異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)

文字の大きさ
26 / 63

七日目〜八日目―解析図①

しおりを挟む
「本当に良かったのか?こんな大金……」
 と、呆然としていたウルディンに、俺は笑顔で布袋を押しつけた。

 彼はすっかり忘れているかもしれないが、俺の風船事件のせいで、変な絡みをしてくる輩がいるかも知れないのだ。俺にしてみれば、迷惑料でも安いと思う。

「ありがとう。入金手続きをしてくるよ」
「あぁ。また会うことがあれば、声を掛けてくれ」
「そっちもな」

 俺たちはそう言い合い、その場で別れた。

 ―――呆然、唖然とした周囲の冒険者たちを置き去りに。二人は自由だった。


(短い半日だったが、濃い採取時間だったな)

 俺は、早速出来た資金にホクホクしながらも、口座入金申請直後に入れ替わったソフィアさんに、初心者講習と昇格筆記試験の予約を、即座に取らされた。

 その2つを受けずに、Eランク(仮)に昇格しているのは、ギルマスの認可が必須だっが、彼は鶴の一声だったらしい。

「採取の仕方も完璧。獲物の管理も完璧。ウルディンの話だと、獲物の退治方法も安全第一。一体、なにを習うのさ?寧ろ、彼の時間を無駄にして申し訳ないけど……ギルドも組織だからね。締めるとこは締めないといけないのが、面倒だよねぇ」だそうである。

 因みに、講習と試験が連続で行われる特別扱いで、明後日の午前9時に初心者冒険者向けの1時間半講習。少しの休憩を挟み、11時に筆記試験の予定である。試験時間は1時間を予定しており、午後1時はギルドマスターとの面会だ。移動の暇はないので、ギルドの食堂でお昼を済ませるか。

 そんな事を考えながら、宿屋へ帰路に着くが……「よっ!変質者のお帰りだよ!?」と、うざ絡みする酔っ払いがいた。

「おかえり、ルイ」
「ただいま、タバサさん」

 酔っ払いの戯言など、どこ吹く風でしれっとした様子のタバサさんに、俺は苦笑いで口を開いた。

「タバサさん、3日ほど延泊したいんだけど、ギルドカードで支払い出来る?」
「延泊?そりゃ大歓迎だけど、カードで支払いって、ルイ……まさか?」
「そのまさか。まだ仮なんだけど、Eランクに昇格出来ました」

 首から下げている紐を手繰り寄せ、服から取り出したカードは、材質が薄い木板から銅板に変わっていた。

「…!?やるじゃないか、ルイ!まだ登録して1週間も経っていないひよっこだったのに、一体なにをしでかしたんだい!?」
「いやぁ……俺には普通だったんだけどね」

 手放しで褒めてくれるタバサさんに、流石の俺も照れた。
 でも、村にいた時と同じように丁寧に採取しただけだ。鮮度は別として。

 だが、そんな朗らかな雰囲気に対して、タバサの言葉を聞いた周囲の空気が、ガラッと変わったのだ。

「良かった、坊主!」
「飯の種を教えてくれよ!」
「一緒に冒険しないか!?」
「将来有望だな!なにかいるものはあるかい?」
 と、ただ素直に褒めるものがいれば、それにあやかろうとするもの、唾を付けようとするもの……と、三種三様に騒ぐ。

「お黙り!ルイに手を出す奴は……分かってるだろうね?」
 と、タバサさんの声に応えるように、その時初めて姿を見せた厨房の主に、ルイは軽く会釈をした。
 タバサさんの夫である彼も、俺に少しだけ微笑んだが、直ぐに周囲に睨みを効かせる。
 
(まさか、熊の獣人さんとは。そりゃ、食堂も静まるはずだ。脅しは、抜群である)

「旦那のブレイドさ。紹介が遅れてすまないね。この通り、無口で恥ずかしがり屋なんだよ」

 パンッとブレイドさんの背中を叩くタバサさんに集まる、客からの称賛の視線。まぁ、気持ちは分かるけどね。

「俺は、ルイって言います。飯が毎日、とっても美味いです!これからも、宜しくお願いしますね」
「……宜しく」

 俺が挨拶をすれば、はにかみ、小さく頷いてくれた。

 ブレイドにしてみれば、この体格と風貌だ。初見から身構えることも無く、距離も極自然に接してくれるルイが珍しい。だから、余計に可愛く思えた。ルイ自身も、それを当たり前に思い接している節がある。

 ブレイドは、その胸に湧き上がる感激を、タバサに語った。それは、「はよ寝ろ!」との、夫婦の合いの手が入る晩まで続いたという。

 ♢

 昨日の採取は、俺に自覚のない興奮があった。その為に、俺が寝付けたのは、深夜近くだった。 街の街道を、欠伸をしながら歩く。疲れの残る身体を引きずり、バレンの店に来たのだが……彼は俺と違い、機嫌が悪かった。

「いらっしゃい。今日のご来店は、また写生かい?昨日は来なかったけど、今日は暇なのかな?」
「なにかあったのか?本の閲覧が済むまでは、通わせて貰う約束だが?」

 写生も目的だが、例の転写コピーの生活魔法も試したかった。それに魔法都市のことも、もっと知りたかった。

 だけど、今は言うまい。

 バレンの目の下には隈が居座っていらっしゃる。緊急な依頼でも入ったのか。徹夜の跡が伺える。そりゃ機嫌も悪くなるというもの。

 それにしても、昨日の俺の騒ぎが耳に入っていても可笑しくないんだが、なにか熱中するものでもあったのか?

「それはそうなんだけど、少し面倒くさい依頼というか宿題というか……って、そうだ!ルイ君、思わぬところで賢いから、なにか思いつくかも!ちょっと待ってて!?」

 納得したいけど、出来ない心境で葛藤していたバレンだが、奴の表情が一瞬で明るくなる。

「……は?」

 そして、納得出来ていないのは俺だ。

(思わぬところで賢いって、褒めてるのか?貶してるのか?甚だ疑問だぞ)

 奴を待っている間に、俺の目つきが鋭くなるのも仕方がない。だがこの日、バレンは、俺の秘密を知る切っ掛けを作ることになる。

「これだよ!これ!」

 バレンが持ってきたのは、大きな筒状の羊皮紙。それを幾つも抱えたバレンが、カウンターまでやってくる。

「よっこいせ!?」 
 と言いながら、広げられた1枚の羊皮紙には、精巧で不思議な……だけど、前世の理科の授業で見るような絵が、書かれてあったのだ。

「魔法具師協会が発行した新・解析図なんだけど……例によって、隣国の発掘現場から出土した魔法具の解析図なんだよ」
「なっ!?なんでそんな金の匂いプンプンする物を、魔法具師協会が発行するんだよ!?」

 可笑しいだろ!?と軽く喚いた俺は、悪くないはずだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。 しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた! しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思った矢先…何故か色々な事に巻き込まれてしまい……?! 「これ…スローライフ目指せるのか?」 この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

つまみ食いしたら死にそうになりました なぜか王族と親密に…毒を食べただけですけど

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私は貧しい家に生まれた お母さんが作ってくれたパイを始めて食べて食の楽しさを知った メイドとして働くことになれて少しすると美味しそうなパイが出される 王妃様への食事だと分かっていても食べたかった そんなパイに手を出したが最後、私は王族に気に入られるようになってしまった 私はつまみ食いしただけなんですけど…

処理中です...