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十二話 人生イロモノ 下上
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「どうしてこんな所にいますの、アカツキ!?」
「え、えっと……」
無一文で逃げ出した僕はとりあえず街道に出て、行った事のない方向に行ったら、何も食べる物が無かったせいでその辺りの草が食べられるかどうか悩んでいる所を、偶然通りかかった軍の人に助けられた。
我ながらひどい話だと思うし、さすがにこんな情けない事を彼女には言いにくい。
「そ、それよりどうしてルーテシアが牢屋に入れられてるの!?」
「ううっ、それは……アカツキを探そうとしていたら、この都市の偉い方に捕まってしまいましたの……」
なんだよ、それ。
ルーテシアは何も悪い事をしてないじゃないか。
ひょっとして前に僕らを襲って来た暗部が手を回した……?
ソフィアさんが偉い人を倒したとはいえ、まだ終わったとは限らない。
ほとんど関係ないはずのルーテシアを捕まえる理由はわからないけど、彼女をここに置いておけば不味い事になりそうだ。
「ルーテシア、ソフィアさんはどうしてる?」
「あの誘拐犯ですの? 今頃、宿を取っていると思いますわ」
僕はまだルーテシアの前に顔を出す資格はない。
だけど、このまま見捨てられるはずもない。
「逃げよう、ルーテシア」
ソフィアさんとマゾーガなら、きっと暗部からルーテシアを守ってくれるはずだ。
「えっ、でもアカツキは私の事を嫌いだったのでは……」
ほんの一瞬でもルーテシアを、嫌いになんてなった事なんてない。
何も出来ない僕だけど、二人の所に辿り着くくらいは出来るはずだ。
「ルーテシアを嫌いになった事なんてない。 君は絶対に僕が守る」
「は……はいっ!」
他人に守ってもらおうなんて情けない事を考えている僕に、ルーテシアは嬉しそうに笑ってくれた。
ああ、自分の小ささが心底嫌になる。
ルーテシアだって、そりゃあ僕よりあの二人の方が頼りになるのはわかっているはずだ。
「……よし!」
今は妬んだり、へたれている場合じゃない。
今、ルーテシアを助けられるのは、僕だけなんだから。
鍵は掃除のため軍曹から預けられいるし、逃げる事自体は容易い。
「ルーテシア、ドレス脱いで」
「ア、アカツキ、そういう破廉恥な事は、結婚してからですのよ!?」
「へ?」
「で、でもちゃんと優しくしてくれるなら……」
「違う違う!? 逃げるのにドレスじゃ目立つから!」
ルーテシアの勘違いに気付いた僕は、彼女の言葉に被せるようにして必死に弁解をした。
これ以上、彼女に嫌われるような事は出来ないよ!
「今、軍服持ってくるから、少しだけ待ってて!」
「あっ……」
妙に色っぽいルーテシアの声を背に受けながら、僕は駆け足を始めた。
軍隊はこういう時、走っていても怪しまれないから助かる。
「ううっ、臭いですわ……」
「ごめん、他に無かったんだよ……」
僕の第二の職場である洗濯場から、誰の物とも知れない軍服を一着、拝借してきてしまった。
まだ洗濯前で非常に汗臭いだろう。
この薄汚れた洗濯物が綺麗になる様は、楽しくすらあったけど……さすがにもう戻れないよね。
「行こう、ルーテシア」
「はいっ!」
嫌そうな顔をしていたルーテシアだけど、僕が声をかけるとひまわりが咲いたような笑顔を浮かべてくれた。
いつもの髪型を解いて、ポニーテールにしたルーテシアはいつもより幼く見えて、僕の胸はドキッと高鳴る。
「ああん? 何をしてるんだ、三等兵見習い!」
「ぐ、軍曹!?」
「ど、どなたですの?」
今から逃げ出そうとした所で、軍曹が戻ってきてしまった。
言葉と顔はびっくりするほど汚いけど、仕事を真面目にするとびっくりするほど優しい。
逆に手抜きをするような奴には、びっくりするほどの鉄拳制裁が待っている。
「まさか……サボって女とちちくりあってたとかじゃあないだろうな」
「ち、違います、マム! この新入りを案内しろと、ライサンダー少尉殿に言われたであります!」
ライサンダー少尉は僕らみたいな雑用係をまとめている方だ。
もう八十くらいのお爺さんだけど、右目についた刀傷があったり、歴戦の兵隊さんらしい。
まぁ今は居眠りしてばかりだけど。
「新入りぃ……? この時期にかい?」
魔王軍が近付いてきている今、訓練も出来ていない兵隊を入れても邪魔になるだけらしく、新たに募集はしていない。
しまった、もう少し考えて話すべきだった。
「はっ、はいいいい!」
その動揺で声が裏返ってしまう。
軍曹の鋭い視線が突き刺さり、ルーテシアを逃がそうとしているのがバレるんじゃないかと内心、ビクビクだ。
一呼吸、二呼吸、三呼吸。
たっぷりと僕を睨み付けていた軍曹はにいっ、とマゾーガが敵をやっつけた時のような笑みを浮かべた。
「はっはっは、冗談さ! 三等兵見習いが真面目に仕事する質なのはわかっている。 少尉に頼まれた仕事に励め、三等兵見習い! 残りは私がやっておく!」
「は、はい! ありがとうございます!」
「おお、そうだ。 新入りとこれで軽く何か飲んでくるといい」
他の奴には内緒にしておけよ?と軍曹は、僕に銅貨二枚を渡してくれた。
「あ、ありがとうございます……」
「アカツキ三等兵見習いはなかなかいい奴だ。 新入りイビリなどしないから、安心しておくといい!」
「は、はいっ!」
「ではまた後でな!」
な、なんて心が痛いんだ……。
のっしのっしと戻って行く軍曹の背に、僕は頭を下げた。
「え、えっと……」
無一文で逃げ出した僕はとりあえず街道に出て、行った事のない方向に行ったら、何も食べる物が無かったせいでその辺りの草が食べられるかどうか悩んでいる所を、偶然通りかかった軍の人に助けられた。
我ながらひどい話だと思うし、さすがにこんな情けない事を彼女には言いにくい。
「そ、それよりどうしてルーテシアが牢屋に入れられてるの!?」
「ううっ、それは……アカツキを探そうとしていたら、この都市の偉い方に捕まってしまいましたの……」
なんだよ、それ。
ルーテシアは何も悪い事をしてないじゃないか。
ひょっとして前に僕らを襲って来た暗部が手を回した……?
ソフィアさんが偉い人を倒したとはいえ、まだ終わったとは限らない。
ほとんど関係ないはずのルーテシアを捕まえる理由はわからないけど、彼女をここに置いておけば不味い事になりそうだ。
「ルーテシア、ソフィアさんはどうしてる?」
「あの誘拐犯ですの? 今頃、宿を取っていると思いますわ」
僕はまだルーテシアの前に顔を出す資格はない。
だけど、このまま見捨てられるはずもない。
「逃げよう、ルーテシア」
ソフィアさんとマゾーガなら、きっと暗部からルーテシアを守ってくれるはずだ。
「えっ、でもアカツキは私の事を嫌いだったのでは……」
ほんの一瞬でもルーテシアを、嫌いになんてなった事なんてない。
何も出来ない僕だけど、二人の所に辿り着くくらいは出来るはずだ。
「ルーテシアを嫌いになった事なんてない。 君は絶対に僕が守る」
「は……はいっ!」
他人に守ってもらおうなんて情けない事を考えている僕に、ルーテシアは嬉しそうに笑ってくれた。
ああ、自分の小ささが心底嫌になる。
ルーテシアだって、そりゃあ僕よりあの二人の方が頼りになるのはわかっているはずだ。
「……よし!」
今は妬んだり、へたれている場合じゃない。
今、ルーテシアを助けられるのは、僕だけなんだから。
鍵は掃除のため軍曹から預けられいるし、逃げる事自体は容易い。
「ルーテシア、ドレス脱いで」
「ア、アカツキ、そういう破廉恥な事は、結婚してからですのよ!?」
「へ?」
「で、でもちゃんと優しくしてくれるなら……」
「違う違う!? 逃げるのにドレスじゃ目立つから!」
ルーテシアの勘違いに気付いた僕は、彼女の言葉に被せるようにして必死に弁解をした。
これ以上、彼女に嫌われるような事は出来ないよ!
「今、軍服持ってくるから、少しだけ待ってて!」
「あっ……」
妙に色っぽいルーテシアの声を背に受けながら、僕は駆け足を始めた。
軍隊はこういう時、走っていても怪しまれないから助かる。
「ううっ、臭いですわ……」
「ごめん、他に無かったんだよ……」
僕の第二の職場である洗濯場から、誰の物とも知れない軍服を一着、拝借してきてしまった。
まだ洗濯前で非常に汗臭いだろう。
この薄汚れた洗濯物が綺麗になる様は、楽しくすらあったけど……さすがにもう戻れないよね。
「行こう、ルーテシア」
「はいっ!」
嫌そうな顔をしていたルーテシアだけど、僕が声をかけるとひまわりが咲いたような笑顔を浮かべてくれた。
いつもの髪型を解いて、ポニーテールにしたルーテシアはいつもより幼く見えて、僕の胸はドキッと高鳴る。
「ああん? 何をしてるんだ、三等兵見習い!」
「ぐ、軍曹!?」
「ど、どなたですの?」
今から逃げ出そうとした所で、軍曹が戻ってきてしまった。
言葉と顔はびっくりするほど汚いけど、仕事を真面目にするとびっくりするほど優しい。
逆に手抜きをするような奴には、びっくりするほどの鉄拳制裁が待っている。
「まさか……サボって女とちちくりあってたとかじゃあないだろうな」
「ち、違います、マム! この新入りを案内しろと、ライサンダー少尉殿に言われたであります!」
ライサンダー少尉は僕らみたいな雑用係をまとめている方だ。
もう八十くらいのお爺さんだけど、右目についた刀傷があったり、歴戦の兵隊さんらしい。
まぁ今は居眠りしてばかりだけど。
「新入りぃ……? この時期にかい?」
魔王軍が近付いてきている今、訓練も出来ていない兵隊を入れても邪魔になるだけらしく、新たに募集はしていない。
しまった、もう少し考えて話すべきだった。
「はっ、はいいいい!」
その動揺で声が裏返ってしまう。
軍曹の鋭い視線が突き刺さり、ルーテシアを逃がそうとしているのがバレるんじゃないかと内心、ビクビクだ。
一呼吸、二呼吸、三呼吸。
たっぷりと僕を睨み付けていた軍曹はにいっ、とマゾーガが敵をやっつけた時のような笑みを浮かべた。
「はっはっは、冗談さ! 三等兵見習いが真面目に仕事する質なのはわかっている。 少尉に頼まれた仕事に励め、三等兵見習い! 残りは私がやっておく!」
「は、はい! ありがとうございます!」
「おお、そうだ。 新入りとこれで軽く何か飲んでくるといい」
他の奴には内緒にしておけよ?と軍曹は、僕に銅貨二枚を渡してくれた。
「あ、ありがとうございます……」
「アカツキ三等兵見習いはなかなかいい奴だ。 新入りイビリなどしないから、安心しておくといい!」
「は、はいっ!」
「ではまた後でな!」
な、なんて心が痛いんだ……。
のっしのっしと戻って行く軍曹の背に、僕は頭を下げた。
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