6 / 16
5話
しおりを挟む
昔から寝るという行為が苦手だった。
眠れないまま目を瞑ったまま考え事をしていて、新聞配達のバイク音で焦ることもよくあった。
首の後ろにスイッチがあって、押したら眠れる機能が身体に備わって欲しいと本気で思っている。
まして、今みたいな気持ちを抱えたまま早々に布団に入っても、睡魔が訪れる筈がなかった。
近頃は慢性的に睡眠時間が足りていないのだが、そんな事は関係ないらしい。
早く寝たいと願う反面、寝ると明日がくることを恐れていることで、ブレーキをかけている自分もいる。
眠れないでいると、頭が別のことを考え始めてしまう。
新たに生まれた心のモヤモヤが寝る邪魔をする。
今回の件、自分の失態は社内で広く周知されてしまい、多くの人から失望の声と指導という名のお叱りを受けている。
当たり前のことしか言わない軽薄な指導は何の役にもたたず、自分を本気で想ってくれている人は誰もいない。
しかし、これまで何度も飲みに連れて行ってもらったし、好意的な面もあって嫌いになりきれないところが余計に心を傷つける。
心のモヤモヤはまた別の方面に伝染する。
同期内における競争において、これまでの自己評価は上の中だったが、今は下の中になるだろう。
実際のところ、上の人間は誰が同期かなんて覚えていないし、順位なんてつけていない。
しかし、少なくとも同期内においては確かな競争意識があり、これからは下に見られることが恥ずかしい。
とか考えていると、いつまでも睡魔は一向に訪れてくれない。
ぼーっと天井を眺めていると、例の感覚が襲ってくる。
視界に映る薄暗い天井と微かに残る照明の余韻が、まるで映像に見えてくる。
自分の手を見てグーパーを繰り返してみるが、ロボットを操作しているような感覚から脱しない。
枕元の目覚まし時計から聞こえてくる秒針の間隔が長く感じ始めた。
心と身体が離れていく。
深刻な恐怖が襲う。
いつもはここで止めるところだ。
だが、今日は止まらない。
『まぁ、いいか』
心の中でそう呟き、現実逃避を決めて目を深く瞑り、心と身体が分離していく感覚に集中する。
金縛りにあったように身体は動かなくなった。
上手に呼吸が出来ていないのか、息苦しさを覚える。
秒針の間隔がまた更に長くなる。
恐怖はまだあるが、何か大事なことを思い出せそうな気がする。
新しい感覚が自分の中に芽生えていく。
それが一体何であるかを確かめたくて、自分の内側へ更に意識を集中する。
目を瞑っているのに目眩が起きた。
目蓋の裏の暗闇が深みを増す。
今更、頑張って身体を動かそうとしても何も出来ず、もう目を開けることも出来ない。
思考が鈍り出した頃、はっきりとした映像の走馬灯が目蓋の裏に投影され始めた。
息苦しさは消えた。
だが、呼吸は止まっている。
眠れないまま目を瞑ったまま考え事をしていて、新聞配達のバイク音で焦ることもよくあった。
首の後ろにスイッチがあって、押したら眠れる機能が身体に備わって欲しいと本気で思っている。
まして、今みたいな気持ちを抱えたまま早々に布団に入っても、睡魔が訪れる筈がなかった。
近頃は慢性的に睡眠時間が足りていないのだが、そんな事は関係ないらしい。
早く寝たいと願う反面、寝ると明日がくることを恐れていることで、ブレーキをかけている自分もいる。
眠れないでいると、頭が別のことを考え始めてしまう。
新たに生まれた心のモヤモヤが寝る邪魔をする。
今回の件、自分の失態は社内で広く周知されてしまい、多くの人から失望の声と指導という名のお叱りを受けている。
当たり前のことしか言わない軽薄な指導は何の役にもたたず、自分を本気で想ってくれている人は誰もいない。
しかし、これまで何度も飲みに連れて行ってもらったし、好意的な面もあって嫌いになりきれないところが余計に心を傷つける。
心のモヤモヤはまた別の方面に伝染する。
同期内における競争において、これまでの自己評価は上の中だったが、今は下の中になるだろう。
実際のところ、上の人間は誰が同期かなんて覚えていないし、順位なんてつけていない。
しかし、少なくとも同期内においては確かな競争意識があり、これからは下に見られることが恥ずかしい。
とか考えていると、いつまでも睡魔は一向に訪れてくれない。
ぼーっと天井を眺めていると、例の感覚が襲ってくる。
視界に映る薄暗い天井と微かに残る照明の余韻が、まるで映像に見えてくる。
自分の手を見てグーパーを繰り返してみるが、ロボットを操作しているような感覚から脱しない。
枕元の目覚まし時計から聞こえてくる秒針の間隔が長く感じ始めた。
心と身体が離れていく。
深刻な恐怖が襲う。
いつもはここで止めるところだ。
だが、今日は止まらない。
『まぁ、いいか』
心の中でそう呟き、現実逃避を決めて目を深く瞑り、心と身体が分離していく感覚に集中する。
金縛りにあったように身体は動かなくなった。
上手に呼吸が出来ていないのか、息苦しさを覚える。
秒針の間隔がまた更に長くなる。
恐怖はまだあるが、何か大事なことを思い出せそうな気がする。
新しい感覚が自分の中に芽生えていく。
それが一体何であるかを確かめたくて、自分の内側へ更に意識を集中する。
目を瞑っているのに目眩が起きた。
目蓋の裏の暗闇が深みを増す。
今更、頑張って身体を動かそうとしても何も出来ず、もう目を開けることも出来ない。
思考が鈍り出した頃、はっきりとした映像の走馬灯が目蓋の裏に投影され始めた。
息苦しさは消えた。
だが、呼吸は止まっている。
0
あなたにおすすめの小説
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる