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第2章 終焉の夜

第15話 午前0時

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 俺はアメリアと一緒に寝ていると、家の外から大音量の爆発音や大勢の悲鳴が聞こえてきた。俺とアメリアは目を覚まして体を起こした。時刻は午前0時だった。

 俺は個人部屋から出るとエミリーとフレイとミアが同じタイミングで個人部屋から出ていた。すると俺たちに焦りながら走ってきたアーガスが早口で話し始めた。

「大変だ、黒魔術師がこの町を支配しようとしている! 住人は大勢の黒魔術師に脅されて、奴らに金品や衣食住を奪われている! 一刻も早く戦ってくれ!」

「アーガス、より詳しい状況を教えてくれ。どのくらい黒魔術師がいるんだ?」

「およそ300人位だ! 300人が午前0時になった瞬間に一斉にこの町を襲ってきた! デグラと名乗る黒魔術師が奴らを率いてこの町を支配しようとしているんだ!」

「デグラだと! 分かった、俺は今すぐ行く。みんなはどうする? 無理に戦わなくていい、俺が何とかする」

「東条、私も一緒に行く。東条だけでは心配だ。それに私は奴らを倒すために戦わないといけない」

「そうよ、私も行くよ。東条くんだけでは危険すぎるよ。私たちでこの町の危機を救おうね」

「ええ、恐怖に怯えている住民を安心させるためにも一刻も早く駆けつけたほうが良いわ。今すぐ準備して戦いに行きましょう」

 俺たち4人は即決して戦いに行くことに決めた。不安そうな表情をしているエミリーは俺たちに無言で1ずつ抱きついてきた。エミリーは俺たちが完全に回復していないのに危険な戦地に向かうことを心配していた。俺はエミリーに小声で言った。

「大丈夫だ、俺が何とかする。エミリーはアーガスの家でじっと待っていてくれ」

 エミリーは悲しい表情をしながら小さく頷いた。



 午前0時10分、俺たちはアーガスの家を飛び出して戦地へ向かうと、地獄のような光景を広がっていた。

黒魔術師が住人に対して「死にたくなければ俺に従え!」と暴力を振るいながら命令をしていた。罪のない住人に対して黒魔術師に住居を明け渡す、勝手に住人の家に入って乱暴に服や食品を盗み出す、さらには大勢の住人に無理矢理穴を掘らせて奴らの居場所を作らせていた。

 俺は奴らの行動に怒りを覚え、無意識に体が動いてしまった。俺は右手に光の集合体でできた剣を生成して、住人に汚い靴を強制的に磨かせている黒魔術師の腹に剣を刺した。黒魔術師は驚いた様子で目を丸くした。

「なぜ俺たちに反抗するんだ? 雑魚はおとなしく俺の指示に従え!」

「ふざけるな! この町をお前らの好き勝手にはさせない!」

 俺は左手から光の球体を生成して黒魔術師の腹に当てた。すると真っ暗な闇を照らすような温かい光に包まれながら黒魔術師は黒い灰となって消えた。

 この様子を見ていた黒魔術師たちは俺に狙いを定めて武器を生成した。住人には遊び半分で殴ったり蹴ったりして住人の心を支配していたが、俺に対しては抵抗する奴を仕留めるために獣のような目で俺を見つめた。

「俺たちの遊び場を邪魔するな! 雑魚が俺たちに命令違反したらどうなるか教えてあげようか?」

「ここはお前らの遊び場ではない! さっさとここから立ち去れ!」

「雑魚のくせに俺に立ち去れだと? 俺たちを侮辱した罪を死んで償ってもらおうか!」

 50人くらいの黒魔術師が一斉に槍を俺に放ち始めた。大雨のように勢いよく無数の槍が俺に降り注いできたが、俺は頭上に直径1メートルの光の球体を両手で生成し、槍を光の中に閉じ込めた。そして光の球体を大勢の黒魔術師に放ち爆発させた。光の球体が爆発すると強烈な光を発生させ、1発で大勢の黒魔術師が黒い灰となって散らばった。

 しかしすぐに黒魔術師の援軍が現れた。デグラと共に300人くらいの黒魔術師が俺たちを囲んだ。デグラは嫌々そうな表情で俺に対して槍を構えた。

「東条、まだこの世界にいたのかよ! さっさと異世界に帰ってくれよ! 俺たちの幸せな時間に首を突っ込まないでくれ! 俺たちは少女と仲良く遊びたいだけなんだ」

「住民を暴力や魔法で支配して強制的に働かせているくせに帰れとは何だ!」

「東条、そこまで怒らなくていいだろう! 俺だって君のように若い女性と遊びたいだけなんだ! お前は沸点が低すぎるよ、もっと冷静になろうぜ。俺たちを見逃してくれよ」

 俺はデグラに反論しようとしたとき、殺気に満ちたミアがデグラに向かって剣を大きく振った。

「お前らには失望した。悪夢だけでなく今度は暴力や魔法で支配するとは情けない黒魔術師だ。お前らのせいで今日も明日も住人は怯えながら暮らさなければいけない。お前らこそここから帰れ!」

 だがデグラは3日前よりも余裕な表情で俺たちを見つめていた。デグラはミアの剣を左手で握りつぶし、ミアの鳩尾に向けて右手で生成した黒色の球体を爆発させた。ミアは血を吐きながら俺たちの目の前まで飛ばされた。

「ミア、こんな程度かよ! 随分と弱くなったな! おい、さっさと東条たちを片付けて若い少女と一緒に午前5時まで遊ぼうぜ!」

 ジュンナの言う通り、アルストレイア王国の隣国を征服した黒魔術師は強力な魔力を得ていた。3日前のデグラでは笑顔でミアの剣を握りつぶすことはできない。

 俺はミアの体を支えながら3人に指示した。

「アメリアとフレイは遠距離で戦ってくれ。だが奴らは以前よりも強力になっているから気をつけて戦ってくれ。ミアは戦えるか?」

「もちろん戦える。私は東条と戦う」

「ありがとう、なら俺とミアは接近戦で戦う。アメリア、フレイ、絶対に生き残ってくれ。もし無理そうならすぐにアーガスの家に戻れ」

「ええ、さっさとこの戦いを終わらせましょう。私も出来る限り東条くんのために戦うわ」

「私も強力な魔法で支援するから、東条くんも頑張ってね」

「ありがとう、アメリア、フレイ。一気に片付けるぞ!」

俺とミアが剣を生成して構えると、黒魔術師がデグラの号令と同時に一斉に槍を放ってきた。俺とミアの後ろにいるアメリアとミアは休むことなく光の球体を生成して襲ってきた槍に向けて爆発させた。槍は眩い光と爆発と共に砕け散った。

 俺とミアは槍を投げ続けている黒魔術師に対して一心不乱に剣を振り続けた。光を帯びた剣で黒魔術師を斬り裂くと、彼らは悲鳴を上げながら黒い灰となって消えた。黒魔術師は抵抗して俺たちに向けて槍を突いてきたが、俺たちは左手で光の球体を生成して槍に向けて爆発させて破壊させた。そして武器を失った黒魔術師の腹を全力で斬り裂いて、黒い灰が地面に散らばったことを確認した。

 黒魔術師が不利になっている様子を観察していたデグラが動き始めた。デグラは右手に槍、左手に剣を生成して俺に襲いかかってきた。デグラは剣で俺の武器を振り落とし、槍で俺の腹に向けて突いてきた。

「雑魚は諦めて俺に降参しろ! 俺に敵うと思っているのか! 俺がお前を絶対に仕留める!」

「デグラ、俺を仕留められると思っているのか? 死ぬのはお前だ!」

 俺は左手ですぐに剣を生成して、デグラが所持していつ槍を上空に向けて弾き飛ばした。俺の腹に残り数センチで刺さるほどギリギリな状況だった。

 さらに俺は右手で構えている剣でデグラが所持している剣を振り落とし、装備がなくなったデグラに対して大剣を生成しながら近づいた。デグラは俺に懇願していた。

「まずい! 許してくれ、東条! 同じ人間だろ、俺を見逃してくれよ!」

「黒魔術師に魂を売ったお前を許すわけがない! お前は今日ここでくたばれ! 2度と俺の目の前に出るな!」

 俺は虹色の光を纏った大剣を生成してデグラの全身を斬り裂いた。デグラは大量の血を吹き出しながら、死んだ目で俺を見つめながら倒れた。その後デグラは2度と立ち上がることはなかった。

 デグラが死んだことを確認した黒魔術師は怯えながら槍を放ち続けていた。

「俺たちは人数で勝っている! 今すぐ降参したほうがいいぞ!」

 するとミアは笑いながら黒魔術師に向けて両手に剣を構えた。

 「人数で勝っていると思うなよ!」

 ミアは1人ずつ素早く剣で黒魔術師の腹を斬り裂き始めた。身軽なステップと連続して繰り出す回転斬りで敵の人数を減らしていった。

 俺も大剣でハンマーのように敵を押し潰しながら攻撃し続けて敵の人数を半分まで減少させた。アメリアとフレイに対して襲ってくる槍の雨が徐々に落ち着いてきた。

 黒魔術師は冷静さを欠き、一斉に俺とミアに向かって槍を構えながら疾走してきた。俺たちを突いて殺すつもりだろう。

「お前らのせいで俺たちの作戦が狂った! 死んで責任をとってもらうぞ!」

「残念だが死ぬのはお前らだ!」

 俺たちにとっては1発で仕留められる絶好のチャンスだった。俺とミアは大剣を構えて右足を踏み込んだ。

「ミア、1発で吹き飛ばして倒すぞ。覚悟はいいな?」

「覚悟はできている」

「ミア! 剣を振れ!」

 俺の合図と同時に俺とミアは光を帯びた衝撃波を黒魔術師に放った。黒魔術師は虹色に輝く光に飲み込まれ、一瞬にして黒い灰に変わった。



 午前0時40分、俺たちが黒魔術師を倒すと住民は開放された。住人は俺たちに大きな拍手で称賛した。

「君たちは素晴らしい! よくやってくれた! ありがとう!」

「私たちの命を救って頂きまして、ありがとうございます」

 笑顔を取り戻した住人は俺たちに深くお辞儀をしながら拍手を続けた。しかしとある女性が目の前に現れるとすぐに膝をついて深くお辞儀をした。

「私に敬礼しないでください。皆様は早く城に向かって避難してください。ここは危険です、早く騎士の皆様と共に逃げてください」

 目の前にはオビリア様とシエラ様が大勢の騎士を引き連れてやってきた。騎士は傷付いている住人の体を支えながら城に向かって歩き始めた。住人は自ら戦地に駆けつけたオビリア様を心配していた。

「オビリア女王様こそ危険です。城に戻ってください」

「私には国民を守る責務があります。皆様は私のことを気にしないで早く逃げてください。この問題は私たちで解決します」

「オビリア女王様、ありがとうございます」

 オビリア様は住民が全員避難したことを確認すると、俺たちにシエラ様と一緒に深くお辞儀をした。

「先程は国民を救って頂きまして、誠にありがとうございます。皆様もお体を休めてください。ここは私たちで食い止めます」

「俺たちも戦わせてくれ。俺たちにはまだ余力はある」

「ありがとうございます、お気持ちだけで十分です。今回は黒魔術師の数が多すぎます。昨日の戦いで疲れ果てている皆様では危険すぎます」

「大丈夫だ、俺たちは黒魔術師を倒すためなら何度でも立ち上がる。一緒に戦わせてくれ」

「ご協力ありがとうございます、深く感謝致します。では皆様4人と私たち2人でこの危機を食い止めましょう。よろしくお願い致します」

「ああ、こちらこそよろしく」

 午前1時、俺たちは焼け野原となった町並みを駆け抜けて、次の戦地へ向かった。
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