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1話(コンスタンツェ視点)
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少女にとって、その人は光そのものだった。
どんな生き物であっても、光なくては生きられない。
どうしても、その柔らかくて暖かい光のそばにいたかった。例え近付きすぎて溶けてしまったとしても。それもいいと思えるのだ。
「コンスタンツェ、朝だぞ。起きろ~」
優しいハスキーな声に意識がゆるゆると浮上する。ぼんやりと目を開け、声の主をとらえる。
もっさり頭に無精髭。眠たそうな空色の瞳。視線が会うと、ふっと優しく細められるその目がとても好き。釣られて自分も口角が上がるのがわかる。
手を伸ばし、差し出された大きな手を握る。ゴツゴツした無骨な男の人の手。絶え間ない努力が感じられるその手がとても好き。触れて、その存在が今日も確かにそこにいることに安堵する。夢じゃない。
嬉しい。幸せだ。
泣きたくなるような幸福感に満たされて、私は今日も最高の朝を迎えた。
「おはようございます、ハンスさん。今日も、大好きです!」
私はコンスタンツェ。姓はない。
好きなものはテーブルの向かいで一緒に朝食を食べているハンスさん。他には特にない。
「ん? なんだ、もっと食べるか?」
もぐもぐと動く彼の口元をじっと見ているうちに、いつの間にか自分の分を食べ終わっていたみたい。満腹感か幸福感かわからないけど、満足感はあるので首を横に振る。
「遠慮せずたくさん食べな、大きくなれないぞ」
キッチンに向かいながら私の頭をぽんと撫でて行く。温かい大きな手。好き。
「本当はもっと大きいですもん」
「そうだなぁ」
「もう! 信じてください!」
にやける頬を隠してわざと拗ねたような声を上げる。このいつものやりとりも好き。
信じてもらえなくたっていい。いつ解けるかわからない呪いのせいで、私の身体はいつまで経っても子供のまま。
でもこの大きさだから抱っこもハグも躊躇せずしてもらえる。人目を気にせず思い切り甘えられる。悪いことばかりでもない。
唯一悪いことと言えば。
「ハンスさん、大好き。お嫁さんにして下さい!」
「成人したらね」
「成人してるんですってば~!」
ハンスさんに女として見てもらえないってこと。これが一番悪い。
ハンスさんは冒険者だ。私はあまり詳しくないけど、この国で五本の指に入る実力者らしい。ハンスさんは自分語りをしないので、これまでどんなすごいことをしたかは全部人伝えに聞いたことだけど、語られる武勇伝は確かに凡人には成し遂げられない偉業ばかりだった。
本人は腕っぷしはそこまで強くないと言っているけど、強くないわけがない。お荷物でしかない私を守りながら依頼をこなしているのだから。
私もいつまでもお荷物でいたくないから、ハンスさんに剣術を教えてもらってる。存外才能があったみたいで、お邪魔にならない程度にはなれているみたい。役に立てて嬉しい。ハンスさんが褒めてくれるのが一番嬉しい。がんばろう。
今日は朝早くから出発して依頼に向かう。
眠気の残る目を擦っていると、早朝からごめんな、と謝られる。大丈夫、私はハンスさんの行くところだったらどこにでも行くよ。ハンスさんのためならなんだってできるよ。
ハンスさんはモテる。本人は平凡だしモテたことなんかないよと言っていたけど、とってもかっこいいし、優しいし、紳士だし、包容力のある大人の男性だ。有名な冒険者という肩書きも効果がありそうだけど、一番は人柄がモテるんだと思う。
だから私は、ハンスさんが女の人と話しているのを見ると気が気じゃない。女の人がハンスさんを好きになっちゃったらどうしよう。今の子供の姿の私ではどうがんばってもお嫁さんにしてもらえない。私以外の誰かと結婚する未来なんて、想像したくない。でも、このままだといつかそうなってしまいそうで怖くてたまらない。
酒場でお昼ご飯を食べている時に、ハンスさんと話していたスタイルのいい女の人に、思い切ってこっそり聞いてみる。男の人に意識してもらうにはどうしたらいいか、と。
私とハンスさんを交互にチラリとみた女の人は、ニンマリと楽しそうな顔をした後、こっそりと色々教えてくれた。
よくわからないテクニック?も教えてもらった。そっちは意味が理解できなかったけど、それ以外はとりあえず実践あるのみだ。
その夜こっそりハンスさんのベッドに忍び込んだら、私が女の人に何かを吹き込まれたことに気付いていたらしく、「余計なことしないで早く寝なさい。大きくなれないぞ」と叱られた。ちぇっ。
今日はハンスさんと喧嘩をしてしまった。どちらかというと私が悪い、いや、全面的に私が悪い。喧嘩ですらない。私がわがままを言ったのだ。
今日の依頼はとても危険なのだそう。だから私は留守番していろと言われた。危険だと言われても、少しの間だって離れたくなかった。私だって役に立てる、剣だって上手になった、いざとなったらハンスさんの盾にだって囮にだってなれる、と言ったら、今まで見たことないような怖い顔で怒られてしまった。
怖い、いやだ、捨てられてしまう、置いて行かれてしまう。行かないで、とは言えずただやだやだとしか言えない私を優しく振り解き、ハンスさんは出発してしまった。
ベッドの上で毛布を被って膝に顔を埋める。スカートが涙を吸ってぐしゃぐしゃだ。
ハンスさんと出逢う前は納屋で同じようにうずくまっていたのを思い出す。あの時よりも部屋も毛布も暖かいはずなのに、寒くてたまらない。雨でも降りそうなどんよりとした空模様に体が芯から冷えていくような心地がする。いつもそばにいてくれた温もりが恋しい。ちゃんと謝らなくちゃ。早く無事に帰ってきて欲しい。
ハンスさんが帰ってきたのは次の日の夜だった。とてつもなく長い時間が経ったと思っていたけど、そうでもなかったらしい。
慌ただしい足音のすぐ後に部屋の扉が乱雑に開かれる。昨日と全く同じ姿勢からゆるゆると顔をあげると、肩で息をするハンスさんがいた。現実味がなくて、珍しいなとぼんやり思う。
足早に近付いてきたと思ったら、毛布ごと強く抱きしめられる。俺が悪かった、と言われ、一瞬なんのことかわからなかった。
「寂しかったよな、ひとりにして本当にごめん」
そう言われ、喉がヒクッと詰まる。ハンスさんは悪くない、私が全部悪い、謝らなくちゃ、と思うのに、ボロボロと涙が溢れてしまい、なにも言葉にならなかった。そうだ、私は寂しかったのだ。私の背を撫でる大きな手が温かくて優しくて、私は声をあげて泣いた。
私が少し落ち着いた頃に、ハンスさんが遅めの夕飯を持ってきてくれた。そういえば、彼が出発してから何も口にしていない。空腹に気付いてお腹が鳴り恥ずかしくて俯く私を見て、一緒に食べよう、と微笑んでくれた。
子供みたいに甘えて、食べさせてもらった。しょうがないなと困ったように笑う姿に、ちゃんと帰ってきてくれたことを実感して幸福感で胸がいっぱいになる。
お腹もいっぱいになって、私はやっと謝ることができた。ハンスさんの邪魔をしたかったわけではないのだ。ただ役に立ちたかったし、そばにいたかったのだ。ハンスさんは私の話を静かに聞いてくれた。
そのあと、ハンスさんももう一度謝ってきた。そして、自分を犠牲にするようなことを言わないで欲しいとお願いされた。どうやら私がいざとなれば盾でも囮でも、と言ったのが許せなかったらしい。でも、本心なのだ。あなたのためならなんだってできる。そう伝えると真剣な目を向けられた。
「コンスタンツェが俺のことを大切に思ってくれてるのはよく分かった。けどな、俺だって同じ気持ちなんだ。危険な目に遭って欲しくはないし、安全なところで笑っていて欲しい」
「それでも離れたくないと言うなら、そうだな……俺が"一番安全な安心できる場所"になれるようもっと努力するしかないか……」
大泣きしたせいで酸欠なのか、頭がぽやぽやする。
嬉しい。ハンスさんも私のことを大切に思ってくれていたなんて。ハンスさんのそばが一番安全で安心できる場所なのは元より当たり前のことなのだ。こんなに幸せなことってない。
感極まってハンスさんに抱きつく。慣れたように頭をぽんぽんしてくれるのが本当に嬉しい。
ベッドに忍び込んで叱られたあの日から、寂しいときは一緒に寝てもいいとお許しがでた——そうでなくてもあれこれ理由をつけて一緒に寝てもらっているが——ので、今日も一緒のベッドで寝たい! と言ったら、しょうがないなと笑ってくれた。
なんだか身体中が痛い。服がきつい。不快な感覚に意識が浮上していく。薄く目を開けると、信じられないものを見たような驚愕の表情で固まるハンスさんが見えた。
おはようございます、と言う自分の声がなんだかいつもと違って少しだけ低い。昨日泣きすぎたからかもしれない。それより不思議なのは、ハンスさんから挨拶が返って来ないことだ。
「ハンスさん? どうし…… 」
「!!! 待て! 起きるな! そのままいろ!!」
「えっ?」
「いいか、絶対に毛布を取るなよ。部屋からも出るな!」
「えっ、えっ? なんでですか?」
「いいから! 俺はちょっと出かけてくる、すぐ戻るから! いいか、部屋から出ず、誰も入れるなよ!!」
「えぇ? あっ……」
引き留める間もなくあっという間に出ていってしまった。何が何だかわからない。
とりあえずきつい服をどうにかしたくて毛布の中を覗こうとして、自分の手と腕に違和感を感じた。
どう見ても子供の手じゃない。
まさか、と期待と興奮でバサリと毛布を剥ぎ取ると、大人の女性のものとしか思えない身体が目に入った。子供用の寝間着がきついわけだ。ワンピースタイプだから丈も足りてなくてギリギリ隠せてない。ちょっと見えてる。
ゆったりした寝間着でよかった。きついけど着ていられないほどではない。
着替えもないので、言われた通り大人しく毛布にくるまってハンスさんが戻るのを待つ。着替えを買ってきてくれるつもりなんだと思う。
ハンスさんは思ったよりもすぐに戻ってきた。昨日帰ってきた時よりも取り乱してる。少し離れたところから着替えを投げ渡してすぐ部屋から出てしまった。着替えろってことなんだと思う。
すごく簡素な、悪く言えば地味なごく一般的な服だった。着てみるとちょっと胸の辺りがきつかった。
呪いが解けた。理由はわからないが、解けたのだ。
嬉しくて、部屋に入ってきたハンスさんに抱きついたら、優しく解かれて一歩距離を取られた。なんで?
でも、これでちゃんと成人してるってことを信じてもらえるし、そうなればお嫁さんにしてもらえるかもしれない。
「どうですか? 本当だったでしょう? ちゃんとおっきくなりましたよ!」
「そ、そうだね……」
「ちゃんと大人です!」
ドヤ! と胸を張る。
ハンスさんは、曖昧ななんとも言えない表情で少し狼狽えているように見える。一緒に喜んでくれると思ってたのに、良かったなって抱きしめて撫でてくれると思ってたのに。嬉しくないのかな。なんだか悲しくなってしまって少し俯いてしまう。
「……っ! いやー、呪いが解けて良かったな! 今日はお祝いしようか! コンスタンツェはどうしたい?! 」
明るい声が聞こえて顔を上げると、いつもと同じ優しい笑顔が目に入った。
「お祝い、してくれるんですか? 呪いが解けて、嬉しいですか?」
「もちろんだよ。見慣れなかったから少しびっくりしたんだ。ごめんな。さあ、お祝いの計画を立てよう」
「はい! ……あ、あの、その前にお願いがあるんですけど……」
「ん? なんだ?」
「いつもみたいに、ぎゅっとして頭を撫でて欲しいです……」
改めて自分から伝えるとちょっと恥ずかしくてもじもじしてしまう。ハンスさんは何も言わずお願いを聞いてくれた。頭をヨシヨシされながら、良かったなとか、頑張ったなとか、優しいハスキーな声が降ってくるのがたまらなく幸せで、私もハンスさんをぎゅっと抱きしめる。背が伸びたおかげで、ちょうど顔がハンスさんの胸の辺りにくる。それも嬉しくて思わず頰ですりすりした。
お祝い計画は、やりたいことがたくさんあってなかなか決められなかった。ゆっくり考えるといいよ、と笑ってくれたので、急がずじっくり考えることにした。
部屋で朝食を食べた後、ハンスさんの外套を借りて宿の外に出る。急ぎでやらなくてはいけないとても大事なことがあるらしく、そのまま冒険者ギルドに向かう。
ギルドの入り口には、いつも優しくしてくれる年配の受付のおばさんがいた。私の事情を知っていて、色々と世話を焼いてくれるのだ。
知らない間にハンスさんが連絡していたらしい。良かったわね~と抱きしめられる。嬉しい。お母さんみたいで、受付のおばさんもハンスさんの次に好き。
おばさんの話だと、女の人は大人になると色々と必要なものが増えるのだそう。そういった諸々を揃えに行くのが「急ぎの大事なこと」みたい。ハンスさんは男性だから詳しくないんだって。
途中ハンスさんと別行動を取ったりしながら、最低限の必需品を揃えて宿に戻る頃にはもう夕方で、もうヘトヘトだった。大人の女性って大変なんだな。
でも服も下着もぴったりな大きさになったおかげでとても動きやすくなった。またあとで、おばさんとかわいい服を買いに行くことになっている。ハンスさんにかわいいって言ってもらえたら嬉しいな。
その夜、大人になったのだから寝る部屋を別々にする、とハンスさんに言われて盛大に大泣きして駄々をこねた。最終的にハンスさんが折れて同室のままになったけど、ベッドは部屋の端と端に離された。ならば、とハンスさんが寝た頃を見計らってベッドに忍び込んだら、大人の女性なら慎みを持ちなさい! と叱られて追い出されてしまった。ちぇっ。
最近はハンスさんの依頼の関係でしばらく大きな街にいたのだが、ひと段落ついたため久しぶりに拠点の家がある村に帰ることになった。
なんだか呪いが解けてから、知らない男の人に話しかけられたり嫌な視線を感じることがものすごく増えていて精神的に疲れていたから、家に帰れるのがいつもよりも楽しみ。早く帰りたいな。
注文していた甲胄も昨日届いている。あまりにも絡まれる私を見かねて、顔を隠した方がいいかもなとハンスさんに提案されたのだ。身体を触ろうとしてくる人もいたから、せっかくなので顔だけじゃなくて身体も隠せるものがいいと思って、全身鎧にしてもらった。ハンスさんはなんとなく微妙な顔をしていたけど……。
それに酒場のお姉さんが言っていた。ギャップ萌えというものがあるって。普段見せない意外な一面を見ると、その差で恋に落ちてしまうんだとか。あとは男の人は女の人が普段隠している胸とかお尻とかの柔らかいところが好きだから、ここぞという時にさり気なく見せるといいんだって。だから、普段は甲胄を着ていてハンスさんの前でだけ薄着になれば、ドキドキして好きになってもらえて、お嫁さんにしてもらえるはず!
決意を胸に甲胄を着込み、ハンスさんと連れ立って村へと出発した。
その道中、薄着作戦を実行したら、ハンスさんは困ったような顔をするだけで、ドキドキしてるようにはあんまり見えなかった。なんだか無性に悔しくなって、寝る時に薄着のままハンスさんに抱きついてやった。慎みを持て、と怒られて引き剥がされそうになったけど、意地でも離さなかった。私が離さないことがわかると諦めて、背中なら、とお許しが出た。存分にすりすりした。いい気分。
何日かして、ようやく村にたどり着いた。
顔見知りの門番さんは、大きくなった私を見てびっくりしていたけど、よかったな、と言ってくれてとても嬉しかった。家に向かう道すがらや村長さんのお宅でも会う人みんなに驚かれたけど、元々私の事情を知っているので、みんながみんなお祝いの言葉をかけてくれた。暖かい人ばかりだから、私はこの村が好きなのだ。
でも、村の中ではヘルムは外していても甲胄は着たままでいた。薄着作戦はまだ続いているのだ。ハンスさんもそれがいいと言ってくれたから、これからも遠慮なくそうする予定だ。
村での生活はとても穏やかで、時間の流れがゆっくりとしていた。剣術の鍛錬も欠かさずしていたおかげで、大きくなった身体を動かすのにも不自由はない。
友達とかけっこや魚釣りをして遊んだり、お姉さんたちにハンスさんとのあれこれを根掘り葉掘り聞かれたり、ハンスさんに薄着作戦や他の作戦で迫って慎みを持てと怒られたり、楽しくて充実した日々を過ごしていたある朝、ハンスさんが姿を消した。
はじめは、ハンスさんの方が早起きなので寝室にいないだけかと思った。でも、家のどこにもいない。庭にもいない。出かけるなら書き置きを残してくれるはずなのにそれもない。
甲胄を着るのも忘れて村中を探し回ったけど、どこにもいない。どこにもいないのだ。
どうして? まさか嫌われてしまったの? だから置いていったの? 急に体が冷えてきて震える。我慢できず、涙が溢れてしまう。
村の端で呆然とへたり込んでいると、騒ぎを聞きつけたお姉さんたちが慌ててやってきて上着を羽織らせてくれた。そういえば寝間着のままだった。気にする余裕もなかった。
お姉さんたちに慰められながらなんとか立ち上がったところで、騒ぎを聞きつけた村長さんが早足でやってきた。なんと、ハンスさんは夜明け前に突然村長さんのお宅に来て、私に渡してくれと手紙を押し付け、村長さんが何かを言う前にそのまま村を出て行ってしまったらしい。
震える手で手紙を受け取る。中身を見るのが怖くて、その場ではどうしても封を切れなかった。
お姉さんたちに支えてもらいながらなんとか家にたどり着き、ふらふらとベッドに倒れ込む。すでに冷えきり温もりのカケラも感じられないベッドが、ハンスさんがいないことを嫌でも分からせてくる。泣きすぎて涙がしみる。
握りしめてくしゃくしゃになってしまった手紙。何が書いてあるのかわからなくて怖い。でも、わざわざ村長さんに預けたものなのだ。意を決して開封する。
手紙には色々なことが書き込められていた。何度も何度も読み直し、ゴシゴシと涙を拭く。
泣いてる場合じゃない。ちゃんと強くならなきゃ。大丈夫、ハンスさんは必ず帰って来てくれる。だって手紙にハンスさんの字でそう書いてあるんだから。帰ってきてくれたときにがっかりさせたくない。もっと強くなって、中身も素敵な大人の女性にならないと。
自分に強く言い聞かせて、気合いを入れて立ち上がる。まずは朝ごはんを食べなくちゃ。
それからは、言いつけを守りきちんと規則正しく過ごした。剣術だってもう村の中では私より強い人はいない。素敵な女性になるべく、お姉さんたちに色々なことを教わった。
私が取り乱して寝間着で村中走り回ったせいだと思うけど、男の人たちからも遊び以外の色々なお誘いがあった。手合わせとか魚釣りみたいな遊び以外はもちろん全部断った。手紙にもそうしろって書いてあったもん。私はハンスさん以外の人のお嫁さんになるつもりはないのだ。
ハンスさんが村を出ていってから一ヶ月を少し過ぎた頃、村にはとある噂が届くようになっていた。
ハンスさんが貴族様からの難しい依頼をこなして、貴族様たちからの覚えもめでたくなった、らしい。ハンスさんは私と同じ平民だから、貴族様に目をかけられるのはとてもすごいことみたい。さらに有名になって、稼げるお金も増えるかもしれないんだって。村の人たちはみんなすごい、流石だってその話題で持ちきりになっている。
私だってハンスさんがすごい人だって色んな人に知ってもらえて嬉しいし、誇らしく思う。でも本当は、これ以上有名にならなくていいから、お金なんてなくてもいいから……早く帰ってきてほしいな。
その数日後、別の噂が入ってきた。功績を認められたハンスさんが、その難しい依頼をした貴族様の御息女に見染められたんだって。そうなるのは当然といえば当然なのだ。だってハンスさんは強くてかっこよくてとても優しいんだから。
功績を挙げた噂の時はあんなに沸いていた村人たちも、今回の噂にはそこまで盛り上がっていなかった。そりゃすごいな、と言いつつ、私のことを心配してくれてる雰囲気を感じる。私も、少しもやもやとするけど、大丈夫。必ず帰ってくるって手紙に残してくれてるもん。
そのさらに数日後、今度はハンスさんが御息女の求婚を二つ返事で了承したなんて噂が入ってきた。
さすがの村人たちも愕然としている。そんなわけあるか、と噂を持ってきた行商人に怒っている人もいる。私もそんなことあるわけないと思ってる。ハンスさんのこと信じてるもん。信じてるけど……。
その後もハンスさんと御息女の噂がしつこいくらい流れてきた。村人たちが広めなくても行商の人たちが大きい声で話しているから、外に出ると嫌でも聞こえてきてしまう。
ハンスさんの名前が出ると、もしかしたら流れてる噂を否定するものかもしれない、と期待して意識を向けてしまうのだけど、結局はいつもと同じ噂。そんなわけないと思っていても、繰り返し聞かされるとなんだか本当にそうなんじゃないかって気がしてくる。
何も聞きたくなくて家に閉じこもるようになった私を心配して、お姉さんたちが代わりばんこに遊びに来てくれた。たくさんの人とワイワイお話ししている間は楽しくて気が紛れる。それでも夜は独りだから、昼間が楽しく過ごせている分余計に寂しい。
ハンスさん、早く帰ってこないかなぁ。ただいまって、噂は嘘だよって、独りにしてごめんねって、言って欲しい。あの優しいハスキーな声が聞きたい。寂しいよ。
何度も何度も繰り返し読み直した手紙はもうボロボロで、少しでも強く力を入れたらもう破れてしまいそうだった。
疑いたくないけど、信じたいけど、もしも全部本当のことだとしたら、あの声で別れを告げられたら、もう生きている意味もないなぁ……。
そんなことを考えてしまって、もう泣くのを我慢できそうになかった。
誰かの足音が聞こえた気がして、ふっと意識が浮上する。泣いているうちにいつの間にか寝てしまっていたみたい。まだ外は暗いけど、体感としてはもう少しで夜が明けそう。
こんな時間に、外を歩く人はほとんどいない。足音に意識を集中させる。
どうやら、随分と早い速度で走っているようだ。どんどん大きく、明らかにこの家に近付いて来ている。
知っている。この足音を、私はとても良く知っている。
考えるよりも先に体が動いた。寝室を飛び出し、玄関ホールに出るが早いか、玄関の扉が勢いよく開いた。思い切り手を伸ばすが、気持ちに足が追いつかない。でも、衝撃がくることはなかった。優しく抱き止められ、これ以上出ないと思っていた涙がまたボロボロとこぼれ落ちる。
「コンスタンツェ」
優しいハスキーな声。ずっとずっと聞きたかった声が、私の名前を呼んでいる。
「……っふ、う、ハンスさ……っ」
「ただいま、コンスタンツェ。ごめんな、独りにして、本当にごめん。寂しかったよな」
「っ、あいたかっ……たで……っ」
「待たせてごめんな」
頭を、背を撫でる大きな手が温かい。懐かしい香りは、少しタバコ臭さが強くなっていて、出会った頃のよう。男らしい胸板に顔を押し付け、強く強く抱きしめる。
「もう、いなくっならないで……」
「うん」
「わた、私、ちゃんと鍛錬、つづけました」
「うん」
「男の人たちからの、お誘いも、ちゃんと断りました」
「うん、うん」
「お姉さんたちから、色んなことを、教わりました」
「うん……うん?」
「私、私、うんとがんばりました! でも、私は、ハンスさんのお嫁さんに、ふさわしい大人の女性になれているかわかりません。貴族様の御息女よりも魅力的な存在に、なれている自信がありません」
「! その話なんだが……」
「……っ、私! ハンスさんのお嫁さんになりたいんです!どうしても、私にはあなたしかいないんです。ハンスさんの愛だけが、欲しい……」
「……コンスタンツェ……」
驚いたような、呆けたような、そんな声だ。困らせてしまったかもしれない。もしかして、本当に、噂は真実なのかもしれない。
コンスタンツェ、ともう一度名前を呼ばれる。真剣な声だ。どうしよう、返事を聞くのが怖い。
ゆるゆると顔を上げると、想像よりもずっと真剣な水色の瞳と目が合った。涼しげな色の奥に燃えるような強い熱情が見えて背筋がぞくりとする。
「やっぱり、噂は届いていたのか……」
「は、はい……」
「あれは、半分真実だが、もう半分は全くのでたらめだ」
「半分、真実……」
「貴族の依頼を受けて達成して、その後求婚されたところまでは確かに真実だが、そのあとに続く部分は全くのでたらめだ。いいか、真実なのは依頼達成の方だぞ。俺はご令嬢の求婚はすぐに、何度も、断った」
「断った……」
私がまさか御息女との関係の部分が真実なのでは、と勘違いしてしまいそうなのが伝わったのか、すぐにはっきり否定された。そっか、ハンスさんは、しっかり断っていたんだ。噂が嘘だったんだ。
「俺には、コンスタンツェがいるからな」
「!!」
「俺のお嫁さんになってくれるんだろ?」
私、ハンスさんのお嫁さんにしてもらえるの? 本当に? 夢じゃない?
何度も何度も本当かどうか聞いてしまうけど、面倒臭い顔もせず優しい笑顔で何度だって肯定してくれた。嬉しい、嬉しい! 私、本当にハンスさんのお嫁さんにしてもらえるんだ!
「あの! あの……本当に嬉しくって……その……キスしても、いいですか……?」
「いや、そういうのは男側からするもんだ。コンスタンツェ、いいか?」
「は、はい。……んむ」
触れるくらいの軽く優しいキスだったけど、まさか、唇にしてくれるとは思わなかった。今の私、多分顔が真っ赤だ。恥ずかしい。けど嬉しい。
「えへ、えへへ、これで赤ちゃんが宿ってくれるんですね!」
「?! ちょっと待て、どうしてそうなる?!」
「え? 唇同士でキスすれば、女性のお腹に命が宿るんじゃないんですか?」
「いやいやいや、違う、流石にそれはない」
「じゃあ、どうしたら赤ちゃんって宿るんですか?」
首を傾げると、ハンスさんは笑顔のままピシリと固まり天井を仰いだまま動かなくなってしまった。
少しの間そうしていたが、小さい声でその話はまた後でね、と呟いたのが聞こえた。
夜明けを待ってから、二人で連れ立って村長さんのお宅を訪れる。道すがら出会った村人たちはみんな、ハンスさんに声をかけるよりもまず私に良かったなと労いの言葉をかけてくれた。ハンスさんは全くの蚊帳の外で、バツが悪そうにしていた。
村長さんのお宅でも同じような感じだった。その場を和まそうとした冗談なのか本気なのかはわからないけど、もう少しハンスさんが帰ってくるのが遅かったら、村長さんの長男との結婚を進めようとしていたらしいことを村長さんに暴露され、二人して固まったあとホッと胸を撫で下ろしたのだった。
その後少ししてから、村総出で結婚式を挙げた。決して派手でも華やかでもないけど、村のみんなから祝福されて、隣にはハンスさんがいて。ずっとずっと夢見ていたことが叶ったのだ。嬉しくて、幸せで、何があってももう一生手離さないと決意したのだった。
どんな生き物であっても、光なくては生きられない。
どうしても、その柔らかくて暖かい光のそばにいたかった。例え近付きすぎて溶けてしまったとしても。それもいいと思えるのだ。
「コンスタンツェ、朝だぞ。起きろ~」
優しいハスキーな声に意識がゆるゆると浮上する。ぼんやりと目を開け、声の主をとらえる。
もっさり頭に無精髭。眠たそうな空色の瞳。視線が会うと、ふっと優しく細められるその目がとても好き。釣られて自分も口角が上がるのがわかる。
手を伸ばし、差し出された大きな手を握る。ゴツゴツした無骨な男の人の手。絶え間ない努力が感じられるその手がとても好き。触れて、その存在が今日も確かにそこにいることに安堵する。夢じゃない。
嬉しい。幸せだ。
泣きたくなるような幸福感に満たされて、私は今日も最高の朝を迎えた。
「おはようございます、ハンスさん。今日も、大好きです!」
私はコンスタンツェ。姓はない。
好きなものはテーブルの向かいで一緒に朝食を食べているハンスさん。他には特にない。
「ん? なんだ、もっと食べるか?」
もぐもぐと動く彼の口元をじっと見ているうちに、いつの間にか自分の分を食べ終わっていたみたい。満腹感か幸福感かわからないけど、満足感はあるので首を横に振る。
「遠慮せずたくさん食べな、大きくなれないぞ」
キッチンに向かいながら私の頭をぽんと撫でて行く。温かい大きな手。好き。
「本当はもっと大きいですもん」
「そうだなぁ」
「もう! 信じてください!」
にやける頬を隠してわざと拗ねたような声を上げる。このいつものやりとりも好き。
信じてもらえなくたっていい。いつ解けるかわからない呪いのせいで、私の身体はいつまで経っても子供のまま。
でもこの大きさだから抱っこもハグも躊躇せずしてもらえる。人目を気にせず思い切り甘えられる。悪いことばかりでもない。
唯一悪いことと言えば。
「ハンスさん、大好き。お嫁さんにして下さい!」
「成人したらね」
「成人してるんですってば~!」
ハンスさんに女として見てもらえないってこと。これが一番悪い。
ハンスさんは冒険者だ。私はあまり詳しくないけど、この国で五本の指に入る実力者らしい。ハンスさんは自分語りをしないので、これまでどんなすごいことをしたかは全部人伝えに聞いたことだけど、語られる武勇伝は確かに凡人には成し遂げられない偉業ばかりだった。
本人は腕っぷしはそこまで強くないと言っているけど、強くないわけがない。お荷物でしかない私を守りながら依頼をこなしているのだから。
私もいつまでもお荷物でいたくないから、ハンスさんに剣術を教えてもらってる。存外才能があったみたいで、お邪魔にならない程度にはなれているみたい。役に立てて嬉しい。ハンスさんが褒めてくれるのが一番嬉しい。がんばろう。
今日は朝早くから出発して依頼に向かう。
眠気の残る目を擦っていると、早朝からごめんな、と謝られる。大丈夫、私はハンスさんの行くところだったらどこにでも行くよ。ハンスさんのためならなんだってできるよ。
ハンスさんはモテる。本人は平凡だしモテたことなんかないよと言っていたけど、とってもかっこいいし、優しいし、紳士だし、包容力のある大人の男性だ。有名な冒険者という肩書きも効果がありそうだけど、一番は人柄がモテるんだと思う。
だから私は、ハンスさんが女の人と話しているのを見ると気が気じゃない。女の人がハンスさんを好きになっちゃったらどうしよう。今の子供の姿の私ではどうがんばってもお嫁さんにしてもらえない。私以外の誰かと結婚する未来なんて、想像したくない。でも、このままだといつかそうなってしまいそうで怖くてたまらない。
酒場でお昼ご飯を食べている時に、ハンスさんと話していたスタイルのいい女の人に、思い切ってこっそり聞いてみる。男の人に意識してもらうにはどうしたらいいか、と。
私とハンスさんを交互にチラリとみた女の人は、ニンマリと楽しそうな顔をした後、こっそりと色々教えてくれた。
よくわからないテクニック?も教えてもらった。そっちは意味が理解できなかったけど、それ以外はとりあえず実践あるのみだ。
その夜こっそりハンスさんのベッドに忍び込んだら、私が女の人に何かを吹き込まれたことに気付いていたらしく、「余計なことしないで早く寝なさい。大きくなれないぞ」と叱られた。ちぇっ。
今日はハンスさんと喧嘩をしてしまった。どちらかというと私が悪い、いや、全面的に私が悪い。喧嘩ですらない。私がわがままを言ったのだ。
今日の依頼はとても危険なのだそう。だから私は留守番していろと言われた。危険だと言われても、少しの間だって離れたくなかった。私だって役に立てる、剣だって上手になった、いざとなったらハンスさんの盾にだって囮にだってなれる、と言ったら、今まで見たことないような怖い顔で怒られてしまった。
怖い、いやだ、捨てられてしまう、置いて行かれてしまう。行かないで、とは言えずただやだやだとしか言えない私を優しく振り解き、ハンスさんは出発してしまった。
ベッドの上で毛布を被って膝に顔を埋める。スカートが涙を吸ってぐしゃぐしゃだ。
ハンスさんと出逢う前は納屋で同じようにうずくまっていたのを思い出す。あの時よりも部屋も毛布も暖かいはずなのに、寒くてたまらない。雨でも降りそうなどんよりとした空模様に体が芯から冷えていくような心地がする。いつもそばにいてくれた温もりが恋しい。ちゃんと謝らなくちゃ。早く無事に帰ってきて欲しい。
ハンスさんが帰ってきたのは次の日の夜だった。とてつもなく長い時間が経ったと思っていたけど、そうでもなかったらしい。
慌ただしい足音のすぐ後に部屋の扉が乱雑に開かれる。昨日と全く同じ姿勢からゆるゆると顔をあげると、肩で息をするハンスさんがいた。現実味がなくて、珍しいなとぼんやり思う。
足早に近付いてきたと思ったら、毛布ごと強く抱きしめられる。俺が悪かった、と言われ、一瞬なんのことかわからなかった。
「寂しかったよな、ひとりにして本当にごめん」
そう言われ、喉がヒクッと詰まる。ハンスさんは悪くない、私が全部悪い、謝らなくちゃ、と思うのに、ボロボロと涙が溢れてしまい、なにも言葉にならなかった。そうだ、私は寂しかったのだ。私の背を撫でる大きな手が温かくて優しくて、私は声をあげて泣いた。
私が少し落ち着いた頃に、ハンスさんが遅めの夕飯を持ってきてくれた。そういえば、彼が出発してから何も口にしていない。空腹に気付いてお腹が鳴り恥ずかしくて俯く私を見て、一緒に食べよう、と微笑んでくれた。
子供みたいに甘えて、食べさせてもらった。しょうがないなと困ったように笑う姿に、ちゃんと帰ってきてくれたことを実感して幸福感で胸がいっぱいになる。
お腹もいっぱいになって、私はやっと謝ることができた。ハンスさんの邪魔をしたかったわけではないのだ。ただ役に立ちたかったし、そばにいたかったのだ。ハンスさんは私の話を静かに聞いてくれた。
そのあと、ハンスさんももう一度謝ってきた。そして、自分を犠牲にするようなことを言わないで欲しいとお願いされた。どうやら私がいざとなれば盾でも囮でも、と言ったのが許せなかったらしい。でも、本心なのだ。あなたのためならなんだってできる。そう伝えると真剣な目を向けられた。
「コンスタンツェが俺のことを大切に思ってくれてるのはよく分かった。けどな、俺だって同じ気持ちなんだ。危険な目に遭って欲しくはないし、安全なところで笑っていて欲しい」
「それでも離れたくないと言うなら、そうだな……俺が"一番安全な安心できる場所"になれるようもっと努力するしかないか……」
大泣きしたせいで酸欠なのか、頭がぽやぽやする。
嬉しい。ハンスさんも私のことを大切に思ってくれていたなんて。ハンスさんのそばが一番安全で安心できる場所なのは元より当たり前のことなのだ。こんなに幸せなことってない。
感極まってハンスさんに抱きつく。慣れたように頭をぽんぽんしてくれるのが本当に嬉しい。
ベッドに忍び込んで叱られたあの日から、寂しいときは一緒に寝てもいいとお許しがでた——そうでなくてもあれこれ理由をつけて一緒に寝てもらっているが——ので、今日も一緒のベッドで寝たい! と言ったら、しょうがないなと笑ってくれた。
なんだか身体中が痛い。服がきつい。不快な感覚に意識が浮上していく。薄く目を開けると、信じられないものを見たような驚愕の表情で固まるハンスさんが見えた。
おはようございます、と言う自分の声がなんだかいつもと違って少しだけ低い。昨日泣きすぎたからかもしれない。それより不思議なのは、ハンスさんから挨拶が返って来ないことだ。
「ハンスさん? どうし…… 」
「!!! 待て! 起きるな! そのままいろ!!」
「えっ?」
「いいか、絶対に毛布を取るなよ。部屋からも出るな!」
「えっ、えっ? なんでですか?」
「いいから! 俺はちょっと出かけてくる、すぐ戻るから! いいか、部屋から出ず、誰も入れるなよ!!」
「えぇ? あっ……」
引き留める間もなくあっという間に出ていってしまった。何が何だかわからない。
とりあえずきつい服をどうにかしたくて毛布の中を覗こうとして、自分の手と腕に違和感を感じた。
どう見ても子供の手じゃない。
まさか、と期待と興奮でバサリと毛布を剥ぎ取ると、大人の女性のものとしか思えない身体が目に入った。子供用の寝間着がきついわけだ。ワンピースタイプだから丈も足りてなくてギリギリ隠せてない。ちょっと見えてる。
ゆったりした寝間着でよかった。きついけど着ていられないほどではない。
着替えもないので、言われた通り大人しく毛布にくるまってハンスさんが戻るのを待つ。着替えを買ってきてくれるつもりなんだと思う。
ハンスさんは思ったよりもすぐに戻ってきた。昨日帰ってきた時よりも取り乱してる。少し離れたところから着替えを投げ渡してすぐ部屋から出てしまった。着替えろってことなんだと思う。
すごく簡素な、悪く言えば地味なごく一般的な服だった。着てみるとちょっと胸の辺りがきつかった。
呪いが解けた。理由はわからないが、解けたのだ。
嬉しくて、部屋に入ってきたハンスさんに抱きついたら、優しく解かれて一歩距離を取られた。なんで?
でも、これでちゃんと成人してるってことを信じてもらえるし、そうなればお嫁さんにしてもらえるかもしれない。
「どうですか? 本当だったでしょう? ちゃんとおっきくなりましたよ!」
「そ、そうだね……」
「ちゃんと大人です!」
ドヤ! と胸を張る。
ハンスさんは、曖昧ななんとも言えない表情で少し狼狽えているように見える。一緒に喜んでくれると思ってたのに、良かったなって抱きしめて撫でてくれると思ってたのに。嬉しくないのかな。なんだか悲しくなってしまって少し俯いてしまう。
「……っ! いやー、呪いが解けて良かったな! 今日はお祝いしようか! コンスタンツェはどうしたい?! 」
明るい声が聞こえて顔を上げると、いつもと同じ優しい笑顔が目に入った。
「お祝い、してくれるんですか? 呪いが解けて、嬉しいですか?」
「もちろんだよ。見慣れなかったから少しびっくりしたんだ。ごめんな。さあ、お祝いの計画を立てよう」
「はい! ……あ、あの、その前にお願いがあるんですけど……」
「ん? なんだ?」
「いつもみたいに、ぎゅっとして頭を撫でて欲しいです……」
改めて自分から伝えるとちょっと恥ずかしくてもじもじしてしまう。ハンスさんは何も言わずお願いを聞いてくれた。頭をヨシヨシされながら、良かったなとか、頑張ったなとか、優しいハスキーな声が降ってくるのがたまらなく幸せで、私もハンスさんをぎゅっと抱きしめる。背が伸びたおかげで、ちょうど顔がハンスさんの胸の辺りにくる。それも嬉しくて思わず頰ですりすりした。
お祝い計画は、やりたいことがたくさんあってなかなか決められなかった。ゆっくり考えるといいよ、と笑ってくれたので、急がずじっくり考えることにした。
部屋で朝食を食べた後、ハンスさんの外套を借りて宿の外に出る。急ぎでやらなくてはいけないとても大事なことがあるらしく、そのまま冒険者ギルドに向かう。
ギルドの入り口には、いつも優しくしてくれる年配の受付のおばさんがいた。私の事情を知っていて、色々と世話を焼いてくれるのだ。
知らない間にハンスさんが連絡していたらしい。良かったわね~と抱きしめられる。嬉しい。お母さんみたいで、受付のおばさんもハンスさんの次に好き。
おばさんの話だと、女の人は大人になると色々と必要なものが増えるのだそう。そういった諸々を揃えに行くのが「急ぎの大事なこと」みたい。ハンスさんは男性だから詳しくないんだって。
途中ハンスさんと別行動を取ったりしながら、最低限の必需品を揃えて宿に戻る頃にはもう夕方で、もうヘトヘトだった。大人の女性って大変なんだな。
でも服も下着もぴったりな大きさになったおかげでとても動きやすくなった。またあとで、おばさんとかわいい服を買いに行くことになっている。ハンスさんにかわいいって言ってもらえたら嬉しいな。
その夜、大人になったのだから寝る部屋を別々にする、とハンスさんに言われて盛大に大泣きして駄々をこねた。最終的にハンスさんが折れて同室のままになったけど、ベッドは部屋の端と端に離された。ならば、とハンスさんが寝た頃を見計らってベッドに忍び込んだら、大人の女性なら慎みを持ちなさい! と叱られて追い出されてしまった。ちぇっ。
最近はハンスさんの依頼の関係でしばらく大きな街にいたのだが、ひと段落ついたため久しぶりに拠点の家がある村に帰ることになった。
なんだか呪いが解けてから、知らない男の人に話しかけられたり嫌な視線を感じることがものすごく増えていて精神的に疲れていたから、家に帰れるのがいつもよりも楽しみ。早く帰りたいな。
注文していた甲胄も昨日届いている。あまりにも絡まれる私を見かねて、顔を隠した方がいいかもなとハンスさんに提案されたのだ。身体を触ろうとしてくる人もいたから、せっかくなので顔だけじゃなくて身体も隠せるものがいいと思って、全身鎧にしてもらった。ハンスさんはなんとなく微妙な顔をしていたけど……。
それに酒場のお姉さんが言っていた。ギャップ萌えというものがあるって。普段見せない意外な一面を見ると、その差で恋に落ちてしまうんだとか。あとは男の人は女の人が普段隠している胸とかお尻とかの柔らかいところが好きだから、ここぞという時にさり気なく見せるといいんだって。だから、普段は甲胄を着ていてハンスさんの前でだけ薄着になれば、ドキドキして好きになってもらえて、お嫁さんにしてもらえるはず!
決意を胸に甲胄を着込み、ハンスさんと連れ立って村へと出発した。
その道中、薄着作戦を実行したら、ハンスさんは困ったような顔をするだけで、ドキドキしてるようにはあんまり見えなかった。なんだか無性に悔しくなって、寝る時に薄着のままハンスさんに抱きついてやった。慎みを持て、と怒られて引き剥がされそうになったけど、意地でも離さなかった。私が離さないことがわかると諦めて、背中なら、とお許しが出た。存分にすりすりした。いい気分。
何日かして、ようやく村にたどり着いた。
顔見知りの門番さんは、大きくなった私を見てびっくりしていたけど、よかったな、と言ってくれてとても嬉しかった。家に向かう道すがらや村長さんのお宅でも会う人みんなに驚かれたけど、元々私の事情を知っているので、みんながみんなお祝いの言葉をかけてくれた。暖かい人ばかりだから、私はこの村が好きなのだ。
でも、村の中ではヘルムは外していても甲胄は着たままでいた。薄着作戦はまだ続いているのだ。ハンスさんもそれがいいと言ってくれたから、これからも遠慮なくそうする予定だ。
村での生活はとても穏やかで、時間の流れがゆっくりとしていた。剣術の鍛錬も欠かさずしていたおかげで、大きくなった身体を動かすのにも不自由はない。
友達とかけっこや魚釣りをして遊んだり、お姉さんたちにハンスさんとのあれこれを根掘り葉掘り聞かれたり、ハンスさんに薄着作戦や他の作戦で迫って慎みを持てと怒られたり、楽しくて充実した日々を過ごしていたある朝、ハンスさんが姿を消した。
はじめは、ハンスさんの方が早起きなので寝室にいないだけかと思った。でも、家のどこにもいない。庭にもいない。出かけるなら書き置きを残してくれるはずなのにそれもない。
甲胄を着るのも忘れて村中を探し回ったけど、どこにもいない。どこにもいないのだ。
どうして? まさか嫌われてしまったの? だから置いていったの? 急に体が冷えてきて震える。我慢できず、涙が溢れてしまう。
村の端で呆然とへたり込んでいると、騒ぎを聞きつけたお姉さんたちが慌ててやってきて上着を羽織らせてくれた。そういえば寝間着のままだった。気にする余裕もなかった。
お姉さんたちに慰められながらなんとか立ち上がったところで、騒ぎを聞きつけた村長さんが早足でやってきた。なんと、ハンスさんは夜明け前に突然村長さんのお宅に来て、私に渡してくれと手紙を押し付け、村長さんが何かを言う前にそのまま村を出て行ってしまったらしい。
震える手で手紙を受け取る。中身を見るのが怖くて、その場ではどうしても封を切れなかった。
お姉さんたちに支えてもらいながらなんとか家にたどり着き、ふらふらとベッドに倒れ込む。すでに冷えきり温もりのカケラも感じられないベッドが、ハンスさんがいないことを嫌でも分からせてくる。泣きすぎて涙がしみる。
握りしめてくしゃくしゃになってしまった手紙。何が書いてあるのかわからなくて怖い。でも、わざわざ村長さんに預けたものなのだ。意を決して開封する。
手紙には色々なことが書き込められていた。何度も何度も読み直し、ゴシゴシと涙を拭く。
泣いてる場合じゃない。ちゃんと強くならなきゃ。大丈夫、ハンスさんは必ず帰って来てくれる。だって手紙にハンスさんの字でそう書いてあるんだから。帰ってきてくれたときにがっかりさせたくない。もっと強くなって、中身も素敵な大人の女性にならないと。
自分に強く言い聞かせて、気合いを入れて立ち上がる。まずは朝ごはんを食べなくちゃ。
それからは、言いつけを守りきちんと規則正しく過ごした。剣術だってもう村の中では私より強い人はいない。素敵な女性になるべく、お姉さんたちに色々なことを教わった。
私が取り乱して寝間着で村中走り回ったせいだと思うけど、男の人たちからも遊び以外の色々なお誘いがあった。手合わせとか魚釣りみたいな遊び以外はもちろん全部断った。手紙にもそうしろって書いてあったもん。私はハンスさん以外の人のお嫁さんになるつもりはないのだ。
ハンスさんが村を出ていってから一ヶ月を少し過ぎた頃、村にはとある噂が届くようになっていた。
ハンスさんが貴族様からの難しい依頼をこなして、貴族様たちからの覚えもめでたくなった、らしい。ハンスさんは私と同じ平民だから、貴族様に目をかけられるのはとてもすごいことみたい。さらに有名になって、稼げるお金も増えるかもしれないんだって。村の人たちはみんなすごい、流石だってその話題で持ちきりになっている。
私だってハンスさんがすごい人だって色んな人に知ってもらえて嬉しいし、誇らしく思う。でも本当は、これ以上有名にならなくていいから、お金なんてなくてもいいから……早く帰ってきてほしいな。
その数日後、別の噂が入ってきた。功績を認められたハンスさんが、その難しい依頼をした貴族様の御息女に見染められたんだって。そうなるのは当然といえば当然なのだ。だってハンスさんは強くてかっこよくてとても優しいんだから。
功績を挙げた噂の時はあんなに沸いていた村人たちも、今回の噂にはそこまで盛り上がっていなかった。そりゃすごいな、と言いつつ、私のことを心配してくれてる雰囲気を感じる。私も、少しもやもやとするけど、大丈夫。必ず帰ってくるって手紙に残してくれてるもん。
そのさらに数日後、今度はハンスさんが御息女の求婚を二つ返事で了承したなんて噂が入ってきた。
さすがの村人たちも愕然としている。そんなわけあるか、と噂を持ってきた行商人に怒っている人もいる。私もそんなことあるわけないと思ってる。ハンスさんのこと信じてるもん。信じてるけど……。
その後もハンスさんと御息女の噂がしつこいくらい流れてきた。村人たちが広めなくても行商の人たちが大きい声で話しているから、外に出ると嫌でも聞こえてきてしまう。
ハンスさんの名前が出ると、もしかしたら流れてる噂を否定するものかもしれない、と期待して意識を向けてしまうのだけど、結局はいつもと同じ噂。そんなわけないと思っていても、繰り返し聞かされるとなんだか本当にそうなんじゃないかって気がしてくる。
何も聞きたくなくて家に閉じこもるようになった私を心配して、お姉さんたちが代わりばんこに遊びに来てくれた。たくさんの人とワイワイお話ししている間は楽しくて気が紛れる。それでも夜は独りだから、昼間が楽しく過ごせている分余計に寂しい。
ハンスさん、早く帰ってこないかなぁ。ただいまって、噂は嘘だよって、独りにしてごめんねって、言って欲しい。あの優しいハスキーな声が聞きたい。寂しいよ。
何度も何度も繰り返し読み直した手紙はもうボロボロで、少しでも強く力を入れたらもう破れてしまいそうだった。
疑いたくないけど、信じたいけど、もしも全部本当のことだとしたら、あの声で別れを告げられたら、もう生きている意味もないなぁ……。
そんなことを考えてしまって、もう泣くのを我慢できそうになかった。
誰かの足音が聞こえた気がして、ふっと意識が浮上する。泣いているうちにいつの間にか寝てしまっていたみたい。まだ外は暗いけど、体感としてはもう少しで夜が明けそう。
こんな時間に、外を歩く人はほとんどいない。足音に意識を集中させる。
どうやら、随分と早い速度で走っているようだ。どんどん大きく、明らかにこの家に近付いて来ている。
知っている。この足音を、私はとても良く知っている。
考えるよりも先に体が動いた。寝室を飛び出し、玄関ホールに出るが早いか、玄関の扉が勢いよく開いた。思い切り手を伸ばすが、気持ちに足が追いつかない。でも、衝撃がくることはなかった。優しく抱き止められ、これ以上出ないと思っていた涙がまたボロボロとこぼれ落ちる。
「コンスタンツェ」
優しいハスキーな声。ずっとずっと聞きたかった声が、私の名前を呼んでいる。
「……っふ、う、ハンスさ……っ」
「ただいま、コンスタンツェ。ごめんな、独りにして、本当にごめん。寂しかったよな」
「っ、あいたかっ……たで……っ」
「待たせてごめんな」
頭を、背を撫でる大きな手が温かい。懐かしい香りは、少しタバコ臭さが強くなっていて、出会った頃のよう。男らしい胸板に顔を押し付け、強く強く抱きしめる。
「もう、いなくっならないで……」
「うん」
「わた、私、ちゃんと鍛錬、つづけました」
「うん」
「男の人たちからの、お誘いも、ちゃんと断りました」
「うん、うん」
「お姉さんたちから、色んなことを、教わりました」
「うん……うん?」
「私、私、うんとがんばりました! でも、私は、ハンスさんのお嫁さんに、ふさわしい大人の女性になれているかわかりません。貴族様の御息女よりも魅力的な存在に、なれている自信がありません」
「! その話なんだが……」
「……っ、私! ハンスさんのお嫁さんになりたいんです!どうしても、私にはあなたしかいないんです。ハンスさんの愛だけが、欲しい……」
「……コンスタンツェ……」
驚いたような、呆けたような、そんな声だ。困らせてしまったかもしれない。もしかして、本当に、噂は真実なのかもしれない。
コンスタンツェ、ともう一度名前を呼ばれる。真剣な声だ。どうしよう、返事を聞くのが怖い。
ゆるゆると顔を上げると、想像よりもずっと真剣な水色の瞳と目が合った。涼しげな色の奥に燃えるような強い熱情が見えて背筋がぞくりとする。
「やっぱり、噂は届いていたのか……」
「は、はい……」
「あれは、半分真実だが、もう半分は全くのでたらめだ」
「半分、真実……」
「貴族の依頼を受けて達成して、その後求婚されたところまでは確かに真実だが、そのあとに続く部分は全くのでたらめだ。いいか、真実なのは依頼達成の方だぞ。俺はご令嬢の求婚はすぐに、何度も、断った」
「断った……」
私がまさか御息女との関係の部分が真実なのでは、と勘違いしてしまいそうなのが伝わったのか、すぐにはっきり否定された。そっか、ハンスさんは、しっかり断っていたんだ。噂が嘘だったんだ。
「俺には、コンスタンツェがいるからな」
「!!」
「俺のお嫁さんになってくれるんだろ?」
私、ハンスさんのお嫁さんにしてもらえるの? 本当に? 夢じゃない?
何度も何度も本当かどうか聞いてしまうけど、面倒臭い顔もせず優しい笑顔で何度だって肯定してくれた。嬉しい、嬉しい! 私、本当にハンスさんのお嫁さんにしてもらえるんだ!
「あの! あの……本当に嬉しくって……その……キスしても、いいですか……?」
「いや、そういうのは男側からするもんだ。コンスタンツェ、いいか?」
「は、はい。……んむ」
触れるくらいの軽く優しいキスだったけど、まさか、唇にしてくれるとは思わなかった。今の私、多分顔が真っ赤だ。恥ずかしい。けど嬉しい。
「えへ、えへへ、これで赤ちゃんが宿ってくれるんですね!」
「?! ちょっと待て、どうしてそうなる?!」
「え? 唇同士でキスすれば、女性のお腹に命が宿るんじゃないんですか?」
「いやいやいや、違う、流石にそれはない」
「じゃあ、どうしたら赤ちゃんって宿るんですか?」
首を傾げると、ハンスさんは笑顔のままピシリと固まり天井を仰いだまま動かなくなってしまった。
少しの間そうしていたが、小さい声でその話はまた後でね、と呟いたのが聞こえた。
夜明けを待ってから、二人で連れ立って村長さんのお宅を訪れる。道すがら出会った村人たちはみんな、ハンスさんに声をかけるよりもまず私に良かったなと労いの言葉をかけてくれた。ハンスさんは全くの蚊帳の外で、バツが悪そうにしていた。
村長さんのお宅でも同じような感じだった。その場を和まそうとした冗談なのか本気なのかはわからないけど、もう少しハンスさんが帰ってくるのが遅かったら、村長さんの長男との結婚を進めようとしていたらしいことを村長さんに暴露され、二人して固まったあとホッと胸を撫で下ろしたのだった。
その後少ししてから、村総出で結婚式を挙げた。決して派手でも華やかでもないけど、村のみんなから祝福されて、隣にはハンスさんがいて。ずっとずっと夢見ていたことが叶ったのだ。嬉しくて、幸せで、何があってももう一生手離さないと決意したのだった。
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