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閑話

ミレッタの正体

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 足元には、陽光を受けて鈍く輝く魔石の山がこんもりと積み上げられていた。大きさも形もばらばらなそれらは、不規則に積まれながらも、どこか威圧感すら漂わせている。陽の光を浴びて鈍い光を反射し、まるで意思を持つかのように存在感を主張していた。


「……どうやって持って帰るつもりなのよ?」


 メイド服姿のキャリーンは、腰に手を当てながら憤慨し、呆れたように毒づいた。長いまつ毛を伏せ、ため息混じりに肩をすくめる。その視線の先では、赤毛の少女ミレッタが満面の笑みを浮かべながら、騎士たちに無邪気に手を振っている。長い耳をぴくぴくと動かし、さらに尻尾まで左右にぶんぶんと振るその姿は、まるで主人の帰宅を喜ぶ犬そのものだった。


 ――騎士たちは、その様子に遠巻きにしながらも、引き気味な表情を隠せていない。


「……尻尾まで振っちゃって、バカみたい」


 興奮気味に両手を振るミレッタの後ろ姿を見つめながら、キャリーンは呆れたように毒づいた。


 そもそも、こんなに長くライグリッサに滞在する予定はなかった。


 ミレッタが「居心地がいい」と言うから滞在し、「安全だから」と言うからしばらく留まっている。あくまで仮暮らしのつもりなのはミレッタもわかっているはずなのに、主である自分がいながら、あんなにもコーデリアに懐いてしまっている。
 別に、悔しいとかそういうことではない。


 ただ――。
 唯一絶対の主を定めたら、決して鞍替えしない神獣。
 ――そのはずなのに。



「キャリーン。ねぇ、コーデリア様、喜んでくれるかな?」


 開口一番、コーデリアの名前ばかり出すミレッタを睨みつけながら、キャリーンは長く息を吐く。 陽光を浴びて揺れるミレッタの赤毛が、微かに輝いた。


「それより魔石をどうやって持って帰るのよ?」


 厳しく問いただすと、ミレッタは少し考え、「んー、背中に乗せればよくない?」と、子供一人分以上はありそうな魔石の山を見やる。
 キャリーンは呆れながら騎士団に向かって声をかけた。


「ちょっと、これ、元屋敷まで持って行ってくれるかしら?」


 そう言うと、ひらりと背を向けて歩き出す。
 ミレッタはとことこと後を追いながら、首を傾げて尋ねた。


「キャリーン、どうして不機嫌なの?」


 ふわふわと揺れるスカートから覗く、立派な赤い尻尾を横目に見ながら、キャリーンはミレッタの頭の上からひょこっと立ち上がっている真っ赤な獣の耳を、ぐいっと引っ張る。


「考えなしのポンコツ狼。コーデリアに正体をバラすわよ?」
「わぁあん! キャリーン、それだけはやめてぇええええ!」



 ミレッタは縋りつき、涙目で懇願するが、キャリーンはふんっとそっぽを向いたまま、彼女を引きずるようにして歩き続けた。
 遠巻きにその様子を眺めていた騎士団の面々が、やや引き気味に口を開く。



「……うわぁ、本当にどうするんだ、これ」
「元お屋敷の魔素溜まりにぶち込むんだろ?」
「いや、それはいいけど、昼ご飯までに終わると思うか?」



 指差す方向には、先ほどまで魔物の群れがいたあたりに、さらに大きな魔石がいくつも点在している。
 ――子供一人分どころか、大岩ほどの魔石まで転がっているのだ。



「……丁寧に集めれば、昼飯の時間なんてとうに過ぎるな」



 そう呟いた次の瞬間だった。
 町へ向かう二人の少女のうち、赤毛の方の身体が、突如としてかき消えた。


 代わりに、そこに現れたのは――、小神殿ほどもある巨大な二つ尾の獣。


 場にいた全員が息を呑む中、その獣は伏せの体勢をとった。
 オレンジ色の髪のキャリーンが、巨大な耳を思い切り引っ張りながら、その首の後ろによじ登る。
 次の瞬間、二つ尾の大きな獣は悠々と空へと飛び去っていった。


「……なぁ。あれ、いつまで領地にいるんだ?」
「知らん。すぐに国に戻ると言っていた気がするが、三年は経つぞ」
「イェニー様が甘やかすからなぁ。キャリーン様は、隣国の王女様だっけ?」
「馬鹿、違う。元隣国の王女様だろ!」


 同僚の脇腹をつつきながら、視線を上げる。
 やがて小豆のように小さくなった赤い獣が、町の近くの平原の影へと消えていく。


 ――あれだけ目立つ動きをすれば、何も知らない辺境伯夫人コーデリアにバレるのも時間の問題だろう。


「……ミレッタ様の正体って――」
「伝説級の魔獣、フェレンティーアの二つ尾の神狼、ってことで合ってる?」
「しっ! これ以上胃痛の原因を増やすな!」


 武力最強の領主カイル。
 武闘派の元伯爵令嬢にして現辺境伯夫人のコーデリア。
 最恐メイドのイェニー。
 亡国の王女キャリーンと、その守護神獣であるミレッタ。


「……とりあえず、魔石を運ぶか」
「考えるのはよして、仕事をしよう」


 騎士たちは顔を見合わせ、魔石の回収作業を始めたのだった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こんにちは!
雲井咲穂です。

本編を楽しんでいただき、本当にありがとうございました。
また、先日リクエストをいただき大変ありがとうございました。
裏設定としていつか書きたいと思っていた内容を、短編として書かせていただきました。

キャリーンの名前は某ロボットアニメに登場した機体、
キャリバーンから来ているという裏設定もあったり。
ということは、ミレッタは……、ハッ( ゚Д゚)!
と思っていただけたら嬉しいです。


短編SSですが、お楽しみいただけましたら幸甚です。

リクエスト及び感想を、本当にありがとうございました!


感謝を込めて。


雲井咲穂


(ホラー小説「招く家」を新連載スタートしました。動画配信取材系のジャパニーズホラーお好きな方がいらっしゃいましたら是非覗いていただけたら嬉しいです!)
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感想 4

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みんなの感想(4件)

ナルト01750
2025.02.05 ナルト01750

久しぶりに一気読させていただきました。
次作を期待したます。

2025.02.05 雲井咲穂(くもいさほ)

ナルト01750さん>>

こんにちは!この度はご感想を誠にありがとうございました!
雲井咲穂と申します。
一気読みしてくださったのですか! とても嬉しいです!
ありがとうございます!

次回はもっとパワーアップした作品をお届けできるよう、頑張りたいと思います。
ご感想をいただき、大変励みになりました。
ありがとうございました!

解除
usakumaa
2025.02.01 usakumaa

面白くて、一気に読んでしまいました。
番外編も楽しみにしています。
しっぽの正体、気になります!

ゼロから物語を作る作業、とても大変だと思います。身体に気をつけて頑張ってください!

2025.02.01 雲井咲穂(くもいさほ)

usakumaaさん>>

はじめまして!雲井と申します。
この度は数ある小説の中から拙作をお読みいただき、感想まで書いていただき、本当にありがとうございました!面白いと仰っていただき、本当にうれしくて飛び上がっております。

番外編、そうか、番外編が!!
とても嬉しいお声をありがとうございます!
ミレッタのしっぽの正体、お楽しみいただけるよう一本何か短編を書いてみようと思います。
嬉しいご感想を、ありがとうございました!

解除
龍吉
2025.01.25 龍吉

これからも楽しみにさせていただきます!
月並みで申し訳ないですが💦
頑張ってください
1ファンより

2025.01.25 雲井咲穂(くもいさほ)

龍吉様>>
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
いただいたメッセージが大変励みになっております。
3章リライトという結果となり、申し訳ございません。
より楽しんでいただけるよう、頑張りたく存じます。ありがとうございます!!

解除

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