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1軒目 ―女神イーリスの店―
1杯目。枝豆と
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「あーもう。やってらんねぇわ」
ヤスオは肩がこる、と木綿の服の下の筋肉をもみほぐした。
勇者をやめてから10年余り。
寄る年にはかなわないな、とジョッキビールをグイッと煽り、上唇に付着した泡を右手の甲で乱暴に拭い去る。筋肉仕事を辞めてデスクワークに切り替えてからずいぶん経つが、筋肉は脂肪になるのって本当に早いよなぁ、とかなんとか思いつつ、ぶよぶよに変貌しつつある二の腕のたるみは考えないことにした。
「ねぇねぇ、結構大変なの? お仕事?」
ピンクと紫の幻想的なネオンに照らし出され、露出度が激しい黒いドレスを身にまとった金髪の女が、長いまつげをしばたたかせた。ぽよん、とした柔らかそうな豊満な谷間が挨拶するようにこちらを向いている。
こんにちは~、ってオイオイ危ねぇ。
危うく手を伸ばしそうになって、とりあえず今は引っ込めておくこととする。
「結構ってもんじゃないらしいですよ。ママ。こいつの会社、今働きたい会社トップ5に入ってるらしくて」
うねうねと踊るタコの足でこいつ、とヤスオを示しながら、どう見ても異形の化け物。――タコが膨らんで腐りかけて、さらに紫色に色味が悪くなった賞味期限がとうに終わっている系の頭をした怪物が、人と同じ口の位置に枝豆を皮ごと放り込みながらむしゃむしゃと喋っている。いつ見ても豪快である。
「いや、まぁ。その」
「まぁそうなの! すごいじゃない、ヤス! レベルアップ・・・・じゃなくて、出世したわねぇ。よっ、さすが元勇者!」
「まァ…そうでもないスけど。うへへ」
色っぽい谷間をぐっと強調して、ママが「これおごりね」、ととっておきの角煮を出してくれた。ほどほどに甘くてとろぉりとした黒蜜っぽい色のタレに薬味が聞いていてこれがまたうまいんだよなぁ、とありがたく両手で受け取る。
「ママー。こっちにもきてよ~!」
「あらいけない。お呼びがかかっちゃったわ。ごゆっくりね~」
齢は4000歳を超えているらしいのだが、そんなこと女子に言ってはいけない。女性は永遠に女子なのだ。
二十手前のぴちぴち女子大生のような声音で、女神イーリスはあっという間に呼ばれたテーブルに移動してしまった。
「ちぇっ。もう少しかまってくれてもいいじゃんかぁ」
ヤスと呼ばれた、黒髪無精ひげの男はむすっと視線をテーブルに投げかけ、ぶつぶつと暗めの声で管を巻き始めた。
「おいおい。仕方ないだろ。店なんだから」
「だってさぁ、主任」
唇をとんがらせて抗議しようとすれば、主任、と呼ばれたタコ足の怪物は「まぁ、飲めよ」とジャッキを示した。
たくさん触手がありすぎるからどれが足で、どれが手かかわらかない。
ヤスは不服気にジーンズの尻ポケットからくしゃくしゃになった煙草の箱を取り出すと、それを「ん」と、隣のタコ頭の主任に勧める。
主任は6つある目をぎょっと見開いて、どこからが首だかわらかない頭を左右に振った。
「やめろよ。俺、禁煙8年目って知ってるだろ?」
ヤスオは肩がこる、と木綿の服の下の筋肉をもみほぐした。
勇者をやめてから10年余り。
寄る年にはかなわないな、とジョッキビールをグイッと煽り、上唇に付着した泡を右手の甲で乱暴に拭い去る。筋肉仕事を辞めてデスクワークに切り替えてからずいぶん経つが、筋肉は脂肪になるのって本当に早いよなぁ、とかなんとか思いつつ、ぶよぶよに変貌しつつある二の腕のたるみは考えないことにした。
「ねぇねぇ、結構大変なの? お仕事?」
ピンクと紫の幻想的なネオンに照らし出され、露出度が激しい黒いドレスを身にまとった金髪の女が、長いまつげをしばたたかせた。ぽよん、とした柔らかそうな豊満な谷間が挨拶するようにこちらを向いている。
こんにちは~、ってオイオイ危ねぇ。
危うく手を伸ばしそうになって、とりあえず今は引っ込めておくこととする。
「結構ってもんじゃないらしいですよ。ママ。こいつの会社、今働きたい会社トップ5に入ってるらしくて」
うねうねと踊るタコの足でこいつ、とヤスオを示しながら、どう見ても異形の化け物。――タコが膨らんで腐りかけて、さらに紫色に色味が悪くなった賞味期限がとうに終わっている系の頭をした怪物が、人と同じ口の位置に枝豆を皮ごと放り込みながらむしゃむしゃと喋っている。いつ見ても豪快である。
「いや、まぁ。その」
「まぁそうなの! すごいじゃない、ヤス! レベルアップ・・・・じゃなくて、出世したわねぇ。よっ、さすが元勇者!」
「まァ…そうでもないスけど。うへへ」
色っぽい谷間をぐっと強調して、ママが「これおごりね」、ととっておきの角煮を出してくれた。ほどほどに甘くてとろぉりとした黒蜜っぽい色のタレに薬味が聞いていてこれがまたうまいんだよなぁ、とありがたく両手で受け取る。
「ママー。こっちにもきてよ~!」
「あらいけない。お呼びがかかっちゃったわ。ごゆっくりね~」
齢は4000歳を超えているらしいのだが、そんなこと女子に言ってはいけない。女性は永遠に女子なのだ。
二十手前のぴちぴち女子大生のような声音で、女神イーリスはあっという間に呼ばれたテーブルに移動してしまった。
「ちぇっ。もう少しかまってくれてもいいじゃんかぁ」
ヤスと呼ばれた、黒髪無精ひげの男はむすっと視線をテーブルに投げかけ、ぶつぶつと暗めの声で管を巻き始めた。
「おいおい。仕方ないだろ。店なんだから」
「だってさぁ、主任」
唇をとんがらせて抗議しようとすれば、主任、と呼ばれたタコ足の怪物は「まぁ、飲めよ」とジャッキを示した。
たくさん触手がありすぎるからどれが足で、どれが手かかわらかない。
ヤスは不服気にジーンズの尻ポケットからくしゃくしゃになった煙草の箱を取り出すと、それを「ん」と、隣のタコ頭の主任に勧める。
主任は6つある目をぎょっと見開いて、どこからが首だかわらかない頭を左右に振った。
「やめろよ。俺、禁煙8年目って知ってるだろ?」
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