21 / 75
第21話 父と息子
しおりを挟む
ガイアナ姫との決闘を終えた、その日の夜。
クルスの自宅では、何かが起きようとしていた。
「クルス、ちょっと話がある」
外に出ようとするクルスを、ナツヤが呼び止めた。
ゴツイ手の人差し指で示す。
「そこに座れ」
食卓の椅子をすすめられる。
クルスは無言で座った。
父と息子は、しばし、無言で向かい合った。
緊張が走る。
「お前、強くなったな」
先に口を開いたのは父の方だった。
その言葉と同時に、ナツヤの顔はクシャクシャになった。
顔には満面の笑みが張り付いている。
「ん、ああ……」
あえて無表情のクルス。
彼は居心地が悪そうに目を逸らし、素っ気なく頷いた。
「俺との剣術修業以外に、モンスター狩りをして鍛えていたなんて感心する。しかも、村の治安まで維持していたのだから誇りに思う。今も、モンスターを狩りに行こうとしていたんだろう?」
「いや、パン屋に忘れ物したから取りに行こうとしただけだよ」
それは嘘じゃない。
クルスがモンスター狩りに行くのは、皆が寝静まってからだ。
「まあ、いい。お前がモンスター狩りをしていたことは、親として話して欲しかった。親子で隠し事は良くないからな。いいか? モンスター狩りは良いことだ。だがな、万一、お前に何かあったら……」
「大丈夫だよ。もう、いい?」
クルスはナツヤの言いたいことが何となく分かっている。
だから、この会話を切り上げたかった。
「いや、待て。父さんはな、お前に話したいことがあるんだ」
クルスは聞きたくないと思った。
だが、ナツヤの真っすぐな目を見て、このまま席を立つのは息子として、どうなのかと思った。
「お前、ラインハルホ城の騎士になれ」
「……何だよ、それ。やだよ」
クルスは不貞腐れて見せた。
もう何度も交わした親子のやり取りだ。
だが、今日だけは違う。
あんな出来事のあった後だ。
ナツヤの言葉にはっきりとした確信めいた力がこもっている。
「あのガイアナ姫が自ら出向いて、お前と戦いたいと誘ってくれたんだぞ!」
「知らねーよ! そんなの。勝手に決めんなよ!」
クルスはナツヤと目を合わせたくなかった。
ナツヤが次に発するであろう言葉を聞きたくなかったからだ。
「パン屋なんてな、長く続かない」
ズシッ!
クルスの心にその言葉がめり込む。
「そんなことより、ガイアナ姫と魔王討伐の旅に出ろ。成功すれば、いずれは……ラインハルホ城の騎士、否、もっと地位の高い……」
「うるさいな! パン屋のことは親父には関係ないだろっ!」
おかしいな……
いつからこんな関係になってしまったんだろう。
クルスはそう思うと、涙が出そうになる。
「じゃあ、お前はアティナちゃんのことをどう思っているんだ? 安定していない商売で、彼女を幸せに出来るのか?」
「だから、頑張ってるんじゃないか!」
パン屋は儲からなくなって来ていた。
デルマンが格安で小麦を仕入れて安いパンを売り始めたからだ。
ラインハルホ城でも、競合する店が沢山出来始めている。
つづく
クルスの自宅では、何かが起きようとしていた。
「クルス、ちょっと話がある」
外に出ようとするクルスを、ナツヤが呼び止めた。
ゴツイ手の人差し指で示す。
「そこに座れ」
食卓の椅子をすすめられる。
クルスは無言で座った。
父と息子は、しばし、無言で向かい合った。
緊張が走る。
「お前、強くなったな」
先に口を開いたのは父の方だった。
その言葉と同時に、ナツヤの顔はクシャクシャになった。
顔には満面の笑みが張り付いている。
「ん、ああ……」
あえて無表情のクルス。
彼は居心地が悪そうに目を逸らし、素っ気なく頷いた。
「俺との剣術修業以外に、モンスター狩りをして鍛えていたなんて感心する。しかも、村の治安まで維持していたのだから誇りに思う。今も、モンスターを狩りに行こうとしていたんだろう?」
「いや、パン屋に忘れ物したから取りに行こうとしただけだよ」
それは嘘じゃない。
クルスがモンスター狩りに行くのは、皆が寝静まってからだ。
「まあ、いい。お前がモンスター狩りをしていたことは、親として話して欲しかった。親子で隠し事は良くないからな。いいか? モンスター狩りは良いことだ。だがな、万一、お前に何かあったら……」
「大丈夫だよ。もう、いい?」
クルスはナツヤの言いたいことが何となく分かっている。
だから、この会話を切り上げたかった。
「いや、待て。父さんはな、お前に話したいことがあるんだ」
クルスは聞きたくないと思った。
だが、ナツヤの真っすぐな目を見て、このまま席を立つのは息子として、どうなのかと思った。
「お前、ラインハルホ城の騎士になれ」
「……何だよ、それ。やだよ」
クルスは不貞腐れて見せた。
もう何度も交わした親子のやり取りだ。
だが、今日だけは違う。
あんな出来事のあった後だ。
ナツヤの言葉にはっきりとした確信めいた力がこもっている。
「あのガイアナ姫が自ら出向いて、お前と戦いたいと誘ってくれたんだぞ!」
「知らねーよ! そんなの。勝手に決めんなよ!」
クルスはナツヤと目を合わせたくなかった。
ナツヤが次に発するであろう言葉を聞きたくなかったからだ。
「パン屋なんてな、長く続かない」
ズシッ!
クルスの心にその言葉がめり込む。
「そんなことより、ガイアナ姫と魔王討伐の旅に出ろ。成功すれば、いずれは……ラインハルホ城の騎士、否、もっと地位の高い……」
「うるさいな! パン屋のことは親父には関係ないだろっ!」
おかしいな……
いつからこんな関係になってしまったんだろう。
クルスはそう思うと、涙が出そうになる。
「じゃあ、お前はアティナちゃんのことをどう思っているんだ? 安定していない商売で、彼女を幸せに出来るのか?」
「だから、頑張ってるんじゃないか!」
パン屋は儲からなくなって来ていた。
デルマンが格安で小麦を仕入れて安いパンを売り始めたからだ。
ラインハルホ城でも、競合する店が沢山出来始めている。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
異世界修行の旅
甲斐源氏
ファンタジー
何事にも無気力な少年が雷に打たれて死んだ。目の前に現れた神様に奈落へと落とされてしまう。そこでの修行は厳しく、何度も死んでも修行は続いた。そして、修行の第1段階を終えた少年は第2段階として異世界に放り込まれる。そこで様々な人達と出会い、成長していくことになる。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる