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寿命もないので手短に。
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状況は芳しくなかった。
あとは誰に想いを伝えようか。退院したら、どこに行こうか。そんな考えを繰り広げてる最中、彼は意識を失った。
享年、二十七歳。
彼の人生は、たったそんな短い時間で終わってしまった。二十七年という年月が長いと思うか短いと思うか、それは人それぞれだと思う。しかし、俺にはどうも短いようにしか思えない。彼はとてもいいやつだ。神はなぜ、そんな彼の命を早々に奪ってしまったのだろうか。
「なんで、省吾だったんだろうね・・・他にも・・・他にもさ、悪い人いっぱいいるのに・・・」
棺の中で安らかな顔で眠る彼を見ながら彼女はそう呟いた。その横で、彼の両親も泣いていた。皆同じ気持ちであったと思う。俺は生前の彼を思い出し、涙が溢れた。
「半田」
長い間ずっと一緒にいたのに、なぜかずっと苗字で呼ばれてた。自分の名前が嫌いだった俺はそれが嬉しかった。周りの人間が海ちゃんと茶化して呼ぶ中、いつものように苗字で呼ぶ彼が好きだった。
もう、名前を呼ばれることはないのだな。
「なぁ、省吾・・・」
呼んでも返事がない。改めて彼はもう目覚めないことを知った。近しいものが死んでしまったと実感する時は人それぞれだと思う。遠方に住んでいたおじいちゃんが死んだ時は、数ヶ月後に母から渡されたおじいちゃんと二人で写っていた写真を見て実感した。近ければ近いほど、その死を実感する時間も短いのだと思った。
「皆さま、息子、省吾のためにご会葬いただきありがとうございます・・・」
彼の父親が挨拶を始めた。一番後ろの席で見ていた俺は参列した人を眺めていた。彼の親族をはじめ、学校の先生や俺とも仲が良かった友達、俺が見たことない人は多分彼の仕事先の同僚や上司だろう。幅広い年代の人が集まっていた。
二十七年という年月で出会ってきた人がたくさんいて、それが彼の人生の豊かさを物語った。もちろん泣いている人もたくさんいた。きっと省吾はそれら全て人たちに感謝を述べたかったと思う。
いくら余命がついていたとはいえ、幸に思いを伝えたその翌日に眠ったまま逝ってしまうとは俺も彼女も思わなかった。翌朝、台所で朝ごはんを作る彼女と寝ぼけ眼で食卓につく俺、そんな日常の中で鳴り響いたスマホの音はおそらく一生忘れられないものになるであろう。
「最後に、省吾が最期に書いたと思われる手紙をこの場を借りて読みたいと思います。」
手紙なんていつ書いたのだろうか。俺はそんなことを考えながらハンカチを準備した。彼の最期の言葉はなんであれ、絶対に泣いてしまう。彼女は横でずっと泣いている。そんな彼女の背中をさすった。
彼は手紙になんて残したのか。悲しみだろうか。怒りだろうか。それとも感謝だろうか。色々な想像が巡った。伝えきれなかった人たち一人一人に言葉を書いたのだろうか。彼は治療をせずに人に想いを伝えようとした人だから、きっと長い文章になるんだろうな。そうとも思った。
僕は幸せでした。
寿命もないので手短に。
彼の父親から発せられた言葉はそれだけだった。それだけで、彼の一生分の想いが伝わったように感じた。
「幸、帰ろう」
葬儀が終わり、幸の手を引いた。骨折した足の痛みはもう感じなかった。ただ涙で前が見えないなか、歩くのに必死だった。ただ前に進むのにとにかく必死になった。
後日行われた火葬で、彼は骨になった。あんなにも小さく、小さくなってしまった彼は今何を想っているのだろうか。いや、考えるのは無粋だ、俺は少し微笑んだ。
幸せだった。
それだけでいいじゃないか。彼女と一緒に遺骨を骨壷に収めた。
「さよなら、省吾」
さよなら
どこからかそう聞こえた気がして振り返る。しかし、そんなはずはないと、前を向いた。陽の光の下で幸がこちらに手を振っていた。
完
あとは誰に想いを伝えようか。退院したら、どこに行こうか。そんな考えを繰り広げてる最中、彼は意識を失った。
享年、二十七歳。
彼の人生は、たったそんな短い時間で終わってしまった。二十七年という年月が長いと思うか短いと思うか、それは人それぞれだと思う。しかし、俺にはどうも短いようにしか思えない。彼はとてもいいやつだ。神はなぜ、そんな彼の命を早々に奪ってしまったのだろうか。
「なんで、省吾だったんだろうね・・・他にも・・・他にもさ、悪い人いっぱいいるのに・・・」
棺の中で安らかな顔で眠る彼を見ながら彼女はそう呟いた。その横で、彼の両親も泣いていた。皆同じ気持ちであったと思う。俺は生前の彼を思い出し、涙が溢れた。
「半田」
長い間ずっと一緒にいたのに、なぜかずっと苗字で呼ばれてた。自分の名前が嫌いだった俺はそれが嬉しかった。周りの人間が海ちゃんと茶化して呼ぶ中、いつものように苗字で呼ぶ彼が好きだった。
もう、名前を呼ばれることはないのだな。
「なぁ、省吾・・・」
呼んでも返事がない。改めて彼はもう目覚めないことを知った。近しいものが死んでしまったと実感する時は人それぞれだと思う。遠方に住んでいたおじいちゃんが死んだ時は、数ヶ月後に母から渡されたおじいちゃんと二人で写っていた写真を見て実感した。近ければ近いほど、その死を実感する時間も短いのだと思った。
「皆さま、息子、省吾のためにご会葬いただきありがとうございます・・・」
彼の父親が挨拶を始めた。一番後ろの席で見ていた俺は参列した人を眺めていた。彼の親族をはじめ、学校の先生や俺とも仲が良かった友達、俺が見たことない人は多分彼の仕事先の同僚や上司だろう。幅広い年代の人が集まっていた。
二十七年という年月で出会ってきた人がたくさんいて、それが彼の人生の豊かさを物語った。もちろん泣いている人もたくさんいた。きっと省吾はそれら全て人たちに感謝を述べたかったと思う。
いくら余命がついていたとはいえ、幸に思いを伝えたその翌日に眠ったまま逝ってしまうとは俺も彼女も思わなかった。翌朝、台所で朝ごはんを作る彼女と寝ぼけ眼で食卓につく俺、そんな日常の中で鳴り響いたスマホの音はおそらく一生忘れられないものになるであろう。
「最後に、省吾が最期に書いたと思われる手紙をこの場を借りて読みたいと思います。」
手紙なんていつ書いたのだろうか。俺はそんなことを考えながらハンカチを準備した。彼の最期の言葉はなんであれ、絶対に泣いてしまう。彼女は横でずっと泣いている。そんな彼女の背中をさすった。
彼は手紙になんて残したのか。悲しみだろうか。怒りだろうか。それとも感謝だろうか。色々な想像が巡った。伝えきれなかった人たち一人一人に言葉を書いたのだろうか。彼は治療をせずに人に想いを伝えようとした人だから、きっと長い文章になるんだろうな。そうとも思った。
僕は幸せでした。
寿命もないので手短に。
彼の父親から発せられた言葉はそれだけだった。それだけで、彼の一生分の想いが伝わったように感じた。
「幸、帰ろう」
葬儀が終わり、幸の手を引いた。骨折した足の痛みはもう感じなかった。ただ涙で前が見えないなか、歩くのに必死だった。ただ前に進むのにとにかく必死になった。
後日行われた火葬で、彼は骨になった。あんなにも小さく、小さくなってしまった彼は今何を想っているのだろうか。いや、考えるのは無粋だ、俺は少し微笑んだ。
幸せだった。
それだけでいいじゃないか。彼女と一緒に遺骨を骨壷に収めた。
「さよなら、省吾」
さよなら
どこからかそう聞こえた気がして振り返る。しかし、そんなはずはないと、前を向いた。陽の光の下で幸がこちらに手を振っていた。
完
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私もこんな風に逝きたいです。