ゲームの内容を聞いとるんだ」
「それを話したら、祭りの楽しみが半減するじゃないか。当日のお楽しみに決まっているだろう」
彼の質問に、私は肩を竦めて答えた。
「話は逸れたが、先ほど配ったものが、商品券の見本だ。表側の左下にはシリアルナンバーを記載している。このシリアルナンバーは、裏側の右下にも同じ数字を記載している。それで、商品券の管理を行うことになる」
「偽造防止の方法が、第一刷と第二刷で変わるのは、なんでだい?」
「紙の仕入れ先が、第一刷と第二刷で変わることが大きい。だが一番は、こちらの都合だな」
「都合?」
肉屋のマーサが眉を顰めたが、私は特に気にもせずに話を進める。
「第一刷は、今度行われるデザインコンテストの優勝作品の絵を載せるんだ。その際にちょっとした偽造防止の仕掛けを施す。それを確認する際に必要になるのが、先ほど手渡した魔道具だ。第二刷は、偽造防止の確認は実に簡単だから、魔道具は不要だ」
「なるほど。そのデザインコンテストで、商品券の周知を図ろうって魂胆だね?」
「そうだな」
「この魔道具で、偽造防止の確認ということですが……」
「ああ、この魔道具は、ギルドからの貸与という形になる。景品の商品券の有効期限の翌日には、ギルドの職員が回収に向かうから、その際に貸与終了証にサインをくれれば問題ない」
「使い方は書る――」
「あちっ!」
「……ああなるからな。通風口に手や物を近づけ過ぎないように」
「分かりました」
「なるほど!? 温風の温度を少し上げて、通風口を狭く改良した小型魔道具か! そしてここにあるボタンを押せば、作動する仕組みになっているんだな」
興奮気味に話す彼は、魔導具店の店主だ。ちょうど質問が出たタイミングで、身を持って証明してくれた彼には、今度酒でも奢ろうと思う。
「先ほど言ったが、収穫祭の景品となる商品券は、試行面の意味合いも大きい。だからこその商店街限定だ。利用できる有効期限も、短めに設定する。顧客が提出した商品券を切り取る半券だが、これはギルドで換金する際に必要となる大切なものだ。硬貨と一緒だからな? 厳重に保管すること」
「ギルドの換金は、月末締めだけかい?」
「その場で硬貨で支払う場合は、月末締めだな。だが、硬座振り込みならば、即日対応させてもらう」
「なるほどね」
あからさま過ぎる対応だが、こちらも、換金用の硬貨の準備が必要だからな。その点、硬座振り込みならば、その必要はない。
「その他の注意事項だが、金券に表示された額以下の買い物は、お釣りは出さない。その逆に、額以上の買い物は、硬貨で支払うことが可能だ」
「ほほお……商品券の意図が見えてきたぞ。贈答用や景品用と言っておるが、顧客に店へ足を運ばせ、商品券の額以上の買い物を目論む目的がとみた!」
「御名答! 今回の商品券の使用率が良かった店には、専用の商品券の作成も考えている」
私の言葉に、マットはぎょっとした。
打ち合わせになかった私の言葉を聞いたからだろうが、それぐらいでびっくりしないでくれ。
「商業ギルドで、専用の受付カウンターを用意する。そこで、アターキル支部で商品券第二刷を発行し、商品券を販売する。それらの商品券は、アターキル領の提携店でのみ使用できる。提携店は、随時募集中だ。申請があれば、精査の上、決定通知を出す。提携店申請には料金が発生するが、書面にも書いているが、今回の協力提携店のみ、無料で登録させてもらう。なおかつ礼として、来年のギルド登録年間手数料を無料にする」
「それは、太っ腹ですな!」
「そうか? 収穫祭が始まりとはいえ、第一刷の協力提携店には、こちらが力を借りるんだ。これくらいの譲歩案は出すさ」
どこかの商人が声を上げるが、私は飄々と当たり障りのない答えを返す。
「早速だが、皆に渡した見本の商品券で、偽造防止の確認を試してみてくれ。魔道具屋の店主のように先走ることなく、魔道具の使い方と注意事項をよく読んでくれ」
「……」
私に名指しされた彼は、頬を染めて俯いたが、手は意気揚々と動いている。
「魔道具の温風に、商品券の真ん中を翳してほしい。決して、通風口にくっつけないように!」
私の言葉に、彼らは机の上に置いていた魔道具のボタンを押し、商品券を翳した。
「……おお!? なにか模様が浮かび上がったぞ!」
「これは……肉球?」
驚きの声と困惑の声が混ざり合うが、私もそれには苦笑いを返すしかない。確かに、彼らからすれば、見本とはいえ、なぜ肉球を選んだ? と首を傾げることだろう。しかし、これには深い理由があるのだ。
「この肉球は、ポーションの発案者であるミオさんの従魔の足跡なんだよ」
「ポーションの……」
「可愛い」
ポーションの発案者と聞いて、反対の者はいなかった。逆に、可愛い足跡を見てニヤける女性(一部男性含む)もいたので、よしとしよう。
♢
なぜ、ジョウ様の🐾跡になったのか。
それは、ミオさんがエイル様に預けた【商品券を入れる袋】が全ての始まりだった。
この袋を閉じる紐の先についている緒締めなる飾りに象られた物が、聖獣であるジョウ様の🐾跡だと、私はマットから報告を受けた。
『鑑定したところ、案の定【福運効果】が付与されてしまっています』
『福運効果……ですか?』
エイル様のあまり聞き慣れない言葉に、マットは思わず聞き返したらしい。
『ええ。幸運を招く効果があるのです。また、運を招くに肖り、困難に打ち勝つ力になるとも言われています』
『困難に打ち勝つ力…』
その言葉を聞いたマットは、その袋をぎゅっと抱きしめたらしい。まぁ、気持ちは分かる。
金儲けに走った教会の護札は金貨十枚と高く、一般人はおいそれとは買えない。一般家庭の生活費三カ月分だからな。
それで、マットは思ったんだろう。
(これが一般に広まれば、少しは危険が減るのでは?)と。
福運という新しい効果に、マットの寄せる期待値は高い。そしてこの話を聞いた他のギルド職員も、反応は同じだった。かくして、今回の商品券成功を願い、福運効果に肖った私たちは、商品券のマークをジョウ様の🐾跡に決定した。
急遽ミオさんへ魔鳥を送った我々は、ジョウ様の足跡使用許可を願い出た。あっさりと許可が出た後、我々の行動は早かった。
札入れの試作品を買い取り、緒締の🐾跡の型を取った。そして出来上がった🐾判子に、レモン汁を付け、商品券の見本たちへ次々と押していったという訳だ。
♢
「こちらで多少の手間があるとは言え、ギルド側の譲歩も有り難い。我々の懐が痛むどころか、店の売り上げになるんだ。否と言うほうが、商人失格だろうよ。儂は、参加しようと思う」
「わ、私も…」
「俺も…」
「僕も…」
私が参加を問わない内から、雑貨店主の参加表明を皮切りに、食品を扱う商店の肉屋、八百屋、よろず屋(調味料)、薬屋、軽食屋、食堂、服屋、靴屋などが声を上げた。商品券の動向調査には、十分な数だな。
商品券試行の提携店も無事に決まり、私は安堵した。
さぁ次は、明日の本命。第一刷商品券のデザインコンテストの開催だ!
♢
決意に燃えるギルマスを他所に、街をぶらつく商人がいた。
とある商人 Side
「ん? なんだ、この紙は?」
(アターキル領外で見たことがねえ良質な紙だ。それも色付きの紙が、なんでこんな商店や宿屋の軒先に張り出されているんだ? 羊皮紙など度外視もいいところだ。この上質な紙は、一体なにで出来ているんだ? それよりも、商人の間でなぜ話題に挙がらない!? 普通に使われているほど、アターキル領では流通しているのか!?)
「……ん? デザインコンテスト? って、明日じゃねぇか!?」
混乱の最中で目に付いた『デザインコンテスト』の文字。しかもよく見れば、商品券のロゴを決めるデザインの大会らしい。
「一見の価値ありだな。情報を集めるにも都合がいい。これは、明日が楽しみだ」
彼はそう言って、自身の中に滾る興奮を抑え、彼は足取り軽く、宿泊予定の宿へ舞い戻った。
薬師ギルドの試験合格を果たしたミオは、無事に薬師ギルドの登録を済ませた。その翌日には、商業ギルドの会議室で、商品券の説明会が行われようとしていた。
「噂では、有効証券に近い扱いらしいぞ?」
会議室で待つとある商人の口から零れ出た言葉に、一人の店主は眉を顰めた。
「有効証券だって? 金券じゃないのかい? まあ、金券というものがどんなものか。もし、有効証券と似たものなら、私たち一般商店には、ほど遠い存在だよ。私たちは、間違って呼ばれたわけじゃないだろうね?」
「商業ギルドが、そんなミスをするはずがねえよ」
「そうですよ。なんと言っても、今回の召集相手が、アターキル領都の商店街の商店全てですからね。間違える相手がおりません」
「そうだよなあ。全店だもんなあ。一体、どんな話になるんだか……」
宝石店のオーナーの言葉に、鍛冶屋のおやじは頭を掻きながら、眉間に皺を寄せた。ここに来ているのは、商業ギルドの呼び掛けに応じた商店街の商人たちばかり。
ちなみに、話題にあがった【有効証券】は、商業ギルドが行っている預金業で、白金貨一枚以上の金額を預けた者へ、商業ギルドが発行する証券だ。
この証券が発行される事は、商人の一種のステータスとなっている。
「待たせたな」
商業ギルドアターキル支部のギルドマスター――フェルディナント・ロギシーが、意気揚々と入室してきた。
今回の説明会場となるギルドの会議室は、誰でも入れるように、会議室の片扉が開け放たれていた。
「さて、まずは忙しい中集まってくれてありがとう。既に速報紙で書かれている【商品券】という言葉を知っている者もいると思うが、これはお金と同等の価値を持つ新しい金券制度だ。注目すべきは、新製法で作製された紙を使った商品ということ。今までになかった技法で、本物か区別できること。そしてなにより、これが贈答品の常識を覆す商品となること! 私はこのアターキル支部から、この商品券を発信したい! 今日は、その【商品券】の協力提携店を呼びかける為に集まってもらった」
「「「「「……」」」」」
私の熱弁に、私の普段と違う姿を見た商人たちは、ポカンとしている。だが仕方ない。若い時に諦めた願いが、実現する一歩手前まで来ているのだ。
「……おほん! まずは、商品券の見本を見てもらったほうが早いだろう。皆には、商品券の見本・確認事項・注意事項・やり方・協力提携店の利点を書いた書類と魔道具を配る」
私がマットに目配せをすれば、彼と職員らが、商人たちへ順番に手渡していった。
「薄いっ! それに白い!」
「これを、硬貨と同じ扱いだと?」
「羊皮紙より断然すべすべだわ!」
物珍しそうに裏返したり、怪訝な表情でペラペラと揺らしたり、恍惚な表情で頬にすりすりする者まで……実に三者三様の反応である。
「「「「「……」」」」」
「商品券発行の用途だが、様々だ。先ほども言った贈答用は勿論だが、今回は、この秋に行われる収穫祭の景品の一つにする予定だ」
「収穫祭の景品だと?」
皆が真剣に書類を見つめる中、私は話を進めた。そして、祭りの景品と聞いた瞬間に食いついた年寄り衆の代表格・鍛冶職人――アルベント。彼は、書類から目を離し、こちらを見据えた。
「ああ。祭り実行委員の要望通りの『例年にない企画』となるんだし、文句はないだろ?」
(商品券は景品扱いだから、催し用の支度金を購入に当てることができる。商品券の半券で、商店の売上計算も容易だ。今後の商品券作成も、今回の動きを見て、ギルドの予算を組めば大丈夫だろう)
「それはそうだが、どんな催しをするつもりだ?」
「速報紙に、ゲームと書いてあっただろ?」
「それは知っている。儂は、ゲームの内容を聞いとるんだ」
「それを話したら、祭りの楽しみが半減するじゃないか。当日のお楽しみに決まっているだろう」
彼の質問に、私は肩を竦めて答えた。
「話は逸れたが、先ほど配ったものが、商品券の見本だ。表側の左下にはシリアルナンバーを記載している。このシリアルナンバーは、裏側の右下にも同じ数字を記載している。それで、商品券の管理を行うことになる」
「偽造防止の方法が、第一刷と第二刷で変わるのは、なんでだい?」
「紙の仕入れ先が、第一刷と第二刷で変わることが大きい。だが一番は、こちらの都合だな」
「都合?」
肉屋のマーサが眉を顰めたが、私は特に気にもせずに話を進める。
「第一刷は、今度行われるデザインコンテストの優勝作品の絵を載せるんだ。その際にちょっとした偽造防止の仕掛けを施す。それを確認する際に必要になるのが、先ほど手渡した魔道具だ。第二刷は、偽造防止の確認は実に簡単だから、魔道具は不要だ」
「なるほど。そのデザインコンテストで、商品券の周知を図ろうって魂胆だね?」
「そうだな」
「この魔道具で、偽造防止の確認ということですが……」
「ああ、この魔道具は、ギルドからの貸与という形になる。景品の商品券の有効期限の翌日には、ギルドの職員が回収に向かうから、その際に貸与終了証にサインをくれれば問題ない」
「使い方は書る――」
「あちっ!」
「……ああなるからな。通風口に手や物を近づけ過ぎないように」
「分かりました」
「なるほど!? 温風の温度を少し上げて、通風口を狭く改良した小型魔道具か! そしてここにあるボタンを押せば、作動する仕組みになっているんだな」
興奮気味に話す彼は、魔導具店の店主だ。ちょうど質問が出たタイミングで、身を持って証明してくれた彼には、今度酒でも奢ろうと思う。
「先ほど言ったが、収穫祭の景品となる商品券は、試行面の意味合いも大きい。だからこその商店街限定だ。利用できる有効期限も、短めに設定する。顧客が提出した商品券を切り取る半券だが、これはギルドで換金する際に必要となる大切なものだ。硬貨と一緒だからな? 厳重に保管すること」
「ギルドの換金は、月末締めだけかい?」
「その場で硬貨で支払う場合は、月末締めだな。だが、硬座振り込みならば、即日対応させてもらう」
「なるほどね」
あからさま過ぎる対応だが、こちらも、換金用の硬貨の準備が必要だからな。その点、硬座振り込みならば、その必要はない。
「その他の注意事項だが、金券に表示された額以下の買い物は、お釣りは出さない。その逆に、額以上の買い物は、硬貨で支払うことが可能だ」
「ほほお……商品券の意図が見えてきたぞ。贈答用や景品用と言っておるが、顧客に店へ足を運ばせ、商品券の額以上の買い物を目論む目的がとみた!」
「御名答! 今回の商品券の使用率が良かった店には、専用の商品券の作成も考えている」
私の言葉に、マットはぎょっとした。
打ち合わせになかった私の言葉を聞いたからだろうが、それぐらいでびっくりしないでくれ。
「商業ギルドで、専用の受付カウンターを用意する。そこで、アターキル支部で商品券第二刷を発行し、商品券を販売する。それらの商品券は、アターキル領の提携店でのみ使用できる。提携店は、随時募集中だ。申請があれば、精査の上、決定通知を出す。提携店申請には料金が発生するが、書面にも書いているが、今回の協力提携店のみ、無料で登録させてもらう。なおかつ礼として、来年のギルド登録年間手数料を無料にする」
「それは、太っ腹ですな!」
「そうか? 収穫祭が始まりとはいえ、第一刷の協力提携店には、こちらが力を借りるんだ。これくらいの譲歩案は出すさ」
どこかの商人が声を上げるが、私は飄々と当たり障りのない答えを返す。
「早速だが、皆に渡した見本の商品券で、偽造防止の確認を試してみてくれ。魔道具屋の店主のように先走ることなく、魔道具の使い方と注意事項をよく読んでくれ」
「……」
私に名指しされた彼は、頬を染めて俯いたが、手は意気揚々と動いている。
「魔道具の温風に、商品券の真ん中を翳してほしい。決して、通風口にくっつけないように!」
私の言葉に、彼らは机の上に置いていた魔道具のボタンを押し、商品券を翳した。
「……おお!? なにか模様が浮かび上がったぞ!」
「これは……肉球?」
驚きの声と困惑の声が混ざり合うが、私もそれには苦笑いを返すしかない。確かに、彼らからすれば、見本とはいえ、なぜ肉球を選んだ? と首を傾げることだろう。しかし、これには深い理由があるのだ。
「この肉球は、ポーションの発案者であるミオさんの従魔の足跡なんだよ」
「ポーションの……」
「可愛い」
ポーションの発案者と聞いて、反対の者はいなかった。逆に、可愛い足跡を見てニヤける女性(一部男性含む)もいたので、よしとしよう。
♢
なぜ、ジョウ様の🐾跡になったのか。
それは、ミオさんがエイル様に預けた【商品券を入れる袋】が全ての始まりだった。
この袋を閉じる紐の先についている緒締めなる飾りに象られた物が、聖獣であるジョウ様の🐾跡だと、私はマットから報告を受けた。
『鑑定したところ、案の定【福運効果】が付与されてしまっています』
『福運効果……ですか?』
エイル様のあまり聞き慣れない言葉に、マットは思わず聞き返したらしい。
『ええ。幸運を招く効果があるのです。また、運を招くに肖り、困難に打ち勝つ力になるとも言われています』
『困難に打ち勝つ力…』
その言葉を聞いたマットは、その袋をぎゅっと抱きしめたらしい。まぁ、気持ちは分かる。
金儲けに走った教会の護札は金貨十枚と高く、一般人はおいそれとは買えない。一般家庭の生活費三カ月分だからな。
それで、マットは思ったんだろう。
(これが一般に広まれば、少しは危険が減るのでは?)と。
福運という新しい効果に、マットの寄せる期待値は高い。そしてこの話を聞いた他のギルド職員も、反応は同じだった。かくして、今回の商品券成功を願い、福運効果に肖った私たちは、商品券のマークをジョウ様の🐾跡に決定した。
急遽ミオさんへ魔鳥を送った我々は、ジョウ様の足跡使用許可を願い出た。あっさりと許可が出た後、我々の行動は早かった。
札入れの試作品を買い取り、緒締の🐾跡の型を取った。そして出来上がった🐾判子に、レモン汁を付け、商品券の見本たちへ次々と押していったという訳だ。
♢
「こちらで多少の手間があるとは言え、ギルド側の譲歩も有り難い。我々の懐が痛むどころか、店の売り上げになるんだ。否と言うほうが、商人失格だろうよ。儂は、参加しようと思う」
「わ、私も…」
「俺も…」
「僕も…」
私が参加を問わない内から、雑貨店主の参加表明を皮切りに、食品を扱う商店の肉屋、八百屋、よろず屋(調味料)、薬屋、軽食屋、食堂、服屋、靴屋などが声を上げた。商品券の動向調査には、十分な数だな。
商品券試行の提携店も無事に決まり、私は安堵した。
さぁ次は、明日の本命。第一刷商品券のデザインコンテストの開催だ!
♢
決意に燃えるギルマスを他所に、街をぶらつく商人がいた。
とある商人 Side
「ん? なんだ、この紙は?」
(アターキル領外で見たことがねえ良質な紙だ。それも色付きの紙が、なんでこんな商店や宿屋の軒先に張り出されているんだ? 羊皮紙など度外視もいいところだ。この上質な紙は、一体なにで出来ているんだ? それよりも、商人の間でなぜ話題に挙がらない!? 普通に使われているほど、アターキル領では流通しているのか!?)
「……ん? デザインコンテスト? って、明日じゃねぇか!?」
混乱の最中で目に付いた『デザインコンテスト』の文字。しかもよく見れば、商品券のロゴを決めるデザインの大会らしい。
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ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。