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第二十一話 もう一つの頼みごと
しおりを挟む「ミオは薬草全般を教わりたいのことですか?」
「もちろんです。初歩中の初歩からお願いします!調薬釜がありますが、正しい知識がなければ、宝の持ち腐れです」
「確かにそうですね。ではまず……この図鑑を全て暗記して下さい」
エイルさんがソファから立ち上がり、本棚から取り出したのは【薬草全種】と書かれた分厚い図鑑だった。それも六法全書も真っ青な凶器にもなる図鑑だった。
「分かりました…お預かりします。それともう一つお願いがありまして…」
覚えますとは決して言えない。言える自信がない。くそぉ…こうなったら瞬間記憶能力を頼めばよかったぜ!
「…なんでしょうか?」
ガイア様の件があったから、多少身構えているエイルさんに、私は安心させるように微笑んだ。
「昨日の明け方に、卵が孵化しまして…」
「卵?」
「きゅうちゃん、出ておいで~」
「きゅう!」
かわいい鳴き声と共に、私の影からジャジャジャーン!と飛び出したきゅうちゃん。ちなみに、きゅうちゃんの命名センスは、ジョウにズタボロに言われました。
「…なっ!? …は?」
「迷彩卵のきゅうちゃんです!」
「きゅきゅう~」
よろしく!と言うように、片手を上げるきゅうちゃん。ちゃんとご挨拶出来て偉いわぁ。
「……もうなにも言う気力はありません。リード紙に書く条件は、ジョウと同じですか?」
至極疲労が詰まった彼の声音に、少しだけ反省する。
「ちょっとまってくださいにぇ」
私は鞄から、リード紙の写しを引っ張り出した。ジョウの条件を元に、一部書き換えやいらない箇所は削り、作成した。
【・きゅうちゃんは、ミオ・テラオの家族である。
・契約者エイル・リュタ・ラ・マグワイアの易になることはないこと。
・契約者が、きゅうちゃんに命令は出来ないこと。
・街に滞在中の期間、契約者の不利益になる行動はしないことを誓うこと。
・契約者に不利益な行動を起こし、契約者に損失が生じた場合、その補填を義務とすること。】
「これで、おにぇがいします!」
きゅうちゃんは基本的に、私の影にいることになる。外に出すのは、私の部屋の中だけだ。
「分かりました。従魔の印も後でお渡しします………はい、終了しましたよ」
「ありがとうございます!」
相変わらずの早業だ。私は満面の笑みで礼を言った。
「きゅぅ?」
きゅうちゃんは、自分の身体が光ったのが不思議で、身体を確かめているらしく、視線があっちこっちと忙しない。
「それにしても、私が聖域に行けることになるなんて…」
急に自覚が芽生えて来たのだろうか?うっとりと蕩けるエイルさんだが、なにかを思いついたようで視線を私に向けた。
「ガイア様が言ったように、私は転移が使えます。ミオたちも、聖域に用事があれば言って下さいね」
彼からの有り難い申し出に、私はどう返答すれば良いのか視線が泳ぐ。
(どうしよう。転移は便利だけど、私たちも急げば半日くらいで行けるんだよね?)
(あぁ。半日もかからん。だがせっかくの提案だ。行きだけ転移を頼み、帰りは吾輩らのリズムで帰ればいい。せっかくの申し出だ。なにも、無碍にすることはあるまい?)
エイルさんのご厚意を、ジョウは受けろと言う。だけどそれって、アッシーじゃない?
「えっと、行きだけおにぇがい出来たりしますか? 帰りは、当てがあるので……」
私の定まらない視線になにかを悟ったんだろう。
「帰りは当てがあるって……じゃあやっぱり、あの魔導船の従騎はジョウだったのですね!?」
エイルさんの視線が、ジョウへと移動する。船員の話は嘘ではなかったんですね!と若干興奮しているが、私は魔導船に乗っていなかったら詳しくは分からない。外壁で先延ばしにしていた魔導船の話が蒸し返ったことと、はしゃぐエイルさんを辟易と見つめる私だった。
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