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大学生①
しおりを挟む私は専用の携帯電話使い、仲介人に連絡した。今日も難なく仕事を終えた。あとは連絡を待つだけだ。
一月というだけあり、頬を冷たい空気が撫でる。夜の九時過ぎ、厚手のコートを着ているのに肌寒い。
現場から最寄りの駅のホームに立ち、電車に乗り、自宅の最寄り駅で降りた。私の住んでいる街はそれなりに発展しているようで、いつも人の声と車の音で渋滞している。昼よりも明るく見える歩道に、私はまぶしくて眉間にしわを寄せていると後ろから声をかけられた。見た顔の同業者だ。
…「よぉ〈ミヤマ〉。今日も仕事か?」
ミヤマ「ああ。今帰りなんだ。お前も仕事か?〈背赤〉。」
背赤「そうなんだ。この辺に住んでいるらしくてな。事前準備だ。」
【ミヤマ】…私は業界でそう呼ばれている。聞けば、ある程度仕事で功績を残すと同業者に仕事スタイルに応じてあだ名が付くらしい。私の場合、ミヤマクワガタから来ているそうだ。理由は聞いたはずだが、もう覚えていない。
背赤「なぁ、飲みに行かないか?」
ミヤマ「今からか?」…時間はあった。
そう言ってくる男は【背赤】。刺殺を得意としていて、背後からの奇襲を好んでいるそうだ。用意周到で業界の支持も高い。
背赤「実は妹がいてな、大学に入学したんだと。んで、写真が来てよぉ。」
ミヤマ「それをつまみに、飲めというのか?」
背赤「いいだろう、行こうぜ。」
私は半ば無理やり連れていかれ、たわいもない話をされた。背赤より四つ年下であるとか、バイト先が心配であるとか、彼氏など作らないでほしいであるとか、いかにも面倒な兄の話を聞かされた。妹の苦労は相当なものだろう。
そんな背赤は鼻が高く、目はくっきりとしていて、唇は細く横に長い。髪は単発で、ツーブロックにしている。私が素人目に見ても、背赤は間違いなく爽やかな好青年に見えた。先ほどから隣で飲んでいる女性陣が、こちらを気にしているのがその証拠だった。私は背赤の顔を見ながら妹の顔を想像してみた。この様子なら妹も美人なのだろうか。
ミヤマ「写真はあるのか?」
背赤「見せねぇーぞ。俺のかわいい妹は誰にも渡さない!」
ミヤマ「別に、会うこともないだろう。」
背赤「だとしてもいやだね。」
背赤は渋い顔でこちらを見つめ、それからグラスに口を付けて一息ついた。
背赤「もし、知り合いが依頼主の相手(ターゲット)ならどうする?」
しばらく間をおいて背赤が聞いてきた。
ミヤマ「どういうことだ?」
背赤「依頼どうり仕事をこなすか、代替えを用意するか。どっちだ?」
私は少し考えてから言った。
ミヤマ「まだわからないな。大抵、依頼主のことも相手のことも考えたことがない。そもそも仕事だ。感情は持ち込むつもりもない。」
背赤「そうか。ストイックだねぇ。」
背赤と飲み屋を後にして、帰宅した。マンションの二階。1DKと一人暮らしには少し広いが、居心地は悪くなかった。玄関の鍵を閉め、靴を脱ぎ、コートをハンガーにかけシャワーを浴びた。バスタオルで頭を拭いていると、仲介人からの電話が鳴った。
ミヤマ「俺だ。」
仲介人「確認しました。依頼主も問題ないと言っています。報酬は明日支払うそうですので確認してください。これで依頼主の企業の横領もバレずに済むと喜んでいましたよ。」
ミヤマ「そうか。俺には関係の無い事だ。」
仲介人はよく依頼主の事情を話してくる。もちろん依頼をこなすうえでは重要だが、私にはその後などどうでもよいことだった。感情の無い声色と一定の間隔で話してくるのに、変なところは深く話してくる。変わった男だった。
ミヤマ「次の依頼はあるのか?」
仲介人「ええ、ある女性からです。将来を約束した相手が浮気していて、その人を消してほしいようです。」
ミヤマ「ありがちな理由だな。」
仲介人「相手の情報はいつものように取りに来てください。」
ミヤマ「わかった。明日にでも取りに行こう。」
仲介人「いえ、一週間後に来てください。まだ、情報が集まっていないのです。」
ミヤマ「わかった。」…私は電話を切った。
ソファに腰を掛け、テレビをつけた。今売れている女優が笑顔で喋っている。見流しながら今日の仕事を振り返る。人の目が付かないところへ誘導し、予定道理の場所で首を絞め上げ、絞殺した。もうターゲットの顔も思い出せない。ウィスキーの入ったグラスを空け、寝室で眠りについた。
飲み屋での背赤の言葉を思い出す。
『もし、知り合いが依頼主のターゲットならどうする?』
仕事をするだけだ。私は心の中でそう答えた。
続く
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