異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)

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二十四日目―商業ギルド④

「これは、隠蔽をかけていますか?効果だけしか鑑定出来ませんね」

 クッションを机の上に置きながら、眼鏡をポケットに戻すギルマス。

「情報漏洩防止の為に、それに似たものをかけてあります」 

鑑定アプレイザル無効インバリッドは黙っておこう。これは、危険な魔法だからな)

「そっ、そうですか……情報は大事ですからね」

 10歳男児の口から、情報漏洩防止などという単語が出たことに、彼は軽く頬が引くいている。
 
「それにしても、衝撃を吸収するクッションですか。それが本当なら、御者ギルドに良い返答が出来そうです」
「…そうですね」

 追い返したんじゃなかったのか?
 あの時は現実味がない話だから、追い返したに過ぎんかもしれん……が、少々都合良くないか?

「これを、当ギルドで専属販売させて頂くことは、可能でしょうか?」
「残念ながら、他の商人と先約がありましてね。それは出来かねます」
「契約金は、弾みますよ?」

 商人お決まりの揉み手宜しく、すりすりと手を擦り合わせるギルマス……だが。

「それこそお断りです。商人は、信用第一。商人を纏めるギルドマスターが、そのようなことを言い出すなど、本末転倒では?」
「失礼致しました。それでは、こちらの商品登録申請書に、ご記入をお願い致します。このクッションも預からせて頂き、実用性が認められれば、承認される仕組みとなっております」

(先ほどのリアクションは、さほど無く。商品登録申請書への記入を勧められる。試されたか?それとも、聞くはタダとばかりに、俺の意向に沿っているだけなのか?) 

 俺は、商人相手の経験があまりない。前世の会社勤めも、記憶が朧げで役に立たない。疑問ばかりが増すのだが、今はその答えを求めるのは、時期尚早か。

「分かりました。それから御者ギルドの件ですが、件の商人が帰還していないことと、生産の目処が立っておりませんので、まだ連絡はしないで下さい」
「承知しました。では、商品登録申請書の記入をお願いします」

 商品登録申請書を俺に渡したギルマスは、終始笑顔を絶やさない。表情筋が攣らんのかね?

 俺は、ギルド登録申請と同じように、各項目を眺めることから始めた。

 そんな時、お茶を持ってきたレイアさん。彼女に、俺が書いたギルド登録申請書を手渡し、「彼の登録を頼む」と指示を出すギルマス。

「畏まりました」

 彼女は、お盆と書類を抱え、退室していった。

(お礼を言う暇もなかったが、こんなものか?……さて、商品登録は特許のようなものだ。利権関係の書類は、書き損じのないようにしないとな)

     商品登録申請書

           (※押印) 支部名
       (※押印)ギルドマスター名

 申請日 (※ギルド記入欄)(※押印)
 申請者 π√ルイ
 年齢 10
 出生地 アーノルド王国ベーラン領ギナン村
 身分確認方法 出生証 
        ギルドカード✓

 開発者 π√ルイ
 商品名 衝撃吸収クッション
 商品分類 魔法具
 商品用途 衝撃吸収緩和材
 商品の使用例 ・家具や食器類の割れ物用衝撃吸収材・馬車の御者や乗り手の臀部保護
  
 販売方法 買取販売 
      委託販売✓
      ↳商人名 エドワー(予定)
        ランク 黄土色ブロンズ

 情報利用 秘匿✓
      開示
      一部開示

(ふむ……こんなものか?)

「これで、どうでしょうか?」
「拝見致し……開発者もルイ様なのですか!?」
「はい、そうです」

 今までの七福神・恵比寿様のような笑顔は消え、目を見開き、声は裏返っている。色男が台無しだぞ?ギルマス。

「技術登録は、どうされております!?」
「技術登録?」
 と呟きながら、バレンをチラ見すれば、彼は首を左右に振る。

「はい。これは、開発者の利権を保護する効力を持つ制度です。本来ならば、登録されているギルドなどで、技術保護の為に登録するのですが……ルイ様は、冒険者ギルドのみ」 

(ぶるっ……思念伝達テレパシー!…おい、バレン!寒気がしたんだけど、ギルマスの目、§レトの目になってねぇか!?)

 日本の漫画風に言えば、瞳が¥になるアレである。

(うわっ! ……相変わらず急に話しかけてこないでよ! びっくりしたなあ、もう!)

思念伝達テレパシーってのは、そういう魔法だ! ……っで、どうなんだ? ギルマスの瞳が通貨に見えるのは、気のせいか?)
(気のせいじゃないだろうねぇ……でも、お師匠様と知り合いみたいだし、悪い人ではないと思うけど、やっぱり商人だよね。金のなる木は逃さない質だね、こりゃ)
(そんな呑気なことを言ってる場合か!)
(でも、ルイ君の意向にそうって話だから、ルイ君が『嫌』ってひと言言えば、済む話だよ)
(……はぁ、分かった)

「お話は大変有難いのですが、今回は商品登録のみでお願いします」
「…承知致しました。申請の追加・変更は可能ですので、いつでも仰て下さいね」

 若干の迷いが見られたものの、彼は苦し紛れの営業も忘れず、そのまま受け入れてくれた。だが、ギルマスさんよ。真に驚愕するのは、次だぜ? 次。

 技術登録なるものがあるのなら、商品登録ではなく、こちらが似合いの制度だろう……永い刻を眠りし、復刻版の魔法のインクはよ!

「では次の申請ですが、その技術登録をお願いします」
「え? ……次?」
「はい。次も商品登録申請のつもりでしたが、これも商品化するには、少々時期尚早で。先ほどのギルマスの話をお聞きして、こちらがぴったりだと思ったんですよ」  
「ぴったり……」 

 まさか、二個目が出てくる人は思っていなかったギルマスの、復唱した声を聞きながら、俺はニッコリと微笑んだ。

 ❖ ❖ ❖

「つまり、こういうことか?」
「なんだ?」 

 俺の掻い摘んだ話を聞いたギルマスが、眉間を揉みながら、俺に確認を入れる。

 敬語を無くしたのは、俺の肩が凝るから。堅苦しいのは、苦手だ。初対面では、ある程度の敬語の必要性は理解している。だから俺も、敬語を使用していた。

 だが肩の張りを感じ、肩を少し解す動きをすれば、ギルマスにそれを勘付かれ、「敬語無しがいいですか?」と聞かれたのだ。

 俺が頷けば、彼も心得たとばかりに、口調を変えた。

「レスター様とヨーク様のいざこざは、街の噂で、少し前から聞いていた。だが、これから話すことは内密なんだな?」
「当然だ。商人は、信用第一だろ? ここで話したことが外へ出れば、俺は当然、ギルマスを疑わなければならない。そもそもギルドの規則に、情報漏洩に関する項目があるだろ?」
「そうだな。ギルド職員は、よほどのことが無ければ、職務規定に反しない。最悪、奴隷落ちだからな」
「奴隷落ち……」

 それまで余裕綽々だった俺の表情が、スンッと無になるのを感じた。だが、それに構わず、ギルマスは話を続ける。

「発掘品の紛失を恐れたレスター様が、弟子のバレン様へ発掘品を預けた。そして時同じく、バレン様が住んでおられたゼントの街へ、家を追放されたルイ様が来られた。そのルイ様が、初の依頼を受けたのがバレン様の依頼で……仲良くなった二人は、ルイ様の解析スキルで、レスター様の発掘品の真価を見出した……と? まさかこれほどの偶然は、神のお導きとしか思えん」
「まっ! 当たらずといえども遠からず……ってところだな」
「どういうことだ?」
「俺は、久方ぶりに現れた【喚び起こされし者】なんだわ」

(丁度いい。この世界には、まだまだ知り合いの少ない俺だ。彼にも、俺の仲間になってもらおう。まぁ、馬鹿貴族とのいざこざが終われば、事は一気に動くかもしれんが……)

「ちょ!?」
「……」

 俺の突然の暴露に慌てるバレンと、沈黙のギルマス。いやぁ……少し冷めた茶は旨いわ。俺、猫舌だから。淹れたてのお茶は、苦手なんだよね。

「………では、この“技術登録申請書”に、記入してくれ」

 たっぷり90秒……いや、時計がないから分からんが、長い沈黙の末、彼は深く聞くことを拒むことにしたらしい。ちっ!折角、仲間が増えると思ったのに……などと日和見に諦めるつもりはない。
 この“技術登録申請書”を受け取ったが最後、彼の意思関係なく、彼は、俺らの仲間入りとなるだろう。にしし。
 
☆長くなりましたが、次回で終了ですm(_ _)m
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