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第1話
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雨がザアザアと降り続ける。暗い灰色の雲に覆われた空を見上げて、俺は思わずため息を吐いた。
「今日雨とか、天気予報で言ってたっけな?」
なんとなくそんなことを言ってみたが、そもそも天気予報を見ていない俺には、何も分からない。
ずっとこのままなのだろうか。いつか雨は止むのだと知っていても、それが信用出来なくなるほどの大雨だった。
財布の中には十円玉一枚。
傘は買えない。
俺はコンビニの外で立ち往生した。コンビニでの用事は既に済ませた。今更また戻って、店内に居座るのもなんだかカッコ悪い気がして、ゴミ箱の隣に並ぶように座った。
天気予報を調べてようか。
そう思って、スマホを取り出す。
「……いや、ギガがもったいないな」
月にギガ。Wi-Fi環境の整っている家でしか使ってはいけないと親から言われている。
ギガを超えればバレるだけなので、ここはガマン。
というか、恥ずかしいとか何も思わず、店内に戻って新聞を手にすればいいだけの話だ。
だけど、買うわけでもないのに、店内に戻って新聞を見る勇気は、俺には持ち合わせがなかった。
だが、何をするつもりもないが、一応スマホの電源を入れた。
「あれ、繋がってる」
よく分からないが、Wi-Fiが接続されていた。俺は何も考えず、天気予報を調べた。
この雨は明日まで降り続くらしい。
詰んだ。終わった。死んだ。
この雨の中、濡れて帰るしかないのか。あーあ、クソだ、マジでクソだ。
金をもっと待ってくればよかった。
俺は頭を乱暴に掻いた後、全速力で走り出した。
コンビニの脇の道路に出る。車が来ないか横目で確認しながら、走る、走る。
右手のビニール袋の中身は、まだあるようだ。
三分ほど走った。だが、俺の家まで帰るには、あと五分くらいは走らないといけない。
息が上がる。
ビニール袋を庇いながら走るのは、案外体力を消耗する。
「今日は最悪だな。まあ、いい日なんてないけど……」
道路の真ん中で立ち止まった。手を膝について、肩で息をする。まだ雨は降り続くと分かっていても、気になるものはしょうがない。
俺は灰色の雲で覆われているであろう空を見上げた。
「あ゛」
雨が降っていなかった。
だって———
「そんなにビショビショだと、絶対風邪ひくよ?」
誰かが、俺の上に傘をさしてくれていたから。
「……笠原かさはら?」
俺に声をかけてきた人の顔を見る。
黒髪を肩まで伸ばした女子。クラスの陽キャである、笠原美月だった。
「青野じゃん、こんなところで何やってんの?」
笠原は本当に不思議そうな表情で、俺に訊ねてきた。
俺はただコンビニから走って帰ってくる途中なだけだ。
「いや、何も。コンビニに行ってたら、雨降ってきて、金が無かったから、傘も買えなくて、仕方なく走ってるだけだけど?」
「そっか。で、その袋の中は? 何か買ったの?」
笠原は、俺の右手のビニール袋に目線を移した。
袋の外から見れば、手のひらサイズの箱が入っているように見えるだろう。
「ん? 何それ?」
今度はビニール袋を指差して言った。
俺は事実だけを言う。
「避妊具だよ」
「……は?」
「避妊具」
「いやいや、もう一回いってほしいわけじゃなくて。避妊具? 青野って、彼女いたの?」
びっくりしたような顔で、俺の顔を覗き込んだ。
「いや、いないけど」
「じゃあ、なんで?」
「友達が使うっていうから」
「あ、そう……。まぁいいや。あ、この傘貸してあげる。私、家すぐそこだからさ。私の家まで来てくれたら」
「ごめん、いらない」
「それ、濡れていいの?」
それはこの避妊具を指しているのか。
「大丈夫だよ。どうせ濡れたところにぶち込むんだから」
笠原は、ふふ、っと笑い、じゃあねと言った。
俺は家に帰るために、また走り出した。
「今日雨とか、天気予報で言ってたっけな?」
なんとなくそんなことを言ってみたが、そもそも天気予報を見ていない俺には、何も分からない。
ずっとこのままなのだろうか。いつか雨は止むのだと知っていても、それが信用出来なくなるほどの大雨だった。
財布の中には十円玉一枚。
傘は買えない。
俺はコンビニの外で立ち往生した。コンビニでの用事は既に済ませた。今更また戻って、店内に居座るのもなんだかカッコ悪い気がして、ゴミ箱の隣に並ぶように座った。
天気予報を調べてようか。
そう思って、スマホを取り出す。
「……いや、ギガがもったいないな」
月にギガ。Wi-Fi環境の整っている家でしか使ってはいけないと親から言われている。
ギガを超えればバレるだけなので、ここはガマン。
というか、恥ずかしいとか何も思わず、店内に戻って新聞を手にすればいいだけの話だ。
だけど、買うわけでもないのに、店内に戻って新聞を見る勇気は、俺には持ち合わせがなかった。
だが、何をするつもりもないが、一応スマホの電源を入れた。
「あれ、繋がってる」
よく分からないが、Wi-Fiが接続されていた。俺は何も考えず、天気予報を調べた。
この雨は明日まで降り続くらしい。
詰んだ。終わった。死んだ。
この雨の中、濡れて帰るしかないのか。あーあ、クソだ、マジでクソだ。
金をもっと待ってくればよかった。
俺は頭を乱暴に掻いた後、全速力で走り出した。
コンビニの脇の道路に出る。車が来ないか横目で確認しながら、走る、走る。
右手のビニール袋の中身は、まだあるようだ。
三分ほど走った。だが、俺の家まで帰るには、あと五分くらいは走らないといけない。
息が上がる。
ビニール袋を庇いながら走るのは、案外体力を消耗する。
「今日は最悪だな。まあ、いい日なんてないけど……」
道路の真ん中で立ち止まった。手を膝について、肩で息をする。まだ雨は降り続くと分かっていても、気になるものはしょうがない。
俺は灰色の雲で覆われているであろう空を見上げた。
「あ゛」
雨が降っていなかった。
だって———
「そんなにビショビショだと、絶対風邪ひくよ?」
誰かが、俺の上に傘をさしてくれていたから。
「……笠原かさはら?」
俺に声をかけてきた人の顔を見る。
黒髪を肩まで伸ばした女子。クラスの陽キャである、笠原美月だった。
「青野じゃん、こんなところで何やってんの?」
笠原は本当に不思議そうな表情で、俺に訊ねてきた。
俺はただコンビニから走って帰ってくる途中なだけだ。
「いや、何も。コンビニに行ってたら、雨降ってきて、金が無かったから、傘も買えなくて、仕方なく走ってるだけだけど?」
「そっか。で、その袋の中は? 何か買ったの?」
笠原は、俺の右手のビニール袋に目線を移した。
袋の外から見れば、手のひらサイズの箱が入っているように見えるだろう。
「ん? 何それ?」
今度はビニール袋を指差して言った。
俺は事実だけを言う。
「避妊具だよ」
「……は?」
「避妊具」
「いやいや、もう一回いってほしいわけじゃなくて。避妊具? 青野って、彼女いたの?」
びっくりしたような顔で、俺の顔を覗き込んだ。
「いや、いないけど」
「じゃあ、なんで?」
「友達が使うっていうから」
「あ、そう……。まぁいいや。あ、この傘貸してあげる。私、家すぐそこだからさ。私の家まで来てくれたら」
「ごめん、いらない」
「それ、濡れていいの?」
それはこの避妊具を指しているのか。
「大丈夫だよ。どうせ濡れたところにぶち込むんだから」
笠原は、ふふ、っと笑い、じゃあねと言った。
俺は家に帰るために、また走り出した。
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