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六日目―行き先、決定!
子爵邸に辿り着くまでのヒヤヒヤもしたし、到着した後の一悶着もあったが、今となっては、実に有益な時間だった。
無駄になったか?と思えた目標の魔力の残滓が切っ掛けとなり、ベーラン子爵と会話の糸口が掴めのは、重畳だった。
しかも、図書館の顔パスは勿論、冒険者カードよりも強い後ろ盾を得られたことは、なによりもの収穫だった。
憂いは払うべきだと準備したあの時の自分を褒めたいぜ。結果なにもなかったが、無ければ、それはそれでいいのだ。
そして一番の成果は、魔法都市アルティメットの存在を知れたこと。その魔法都市にある魔法学園の大図書館。
そこにある書籍や研究論文で、生活魔法や古代の魔法文字の研究がどれほど進んでいるのかを知りたい。
それによって、他人に知られても良い生活魔法の領域も見えてくる。当分の間は、バレンさんの生活魔法事典が頼りだ。
なにせ、魔法都市の大図書館の入場権で顔パスは勿論、書物の拝見料も無料だ。正に、至れり尽くせりだ。
……なのだが、魔法都市アルティメットは隣国にある。そこへ行くまでの旅銀を、これから稼がなればならない。
しかし、貴族の至れり尽くせりには、庶民としては文句の一つも言いたくなるが、こういう権利の受容の変わりに、民の為に頑張らなければならないのが、貴族だったな。
確か……ノブレス・オブリージュだったか?果たしてこの世界に、その道徳観を持った貴族が、どれほど存在するかな?
俺は、ベーラン子爵に貰った受領サインの依頼書を大事に懐へ仕舞いながら、報告の為、冒険者ギルドへと歩を進めていた時だっった。
俺の天啓の声が聞こえたのは。
『冒険の身分証明書が出来たなら、入領税が返ってくるよ!木札も、門兵さんに返さなきゃ!今日の夕没までが時間制限だよ』
……はっ!?
(依頼にすっかり夢中になっていて忘れるところだった!?まだぎりぎり、三日目の範囲だ!)
せっかくの銀貨2枚。無駄になるなど、論外だぜ!?俺はギルドに向けていた足を、颯爽と外壁へと向け直し、急ぎ足となったのだった。
(誰か分からないけど、神様ありがとう!)
と、俺は誰かも分からぬ存在に感謝した。
小銀貨と銀貨では、どちらが額が大きいか?それは、小銀貨となる。銀の鋳造率が多く、銀貨よりも価値は上である。また金貨も、小金貨が相手では価値が下になる。
通貨の価値
虹銀貨1枚=100億円
大金貨1枚=1億
小金貨1枚=1000万
金貨1枚=100万円
大銀貨1枚=10万円
小銀貨1枚=1万円
銀貨1枚=1000円
銅貨1枚=100円
鉄貨1枚=10円
という具合に制定されているが、市井の市場や生活圏で出回るのは、せいぜい小銀貨までだな。商家などは、その限りではない。
♢
「ちょっと貴方!?」
「……うへぇ」
外壁の門兵さんに声を掛け、ぎりぎり三日前に貰った木札を返せば、彼には苦笑いで出迎えられた。
時々、いるそうなのだ。新たな新生活に夢中になり、木札を返しそびれそうになる奴が……いや、実際にいたそうだが。
そんなコメディを終え、報告の為にギルドに来れば、またもや現れたアンナ。
まだ、俺とのパーティー結成を目論んでいるのか?俺にはその気はないからなぁ。早々な諦めてくれることを願う……でないと、敵わん。
「ちょっと聞こえてるからね!?なんで、そんな嫌そうな声出すのよ!?」
「それは……なぁ?」
何故って、本当のことを言えば、アンナは泣いてしまいかねない。俺は困った表情を作り、後ろ手で頭を掻いた。
「貴方と、パーティーを組むのが嫌だからに決まっているではありませんか!?」
「うぉ!?」
またなんか出てきた!?
この間はいなかったのに、なんだ!?この辺りの子供界隈の二大巨塔か!?
茶色のボブカットをしたアンナに対し、桃色のツインテールをした、取り巻きに囲まれた勝ち気な瞳の女の子。
何故、こうも苦手な女子ばかり現れるんだ?思わず、頭を抱えてしゃがみ込みそうになるのを耐えながら、俺は無視をすることにした。
どちらに転んでも、俺に得はない。
「すみません。依頼完了報告にやってきました」
「…あっ、はい!では、依頼の受領書をお願いします」
俺達のやり取りを見ていたソフィアさんは、俺の行動に一瞬呆けたが、すぐに我に返り、お仕事を開始した。
今は、普通にカウンター業務なんだね。
冒険者同士のトラブルには、口を挟まないのがギルドの方針だ。(余りにも一方的で、酷い場合は別だ。その際の罰則も、ちゃんと取り決められている)
だから、俺が依頼の報告をしても、ギルドとしてはなんら問題はない。
少々困惑気味のソフィアさんだが、俺は、ベーラン子爵のサインが書かれた受領書を渡した。
俺の行動による女子たちの反応は、口をあんぐりと開けて、信じられない!とでも言いたげだ。
「お待たせしました!受取人のサインの確認も取れましたので、依頼達成となります!こちら、依頼料の小銀貨1枚となります」
「ありがとうございます」
木で出来た簡素なお盆に載せられた硬貨1枚を受け取った俺は、(次は、魔法具店だな…)と踵を返した。
ソフィアさんが可笑しさ堪え、ギルドを去る俺を見ていたとも知らずに。
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