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十九日目―今日こそは!
徒歩二日目。
「転移の実験をするぞ!」
「…本当にやるの?」
「当たり前だろ?」
「今日も、源平碁付き合ってくれたら、実験に付き合ってあげる」
此奴、交換条件を出しやがった。
原因は俺なんだが、それでもげんなりしてしまう。俺は眉間に皺を作り、抵抗をしてみる。
「……昨日、散々付き合っただろうが」
「途中で記憶ないんだけど」
ぎろっと睨みつけるバレンに、俺は呆れた表情を隠しもせず、肩を竦めた。
「そりゃ、強制的に寝かし付けたからな。旅に夜更かしは厳禁。今日もずっと歩きなんだぞ?」
「うぐっ!?……それはわかってるけど!あ~、もう!だったらなんで、あんな魅惑的な物を旅の最中に出すんだよぉ~!?あの楽しさの魅惑には、抗えないんだよぉ~!?」
俺の正論に胸を押さえたが、それも一瞬。次は頭を抱え、くねくねと身を振るバレンに、俺はあるハスキー犬動画を思い出す。
『あ~、出来◯いんですぅ~!出◯ないよぉ~!?』
あれは俺の中で、その年のNo.1だった。
「バレン、お前……賭け事に手を出すなよ?」
自制心が弱い者には、危険な遊びかもしれない。恐るべし、娯楽という名の魅了の罠。なにごとも、ほどほどがよいのだ。
❖ ❖ ❖ ❖
「落ち着いたか?」
「はい、申し訳ありません」
自分のご乱心ぶりに、頬を染めて殊勝にしているバレン。俺はそんな姿を横目に見つつ、妥協案を提案する。
「まぁ……五対戦くらいなら、夜に付き合うぞ」
「ほんと!?」
「あぁ」
「やったぁ!」
喜ぶバレンを尻目に、俺は思う。
昨夜の三十五戦に比べれば、全然大したことはないと。
「だが、あんな其の場凌ぎの作り物で、よく楽しく遊べるな」
俺が昨日用意したのは、村から持ってきた木の板に色石で線を引いただけのものを盤に見立て、石と葉っぱで駒の代わりとしたのだ。
板に64マスの線を描き、葉と石が32個ずつ集めれば、あら不思議。とっても簡単な源平碁の出来上がり。
「そんなの!僕たちが子供の頃は、その辺の物を色々な物に見立てて遊んでたんだ。全然、気にならないよ」
「そうか。それなら、いいんだが…」
村の子供が騎士ごっこと言って、枝で打ち合っていたが、それと同じようなものだろう。
俺は、森の浅い場所で、採取に明け暮れていたからなぁ…と遠い目をして、幼き頃を振り返った。
「ではまず、あっちに見える小さなリスがいる木の辺りに転移してみるか」
「あっ、ホントだ。枝で、リスが木の実を持ってる」
可愛い~とリスに和むバレンだが、俺の転移もしっかり見ていてくれよ?
思念伝達は相手に届けたい言葉を心の中で強く呼びかけるのだが、転移は、頭の中で、行きたい場所を思い浮かべる。
「では……転移!」
俺は目の前のリスがいる木を思い浮かべたのが……。
「へ?……たっか!」
「…わぁ、ルイ君!?動いちゃ駄目だからね!?」
ギシッ!
どうやら、リスも一緒に思い浮かべたのが原因らしい。俺は、木の枝に転移してしまった。
まだ太さがあれば救いだが、子供の俺でも耐えれるか怪しい枝の細さ。俺が転移してすぐ、「折れる~!」と悲鳴の音を上げている。
幹の根本部分に転移をしたのが功を奏したか。俺はゆっくりと木に捕まりながら、体重を移動する。
ワタワタと慌てるバレンをよそに、枝に転移する原因となったリスは、俺の身体を駆け抜け、とうに逃亡済みであった。
「降りられる?」
「あぁ、大丈夫だ。直ぐに降りるから、問題ない。そこで待っててくれ」
「分かった!」
彼はそう言うものの、ハラハラとした表情は隠しきれていない。
(バレンにはあぁ言ったがの、なんの魔法も使わなければ、足が逝ってしまう。こんな時の生活魔法だが、浮遊は使えるな。だが、俺の重さで試したことはない。布袋は浮いたが、俺の身で試していない今、若干の恐怖がある。停滞も併用してみるか)
「浮遊……」
ふわっと浮いた身体に手応えを感じ、枝から飛び降り、停滞を唱えた。
バレンはそんな俺を見て、「ひぇっ!?」と顔を覆うが、予想していた荒い着地音と悲鳴がないのを感じて、不思議に思ったのか。
顔から恐る恐る手を離せば、俺が宙に浮いてるのを目の当たりにして、目をまん丸にして凝視していた。
(感情が忙しない奴だな。本人が大丈夫と言っているのだから、信じればいいものを…)
そんな思いを抱えながら、俺はゆっくりと、地面に着地するのだった。
☆ 生活魔法
・停滞……時間や動作などが、ゆっくりなる魔法。
・転移……頭の中で、行きたい場所を思い浮かべると、その場所に瞬時に移動する魔法。
「転移の実験をするぞ!」
「…本当にやるの?」
「当たり前だろ?」
「今日も、源平碁付き合ってくれたら、実験に付き合ってあげる」
此奴、交換条件を出しやがった。
原因は俺なんだが、それでもげんなりしてしまう。俺は眉間に皺を作り、抵抗をしてみる。
「……昨日、散々付き合っただろうが」
「途中で記憶ないんだけど」
ぎろっと睨みつけるバレンに、俺は呆れた表情を隠しもせず、肩を竦めた。
「そりゃ、強制的に寝かし付けたからな。旅に夜更かしは厳禁。今日もずっと歩きなんだぞ?」
「うぐっ!?……それはわかってるけど!あ~、もう!だったらなんで、あんな魅惑的な物を旅の最中に出すんだよぉ~!?あの楽しさの魅惑には、抗えないんだよぉ~!?」
俺の正論に胸を押さえたが、それも一瞬。次は頭を抱え、くねくねと身を振るバレンに、俺はあるハスキー犬動画を思い出す。
『あ~、出来◯いんですぅ~!出◯ないよぉ~!?』
あれは俺の中で、その年のNo.1だった。
「バレン、お前……賭け事に手を出すなよ?」
自制心が弱い者には、危険な遊びかもしれない。恐るべし、娯楽という名の魅了の罠。なにごとも、ほどほどがよいのだ。
❖ ❖ ❖ ❖
「落ち着いたか?」
「はい、申し訳ありません」
自分のご乱心ぶりに、頬を染めて殊勝にしているバレン。俺はそんな姿を横目に見つつ、妥協案を提案する。
「まぁ……五対戦くらいなら、夜に付き合うぞ」
「ほんと!?」
「あぁ」
「やったぁ!」
喜ぶバレンを尻目に、俺は思う。
昨夜の三十五戦に比べれば、全然大したことはないと。
「だが、あんな其の場凌ぎの作り物で、よく楽しく遊べるな」
俺が昨日用意したのは、村から持ってきた木の板に色石で線を引いただけのものを盤に見立て、石と葉っぱで駒の代わりとしたのだ。
板に64マスの線を描き、葉と石が32個ずつ集めれば、あら不思議。とっても簡単な源平碁の出来上がり。
「そんなの!僕たちが子供の頃は、その辺の物を色々な物に見立てて遊んでたんだ。全然、気にならないよ」
「そうか。それなら、いいんだが…」
村の子供が騎士ごっこと言って、枝で打ち合っていたが、それと同じようなものだろう。
俺は、森の浅い場所で、採取に明け暮れていたからなぁ…と遠い目をして、幼き頃を振り返った。
「ではまず、あっちに見える小さなリスがいる木の辺りに転移してみるか」
「あっ、ホントだ。枝で、リスが木の実を持ってる」
可愛い~とリスに和むバレンだが、俺の転移もしっかり見ていてくれよ?
思念伝達は相手に届けたい言葉を心の中で強く呼びかけるのだが、転移は、頭の中で、行きたい場所を思い浮かべる。
「では……転移!」
俺は目の前のリスがいる木を思い浮かべたのが……。
「へ?……たっか!」
「…わぁ、ルイ君!?動いちゃ駄目だからね!?」
ギシッ!
どうやら、リスも一緒に思い浮かべたのが原因らしい。俺は、木の枝に転移してしまった。
まだ太さがあれば救いだが、子供の俺でも耐えれるか怪しい枝の細さ。俺が転移してすぐ、「折れる~!」と悲鳴の音を上げている。
幹の根本部分に転移をしたのが功を奏したか。俺はゆっくりと木に捕まりながら、体重を移動する。
ワタワタと慌てるバレンをよそに、枝に転移する原因となったリスは、俺の身体を駆け抜け、とうに逃亡済みであった。
「降りられる?」
「あぁ、大丈夫だ。直ぐに降りるから、問題ない。そこで待っててくれ」
「分かった!」
彼はそう言うものの、ハラハラとした表情は隠しきれていない。
(バレンにはあぁ言ったがの、なんの魔法も使わなければ、足が逝ってしまう。こんな時の生活魔法だが、浮遊は使えるな。だが、俺の重さで試したことはない。布袋は浮いたが、俺の身で試していない今、若干の恐怖がある。停滞も併用してみるか)
「浮遊……」
ふわっと浮いた身体に手応えを感じ、枝から飛び降り、停滞を唱えた。
バレンはそんな俺を見て、「ひぇっ!?」と顔を覆うが、予想していた荒い着地音と悲鳴がないのを感じて、不思議に思ったのか。
顔から恐る恐る手を離せば、俺が宙に浮いてるのを目の当たりにして、目をまん丸にして凝視していた。
(感情が忙しない奴だな。本人が大丈夫と言っているのだから、信じればいいものを…)
そんな思いを抱えながら、俺はゆっくりと、地面に着地するのだった。
☆ 生活魔法
・停滞……時間や動作などが、ゆっくりなる魔法。
・転移……頭の中で、行きたい場所を思い浮かべると、その場所に瞬時に移動する魔法。
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