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十六話 因果応報、人類皆兄弟、遠慮容赦 下中
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刀身はより薄く、その半ばまで染まった銀の色は、月の光によく似ていた。
銀閃が煌めく。
ソフィアさんの振るった刀は、アンジェリカの頭上を掠める。
いつ振ったのかすら見えない一撃を、それこそ本物の猫のようにアンジェリカは四つんばいになり身をかがめて避けた。
余裕と笑いと悪意を浮かべていたアンジェリカの表情は、焦燥と恐怖、そしてソフィアさんの腹から吹き出た血に染め上げられる。
「まだ、だにゃあ!」
一瞬遅れて、アンジェリカの左の耳がぽとりと落ちるが、それを気にした様子はない。
そんな事より瞬きする間すら、ソフィアさんの間合いに入っているのが恐ろしくてたまらない、とばかりにアンジェリカの身が跳ね上がる。
二本足で神速、ならば四つ足ならばなんと言うべきか。
強靭な足腰は軽い身を宙に弾き飛ばし、見事な空中大回転からの着地。
「同士討ちするにゃあ」
距離を離したアンジェリカはギターを引き始めた。
ぽろん、と奏でられる音に何の意味があるのか。
僕がそんな事を思っていると、
「う、うわぁ!?」
「お前はまんまと引っかかるな」
身体が勝手にソフィアさんに斬りかかっていた。
完全に振り抜く体勢に入り、止めようにも手遅れだ。
「し、死にたくない!」
ソフィアさんが舌なめずりしているのを見て、僕の脳裏に走馬灯が流れた。
―――父さん、ごめん。 あの時、僕は父さんを信じてあげられなかった。
走馬灯というのは危機から脱出するヒントを、過去から得るための物らしい。
しかし、そんな都合のいいものが存在するはずもなく、刹那の時間は終わりを告げる。
「ふむ」
りぃぃん、と鳴るのは鈴の音。
触れるは、薄い刃の刀と、絶対不壊を約束された分厚い大剣。
振り切る大剣、動かぬ刀、その身に宿る運動力はどちらが上か、など問いかけるまでもないはずだ。
唸りをあげて空気を切り裂く聖剣に、チィルダの薄い刃がそっと触れた。
執拗なまでに刀身と刀身を打ち合わせる事を避けていたソフィアさんが、自分から打ち合わせる状況を作るなんて、と驚きと共に考える。
刀身が傷むから、という理由を捨て打ち合わせるのはどういう心変わりか。
「少し、怖いな」
精妙無比、触れ合う刀身から伝わる力は溜め息が出そうなまでの美しさだ。
台風のように荒れ狂う僕の力を、綺麗に一本に纏め上げる。
アクセルをべた踏みした車すら流してしまえそうなほど、僕の力が全て流されていく。
「馴染み過ぎる」
力を一切、自らの負荷とせず、相手にそのまま跳ね返す合気の極みが、そこにあった。
つまり、
「ギャァァァァァァァァ!?」
僕の手から零れ落ちた聖剣が、まるで落ちるギロチンの刃のように勢いよく飛んでくるという事だ。
「おお、すまん。 少し試したくなった」
「死ぬ! 殺される!?」
「生きてるから大丈夫だろう」
何をどうしたのか、僕は空中でブリッジの姿勢を取り、何とか避けられた。
腰と首に多大な負荷をかけたが、生きているならまだ安い。
凄い勢いで吹き飛んでいった聖剣を、呼び戻しながら僕は走る。
「お前さえ倒せばァァァァァァァァ!」
半泣きというか、四/五泣きになりながら構えは八双、頭の横に聖剣を立て、アンジェリカを斬ろうと決意した。
もう一度、操られてソフィアさんに斬りかかるくらいなら、この猫に正面から斬りかかる方がマシだ!
「うるさい、もう一度行くにゃあ!」
いつの間にかソフィアさんを挟むように移動していたアンジェリカが、ギターを鳴らせば、
「イヤァァァァァ!?」
何故か身体がソフィアさんに斬りかかる。
死にたくねえ!という意志を無視した一撃は、確かにソフィアさんに向かい、
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
再び腰を痛めながら、僕の首を跳ねようとする聖剣を避ける事になる。
「ちくしょう、そのギターさえ壊せば……!」
聖剣を持っているのも怖いけど、無手の方が更に怖い。
何回飛ばされているかわからない聖剣を、また呼び戻す。
そして、思い出した。
城にいた時は魔術を使えたじゃないか……!
体内の魔力を束ね、聖剣を杖とし、現実を浸食する。
身近に迫る死の恐怖は、これまでにないレベルで高度な術式を即興で編み出した。
「ぶち抜け!」
それっぽい名前を付ける事も忘れ、放たれたのは十二の雷を束ねた巨大な轟雷。
二、三人ならまとめて消し飛ばしてしまえそうな太い雷の光が、アンジェリカの表情を変えさせた。
「なんなんだにゃ、いきなり!?」
これまで剣しか使ってこなかった僕の魔術に、アンジェリカは意表を突かれたのだろう。
僅かに逃げ遅れ、ギターが消し炭と化す。
これで操られる事はない! 僕は自由だ!
「ヒャッハー! 僕の平和のために死ねぇ! 勇者の剣を受けろぉぉぉ!」
「お前のような勇者がいるはずないにゃあ」
テンションの上がった僕に、アンジェリカの冷静なツッコミが冴えた。
銀閃が煌めく。
ソフィアさんの振るった刀は、アンジェリカの頭上を掠める。
いつ振ったのかすら見えない一撃を、それこそ本物の猫のようにアンジェリカは四つんばいになり身をかがめて避けた。
余裕と笑いと悪意を浮かべていたアンジェリカの表情は、焦燥と恐怖、そしてソフィアさんの腹から吹き出た血に染め上げられる。
「まだ、だにゃあ!」
一瞬遅れて、アンジェリカの左の耳がぽとりと落ちるが、それを気にした様子はない。
そんな事より瞬きする間すら、ソフィアさんの間合いに入っているのが恐ろしくてたまらない、とばかりにアンジェリカの身が跳ね上がる。
二本足で神速、ならば四つ足ならばなんと言うべきか。
強靭な足腰は軽い身を宙に弾き飛ばし、見事な空中大回転からの着地。
「同士討ちするにゃあ」
距離を離したアンジェリカはギターを引き始めた。
ぽろん、と奏でられる音に何の意味があるのか。
僕がそんな事を思っていると、
「う、うわぁ!?」
「お前はまんまと引っかかるな」
身体が勝手にソフィアさんに斬りかかっていた。
完全に振り抜く体勢に入り、止めようにも手遅れだ。
「し、死にたくない!」
ソフィアさんが舌なめずりしているのを見て、僕の脳裏に走馬灯が流れた。
―――父さん、ごめん。 あの時、僕は父さんを信じてあげられなかった。
走馬灯というのは危機から脱出するヒントを、過去から得るための物らしい。
しかし、そんな都合のいいものが存在するはずもなく、刹那の時間は終わりを告げる。
「ふむ」
りぃぃん、と鳴るのは鈴の音。
触れるは、薄い刃の刀と、絶対不壊を約束された分厚い大剣。
振り切る大剣、動かぬ刀、その身に宿る運動力はどちらが上か、など問いかけるまでもないはずだ。
唸りをあげて空気を切り裂く聖剣に、チィルダの薄い刃がそっと触れた。
執拗なまでに刀身と刀身を打ち合わせる事を避けていたソフィアさんが、自分から打ち合わせる状況を作るなんて、と驚きと共に考える。
刀身が傷むから、という理由を捨て打ち合わせるのはどういう心変わりか。
「少し、怖いな」
精妙無比、触れ合う刀身から伝わる力は溜め息が出そうなまでの美しさだ。
台風のように荒れ狂う僕の力を、綺麗に一本に纏め上げる。
アクセルをべた踏みした車すら流してしまえそうなほど、僕の力が全て流されていく。
「馴染み過ぎる」
力を一切、自らの負荷とせず、相手にそのまま跳ね返す合気の極みが、そこにあった。
つまり、
「ギャァァァァァァァァ!?」
僕の手から零れ落ちた聖剣が、まるで落ちるギロチンの刃のように勢いよく飛んでくるという事だ。
「おお、すまん。 少し試したくなった」
「死ぬ! 殺される!?」
「生きてるから大丈夫だろう」
何をどうしたのか、僕は空中でブリッジの姿勢を取り、何とか避けられた。
腰と首に多大な負荷をかけたが、生きているならまだ安い。
凄い勢いで吹き飛んでいった聖剣を、呼び戻しながら僕は走る。
「お前さえ倒せばァァァァァァァァ!」
半泣きというか、四/五泣きになりながら構えは八双、頭の横に聖剣を立て、アンジェリカを斬ろうと決意した。
もう一度、操られてソフィアさんに斬りかかるくらいなら、この猫に正面から斬りかかる方がマシだ!
「うるさい、もう一度行くにゃあ!」
いつの間にかソフィアさんを挟むように移動していたアンジェリカが、ギターを鳴らせば、
「イヤァァァァァ!?」
何故か身体がソフィアさんに斬りかかる。
死にたくねえ!という意志を無視した一撃は、確かにソフィアさんに向かい、
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
再び腰を痛めながら、僕の首を跳ねようとする聖剣を避ける事になる。
「ちくしょう、そのギターさえ壊せば……!」
聖剣を持っているのも怖いけど、無手の方が更に怖い。
何回飛ばされているかわからない聖剣を、また呼び戻す。
そして、思い出した。
城にいた時は魔術を使えたじゃないか……!
体内の魔力を束ね、聖剣を杖とし、現実を浸食する。
身近に迫る死の恐怖は、これまでにないレベルで高度な術式を即興で編み出した。
「ぶち抜け!」
それっぽい名前を付ける事も忘れ、放たれたのは十二の雷を束ねた巨大な轟雷。
二、三人ならまとめて消し飛ばしてしまえそうな太い雷の光が、アンジェリカの表情を変えさせた。
「なんなんだにゃ、いきなり!?」
これまで剣しか使ってこなかった僕の魔術に、アンジェリカは意表を突かれたのだろう。
僅かに逃げ遅れ、ギターが消し炭と化す。
これで操られる事はない! 僕は自由だ!
「ヒャッハー! 僕の平和のために死ねぇ! 勇者の剣を受けろぉぉぉ!」
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