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草牡丹

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第5話 ガウラ・キンカセン

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 会話の終わり掛けに終始言葉を発していなかった男性がしゃべり始めた。
「カルノーサ、なぜ聞かない?」
 思わず背筋が伸びてしまうような冷静な声色。カルノーサは反射的に体を男性の方に向ける。
「あ、いや、あまりに多い情報で正常な判断は下せないかなって。」
 現実逃避でもしているのか、口角を上げながら自信なさげにそう言った。
「明日になら判断が下せるか?」
 そういう癖があることをこの男性は知っているのだろう。表情も声色も変化なく続けてカルノーサに問う
「いや、、かわんないっすね。」
 カルノーサは正直にそう答えた。
「そうだろ?それにその判断が一生変わらないというわけでもない。なら、今でいいだろ?」
「はい。」
 カルノーサは静かに答える。男はカルノーサの目を見て小さく頷き、思いが伝わったことを理解した。男は顔を少年のほうに向け、一歩近づき数秒間深々と頭を下げた後、顔を上げ話し始めた。
「まずは、怪異を黒夜から逃がしていしまい申し訳なかった。私は、このカルノーサの上官で、ガウラ・キンカセンというものです。私の指揮力不足により今回の事件を起こしてしまった。本当に申し訳なかった。君の命が無事であったことが心から嬉しく思う。」
 上官の男は丁寧に謝罪をした。
「いえ、私としてはカルノーサさんが助けてくれなければ、生きていないと思いますから、怪異を倒してくれた感謝しかありません。」
「そうか、そう言ってもらえると助かるよ。話は変わるが、君に聞いてもらいたいことがある。」
 そう言うと男性は熱のこもった眼差しを少年に向けた。少年も反射的に「な、なんでしょうか」と尋ねた。
「黒夜からの怪異の出現は今まであまり類を見ないことだった。しかし、ここ最近では、君も遭遇したように怪異がこちらに渡ってくることが多くなった。その結果君のように重傷を負う者も少なくはない。これまでは、我々のように調査、討伐を主に活動する者たちと君たちのようにこちらの世界で現れた怪異を倒す者たちに分かれて活動してきたが、それでは戦力のバランスがよろしくないという結論に至った。そこで、我々天使の足音としては組織の再編成、並びに組織自体の強化が急務となった。君に問う。君はどうしたい?」
「どう、したいか、、、ですか。」
 少年は自信に問うようにつぶやいた。
「そう。大きく分けるなら、強くなるために立ち上がれるかどうか。だ。すぐに返事が、、、」
「強くなりたいです。」
 少年は男性の言葉を遮りそういった。
「そうか。理由を聞くことはできるか?」
「守りたいものを守るためです。親の代わりに自分を育ててくれた人たちを、大切な仲間を、大切な存在を。もしチャンスがあるのであれば、強くなる機会を得たいです。」
「チャンスがあっても可能性があるかはわからない。必ず強くなれる保証はない。命を危険に晒すだけになるかもしれない。それでもか?」
「それを考えると足がすくむので、今は考えたくないです。ただ、恐怖よりは強い気持ちがあるので、大丈夫だと思います。」
「わかった。」
 そう言って男はカルノーサを連れて部屋を出た。司祭も「私は昼食の準備をしてきます。エノコ君もまだ休んでいてください。」立ち上がったエノコに司祭は諭すように伝え、少年にもう一度頭を下げてから部屋を出た。

 静まり返った部屋。少年は窓から外を眺めながら考えていた。強くなる方法はどんなものなのだろうか。そもそも黒夜という場所もそこに訪れて戦っている者たちがいることも少年は知らなかった。
「さっきのことを考えているの?」
 エノコの声にアーゲラは「まだまだ知らないことが多いな、と。」と答える。
「ね。私も急に聞いてびっくりしたよ。」
「そうですね。エノコはどうしたいですか?」
「不安でいっぱいですけど、強くなりたいですって答えた。」
「姉ちゃんたちは怖くないの?」
 その疑問を男の子が抱くのは当然だろう。あれほど恐ろしい体験をし、少年に至っては生死を彷徨ってもおかしくないほどの重傷を負ったのだから。
「怖いよそりゃ。ね?」
「そうですね。怖くないと言ったら嘘になりますね。」
「でもね。」
「大切なモノを守るためなら怖くないと言い張れてしまうのです。」
 男の子は不思議そうな顔で二人を交互に見るが納得できた様子ではない。それもそうだろう。繰り返しになるが恐ろしい出来事に生死を彷徨う体験までした。カルノーサが居なければアーゲラは、今この世にはいないだろう。しかし、それでもなお立ち上がり強さを求める。それほどまでに大切な存在をまた奪われるかもしれないということが、二人には耐えられないのだろう。大切な存在に触れながら感傷に浸っていたアーゲラは、男の子たちに聞かなければいかないことがあることを思い出した。
「そういえば。シン、ライト、なぜ赤鬼の住処にいたのですか。」
 男の子たちは互いの顔を見合わせ申し訳なさそうな声で言った。
「い、行きたくなっちゃて…」「ごめんなさい。」
 どうやら司祭や大人たちにもしっかりと怒られたのだろう。反省している様子に改めて叱る必要もないと少年は感じた。しかし、その言い方には違和感を覚えた。
「なんで、行きたくなっちゃったんですか?」
「ん、、、」「おぼえて、ないの。ほんとに。」
「?冒険だ!とか肝試した!とかではなく?」
「違うよ。だって行っちゃダメって言われてたもん。」「うんうん。」「でも、午後の授業の後眠くなって寝ちゃってて、授業終わったら、行きたくなってた。」
 男の子たちの発言に持っていた違和感が疑問に変わった。授業中に寝ていたことを叱るエノコに少年は尋ねた。
「嘘をついているようには見えないですが、どう思いますか?」
「え、なにが?」
「行きたくなった。けど、理由は覚えてないってことです。覚えていないなら覚えてないとだけ言えば良いと思いませんか?」
「まあ確かに。ただ正直、生きていることにみんな安堵したから私もあんまり深く考えなかった。普通じゃしない体験だったしね。まあでも改めて聞くと確かに変だなとは思う。」
「司祭は何か言ってましたか?」
「たしか、恐怖で記憶が混同しているんじゃないかって言ってたかな。まあ、“覚えてない“じゃないんだもんね。変かもしれないけど、そのくらいじゃない?」
 笑みを見せたエノコの気持ちに少年はおおむね同意できた。確かに変だが、“だからどうなんだ”と問われれば明確な回答を持ち合わせてはいなかった。
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