追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

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追放聖女のもふもふスローライフ

第6話 ハーブの園と白い獣

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 チュン、チュン

 窓から差し込む朝の光と、小鳥のさえずりで目を覚ます。

「おはようリリアナ」
「モキュ」

 その声と共に、ぽすん、ぽすんと私の上に二つの重みがのしかかる。

「……おはようロゼ、おはようもふぞー」

「キュキュゥ!」

 元気いっぱいに鳴くと、もふぞーは私の上でもふもふと飛び跳ねる。

 ――とりあえず、君たちは私の上に乗るのを止めて降りてくれ……

「さてと、朝ごはんにしようか」

 私は、三人分の朝食を用意し、窓辺に小鳥用の食事を置いた。
 私たちは他愛のない会話をしながら一緒に朝食を取る。その光景はまるで本当の家族のようだった。

 今日もまたポーションの搬入に行ってポーション作ってロゼともふぞーと遊ぶ。たぶん、そんな何でもないような1日になる。……まあ、掃除は後回しってことで。

* * *

 ポーションを届けに行った帰り道。
 広場で遊ぶ子どもたちに、ロゼを紹介する。

「ちょっと不思議な子だけど、仲良くしてあげてね」

「うん! ロゼちゃん遊ぼう!」

 子どもたちの輪に迎え入れられたロゼは、少し戸惑いながらも笑顔を浮かべる。

 私はその様子を、もふぞーと一緒にのんびり眺めるとするかな……

「おねーちゃんも!」

 小さな手が私に伸びてきた。

「え、私も?」

 ――気づけば私も手を引かれ、遊びの輪へと連れ込まれていく。まあ、こういうのも悪くない。

* * *

 屋敷に帰るとポーション作成だ。少し、ハーブの粉が心もとなくなってきた。近くに生えてればいいんだけど。午後は森にハーブを探しに行くかな……

「二人は留守番してる?」

 もふぞーはぴょんと飛び跳ね、私の元へと寄ってきた。どうやら一緒に行くらしい。

「私も行く」

 ロゼも、そう言って私の手を握る。こうして三人でいざ森の中、ポーション用のハーブを探し始めた。

 ――中々見つからないなぁ……

 泉のあたりも探したが、収穫はゼロだ。私は少しがっかりして、泉のほとりで休憩することにした。

 チュンチュン

 聞き覚えのある小鳥のさえずりが、すぐ近くから聞こえてくる。顔を上げると、見覚えのある小鳥さんがいた。毎朝起こしに来てくれる小鳥さんかな?

「チュンチュン」
「モキュ」

 小鳥が鳴き、もふぞーが答える。まるで言葉を交わしているみたいだ。

「キュキュゥ」

 もふぞーが私に何かを知らせるように、ぴょんと跳ねて袖を引っ張った。

「どうしたの? もふぞー」

「キュキュゥ」

 もふぞーが少し移動し飛び跳ねながら鳴く。

 もしかして、ついてこいってことなのかな?

 私はロゼと顔を見合わせ、頷くともふぞーの後を追った。
 小鳥が先導するように飛び、その後をもふぞーが追いかける。私たちはその後に続き、踏み慣れない森の奥へと進んでいった。木々の間を抜けるたびに、草木の匂いが濃くなり、どこからともなく花の甘い香りが漂ってくる。
 ​しばらく歩くと、急に視界が広がった。

​ そこは、木々に囲まれた少し開けた場所になっていた。太陽の光が降り注ぎ、地面には色とりどり、さまざまなハーブが絨毯のように群生している。
まるで、誰かが丹精込めて手入れしたような、天然のハーブ園が目の前に広がっていた。

 ロゼは足元に咲く青い花をそっと撫でて、感嘆の息を漏らした。  

「……きれい……こんなにたくさんの草花、初めて見た……」  

 小鳥がもふぞーの頭にとまり、得意げに鳴いた。

「チュン!」  
「キュキュゥ!」  

 私は二人に笑いかける。
 
「小鳥さん、ありがとう。ここは……私たちだけの秘密の場所にしようか」  

 これだけ種類があれば、いろんなポーションが作れるかも。聖女の専門は回復ポーションだけど、他にも作ってみても良いかもしれない。
 でも、あまり多く取るわけにはいかないよね。そんな事をすればこの天然のハーブ園はすぐに枯れ果ててしまうだろう。

 私は、回復ポーション用のハーブと、その他のハーブをいくつか採取した。

 ――なんにせよ、明日からまたポーション作りが捗りそうだ。

 私たちは小鳥さんとハーブの園にお礼を言うと、来た道を辿って屋敷へと帰るのだった。 

* * *

 夜になり、私たちは日課の水浴びに向かう。今日はハーブ探しで森の中を動き回って大分汚れちゃったから早くさっぱりしたい。

 泉にたどり着くと、さっそく私は服を脱ぎ、水面に身体を沈める。ひんやりとした感触が肌を包み込んで気持ちがいい。

​「……ふぅ、気持ちいい」

​ いつものように、もふぞーはプカプカとしていて、ロゼは素足を泉にさらしている。
 
 ガサッ
 
 また、森の動物たちかな?
 そう思って見ていると、茂みから姿を現したのは月明かりに照らされて輝く純白の馬だった。  
 よく見ると額には一本の角。ユニコーンだ。

 ユニコーンは処女のみをその背に乗せるという幻獣だ。この幻獣は凄く気性が荒く、性経験のある女性に対しては攻撃的で殺傷の危険性があることでも知られていた。いわば生粋の処女厨ってやつだ。
 ユニコーンは困惑した様子でリリアナの様子をうかがっていた。

「これは……どうしよう」

 今の私はまごうことなき処女だ。純粋無垢な乙女だ。だけどそれは今世の話。前世の私は年相応には経験がある大人の女だ。
 ――ヤバいなぁ、これ、殺されちゃうかも。

 冷たい汗が背筋をつたう。ユニコーンはじっとこちらを見つめたままだ。ユニコーンが私をどう判断するか? それが生死の分け目だ。
 私のただならぬ様子に、ロゼが不安そうに私の腕を掴む。  

「キュキュゥ」

 その時、プカプカ浮いていたはずのもふぞーがユニコーンに近づき、鳴き声を上げた。
 小さな声が夜の森に響く。ユニコーンはしばらくもふぞーを見つめると、やがて泉の水をひと口飲み、静かに森の奥へと姿を消した。  

 もしかして、もふぞーが助けてくれた?

私は肩の力を抜いて深く息を吐いた。  

「……助かった。ありがとね、もふぞー」  

「キュキュゥ」

 もふぞーは一鳴きすると私にすり寄り、ロゼもほっと微笑む。  
 この森には、まだまだ知らない存在が潜んでいる――そんな予感が胸に残った。
 
 空を見上げると、どんよりとした雲が月を覆い、静かな森にフクロウの声だけが響いていた。

 ――明日は雨になりそうだね、もふぞー。
 私は小さくつぶやき、もふぞーの背をそっと撫でた。

 
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