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調査4日目
土屋さんの資料
しおりを挟むホテルの部屋に戻ると、驚くほど整頓されていた。
あちこちに散乱していたはずの俺たちの荷物は端にまとめられ、椅子やベッドの端に無造作にかけられていた衣類はきちんと畳まれ、窓際の長椅子の上に分類して置かれている。
俺と水野さんを迎えたのは、美知佳さんだった。
だが、彼女はスマホで誰かと話しながら、忙しなく室内を動き回っている。
「机の上に資料」
そう、口パクで伝えてくる。
俺は片手を上げて感謝の意を示し、水野さんとともにエレベーター横の自販機で買ったペットボトルの水を片手に、部屋の中央の椅子に腰を下ろした。
目の前のテーブルには、数枚どころではない量の地図や手書きのメモが、無造作に広げられている。
「……これが、土屋さんの送ってくれた資料、ですか」
適当にめくってみると、年代の異なる地図がいくつも重ねられ、土地の移り変わりが一目でわかるようになっていた。
「コンビニでプリントアウトしたんですかね……」
呟きながら視線を巡らせると、近くのソファにノートパソコンと持ち運び用の小型プリンターが無造作に転がっていた。
床には白い紙が何枚か散乱しており、どうやらここで印刷したらしい。
「……これ、全部チェックするのか」
水野さんが資料の山を前に、げんなりとした様子でため息をつく。
「土屋さん、すごいですね」
怪我をしてなお、これだけの資料を集める。
一体どんな人物なのか、想像せずにはいられない。
「いや、多分バイトでも雇ったんじゃないかな」
「バイト……」
水野さんが資料をめくりながら頷く。
「ざっと見た感じ、地方史に載っているような地理情報もあるし、ネットのアーカイブだけじゃここまで網羅するのは難しいだろう。――元々、そういうのが得意な人だからね。正直『あやかし』が調査を続けていられるのは、土屋君の細かなリサーチのおかげとも言えるんだ」」
確かに、スマホのアプリやデータベースで閲覧できる地域の地図もあるが、たった一人でこれほど細かく土地の変遷を拾うのは至難の業だ。
「――あ。追加でこれも」
美知佳さんが、まだスマホを耳に当てたまま、一枚の紙を俺に差し出してきた。
受け取って礼を述べると、彼女は小さく笑い、また通話に戻る。
手渡された紙に視線を落とすと、それは手書きのノートのコピーのようだった。
カラーコピーなのか、薄く赤や黄色、青といった色が滲むように見える。
「へぇ……すごいな。わかりやすくまとめられてる」
机の上に広げ、水野さんにも見えるように置く。
上から順に目を通していくと、土地の利用推移が詳細に記されているようだった。
俺たちが滞在するこのビジネスホテル、そして「あの家」を含む周辺一帯の記録もある。
資料によれば、もともとこの地は海に面した小さな村だったらしい。
現在は海岸線沿いに工場地帯や漁港が広がっているが、遡ると――。
ここは海そのものだった。
紙の上の線と文字を追っていると、一枚の写真に目を奪われた。
用紙にプリントアウトされた白黒の画像。
解像度は微妙だが、石碑のような、大きな巨岩の塊が映し出されている。
静かな部屋の中で、俺は写真に見入ったまま、しばらく動けなかった。
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