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8話
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ハッと目が覚めた。
天井がほんの微かに発光し、窓からは柔らかい月明かりが入り込んでいる。
意識を失っている間、景色はすっかり朝から夜へと変わっていた。
ベッドの上で上半身を起こすも、酷い目眩で横向きに倒れこんでしまう。
熱がある。
吐き気もする。
頭痛はまだマシだが、もはや頭のどこが痛いかも分からない。
びっしょり汗をかいていた。
口の中は乾き果て、喉奥はくっついていて、声も出せない。
ふと、ベッド横に置かれたサイドテーブルが目に入る。
テーブルの上には瓶とコップが置かれていた。
誰が置いたのか分からないし、中身は見えない。
だが、なんとなくフルーツジュースだと直感した。
再び身体を起こして、ベッドの端まで四つん這いで移動する。
震える手で瓶を傾け、コップに溢れるまで荒々しく注いだ。
ちょびっと一口目を飲んだ後、二口目からは口いっぱいに含み、喉を大きく動かして流し込む。
口の端から溢れて服が濡れることも厭わず、一気に飲み干す。
直感の通り、中身は何種類もの果汁を含んだフルーツミックスジュースだった。
強い酸味が口と喉に爽快感をもたらし、熟した果物の甘味が舌にいつまでも残る。
初めて飲む筈だが、身体は慣れ親しんだ自分の好物であることを教えてくれる。
不思議なことに冷蔵庫から取り出して間もなくのようによく冷えており、熱をもった身体がいつまでも欲し続ける。
欲望のまま際限なく飲み続けた結果、瓶は空になっていた。
喉が潤おい、身体も冷えたことでだいぶ楽になった。
改めて周囲を見回す。
場所は間違いなく今朝と同じ広いベッドの上だ。
ただ今朝と大きく違うのは、もう1人の自分の記憶があること。
先月、15歳の誕生日を迎えた。
家族構成も朧げに記憶している。
ただ、記憶があるだけで意識は25歳本来の自分だ。
真っ先に頭に浮かんだのは、元の家族と恋人。
『もう二度と会えない』
今の状況はさっぱり理解出来ないが、それは決定事項のように思えた。
そう意識してしまうと、激しい寂しさと悲しみが迫ってくる。
まだ親孝行もしていない。
大学から付き合っていた彼女とはいずれ結婚するつもりでいた。
大切な人達への別れの挨拶も何も出来なかった。
人生のやり残しも多すぎる。
だが、寂しさ、悲しさ、後悔が襲う中、じわじわと存在感を増したのは、何よりも恐怖だった。
最初に目覚め時から、今の自分に追加されている他人の記憶。
『自分の意識は、この記憶に上書きされて消えてしまうかもしれない』
急激な自分の変化から生まれる恐怖。
死を前にしたような、こみ上げてくる感情に思わず発狂しそうだ。
だが、布団を噛み、声を押し殺して嗚咽した。
本当は声をあげて泣きたい。
でも、堪える。
大声で泣いてしまうと、心配して駆けつける家族がこの家にいることを知っている。
25歳の自分と15歳の自分が混在していて、頭の中は思考と記憶の渦が同時多発的に発生する。
『次起きた時、今の自分ではないかもしれない』
恐怖に怯え、布団を噛みしめながら目を閉じる。
布団を咥えながら、子どものように二つの言葉を繰り返し呟いていた。
「おかぁさん・・・・ぉとぅさん・・・」
それがどちらの親を指すのかも分からない。
このまま意識は失うことは、死を意味するかもしれない。
そう思いながらも、薄れつつある意識に委ねるしかなかった。
天井がほんの微かに発光し、窓からは柔らかい月明かりが入り込んでいる。
意識を失っている間、景色はすっかり朝から夜へと変わっていた。
ベッドの上で上半身を起こすも、酷い目眩で横向きに倒れこんでしまう。
熱がある。
吐き気もする。
頭痛はまだマシだが、もはや頭のどこが痛いかも分からない。
びっしょり汗をかいていた。
口の中は乾き果て、喉奥はくっついていて、声も出せない。
ふと、ベッド横に置かれたサイドテーブルが目に入る。
テーブルの上には瓶とコップが置かれていた。
誰が置いたのか分からないし、中身は見えない。
だが、なんとなくフルーツジュースだと直感した。
再び身体を起こして、ベッドの端まで四つん這いで移動する。
震える手で瓶を傾け、コップに溢れるまで荒々しく注いだ。
ちょびっと一口目を飲んだ後、二口目からは口いっぱいに含み、喉を大きく動かして流し込む。
口の端から溢れて服が濡れることも厭わず、一気に飲み干す。
直感の通り、中身は何種類もの果汁を含んだフルーツミックスジュースだった。
強い酸味が口と喉に爽快感をもたらし、熟した果物の甘味が舌にいつまでも残る。
初めて飲む筈だが、身体は慣れ親しんだ自分の好物であることを教えてくれる。
不思議なことに冷蔵庫から取り出して間もなくのようによく冷えており、熱をもった身体がいつまでも欲し続ける。
欲望のまま際限なく飲み続けた結果、瓶は空になっていた。
喉が潤おい、身体も冷えたことでだいぶ楽になった。
改めて周囲を見回す。
場所は間違いなく今朝と同じ広いベッドの上だ。
ただ今朝と大きく違うのは、もう1人の自分の記憶があること。
先月、15歳の誕生日を迎えた。
家族構成も朧げに記憶している。
ただ、記憶があるだけで意識は25歳本来の自分だ。
真っ先に頭に浮かんだのは、元の家族と恋人。
『もう二度と会えない』
今の状況はさっぱり理解出来ないが、それは決定事項のように思えた。
そう意識してしまうと、激しい寂しさと悲しみが迫ってくる。
まだ親孝行もしていない。
大学から付き合っていた彼女とはいずれ結婚するつもりでいた。
大切な人達への別れの挨拶も何も出来なかった。
人生のやり残しも多すぎる。
だが、寂しさ、悲しさ、後悔が襲う中、じわじわと存在感を増したのは、何よりも恐怖だった。
最初に目覚め時から、今の自分に追加されている他人の記憶。
『自分の意識は、この記憶に上書きされて消えてしまうかもしれない』
急激な自分の変化から生まれる恐怖。
死を前にしたような、こみ上げてくる感情に思わず発狂しそうだ。
だが、布団を噛み、声を押し殺して嗚咽した。
本当は声をあげて泣きたい。
でも、堪える。
大声で泣いてしまうと、心配して駆けつける家族がこの家にいることを知っている。
25歳の自分と15歳の自分が混在していて、頭の中は思考と記憶の渦が同時多発的に発生する。
『次起きた時、今の自分ではないかもしれない』
恐怖に怯え、布団を噛みしめながら目を閉じる。
布団を咥えながら、子どものように二つの言葉を繰り返し呟いていた。
「おかぁさん・・・・ぉとぅさん・・・」
それがどちらの親を指すのかも分からない。
このまま意識は失うことは、死を意味するかもしれない。
そう思いながらも、薄れつつある意識に委ねるしかなかった。
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