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12話
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お腹を中心にじんわりと身体が温かい。
サウナで外気浴して整った時のように頭がボーっとする。
食後の紅茶が更に多幸感で満たしてくれる。
姉はそんな様子を嬉しそうに見守っている。
そして、念のためと言って立ち上がり、身体に直接触れることなく、スキャンするように手をかざし、足下から頭先にかけてゆっくりと動かす。
「栄養不足はこれで十分補えたみたいね。熱も上がってないし大丈夫。ただ・・・まだ悩みのせいかな。少し乱れを感じるね」
頭のあたりに手を静止した状態で言う。
嘘発見機にかけられて、心の中まで見透かされてる気分になり焦る。
「好きにしなさい。魔術なんて何を選んでも良いの。選んだ後が大事なんだから。どんな選択をしてもね、突き詰めれば正解になるものよ。一つアドバイスするなら自分に正直であること。焦りで自分の心を見失わなければ、何を選んでも大丈夫よ」
精神科医と進路相談の先生も兼ねているかのような診断をしてくれた。
言い終わると同時、花のような匂いと暖かさに背中から包まれた。
椅子に座る俺を後ろからハグしてくれている。
若い女性の匂いが鼻腔に届き、薄い生地越しに伝わる柔らかさが本能を刺激する。
姉とは思いながらも、まだ割り切れていない心は罪悪感を生む。
万一でも気付かれるとマズイと思い、素っ気なく御礼を言って回された両腕をほどいた。
「じゃあ、行くね」
姉は気を悪くした様子はなく、優しく微笑んでリビングを出て行った。
だが、直ぐに何かを思い出したように戻ってきた。
戸棚から透明なボールを取り出し、テーブルの上に投げ落とす。
ボールは弾けて液状になり、テーブル全体へ均一に広がる。
テーブルの淵から垂れるほど広がり、付近の床と俺の膝まで濡らす。
不自然に一定の広がりを見せた後、動画を逆再生したかのように収縮して、再び元のボール形状に戻っていく。
ボールに戻ったソレを掴み、今度こそネメシスは出て行った。
よく見ると、俺が食べこぼしたマフィンの欠片やスープの跡が綺麗に無くなっている。
濡れたように見えた膝と床はどこも乾いていた。
『さて、これからどうしよう』と残った紅茶をチビチビ舐めながら考える。
なんとなくだが、元の世界に戻れることは無いと思う。
昨晩はそれが受け入れられず、気が狂うほど心を乱した。
だが、今は冷静且つ客観的に自分を捉えられる。
以前の家族と恋人を想うと寂しい気持ちはあるが、この世界にも家族がいる。
この人生ときちんと向き合って生きようと思えるほど、心は前を向いていた。
ただ、具体的に何を目標に、どのような人生とするかは難しい問題だ。
何故なら、以前の人生は敷かれたレールに正しく乗っているだけで、考える必要がなかった。
一度は成人して多くの経験をしたからこそ、改めて生き方を決める決断は重く、とても酷なことに思える。
憂鬱な気分になりつつあったので、散歩でもして気分を変えようと思い、いつまでも程よく温かい残りの紅茶を一気に飲み干す。
飲み干したコップを手に取り席を立つ。
洗い場はどこかと探し始めたところ、『ズキッ』と後頭部に痛みが生じた。
コップは洗わずに逆向きにして、そのまま棚に戻す。
こうするだけで、先ほどネメシスが投げた球状の掃除機と同じ原理で綺麗になる。
便利な掃除道具に感激はするが、それよりもこの先何かを思い出す度に痛みが伴うのかと思うと、何をするにも億劫になりそうだ。
サウナで外気浴して整った時のように頭がボーっとする。
食後の紅茶が更に多幸感で満たしてくれる。
姉はそんな様子を嬉しそうに見守っている。
そして、念のためと言って立ち上がり、身体に直接触れることなく、スキャンするように手をかざし、足下から頭先にかけてゆっくりと動かす。
「栄養不足はこれで十分補えたみたいね。熱も上がってないし大丈夫。ただ・・・まだ悩みのせいかな。少し乱れを感じるね」
頭のあたりに手を静止した状態で言う。
嘘発見機にかけられて、心の中まで見透かされてる気分になり焦る。
「好きにしなさい。魔術なんて何を選んでも良いの。選んだ後が大事なんだから。どんな選択をしてもね、突き詰めれば正解になるものよ。一つアドバイスするなら自分に正直であること。焦りで自分の心を見失わなければ、何を選んでも大丈夫よ」
精神科医と進路相談の先生も兼ねているかのような診断をしてくれた。
言い終わると同時、花のような匂いと暖かさに背中から包まれた。
椅子に座る俺を後ろからハグしてくれている。
若い女性の匂いが鼻腔に届き、薄い生地越しに伝わる柔らかさが本能を刺激する。
姉とは思いながらも、まだ割り切れていない心は罪悪感を生む。
万一でも気付かれるとマズイと思い、素っ気なく御礼を言って回された両腕をほどいた。
「じゃあ、行くね」
姉は気を悪くした様子はなく、優しく微笑んでリビングを出て行った。
だが、直ぐに何かを思い出したように戻ってきた。
戸棚から透明なボールを取り出し、テーブルの上に投げ落とす。
ボールは弾けて液状になり、テーブル全体へ均一に広がる。
テーブルの淵から垂れるほど広がり、付近の床と俺の膝まで濡らす。
不自然に一定の広がりを見せた後、動画を逆再生したかのように収縮して、再び元のボール形状に戻っていく。
ボールに戻ったソレを掴み、今度こそネメシスは出て行った。
よく見ると、俺が食べこぼしたマフィンの欠片やスープの跡が綺麗に無くなっている。
濡れたように見えた膝と床はどこも乾いていた。
『さて、これからどうしよう』と残った紅茶をチビチビ舐めながら考える。
なんとなくだが、元の世界に戻れることは無いと思う。
昨晩はそれが受け入れられず、気が狂うほど心を乱した。
だが、今は冷静且つ客観的に自分を捉えられる。
以前の家族と恋人を想うと寂しい気持ちはあるが、この世界にも家族がいる。
この人生ときちんと向き合って生きようと思えるほど、心は前を向いていた。
ただ、具体的に何を目標に、どのような人生とするかは難しい問題だ。
何故なら、以前の人生は敷かれたレールに正しく乗っているだけで、考える必要がなかった。
一度は成人して多くの経験をしたからこそ、改めて生き方を決める決断は重く、とても酷なことに思える。
憂鬱な気分になりつつあったので、散歩でもして気分を変えようと思い、いつまでも程よく温かい残りの紅茶を一気に飲み干す。
飲み干したコップを手に取り席を立つ。
洗い場はどこかと探し始めたところ、『ズキッ』と後頭部に痛みが生じた。
コップは洗わずに逆向きにして、そのまま棚に戻す。
こうするだけで、先ほどネメシスが投げた球状の掃除機と同じ原理で綺麗になる。
便利な掃除道具に感激はするが、それよりもこの先何かを思い出す度に痛みが伴うのかと思うと、何をするにも億劫になりそうだ。
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