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二十日目―魔法都市アルティメットへ!
「…いるな」
ぼそっと呟いた言葉に、バレンが振り返る。「なにか言った?ルイ君」
「いいや?ただ…この森が全て未開地なのかと思ってな」
「あぁ…大き過ぎるよね!発堀を始めて五十年だけど、こうやって上から見たら、ほんっの一部しか進んでないよね。ルイ君の村ってどいにあるか見える?」
「入国した砦から、反対方向だからなぁ…流石に見えねぇだろ」
探す気も起きないルイは、彼の質問におざなりに答えた。そして、そんな会話をしながらも、俺の視線は、黄色のオーラを捉えていた。だが細引きのような色を追いかけるのも至難の業だ。
船の後尾部と言っても、この魔法船に乗船する客が、適度に存在する。
それらの様々な色を搔き分け、濃い黄色の線を辿る。まるで、あみだくじの最後を見守る気分である。
「そっかぁ、残念。それよりさ!魔法都市は凄いよ!」
あまり残念そうに見えない彼も、そんなに強い興味はなかったのだろう。次は、自身の故郷であるアルティメットの自慢を始めた。
(さては、こっちが本題だな?仕事で訪れるが、故郷に戻るのだ。嬉しくないわけないか)
俺は苦笑いしながらも、彼との話を続けていたのだが、遂に、迷路の先へと辿り着いた。
(茶髪の男が一人、此方に背を向けている。茶髪は、市井では珍しくもない色だ。現に俺も、茶髪だしな)
黄色に似た色のオーラはあるが、完全に黄色のオーラは、彼奴だけ。
黄色に混じりがあるのは、魔法船に対する恐怖か。高所の恐怖か。
(兎に角、彼奴には、俺の印を付けておこう。鑑定は、相手の魔力に干渉するが、マーキングは動物で言えば魔力に臭いをつけるみたいなもの。仲間に匂いに鋭い者がいないのを、祈るのみ)
俺も男だ。
喧嘩を売られたわけでもないが、人のことを探るなら、此方も行動は起こさせてもらう。
「ねぇ、聞いてるの?ルイ君!」
「…ん?あぁ…。思わず、大図書館を想像しちまっただけだ」
「もぅ!……まぁ、ルイ君の夢だったもんね。大図書館に行くの!」
「あぁ…だが、都会の街並みっていうのも、楽しみだぜ?俺は、自分の生まれた村と、ゼントの街しか知らないからな」
「むふー!?期待してて!でも、どんなイメージがあるの?」
「ははっ、そうだな。大陸一の大図書館がある都市だ。洗練された、綺麗な都市を想像するよ」
(……と言っても、センスが抜群に壊滅的な俺には、王道の中世のイメージしか浮かばんがな)
内心でため息を吐きつつ、俺は答えた。学校で、美術でのあだ名は『画伯』。面白さで付けられたものだ。成績もお察しである。
「それってさ、ルイ君の記憶にある世界の?」
身を屈めたと思ったバレンの口から、とんでもない囁きが飛び出した。
「おま!?こんな場所で聞くとか……なに考えてやがる!?」
俺も彼に倣い、声を潜めて強めに抗議すると、彼もまずいと思ったのか、両手で口を押さえつつ、小さな声で謝罪する。
「…ごめん!でも、気になったんだもん。ルイ君の住んでた前の世界ってどんなのかなぁ…って」
「はぁ…お前という奴は…」
頭髪をぐしゃと崩し、俺は脱力する。
「交換条件だ」
「交換条件?」
「そうだ。俺はまだ、辺境伯領のことを教わっていないからな」
「あぁ…あの検問のごたごたで、教えるのをすっかり忘れてたよ!でも、大図書館を目指すほどだもん。この国のことも、勉強するつもりだね?」
「勿論だ。暫くは、世話になる国だ。郷に入っては郷に従えと言うだろう?」
「なにそれ?」
「知らんか……と言っても簡単な事だ。その場所で生活をするなら、その場所やの人たちのルールや習慣に従うべきという考え方だな」
「それなら、僕はこの国のことを。ルイ君は、例の事をね」
「あぁ……どちらにしろ、魔法都市に着いてからになるだろう。もうすぐ到着だ」
「うん。それにしても……ぷぷっ!」
「…なんだよ?」
彼の思い出し笑いに、心当たりがあり過ぎた俺は、仏頂面で応戦する。そんな俺に彼は、ニヤッと意味深に笑いながら、肩を震わせる。
「ぷふっ!あの時のルイ君を思い出しちゃってさ!」
「は!?…おまっ!?あの取調室で、散々笑っておきながら、まだ笑うつもりか?言っておくが、俺は、お前の慌てた表情を見逃して無かったからな!?」
「え!?」
取調室の小窓から覗いたバレンの狼狽える姿は、この目でばっちり見ている。
「俺が拡散した音声に驚いていたんだろうが……俺のことを笑える口か?」
「…ふんっ!僕のほうが大人だもんね!?いつも大人ぶったルイ君が、子どもの遊びみたいに『えーん!』なんて…イテッ!」
「ばっかじねぇの!?」
思わず大きな声を出してしまった俺に、船内にいた乗客の視線が集まる。
「…あっ!?」
騒ぎの原因になった自身を自覚した彼は、罰の悪そうな表情を浮かべ、周囲にペコペコと頭を下げていた。
(全く……成長がねぇ!)
―――『当船は、魔法都市アルティメットに到着となります。お降りの際は、お忘れ物がないようご注意下さい』
そんな船内アナウンスを聞きながら、俺とバレンは、魔法船と地上を繋ぐタラップを降りる。
「お前とは、二度と船に乗らねぇからな!?」
「ごめんってば~!?」
弟子・バレンの出迎えに訪れた師匠レスターが見たものは、ブチギレた十歳の少年に、必死に謝り倒す弟子バレンの姿だった。
だがこの時、総隊長が放った密偵の男も、乗客として密かに下船した。
もしルイが、密偵だと気付いた時に、鑑定を使用していれば、生活魔法『集音』を知ることが出来た。
何故、鑑定を使用しなかったか?
それはルイはが、彼との力量差を感じており、鑑定をすれば、間違いなく勘付かれ、攻撃を受けていただろうと認識しているからだ。
逃げ場のない船内での戦闘は、リスクがあり過ぎる。だがその御蔭で、コソコソと喋っていたルイとバレンの内容は、奴には、全て筒抜けであった。
そしてこの時、奴には、ある考えが浮かんだが、既に伝承扱いの存在だ。未だ、疑いの段階を拭えなかった密偵は、更なる確証を求め、ルイの追跡を続けることにした。
ルイの秘密に触れることになった密偵だが、彼もまさか、自分の存在を認知されているとは思っておらず。
ましてや、印を施され、一日二十四時間、居場所を探れる状態であることは知らない。
それが奴にとって、吉と出るか?凶と出るか? それは、未だ誰も知らぬことであった。
♢
お師匠様と合流し、軽い挨拶を済ませた俺達は、タラップでの経緯を尋ねられ、それに簡潔に答えれば、レスターさんの米噛みがピクッと盛り上がる。
あれは血管だ。お怒りですよ、お師匠様。
「なにかと思えば、完全にお前が悪いではないか!?バレン!」
「面目次第もございません」
「全く!少しは落ち着いたかと思えば、全くそれ以前……いや、退化しておるのではないか?」
「申し訳ございません」
「昔から、謝罪だけは立派だの!バレン?」
師匠のお叱りに、謝罪の言葉しか吐き出すことが出来ないバレンは、俺に視線で助けを求めてきた。
「聞いておるのか!バレン!?」
「イエッサー!?」
それがレスターさんにバレ、更なる喝を飛ばされることになるバレン。それにしても、レスターさんの家を伺う視線が鬱陶しかったな。多分、馬鹿貴族の子飼いだろうが、辺境伯の密偵は一人だぞ?
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