ヒロインなんかほっといて、主人公は異世界で静かに幼馴染とパンを焼いていたい

yonechanish

文字の大きさ
65 / 75

第65話 商談

しおりを挟む
 港から船に架けられた橋の上を、人々と荷物が移動する。
 トラキオ行きの船内に人と荷物が入って行く。
 その中には、エスティアの様な奴隷として売られて行く獣人の姿もあった。

「とりあえず、この獣人の値段だが、スタートは金貨500枚からでどうだ?」

 ロザベッティがエスティアを指差し、提案する。
 オークションの開始値のことだろう。

「まぁ……いいだろう」

 ゲロルグはちょっと考えてそう答えた。
 そして、こう続けた。

「じゃ、分け前はいつもの様に、俺が6、ロザベッティが4ということで」

 ゲロルグがそう言うと、ロザベッティの顔色が曇った。

「いや、俺が7で、ゲロルグが3だ」
「何だって? それじゃわしの儲けがほとんどないじゃないか! ……それどころか赤字になる可能性だってあるっ!」

 慌てるゲロルグに対して、ロザベッティは嘲笑する様に首をすくめた。

「おいおい。ゲロルグお前な、俺がいなかったらオークションにも出れないんだぞ。分かってるのか?」

 二人の商人は金銭のやり取りでもめ始めた。
 クルスはその醜い争いを見て、さらに胸糞が悪くなった。
 エスティアの目から涙がこぼれている。
 それを見たクルスは、いてもたっても居られなくなった。

「じゃっ、僕がエスティアを買います!」

 気付いたら、クルスはエスヒアの前に立ち、そう叫んでいた。
 ゲロルグとロザベッティの顔は、キョトンとしたままピクリとも動かない。
 当のエスティア本人は、目を見開きクルスのことをじっと見ていた。

 しばしの沈黙。

 その後、ゲロルグの細い吊り目が怪しく光った。

「ほほう。いくら出せる?」

 口の端をニヤリと上げ、嫌らしい笑みを浮かべている。
 その顔は奴隷商人そのものといった醜いものだった。

 クルスの旅はここで終わった。

 だから、金を沢山もっていようが、仕方が無いと思っていた。

 ならば、弱き者を救うために、盛大に使い切ってやろうと思ったのだ。

「あんたからさっき、報酬としてもらった金貨全部と引き換えに、エスティアを僕に……くれっ!」

 ゲロルグはゆっくと首を横に振った。

「旅の人……。それでは全然足りませんなぁ」

 ゲロルグから報酬としてもらった金貨は50枚だった。
 それでも足りないらしい。

「くっ……。何だとっ。僕はあなたの命を救ったじゃないか。それを考慮すれば……」
「だから、そのお礼に報酬を渡したじゃないですか。だから、あなたと、わしとは対等の関係……わしからすれば、あなたは命の恩人でも何でもない。ただの人……」

 ゲロルグの言葉に、クルスの前身は虫唾が走った。
 命を救ったことまで商売事の様に言われたら、人間としての温かさや人情も……元も子も無い。
 こんな最低な奴を助けるんじゃなかったと、後悔した。

「おい、ゲロルグ。オークションの方はいいのか?」

 ロザベッティがしかめっ面で問い掛ける。

「うむ。今回は辞退しよう。この男と商談した方が儲かりそうだからな」

 ゲロルグは冷たく笑った。
 儲けが多い方を取る。
 商売としては正しい。
 周りから嫌われたとしても。

「けっ、好きにしろや」

 ロザベッティは地面に唾を吐き、去って行った。

「分かった。いくらだ?」

 クルスの問いに、ゲロルグは手を顎に当て考えるそぶりを見せた。
 ゆっくりと二重顎が動き、言葉が発せられる。

「そうさな……。あなたもさっき、わしとロザベッティの会話を聞いただろう。まず、エスティアを手に入れるのに金貨200必要だった。そして、オークションの開始値は金貨500枚。エスティアのこの容姿だ。オークションに出せば、それ以上の値は付いただろう。……だから、まぁ、わしの手間賃とかその他諸々を考えると、これくらいは必要だな」

 ゲロルグは一本指を立て、こう言った。

「金貨1000枚だ」

つづく
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

異世界修行の旅

甲斐源氏
ファンタジー
何事にも無気力な少年が雷に打たれて死んだ。目の前に現れた神様に奈落へと落とされてしまう。そこでの修行は厳しく、何度も死んでも修行は続いた。そして、修行の第1段階を終えた少年は第2段階として異世界に放り込まれる。そこで様々な人達と出会い、成長していくことになる。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...