16 / 16
15話
しおりを挟む
小麦の焼けた匂いはどの世界でも共通で魅惑的だ。
その匂いは実物の美味しさすら凌駕する。
嗅覚を魅了されて辿り着いたのは、とあるお店だった。
何を売っているかは確認するまでもない。
軽い扉を押し開けると、一段と濃厚な匂いに全身が包まれた。
だが、棚やショーケースはなく、お目当てのブツはどこにも見当たらない。
「はぁい、こんにちは!」
そもそもの目的を忘れてしまっている自分に気が付いた。
「お仕事中に申し訳ありません。図書館へ行きたいのですが・・・宜しければ場所を教えてもらえませんか?」
「あぁ、良いわよ!ちょっと待ってね」
おばちゃんと言うにはあまりに失礼だ。
自分の親よりは年上だろうが、それでもまだ30歳中盤そこらだろうか。
ツヤのある綺麗な長い髪とセンターで分かれた前髪から覗くおでこはシワ一つ無い。
道案内を快諾した歳上のお姉さんは一度奥へ引っ込んだ後、わざわざ店の外に出てきて細かく道順を教えてくれた。
「折角寄ってくれたんだし、持って行って!」
ずいっと渡されたのは、不思議な透明の紙袋だった。
中身は期待通りのパンが3つ、あとは飲み物が入っているであろう蓋付きのコップが入っていた。
飛び上がるほど嬉しかった。
だが、パン目当てで店に入ったと思われるのは、なんだか卑しい気がする。
なるべく感情を抑えつつの笑顔でお礼を言い、教えてもらった道順の通りに歩き始めた。
街の中心部に近づくと大きい建物が幾つか見えてくる。
いずれも何らかの施設であるようだ。
ただ、先程のパン屋さんも恐らくそうだが、多くはお店と住宅が一体になっている建物らしい。
だから、狭い道には生活音と子供の元気な声が溢れている。
それは陽の光が満ち溢れた景観とよく馴染んでいた。
ただ歩いているだけで、なんとも幸せな気分だ。
更に欲を満たして幸せ濃度を高めたいと思い、貰った袋を開ける。
パンを齧りながら、ゆっくりと目的地へ向かうことにした。
以前の世界でも歩きながら外でパンを食べることはあったが、それは仕事の移動中に時間が無い時だった。
そういう時は決まって、カロリーの高そうな惣菜パンと、生クリームやカスタードが詰まった甘いパンのコンビだった。
最後は100%と記載のある野菜ジュースで流し込む。
短い時間で空腹、美味、栄養を満たす最適解と結論づけていた。
だが、ここで食べるパンはそんな愚かな考えを否定し、完璧に覆した。
素朴な味ではあるが、噛むほどに小麦とバターの風味と味が染み出してくる。
自然に咀嚼と歩く速さはゆっくりになった。
一歩踏み出し、ひと噛みする毎に心が満たされる。
食べ歩きがこんなにも幸せな行為だということを初めて知った。
三つ目のパンを食べ終え、カップに入ったジュースを飲み始めたところで、特徴的なドーム型の巨大な建物が見えてきた。
まだ街を散策したい気分で少し惜しい気もするが、目的地に辿り着いてしまったようだ
その匂いは実物の美味しさすら凌駕する。
嗅覚を魅了されて辿り着いたのは、とあるお店だった。
何を売っているかは確認するまでもない。
軽い扉を押し開けると、一段と濃厚な匂いに全身が包まれた。
だが、棚やショーケースはなく、お目当てのブツはどこにも見当たらない。
「はぁい、こんにちは!」
そもそもの目的を忘れてしまっている自分に気が付いた。
「お仕事中に申し訳ありません。図書館へ行きたいのですが・・・宜しければ場所を教えてもらえませんか?」
「あぁ、良いわよ!ちょっと待ってね」
おばちゃんと言うにはあまりに失礼だ。
自分の親よりは年上だろうが、それでもまだ30歳中盤そこらだろうか。
ツヤのある綺麗な長い髪とセンターで分かれた前髪から覗くおでこはシワ一つ無い。
道案内を快諾した歳上のお姉さんは一度奥へ引っ込んだ後、わざわざ店の外に出てきて細かく道順を教えてくれた。
「折角寄ってくれたんだし、持って行って!」
ずいっと渡されたのは、不思議な透明の紙袋だった。
中身は期待通りのパンが3つ、あとは飲み物が入っているであろう蓋付きのコップが入っていた。
飛び上がるほど嬉しかった。
だが、パン目当てで店に入ったと思われるのは、なんだか卑しい気がする。
なるべく感情を抑えつつの笑顔でお礼を言い、教えてもらった道順の通りに歩き始めた。
街の中心部に近づくと大きい建物が幾つか見えてくる。
いずれも何らかの施設であるようだ。
ただ、先程のパン屋さんも恐らくそうだが、多くはお店と住宅が一体になっている建物らしい。
だから、狭い道には生活音と子供の元気な声が溢れている。
それは陽の光が満ち溢れた景観とよく馴染んでいた。
ただ歩いているだけで、なんとも幸せな気分だ。
更に欲を満たして幸せ濃度を高めたいと思い、貰った袋を開ける。
パンを齧りながら、ゆっくりと目的地へ向かうことにした。
以前の世界でも歩きながら外でパンを食べることはあったが、それは仕事の移動中に時間が無い時だった。
そういう時は決まって、カロリーの高そうな惣菜パンと、生クリームやカスタードが詰まった甘いパンのコンビだった。
最後は100%と記載のある野菜ジュースで流し込む。
短い時間で空腹、美味、栄養を満たす最適解と結論づけていた。
だが、ここで食べるパンはそんな愚かな考えを否定し、完璧に覆した。
素朴な味ではあるが、噛むほどに小麦とバターの風味と味が染み出してくる。
自然に咀嚼と歩く速さはゆっくりになった。
一歩踏み出し、ひと噛みする毎に心が満たされる。
食べ歩きがこんなにも幸せな行為だということを初めて知った。
三つ目のパンを食べ終え、カップに入ったジュースを飲み始めたところで、特徴的なドーム型の巨大な建物が見えてきた。
まだ街を散策したい気分で少し惜しい気もするが、目的地に辿り着いてしまったようだ
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~
存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?!
はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?!
火・金・日、投稿予定
投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる