異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)

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七日目―ギルドマスターの登場

「……やった。俺の予想は間違ってなかった!」

 小さくガッツポーズした俺の横で、ガランガラン…ゴッ!?と、旋風つむじかぜに巻き上げられた備品たちが落ちてきた。
 あぁ、哀れ。名もなき、備品たちよ。風に煽られたその後の姿は、あまりにも無残。

「なんの音だ!?」
「アイツがやったのか!?」
「まだ子供だぞ!?あれは、ウルディンだろ!?」
「あいつの属性は、水だぞ!?なんで、あんな暴風が起こせるんだよ!?」

(……まぁ、想定していた風力と違ったが、これだけの威力だ。外野が騒ぐのも、仕方ないか) 

 雄風ブラストは、爆風にも等しい強度を誇るが、今のルイには、旋風ワールウィンドが精一杯だった。

 【生活魔法のススメ】の説明にもあったように、生活魔法には、修復リペアのような魔力制御や熟練度で、効果に差が出るようだ。

 それでも、彼の考えが証明された瞬間に違いなかった。この世界の生活魔法の常識が覆された、ルイの大技だった。



 ―――「ルイ!大丈夫か!?」

 全ての風が止んだのを確認して入ってくる辺り、状況確認は出来ている。流石である。
 焦った表情をしているウルディンだが、俺は今、達成感に満たされていた。

「大丈夫ですよ……訓練場の備品以外」
「そうか、無事か……あぁ~、これは、弁償か?」
「え!?弁償って?」

 俺の呟きに、ウルディンが滂沱の涙を流し出した。これら全て、弁償対象なの?

「普通の鍛錬の場合は、弁償の義務は発生しない。ただ、先ほどのは余りにも不適当だ。実験と聞き、その内容を問わないウルディンにも、責任はある。そう思わないかい?」

 訓練場のギャラリーから飛び出し、華麗に着地を決め登場した謎の人物。彼はそう言いながら、俺に問いかけてきた。 

「実験は、駄目だったのでしょうか?」
「駄目な訳では無いが、これだけの被害が出るなら、一言欲しかったのが正直なところかな?」

 肩を竦め、こちらを見るその蒼い瞳は、とても厳しい。

「被害を想定出来る実験など、実験の必要性はありますか?確かに、これだけ破壊してしまったのは申し訳ないですが、結果論です」

 本当は暴風を起こそうとしたが、それは黙っておこう。口は災いのもとだ。

「まぁ、魔法訓練場の結界に問題はないけど、備品は殆どが総入れ替えだね。一体幾らになるのかな?」

 結界の精度を確認し、次は訓練場全体を見回していた目は、こちらを捕らえる。腰まで伸びた金の髪は、後ろで緩く編んでいるようだ。場内を見回す頭の動きに釣られ、軽く揺れていた。

「さぁ?訓練場の備品の弁償については、冒険者ギルド規則本に、一切・・の記載がありませんでしたので、分かりかねます」
「……君、あの説明書を全部読んだの?」

 俺の返答が意外だったらしい。
 彼は一瞬だけキョトンとすると、頬を引くつかせ、聞いてきた。

「勿論です。半日ほどかかりましたけどね。これから、末長くお世話になる機関です。規則を知っておくのは、あらゆる事態を想定して、当然の措置と言えると思いますが……」

 知らなかったでは済まされない。
 この世界では、その本気度が半端ないのだ。下手すれば、奴隷落ちもありうる。それを考えれば、規則を把握しておくことなど造作ないことだ。

 世の冒険者たちは、情報は時に、局線を覆す力を持つことを知るべきである。

「冒険者ギルド要項 第三部 二十六条」
「冒険者ギルドSランクは、一国の公爵家と同等の権力・立場を保持し、指名依頼を断ることも出来る。行動の制限も無く、登録ギルド国の徴兵の義務もない。通常、クラン立ち上げには、冒険者ギルド本部グランドマスターの認可が必要だが、Sランクはその限りではない」
「……御名答」 

 俺の回答に、感銘を受けているのか。称賛の色を込めた瞳で微笑み、惜しみない拍手を送ってきた。ちょっと照れる。

 まさか、本当に応えられるとは思っていなかったようだ。
 まぁ、冒険者は舐められないようにするのが定石だからね。口からでまかせの可能性も、考えていたようである。

「今度新刷される冒険者ギルドの規則本には、訓練場での過度な備品の破壊活動には、弁償を要求することを明記することにするよ」
「それもいいですが、現在ある規則本はどうされるんですか?」
「手書きで明記するつもりだよ」
「それはまた……」

 面倒くせぇ……と露骨に表情に出た俺に、謎の人物はからからと笑った。
 バレンでの写生作業を思えばこそのルイの表情だが、彼にはそんな事は分からない。

「原因の本人にそんな顔をされちゃ、代筆業の彼らも、立つ瀬がないね。それと今回の弁償だけど、規則本になかった事例を請求することは出来ないから、今回はお咎めなしとするよ」
「ほんとですか!?……やった!」

 喜ぶウルディンの横で、俺は【代筆業】なる職業に聞き覚えがあった。 
 それは、日本の江戸時代に、商売として成り立っていた職業だ。そんな彼らの仕事も、教育制度の台頭たいとうによって、廃れていくことになる。

 【転写コピー】が出来れば一発だろうけど、まだ肝心の【生活魔法事典】に、それが載っていないのだ。載っていないのに提案をすれば、怪しさ爆発……してるか。旋風ワールウィンドなんてのも、生活魔法にないしなぁ。寧ろ、攻撃魔法の類か?

 ……あっ!そういえば【転写】こそが、俺に今一番必要な生活魔法ではないか!?
 鬼のようなあの文章たちを一瞬で転写が出来れば、俺は自分を大いに褒めるだろう!……まさに、自画自賛である。

「そう言えば、まだ名乗っていなかったね。私は、ドーザ。このゼントの冒険者ギルドのギルドマスターだ。覚えておいてくれたまえ」
「俺は、ルイと申します。宜しくお願い致します」
「あぁ、よろしく頼む」

 俺が軽く会釈をすれば、ドーザは笑顔で頷いた……のだが、「ところで、これだけの被害を出したんだ。口外はしないと約束するから、なんの実験をしていたか、教えてくれるよね?」と、大変良い笑顔で宣ったドーザ。

(流石ギルマスにまでなった男。タダでは転ばないってか?)

「……分かりました」

 流石の俺も、嫌とは言えず、『絶対に口外しない』と誓約書を書いて貰うことを約束し、未だざわめく訓練時を後にした。

(残念だが、実験はここまでだな)

 ギルドマスターの部屋へ連行される向かう前に、ウルディンには、ギルドのホールにある食堂で待ってもらうことにした。

 内容が内容だからな。

(午後には、採取依頼に行きたいが……どうやって説明するか?自分で開発しましたぁ……は、別言語だ。学もない田舎者には、無理があり過ぎる。高熱をかけて死にかけたら、別の記憶を思い出したって、正直に言うか?)

 それしか………説明出来る理由がねぇよなぁ。よし!正直に……だが、話す部分は慎重に選ぼう。

 そんな風に考えていた俺は、知らなかったのだ。

 俺が高熱を原因として思い出した前世の記憶の現象は、この大陸では、過去・現在を通して存在すること。
 その者たちの総称を、【喚び起こされし者】と呼ばれていたことを。
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