異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)

文字の大きさ
81 / 103

二十四日目―商業ギルド③


「大変お待たせ致しました。ご挨拶が遅れましたが、私はレイアと申します。応接室へご案内致しますので、こちらへお願い致します」
 カウンターの端にある板を上げ、こちらへやって来た彼女は、俺たちにそう告げた。

「ルイ君、行こうか」
「あぁ」

 彼女に促されたのは、ギルドのホールの壁にある扉を潜り抜けた先だった。そこには、等間隔に並ぶ扉が沢山あった。

 黒字で【応接室 1】と書かれた表示板が取り付けられた扉を過ぎ、更に更に奥へと進むレイアさんに、俺とバレンは、密かに視線を交わす。  

(ギルド登録と商品登録だが、全部の応接室が使用中なのか?)

 【応接室 6】を過ぎた辺りで止まったのだが……「こちらで、ギルドマスターがお待ちです」とノックするレイアさんの扉の表示板には、金字・・で、【特別応接室】と書かれていた。

(特別応接室って、やっぱりレスターさんの紹介状が効いたか?馬鹿貴族に効力のない魔法具師名人の名も、やはり正当な場所では効力を発揮するか)

 これで、馬鹿貴族の主張は、世に通らない事も証明されたわけだが、今後の馬鹿貴族の出方に注意したい。

「ギルドマスター、お客様をお連れしました」
「入ってもらいなさい」
 レイアさんの掛け声に応えたギルマスの言葉に、「失礼致します」と扉を開いた彼女。

「よくお越し下さいました。さっ!こちらへお座り下さい……レイア君は、お茶の用意を」
「畏まりました」

 応接ソファの側に立つ男性が、俺たちに席を勧め、レイアさんには茶の準備を命じていた。俺たちは、レイアさんが退室するのを見届け、ソファへ腰を下ろした。

「受付でお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。私は、この魔法都市アルティメット支部のギルドマスターをしているサム・ウィステリアと申します。以後、お見知りおき下さい」
「私は、レスターの弟子をしているバレンと申します。こちらが、今回のギルド登録と商品登録を希望しているルイ君です」
「ご紹介に預かりました、ルイと申します。本日は、よろしお願い致します」

 俺が会釈をしながら、自己紹介をすれば、ギルドマスター・サムは、薄い紫にグレーっぽいダスティーライラック色の瞳を、僅かに瞠っていた。

(綺麗な瞳だな。こちらの世界では、始めて見る色だ)

 灰色の髪を最長で襟足まで伸ばした髪。タレ目だが瞳は大きいが、眉はつり気味の為、少々怖い印象を抱く者もいるだろう。

(だが、なにか?この世界は美形が多いが、成熟すると、イケオジへと変化するのか?)

 妙な色香を放つ目の前の男に、俺は内なる嫉妬の火を燃やした。小さな火だが、確かにそこに芽生えた確固たる灯火だった。

「君が、ルイ君ですか。レスター様の書状にも書いてありましたが、我々は勿論、君の意向に添えられるよう、最大限の努力をするつもりです」

 にこやかに語るギルマスに、俺は内心で首を傾げる。

(俺の意向ってなんだ?……なぁ、レスターさんの書状になにが書かれてたか、知ってるか?バレン)

 俺は思念伝達テレパシーを使って、至近距離に座るバレンに問いかけた。彼の身体がビクッと微かに震えたのは、びっくり成功した証だな。

(急になに!?びっくりするでしょ?………通じたかな?)
(通じてる、通じてる)
(それなら、もっと早く反応してよ!それにしても、お師匠様が書いた紹介状の中身なんて知らないよ。どちらにしろ、ルイ君の希望に沿うって言ってくれてるんだし、取り敢えず、そのつもりで希望を伝えればいいんじゃないかな?)
(そうは言うが、相手は商人だぜ?なんの見返りも無く、良きに計らうかよ?)
(……そうかもしれないけど、時間も押してるし!なるようになるよ、きっと!)
(はぁ……無駄な交信だった)
(ちょ!?急に脳内に話しかけてきた最後が、それ!?)

 未だわちゃわちゃと騒ぐバレンとの通信を強制終了ブツ切りし、俺は、ギルマスに質問をする。

「では最初に、ギルド登録をお願いしたいのですが、申請書はお持ちですか?」
「勿論ですとも。こちらの箱に、ギルド登録申請書と、商品登録申請書を揃えております」

 万事抜かりなく…と笑顔で、机の上にあった箱の蓋を開け、俺に各種登録申請書を差し出て来たギルマス。 

「まずこちらが、ギルド登録申請書です。分かる範囲で構いませんので、ご記入下さい。代筆が必要でしたら、私が承ります」
「代筆はいりません」

 申請書と同様に差し出された羽根ペンを手に取り、ペン先をインクの壺につける。

    ギルド会員登録申請書

 申請日〈※ギルド記入欄〉 〔押印場所〕
 申請者 ルイ
 紹介状 有✓・無
       ↳氏名 レスター
 出生地 アーノルド王国ベーラン領ギナン村
 年齢 10
 保証人  有 無✓
       ↳氏名 
    ギルドカード(他機関)
      有✓ 無
      ↳ギルド名 冒険者ギルド
      支部名 ゼント支部
      ↳ランク E
 口座開設 有✓ 無
      ↳ギルド・支部名 同上

 当ギルド口座開設希望 有✓ 無
〈 ※要・開設費用大銅貨1枚千円 〉

(ふむ……流石商人ギルドだ。かなり詳細な申請書だ。しかも、まだこの先があるんだよ)

「あっ、ルイ君!保証人の欄は、お師匠様の名前だよ」
「え?いいのか?」
「うん。大体、紹介状を書く人は、保証人を引き受ける前提で書くんだよ」
「そうなのか。有難いな」

 バレンの言葉を聞き、俺は保証人の欄を訂正する。

 保証人 有✓・無
     ↳氏名 レスター

(レスターさんには、後でなにかお礼をしないとな)
 
〈誓約書〉

 ・ギルド年会費金貨1枚10万円を、毎年納めて頂きます。
 ※年会費の月賦払い可
 (口座引落 毎月 大銅貨8枚と銅貨5枚〔引落手数料込み〕)
 ・半年に一度、帳簿写しと共に、三割の税金を納めて頂きます。

       署名__π√ルイ__

〈請求明細書〉

 ギルド登録申請料 金貨1枚
 ギルド年会費 銀貨5枚5千円
 口座開設料 大銅貨1枚

    合計 金貨1枚銀貨5枚大銅貨1枚
   
(国への税金が2割だから、ギルドの仲介手数料は1割と激安だな……その代わりと言ってはなんだが、年会費が高い。まぁ、手持ちギリギリ足りるかな?)

「これで、大丈夫でしょうか?」
「拝見致します」

 俺が書いた申請書を、隅々まで確認されているこの時間が、ちょっとだけ緊張する。

「問題ありません。こちらで手続きを進めましょう。次に、商品登録申請書ですが……」

 ギルド登録には、登録料金がかかる。それは冒険者ギルドだけでなく、商業ギルドも同じこと。次へ進もうとするギルマスに、俺は慌てて、支払いの話をねじ込む。

『あのっ! 請求代金のお支払いを…』
「…ああ! それについては、レスター様持ちですので、お気になさらず。それで商品登録ですが…」

 これまたにこやかに進めようとするギルマスだが、金銭のことは、はっきりさせないと!彼の言葉に割り込み続ける申し訳無さはあるが、俺は抗議の声を上げさせてもらう。 

「いやいやいや! 確かに彼にはお世話になってますが、そこまでされる謂れがありません!」
「ふふっ……レスター様の書状には、こうも書かれていました。『今回の費用の全額を、私が持つ。彼に何故か? と聞かれれば、【例の小箱の礼】とでも伝えてくれ』…と。例の小箱とは、なんでしょう?職業柄、とても気になりますね」
「私からはなんとも……」

 あの小箱のことを持ち出されるとは……俺はすいっと視線を逸らし、完全に白旗を上げる形となった。

「ふふっ。実に興味深いですが、今は、商品登録申請書の説明が先ですね」

 そう言いながら、新たな申請書を差し出してきた彼に、隣のバレンが口を開く。

「そういえば、ギルマス。御者ギルドから、なにか問い合わせが来てませんか?」
「御者ギルドですか? ……そういえば、『馬車に乗っていても、尻が痛くならない不思議なクッションは、どこで取り扱っているんだ?』と問い合わせが来ていましたが、なにを世迷い言を…と、追い返したのです。そんな魔法のような代物には、心当たりがさっぱり……まさか、あるんですか?」 
 
 商品登録をする段階に来ての、この質問だ。勘が鋭くなくても、想像付くだろう。驚いた表情でこちらを見るギルマスに、俺は鞄からクッション取り出し、机に置いた。

「……拝見致します」
 
 胸ポケットから片眼鏡のようなものを取り出したが、あれは恐らく【鑑定】の類いの魔法具だな。恐る恐るクッションを掴んだ手は、少し震えていた。眼鏡で覗いていたが、なにも分からんだろう。

 鑑定アプレイザル無効インバリッド固定化フィックスドしたクッションを鑑定しても、無駄な行為なのである。
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生?憑依?したおっさんの俺は【この子】を幸せにしたい

くらげ
ファンタジー
鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は、四十目前の独り身の普通という名のブラック会社に務めるサラリーマンだった。だが、目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた。しかも【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? 「誰も【この子】を幸せにしないなら俺が幸せにしてもいいよな?」

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。