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1軒目 ―女神イーリスの店―
7杯目。お水をください。(3)―完―
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「いいのですよ、ヤス。泣いても。人間の女なんてどこに行ってもそんなものです。自分にとってより価値のあるオスが見つかれば、付き合っている事実すら過去のものにしてしまう、恐ろしい化け物なのです。」
「うう。うう。女神さま・・・女神さまぁああああっ」
「いいのですよ。ヤス。今度こそ、正真正銘私を選んでも。」
音楽を紡ぐように、女神は美しい声でそう答えた。心なしか背中に後光まで見える。
ヤスは勇者であった時代を思い出すようなまっすぐな瞳で彼女を見る。
「ヤス…」
彼女に柔らかく名を呼ばれて、イーリスの細い指先に重ね合わせる自分の指に力がこもった。
「―――――ってオイコラ、イーリス。ふざけんなよ!! もう騙されねぇぞ!! 自分がやってることを正当化するなんて女神聞いてないぞ!」
「きゃぁっ」
血走った瞳のヤスが女神の細い手首を掴んだ。ついでに床に引きずり倒す。
「ヤ…ヤス」
イーリスを見下ろすヤスの顔は真っ赤に染めあがっている。鼻息も荒い。
イーリスはきゅっとドレスの胸元を寄せた。
その頬はバラ色に赤らんでいる。
「責任、とってもらうからな」
ヤスオの鼻の穴が膨らんでいる。
熱い、酒臭い吐息がイーリスの顔にかかる。
イーリスは心臓が跳ね上がるような心地で、目をつむり、時を待った。
――――が。
「何してんのよ! この、変態スケベ野郎が!!」
「ギャフンッ」
ガツン、と鈍い音がしたと同時に男の体がイーリスの豊満な胸元に倒れ込む。
その胸をクッション代わりに衝撃を免れた男は、クリーンヒットだったようで一瞬で昇天(気絶)した。
「あらあら。まぁまぁ。シオルちゃん、出てきちゃったの」
「出てきちゃったの、じゃなくてさぁ。ママ。この状況何なの? 閉店?」
お仕置きルームからどうやら自力で脱出してきたらしい、満身創痍に見えるぼろぼろの衣装の大魔女は、片手で持っていた振り下ろしたばかりのパイプ椅子を床に放り投げた。
パイプ椅子はお仕置きルームの入り口のかませとして存在していたのを拝借したのだ。
「あったま痛いわぁ」
「・・・・・」
我に返ったイーリスが店の中を見渡せば、なるほど。
シオルネーラの言葉に納得した。
人っ子一人おらず、飲み掛け食べかけの皿やグラスが散乱している。
「もうっ。これじゃ、商売あがったりだわ!」
言いながらイーリスは自分にのしかかって夢見ごちな男の横顔をうっとりと見つめ、その黒髪を優しくなでる。
「あーはいはい。痴話げんかね」
呆れた。
シオルネーラはバカバカしい、と言いながら自分の席に戻り、ヤスオが食べかけで残したもう一本の焼き鳥を口にくわえた。
「うまいわねー。ママのとこの焼き鳥! 絶品っ!」
「シオルちゃん・・・・。ちょっと相談なんだけど」
「んふ?」
焼き鳥を口で食み、タレを口の箸からこぼしながらシオルネーラが振り返った。
「ちょっと協力してくれる?」
何を協力か、シオルネーラにはすぐ合点がいった。
串焼きをほおばり、串を皿の上に投げて唇を手の甲でぬぐうと。少々物足りない、というように空になった皿を寂しそうに見つめた。
「いいけど。――――とりあえず、お水ください」
了承の合図の代わりに、シオルネーラは真面目な表情でそう告げた。
「うう。うう。女神さま・・・女神さまぁああああっ」
「いいのですよ。ヤス。今度こそ、正真正銘私を選んでも。」
音楽を紡ぐように、女神は美しい声でそう答えた。心なしか背中に後光まで見える。
ヤスは勇者であった時代を思い出すようなまっすぐな瞳で彼女を見る。
「ヤス…」
彼女に柔らかく名を呼ばれて、イーリスの細い指先に重ね合わせる自分の指に力がこもった。
「―――――ってオイコラ、イーリス。ふざけんなよ!! もう騙されねぇぞ!! 自分がやってることを正当化するなんて女神聞いてないぞ!」
「きゃぁっ」
血走った瞳のヤスが女神の細い手首を掴んだ。ついでに床に引きずり倒す。
「ヤ…ヤス」
イーリスを見下ろすヤスの顔は真っ赤に染めあがっている。鼻息も荒い。
イーリスはきゅっとドレスの胸元を寄せた。
その頬はバラ色に赤らんでいる。
「責任、とってもらうからな」
ヤスオの鼻の穴が膨らんでいる。
熱い、酒臭い吐息がイーリスの顔にかかる。
イーリスは心臓が跳ね上がるような心地で、目をつむり、時を待った。
――――が。
「何してんのよ! この、変態スケベ野郎が!!」
「ギャフンッ」
ガツン、と鈍い音がしたと同時に男の体がイーリスの豊満な胸元に倒れ込む。
その胸をクッション代わりに衝撃を免れた男は、クリーンヒットだったようで一瞬で昇天(気絶)した。
「あらあら。まぁまぁ。シオルちゃん、出てきちゃったの」
「出てきちゃったの、じゃなくてさぁ。ママ。この状況何なの? 閉店?」
お仕置きルームからどうやら自力で脱出してきたらしい、満身創痍に見えるぼろぼろの衣装の大魔女は、片手で持っていた振り下ろしたばかりのパイプ椅子を床に放り投げた。
パイプ椅子はお仕置きルームの入り口のかませとして存在していたのを拝借したのだ。
「あったま痛いわぁ」
「・・・・・」
我に返ったイーリスが店の中を見渡せば、なるほど。
シオルネーラの言葉に納得した。
人っ子一人おらず、飲み掛け食べかけの皿やグラスが散乱している。
「もうっ。これじゃ、商売あがったりだわ!」
言いながらイーリスは自分にのしかかって夢見ごちな男の横顔をうっとりと見つめ、その黒髪を優しくなでる。
「あーはいはい。痴話げんかね」
呆れた。
シオルネーラはバカバカしい、と言いながら自分の席に戻り、ヤスオが食べかけで残したもう一本の焼き鳥を口にくわえた。
「うまいわねー。ママのとこの焼き鳥! 絶品っ!」
「シオルちゃん・・・・。ちょっと相談なんだけど」
「んふ?」
焼き鳥を口で食み、タレを口の箸からこぼしながらシオルネーラが振り返った。
「ちょっと協力してくれる?」
何を協力か、シオルネーラにはすぐ合点がいった。
串焼きをほおばり、串を皿の上に投げて唇を手の甲でぬぐうと。少々物足りない、というように空になった皿を寂しそうに見つめた。
「いいけど。――――とりあえず、お水ください」
了承の合図の代わりに、シオルネーラは真面目な表情でそう告げた。
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