56 / 103
十八日目―商売の種
「それにしても、口約束とは言え、あの商人に色々聞かなくてよかったのか?」
「なにを?」
「なにをって……そりゃ、彼の販路さ。あのクッションを売るに足る伝手とかをね」
ラノベで得た情報だから、この世界でも当て嵌まるというわけではないけどな。
「あ~…そうか。彼が行商だったのを心配してるんだね?」
「まぁ、今までは魔法都市で仕入れたものを、街や村で捌いて、村や町で仕入れたものを都市で販売するといった形だろ?まぁ、生活用品とは全くの畑違いだから、軋轢を生むことはないだろうが……」
あのクッションは、衝撃吸収の効果があるもんだから、他に役に立つ仕方があるんだよな。例えば、割れ物の梱包材とか。商品の改良は必要だが、うまく再現できれば、儲けの種になりそうだ。
「確かに畑違いだから、販路の問題もあると思うけど、あのクッションだよ?勝手に、販路が築かれるような気がする。あの定期馬車の御者のおじさんも、払い戻しをしなかったし。そのうち、馬車ギルドを通じて、正式な販売依頼があるんじゃない?」
「そうか。消費者側からの要望なら、売れること間違いないなぁ」
「だよね!後は、あの商人に問題がなければ、無問題だよ」
ふんふふ~ん♪と鼻歌でも歌いそうな軽い足取りのバレン。なにやらご機嫌である。
「どうした?なにか、もう良いことがあったのか?さっきのぶーたれた顔とは、大違いだぞ?」
「だって、馬車の備品の商売敵はいないじゃない。僕らの独走状態だから、楽だなぁと思って!それにもし、邪魔をする商会が現れても、これは馬車ギルドの依頼でもあるからね。商人は、彼らを敵に回したくないから。よほどのことがない限り、邪魔をされることはないよ」
「それはそうかもしれんが……邪魔をするのが、商人だけとは限らんだろ」
肝心の馬鹿貴族を忘れてるぞ、此奴。
「あぁ……あれがいたか」
思い出したのか。
あのニコニコ顔が嘘のように、スンッと真顔になるバレン。やはり忘れていたな。
「まぁ、バレンとそのお師匠様に危害を加えられたら、俺が困るからな。出来る限りのことはさせてもらうよ」
「…っ!?ありがとう!ルイ君!」
俺がそう言えば、途端に、ぱぁっと明るくなるバレン。
「なに言ってんだ。今回の滞在中、世話になるのはコチラだ。そんなことで礼が出来るなら、お安い御用だ」
そう。魔法都市に滞在中、お師匠様の善意で、お世話になることになっているのだ。
俺自身の安全の為ではあるが、対策として、お師匠様の家には、しっかりと防犯を取り付けさせてもらうぜ。
「そうは言ってもねぇ。流石に、おんぶに抱っこで申し訳ない気がして……」
えへへ…と愛想笑いを浮かべながら、頭に手をやるバレン。ふむ。見た目は子供だもんなぁ。そりゃ、程度の差はあれ、負い目に感じるか。
「そう思うなら、旨い飯を出してくれよ。人生の楽しみだからな」
この世界は、圧倒的に娯楽が少ない。
貴族は、チェス・舞台鑑賞といった遊びはあるようだが、それだけといえば、それだけである。だからこそ、噂話が大の好物なのである。
おの尾ひれ背びれが、電光石火で流れる様は、田舎のネットワークを思い出す。
ネットワークと言っても、機械的な言葉ではないぞ。村特有の伝言ゲー厶のことだ。
啄木鳥が木を突く速度で、皆に噂が広まるのだ。幻に苛まれるほどの速さに、俺は怖れを成したものだ。
(詳細な記憶はなくとも、前世で培った感覚はある。不思議とな)
さて、話が長くなったが、ゼントの街や俺の村に伝わる頃には、真実のしの字もないのは明らかである。
(ラノベのあれをやるべきか?)
俺は、ラノベの定番とも言える娯楽無双をやるべきか、悩み始めた。だが、俺はこれから忙しいしなぁ。誰か適任者がいれば、お願いしてもいいかもしれんな。それまでは、内輪で楽しむとしよう。
手始めに、今日の夕食後の寝る前にでも、バレンを誘ってみるか。簡易の盤と駒を作らなくちゃな。
だが、この時のルイは知らない。
庶民であるバレンが、人生で始めて触れたゲーム。夢中になるという魔の欲望に侵され、なん度もせがまれる地獄が待っていることを。
「次は、絶対勝つよ!お願いだから、源平碁をやろうよぉ!?」
それに切れたルイが、就寝で、バレンを強制終了することさえも。
☆ 生活魔法
・就寝……文字通り、相手を眠らせる事が出来る。
あなたにおすすめの小説
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
転生?憑依?したおっさんの俺は【この子】を幸せにしたい
くらげ
ファンタジー
鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は、四十目前の独り身の普通という名のブラック会社に務めるサラリーマンだった。だが、目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた。しかも【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!?
「誰も【この子】を幸せにしないなら俺が幸せにしてもいいよな?」
最弱Sランク冒険者は引退したい~仲間が強すぎるせいでなぜか僕が陰の実力者だと勘違いされているんだが?
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
冒険者のノエルはSランクパーティーの荷物もちだった。
ノエル自体に戦闘能力はなく、自分のことを足手まといだとすら思っていた。
そして、Sランクになったことで、戦うモンスターはより強力になっていった。
荷物持ちであるノエルは戦闘に参加しないものの、戦場は危険でいっぱいだ。
このままじゃいずれ自分はモンスターに殺されてしまうと考えたノエルは、パーティーから引退したいと思うようになる。
ノエルはパーティーメンバーに引退を切り出すが、パーティーメンバーはみな、ノエルのことが大好きだった。それどころか、ノエルの実力を過大評価していた。
ノエルがいないとパーティーは崩壊してしまうと言われ、ノエルは引退するにできない状況に……。
ノエルは引退するために自分の評判を落とそうとするのだが、周りは勘違いして、ノエルが最強だという噂が広まってしまう。
さらにノエルの評判はうなぎのぼりで、ますます引退できなくなるノエルなのだった。
他サイトにも掲載
Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~
冬兎
ファンタジー
うちのお嬢様は絶対におかしい。
「道路やばくない? 整備しよ」
「孤児院とか作ったら?」
「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」
貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。
不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。
孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。
元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち――
濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。
気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。
R8.1.20 投稿開始
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。