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幕間 しゅらばらばらば 上
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沢山の人が移動する、という事は僕が思っていたよりも大変な事だった。
まず三千人がまとめて歩けるような広い道はない。
街道と言ってもそんなに広いものではなく、馬車同士がすれ違えばギリギリだ。
そんな道を横に広がって歩けば、他の一人達が通れない以上、縦列を二つ作って行軍開始。
だけど三千人を二つに割って千五百人、元の世界での行列でも千五百人というのはなかなか無かった。
たった何百人でも、行列に並べば一時間や二時間は当たり前だというのに一列千五百、二列で三千人の人々が動くだけでも相当な苦労だ。
しかも、ソフィアさん達は色々と訓練を施しながら動いているせいで、更に動きは遅くなってしまう。
たった三千人でこうなのだから、一万人や十万人の兵隊さんが行軍するとしたら、どれだけ大変なのだろうか。
「どうなんですかね?」
「……いや、そりゃ大変だけどよ。 それに補給を考えれば、更に苦労するな」
「ご飯ばかり持っていけませんもんね」
他に武器や鎧など、軍隊というやつはとにかく物
がいる。
今もクリスさんが必死に補給関係の仕事をこなしているが、大変そうだ。
「ところで勇者様よ……」
「なんですか?」
ドワイト男爵は困惑した表情で、僕に言った。
「なんであんたが俺の馬の口取りしてるんだい?」
立派な馬に乗ったドワイト男爵はしっかりと鎧を着込み、その上に赤いマントを羽織っていてまさに絵に描いたような将軍様に見える。
やれやれ、貧乏暮らしをしても、やっぱり貴族様には下々の生活はわからないらしい。
「その、こいつわかってねえなあ、みたいなツラが腹立つな……」
「この間、剣舞した後に傭兵のイワークさんに言われたんですよ。 『お前は確かに強いが、ソフィア隊長みたいに上には上がいるもんだ。 だから、無理に剣で身を立てようとするより、ドワイト男爵の騎士になったらどうだ?』って。 あ、今のどうです? 似てましたかね?」
「まだ一人一人の名前まで覚えてねえし、物真似とかいらねえよ」
「『一発当てるのを強いられるより、こつこつ働けよ』」
「借金で首が回らない俺に喧嘩売ってんのか」
「僕はですね、彼女を幸せにしてあげたいんですよ。 僕の世界には『お金で愛は買えないけど、潤いはお金で買えるわ』という名言が」
「気色わりい女言葉をやめてくれ」
「だからですね、安定した収入を得るためにも騎士として雇ってもらえないかな、と。 えへへ」
こつこつ働いて、安定した収入を得てまともな生活が出来るようになるのが今の僕の目標だ。
「給料三ヶ月分を貯めたら……僕、ルーにプロポーズするんだ」
「おい、やめろ馬鹿。 戦場に行くのに不吉過ぎるわ」
ドワイト男爵の顔は、僕が話せば話すほど何故か馬鹿を見る顔になっていく。
どういうことだ。
「勇者様……なんかもう、様付けするの面倒だな。 リョウジ、お前は勇者だろ?」
「一応そうですね」
未だに自覚もないし、納得もしていないけれど。
「お前さんが魔王倒せば、雇われ騎士どころか貴族になれるぞ」
「そうなんですか!?」
「さすがに只働きはさせねえだろ。 それがバレたら次の勇者も働きたくないだろうしな」
僕だって、さすがに只働きで魔王退治しろとか、いきなり言われたらやりたくないな。
「……とはいえ、貴族とかやれる気しないんですけど」
「まぁ貴族なんてもんはだな」
「リョウジはうちに来たらいいですわ!」
何かを言おうとしたドワイト男爵を制して、ルーが言った。
普段のドレス姿ではなく、乗馬服を着ていて……パンツ姿もまたいいものである。
白馬に跨がるルーの手綱捌きは、なかなか堂に入っていて危うげな所がない。
「魔王を倒せば、別世界の人間だろうとわたくしの家に入るのは十分過ぎますわ」
「むう」
よらば大樹の陰で魅力的だけど、それってつまりルーのヒモになるって事じゃないのかな?
安定した生活はしたいけど、それはちょっと情けない気がする。
「おい、リョウジ。 お前、何を言われてるかわかってんのか? これって結」
「男なら、一国一城の主を目指ぜ」
「むむむ」
これまた器用に馬に乗ったマゾーガは、現れるなりそんな事を言う。
一国一城の主……ロマンだなあ。
ただロマン過ぎて、実感がないというか。
「何を言ってますの! リョウジには人脈も経験もありませんわ。 それなら新規経営を考えるより、わたくしの家を継ぐべきなのです!」
「それじゃ、リョウジの男が腐る。 男は常に戦わなければ、駄目だ」
「戦うだけではいけませんわ。 安心して帰れる所がありませんと」
「ぞれは、お前がなれ」
「あなたはっ……!」
マゾーガの言葉に、ルーの顔に何故か傷付いたような表情が浮かんだ。
「……リョウジ」
「は、はい、なんでしょうか……」
「邪魔ですわ。 どこかに消えなさい」
ひでえ!?とか一応、僕の話なんじゃなかったっけ?とか色々と思う事はある。
だけど、僕の口から出てきたのは、
「は、はい……」
「しばらく戻ってくるんじゃありませんわよ」
「あ、あの喧嘩とかよくないんじゃないかなーって……」
「お黙りなさい」
美人が怒っていると、すごく怖い。
無言のマゾーガも怖い。
「うぎぎ……」
とはいえ、ここで逃げるわけにもいかないだろう。
満面の笑みを浮かべたソフィアさんよりは怖くない……!
僕は下っ腹に力をこめ、覚悟を決めた。
ところで何が原因なんですかね?
まず三千人がまとめて歩けるような広い道はない。
街道と言ってもそんなに広いものではなく、馬車同士がすれ違えばギリギリだ。
そんな道を横に広がって歩けば、他の一人達が通れない以上、縦列を二つ作って行軍開始。
だけど三千人を二つに割って千五百人、元の世界での行列でも千五百人というのはなかなか無かった。
たった何百人でも、行列に並べば一時間や二時間は当たり前だというのに一列千五百、二列で三千人の人々が動くだけでも相当な苦労だ。
しかも、ソフィアさん達は色々と訓練を施しながら動いているせいで、更に動きは遅くなってしまう。
たった三千人でこうなのだから、一万人や十万人の兵隊さんが行軍するとしたら、どれだけ大変なのだろうか。
「どうなんですかね?」
「……いや、そりゃ大変だけどよ。 それに補給を考えれば、更に苦労するな」
「ご飯ばかり持っていけませんもんね」
他に武器や鎧など、軍隊というやつはとにかく物
がいる。
今もクリスさんが必死に補給関係の仕事をこなしているが、大変そうだ。
「ところで勇者様よ……」
「なんですか?」
ドワイト男爵は困惑した表情で、僕に言った。
「なんであんたが俺の馬の口取りしてるんだい?」
立派な馬に乗ったドワイト男爵はしっかりと鎧を着込み、その上に赤いマントを羽織っていてまさに絵に描いたような将軍様に見える。
やれやれ、貧乏暮らしをしても、やっぱり貴族様には下々の生活はわからないらしい。
「その、こいつわかってねえなあ、みたいなツラが腹立つな……」
「この間、剣舞した後に傭兵のイワークさんに言われたんですよ。 『お前は確かに強いが、ソフィア隊長みたいに上には上がいるもんだ。 だから、無理に剣で身を立てようとするより、ドワイト男爵の騎士になったらどうだ?』って。 あ、今のどうです? 似てましたかね?」
「まだ一人一人の名前まで覚えてねえし、物真似とかいらねえよ」
「『一発当てるのを強いられるより、こつこつ働けよ』」
「借金で首が回らない俺に喧嘩売ってんのか」
「僕はですね、彼女を幸せにしてあげたいんですよ。 僕の世界には『お金で愛は買えないけど、潤いはお金で買えるわ』という名言が」
「気色わりい女言葉をやめてくれ」
「だからですね、安定した収入を得るためにも騎士として雇ってもらえないかな、と。 えへへ」
こつこつ働いて、安定した収入を得てまともな生活が出来るようになるのが今の僕の目標だ。
「給料三ヶ月分を貯めたら……僕、ルーにプロポーズするんだ」
「おい、やめろ馬鹿。 戦場に行くのに不吉過ぎるわ」
ドワイト男爵の顔は、僕が話せば話すほど何故か馬鹿を見る顔になっていく。
どういうことだ。
「勇者様……なんかもう、様付けするの面倒だな。 リョウジ、お前は勇者だろ?」
「一応そうですね」
未だに自覚もないし、納得もしていないけれど。
「お前さんが魔王倒せば、雇われ騎士どころか貴族になれるぞ」
「そうなんですか!?」
「さすがに只働きはさせねえだろ。 それがバレたら次の勇者も働きたくないだろうしな」
僕だって、さすがに只働きで魔王退治しろとか、いきなり言われたらやりたくないな。
「……とはいえ、貴族とかやれる気しないんですけど」
「まぁ貴族なんてもんはだな」
「リョウジはうちに来たらいいですわ!」
何かを言おうとしたドワイト男爵を制して、ルーが言った。
普段のドレス姿ではなく、乗馬服を着ていて……パンツ姿もまたいいものである。
白馬に跨がるルーの手綱捌きは、なかなか堂に入っていて危うげな所がない。
「魔王を倒せば、別世界の人間だろうとわたくしの家に入るのは十分過ぎますわ」
「むう」
よらば大樹の陰で魅力的だけど、それってつまりルーのヒモになるって事じゃないのかな?
安定した生活はしたいけど、それはちょっと情けない気がする。
「おい、リョウジ。 お前、何を言われてるかわかってんのか? これって結」
「男なら、一国一城の主を目指ぜ」
「むむむ」
これまた器用に馬に乗ったマゾーガは、現れるなりそんな事を言う。
一国一城の主……ロマンだなあ。
ただロマン過ぎて、実感がないというか。
「何を言ってますの! リョウジには人脈も経験もありませんわ。 それなら新規経営を考えるより、わたくしの家を継ぐべきなのです!」
「それじゃ、リョウジの男が腐る。 男は常に戦わなければ、駄目だ」
「戦うだけではいけませんわ。 安心して帰れる所がありませんと」
「ぞれは、お前がなれ」
「あなたはっ……!」
マゾーガの言葉に、ルーの顔に何故か傷付いたような表情が浮かんだ。
「……リョウジ」
「は、はい、なんでしょうか……」
「邪魔ですわ。 どこかに消えなさい」
ひでえ!?とか一応、僕の話なんじゃなかったっけ?とか色々と思う事はある。
だけど、僕の口から出てきたのは、
「は、はい……」
「しばらく戻ってくるんじゃありませんわよ」
「あ、あの喧嘩とかよくないんじゃないかなーって……」
「お黙りなさい」
美人が怒っていると、すごく怖い。
無言のマゾーガも怖い。
「うぎぎ……」
とはいえ、ここで逃げるわけにもいかないだろう。
満面の笑みを浮かべたソフィアさんよりは怖くない……!
僕は下っ腹に力をこめ、覚悟を決めた。
ところで何が原因なんですかね?
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