13 / 21
13
しおりを挟む
帰宅すると、あまりの時間の短さに母が不審がって理由を訪ねてきた。まだ畑に出向いてから1時間も経っていないため、当たり前だ。それでも私たち3人は絶対に母に事情を悟られまいと、無理に笑顔を作った。こうすることを帰り道に話して決めたわけではもちろんない。ただ、家族全員の共通する認識として、母の病気を悪化させたくないという気持ちがある。今さっき起きたことをありのままに伝えたら、母はショックを受けるだろう。精神的ストレスから病気がさらに悪化しようものなら、命の危険さえ考えなければならない。ただ、母は馬鹿ではない。持ち前の鋭さで、私たちの不自然さに気づく可能性がある。迂闊なことは言えない。
「セルナ、タッカー、ウチの物置きに頑丈なスコップあったよな。ボンセさんに渡しに行くからちょっと探すのを手伝ってくれないか?」
「そ、そうね! どこに行けばいいかしら?」
「2人とも一回外に出て、外から回ってきてくれ」
「はーい!」
私とタッカーは声を揃えて返事をした。父の提案に端を発する一連の会話はかなりぎこちなかったため、不審がられないか不安だったが、あまりにも怖くて私は母の様子を伺うことさえ出来なかった。
家の外に出たタッカーと私は、たとえ声が小さくても聞こえるくらいまで父に近づいた。
「いいか、今日の話は母さんの前では絶対にするな。わかるな?」
私たち2人は当然とばかりに頷いた。
「おじさん、村のみんながどうして僕たちに敵意を持っているのか、心当たりはありますか?」
タッカーが冷静な調子で父に問うた。それに対して父は、肩をすくめる。
「あんな風に恨まれるようなことはなんにもないはずだ。きっと何か誤解してるんだろう」
「なるほど。ひょっとしたら誰かが恣意的に流言飛語を流しているとは考えられませんか?」
タッカーの鋭い指摘に、思わず私たちは黙り込んだ。その時ちらっと、テレスとイザモアの顔が頭の中に浮かんだ。そしてそのまま私は、その可能性を口に出してしまった。しかしすぐに父にたしなめられた。
「セルナ! 確証のないことは言うな。自分だってそんな疑いをかけられたら嫌だろう」
「ごめんなさい」
父の大きさを感じると同時に、私は3秒前の自分を恥じた。そうだ、私自身がテレスとイザモアに濡れ衣を着せられて傷ついたのに、どうして自分は同じことを考えてしまったんだろう。
「まあ、とにかくだ」
やけに落ち着き払ってはいるが、どこか気落ちした様子で父は続けた。
「村のみんなのことはしばらく忘れよう。我々は自分の暮らしを大事にしよう。くれぐれも母さんには心配かけないように」
「はい、おじさん」
「はい、お父さん」
私たちは素直に同意し、再び家に戻った。
「セルナ、タッカー、ウチの物置きに頑丈なスコップあったよな。ボンセさんに渡しに行くからちょっと探すのを手伝ってくれないか?」
「そ、そうね! どこに行けばいいかしら?」
「2人とも一回外に出て、外から回ってきてくれ」
「はーい!」
私とタッカーは声を揃えて返事をした。父の提案に端を発する一連の会話はかなりぎこちなかったため、不審がられないか不安だったが、あまりにも怖くて私は母の様子を伺うことさえ出来なかった。
家の外に出たタッカーと私は、たとえ声が小さくても聞こえるくらいまで父に近づいた。
「いいか、今日の話は母さんの前では絶対にするな。わかるな?」
私たち2人は当然とばかりに頷いた。
「おじさん、村のみんながどうして僕たちに敵意を持っているのか、心当たりはありますか?」
タッカーが冷静な調子で父に問うた。それに対して父は、肩をすくめる。
「あんな風に恨まれるようなことはなんにもないはずだ。きっと何か誤解してるんだろう」
「なるほど。ひょっとしたら誰かが恣意的に流言飛語を流しているとは考えられませんか?」
タッカーの鋭い指摘に、思わず私たちは黙り込んだ。その時ちらっと、テレスとイザモアの顔が頭の中に浮かんだ。そしてそのまま私は、その可能性を口に出してしまった。しかしすぐに父にたしなめられた。
「セルナ! 確証のないことは言うな。自分だってそんな疑いをかけられたら嫌だろう」
「ごめんなさい」
父の大きさを感じると同時に、私は3秒前の自分を恥じた。そうだ、私自身がテレスとイザモアに濡れ衣を着せられて傷ついたのに、どうして自分は同じことを考えてしまったんだろう。
「まあ、とにかくだ」
やけに落ち着き払ってはいるが、どこか気落ちした様子で父は続けた。
「村のみんなのことはしばらく忘れよう。我々は自分の暮らしを大事にしよう。くれぐれも母さんには心配かけないように」
「はい、おじさん」
「はい、お父さん」
私たちは素直に同意し、再び家に戻った。
0
あなたにおすすめの小説
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
あなたが「いらない」と言った私ですが、溺愛される妻になりました
有賀冬馬
恋愛
「君みたいな女は、俺の隣にいる価値がない!」冷酷な元婚約者に突き放され、すべてを失った私。
けれど、旅の途中で出会った辺境伯エリオット様は、私の凍った心をゆっくりと溶かしてくれた。
彼の領地で、私は初めて「必要とされる」喜びを知り、やがて彼の妻として迎えられる。
一方、王都では元婚約者の不実が暴かれ、彼の破滅への道が始まる。
かつて私を軽んじた彼が、今、私に助けを求めてくるけれど、もう私の目に映るのはあなたじゃない。
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる