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こじまき

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【転生者・源田すみれの場合】オタクの信念を貫いたら、推しが闇落ちした

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ヴィオレッタ・フィオリは、社交界の片隅で紅茶をすすりながら、「源田すみれ」としての人生を思い出した。

そして自分ヴィオレッタ・フィオリが、漫画『薔薇の王冠』に一瞬だけ描かれた、黒髪黒目のモブ令嬢であることも思い出す。

さらに『薔薇の王冠』では、自分の推しキャラである公爵、レアンドロの愛が報われないまま終わることも…

「私がこの世界に来たからには、絶対にレアンドロを幸せにしなきゃ」

推しを幸せにするために活動する転生者たちは、口では「推しさえ幸せになってくれれば」「推しと結ばれるなんてオタク失格」と言いながら、最終的にはヒロインを差し置いて、ちゃっかり推しと結ばれる。

「でも私はそんなことしない。私が欲しいのは推しの恋人ポジションじゃない。推しが笑って生きていけるエンディングだもの」

ーーー

原作ではこうだ。

王太子ラウロは優しさに溢れた平民出身の聖女・ローザに恋をし、婚約者である悪役令嬢カメリアを冷遇。

嫉妬したカメリアはヒロインをいじめるが、いじめがエスカレートしてローザを殺そうとしたところをラウロに見つかり、投獄される。

障害がなくなったラウロとローザは、晴れて結婚する。

その陰で、王太子かつ親友でもあるラウロに遠慮し、自分を律し、少し離れた場所からヒロインを一途に思っていたのがレアンドロ。

銀髪に紫の目をもち、冷静沈着で穏やか、闇魔法も含めた魔法の才能に優れた、ハイスペック公爵。

彼は自分の想いを押し殺し、ローザが身分差からラウロへの恋心を諦めようとするのを励まし、彼女が貴族の身分を得られるよう尽力する。

そしてローザとラウロが結婚したあと、外国に駐在して物語から退場するのだ。

(ローザのために尽くして尽くして尽くした挙句、たった一行『そしてレアンドロは赴任地へ旅立った』というフレーズとともに退場するなんて。そんなの切なすぎる)

「私が絶対にレアンドロの恋を叶えてみせる。ローザだって、頼りがいがあるけど俺様系のラウロより、優しいレアンドロと結婚したほうが幸せになれるはずよ」

ーーー

まずは推しの恋愛成就作戦。

レアンドロに匿名の手紙を出し、漫画で知ったローザの「好物」「趣味」「生活習慣」「大切にしているもの」をコツコツと伝える。

「聖女様はおばあさまの月命日には決まってお墓参りをされるのですが、墓地が遠くていつも苦労しておられます。移動用魔法陣をご提供すれば喜ばれるでしょう。同行されるのもいいかもしれません」

墓地に侍女を張り込ませ、ローザの祖母の命日に、レアンドロとローザが一緒にやってきたときと報告を受けたときには小躍りした。

「ローザの好きなタルト専門店に誘え」「ローザの好きな恋愛小説の新刊をプレゼントしろ」など、二人の距離を縮めるアドバイスを次々と提供する。

「順調順調。ローザもきっと、自分のことを理解してくれるレアンドロを好きになるはず」

次にローザ本人の友人ポジションを確保。

ラウロの一存で宮殿の舞踏会に招待されるものの、「平民出身」と陰口を叩かれ孤立しているローザに「素敵なドレスですね」「ローザ様の髪は、ピンクの薔薇のようですわ」とか適当なことを言って距離を詰め、すぐに友達に昇格。

ローザを家に招いたり、ローザがラウロに用意してもらった家に招かれたりしながら、ローザにレアンドロの魅力を再確認させる。

「まあ!ローザ様がお墓に行くのに、わざわざ公爵閣下が魔法陣を出してくださったのね。なんてお優しいんでしょう。ローザ様のことを大切に思っておられる証拠ですわ」

「まあ!この本も公爵閣下からのプレゼント?公爵閣下は、ローザ様の好みを完璧に理解しておられるようですわね」

けれど悪役令嬢カメリアが暴走して投獄されれば、ラウロの婚約者は空席になってしまう。そうなると、俺様なラウロが強引にローザを婚約者に据えないとも限らない。

そのためヴィオレッタは、カメリアを暴走させないために、カメリアの侍女に志願した。ヒステリックなカメリアに耐えられず、彼女の侍女は入れ替わりが激しかったから、難なく採用される。

ツンケンした態度の裏にある実は寂しがり屋な性格を見抜き、カメリアを根気よくフォロー。

気分が晴れるようにあれこれと外に連れ出し、「魔法アイドルショーのプロデューサー」という生きがいを見つけさせる。

プロデュース業で忙しくなったカメリアには、ローザに意地悪している暇などない。

そして極めつけに、ヴィオレッタ自身が橋渡し役になって、カメリアとローザを友達にしてしまった。

これでカメリアがローザをいじめることも、王太子ラウロとカメリアの婚約が破棄されることもない。

正ヒロインのローザもレアンドロに惹かれつつあり、みんな幸せ。

「完璧だわ。きっとレアンドロも幸せになれる」

ヴィオレッタは夜空を見上げながら、満足げに微笑んだ。

ーーー

ある日、フィオリ子爵令嬢として出席した舞踏会で、ヴィオレッタはレアンドロに呼び止められた。

「ヴィオレッタ・フィオリ嬢、少しお話が」

(レアンドロ…!近くで見てもビジュがいい!むしろ近くのほうがいいっ!…じゃなくて、なんで私なんかに話しかけるの?てか、なんで私のこと知ってるの?)

推しに話しかけられたオタクは、必死に呼吸を整えて、冷静を装って返す。

「公爵閣下、どのようなご用件でしょうか」
「見ていただきたいものがあるのです」

静かな声。なのに有無を言わさない圧がある。

(こういうポイントポイントでちょっと怖いところも好き…!なんだけど、でもやっぱり、どうして私なんかに話しかけてくるの?私なんかが、レアンドロの何を見せていただけるの?)

レアンドロが宮殿内に与えられている部屋に通されると、ヴィオレッタがレアンドロに匿名で送った手紙が、ずらりと机に並べられていた。

「こ、これは…」

(完全に、バレてる…)

足がつかないよう、どこにでも売っている紙とインクと封蝋で書いた手紙。

しかもレアンドロはヴィオレッタの存在を認識していないはず。

だから、手紙から自分にたどり着くはずはないと思っていた。

ヴィオレッタの体温がすーっと下がっていく。

(もしかして、ローザのストーカーだと思われて危険視されてる…?)

「公爵閣下、ええと…これはその…」
「私とローザ嬢の仲をとりもつため、ですか?」

ヴィオレッタはパアッと表情を明るくした。

「はい!その通りです!あなたに幸せになってほしくて」
「やはりそうですか」

レアンドロは初めて匿名の手紙を受け取ったときのことを思い出す。

怪しみながら手紙のアドバイス通りに行動したら、ローザが自分を見る目が変わった。お礼をしたくて差出人を探すと、すぐヴィオレッタにたどり着いた。

見ず知らずの令嬢がなぜ自分とローザの間を取り持とうとするのかいぶかしみながら、レアンドロはヴィオレッタの行動を注視することにした。

するとヴィオレッタは、ローザに近づいた。

(何かローザに良からぬことをするのではないか)

そう怪しんだレアンドロをよそに、ヴィオレッタはローザにレアンドロの良さをとうとうと語って聞かせた。魔法で姿を隠したレアンドロ本人が、顔を真っ赤にしながら聞いているとも知らずに。

(自分のことを…こんなに大切に思ってくれる人がいるなんて)

そしてあの気難しいカメリアの性格を矯正し、カメリアとローザの仲をとりもってまで見せた。驚くべき成果を挙げているのに、それを自慢しようともしない。

(謙虚で素晴らしい女性じゃないか?)

時折ラウロに呼び出された宮殿で、カメリアに付き従っているヴィオレッタとすれ違うことがあった。ヴィオレッタはチラチラとレアンドロを見ていたが、目が合いそうになるといつも赤い顔で目をそらした。

(私のことを好いてくれているように見えるが…近づいてくるつもりはないようだ)

嬉しいようで、もどかしい。

いつしかレアンドロは、「ヴィオレッタがローザにレアンドロのことどう話したか」を聞くために、ローザと会うようになった。

そしてローザと会っているときも、「どこかでヴィオレッタが自分を見てくれているのではないか」と落ち着かず、いつも目の端でヴィオレッタを探すようになった。

ヴィオレッタとすれ違うかもしれないと、宮殿に行くときは無駄にめかし込んだりもした。

レアンドロは自分がローザではなくヴィオレッタに惹かれていることを、自覚せざるを得なかった。

レアンドロは今、目の前にいるヴィオレッタに意識を向ける。

少し顔を赤くして、荒くなりそうな息を必死で整え、戸惑いながら、自分の目の前に立っている。

(可愛い…彼女の手を取りたい。彼女にキスしたい)

「ヴィオレッタ嬢、あなたは私の幸せを願ってくださっているのですよね?」
「もっ…もちろんです!そのために今まで頑張って…」

レアンドロはヴィオレッタに近づいて、跪く。ヴィオレッタの手を取り、手の甲にそっとキスをした。

ヴィオレッタの頬が真っ赤に染まる。

(なに、なにこれ…!?夢…夢よね…推しが…推しがっ…私の手にキス…!)

「では私と結婚してください」
「えっ…えっ!?」

混乱する思考の中で、ヴィオレッタは「ローザとレアンドロが手を取り合う結婚式のイメージ」を何とか掴み取る。

(そうよ、レアンドロはローザとくっつくのが幸せルートなんだから!私は違うでしょ!?)

ヴィオレッタは「だめです!」と勢いよく手を引き抜いた。

「公爵閣下、ローザ嬢と結婚してください。そうすればあなたは幸せになれますし、私は満足です」
「ですが私は…!」

縋りつくようなレアンドロの視線を、精神力の出力を最大にして振り切ったヴィオレッタ。彼女は部屋を出て、必死に廊下を走った。

震える手を抑えて、この世界の父に向けて手紙を書く。

《お父様、先日ご提案いただいたボロメオ伯爵との縁談、喜んで、そして謹んでお受けいたします。できるだけ早く進めてください。》

(推しがモブに惚れるなんてだめ。今までの努力が無駄になっちゃう。変なことになる前に、私がさっさと退場しなきゃ)

ーーー

ヴィオレッタがボロメオ伯爵と結婚すると聞いたレアンドロは、即座にヴィオレッタの父であるフィオリ子爵に連絡した。

《どうかご息女とボロメオ伯爵の婚約は無効にしてください。私は持参金なしででも、ヴィオレッタ嬢を妻に迎えたい。》

フィオリ子爵は戸惑った。どう考えても、ボロメオ伯爵より公爵に娘を嫁がせたほうが賢い。

しかしヴィオレッタは猛反対した。

「一度婚約して結婚の準備も始めているのに反故にするなんて!信義にもとることですわ、お父様。私は公爵閣下と結婚するつもりはありません」

ヴィオレッタは父を押し切り、「あのレアンドロの求婚を断ってまで自分を選んだ妻」をほくほく顔で迎えてくれた夫の屋敷に引っ込んだ。

ボロメオ伯爵夫人としての生活はそれなりに忙しく、充実していた。夫も「あえて自分を選んでくれた妻」を大切にしてくれる。

そしてしばらくして、レアンドロとローザが結婚したという知らせが届いた。

ヴィオレッタはレアンドロと顔を合わさないよう、「夫の親族に不幸があったから」という適当な理由で結婚式を欠席。

ローザとは手紙をやりとりをするだけになり、レアンドロからできるだけ離れ、普通の伯爵夫人として暮らすことに満足していた。

(遠くから推しの幸せを願うのが、オタクの美学なの)

いつか自分は夫との間に子どもをつくり、レアンドロとローザの間にも可愛い子どもが生まれるだろう。

これで本当にハッピーエンド。

…のはずだった。

だが、しばらくして奇妙な噂がヴィオレッタの耳に入った。

「公爵夫妻、仲があまり良くないらしい」
「ローザ様は人が変わったように、侍女に当たり散らしておられるとか」

(え…なんで?)

その答えは、自らヴィオレッタのもとにやってきた。

「ヴィオレッタ様、ごきげんよう」

ローザが、「どうしても会いたい」とボロメオ・タウンハウスに押しかけてきたのだ。

朝露に濡れた薔薇のように美しかったローザはやつれ、目に狂気じみた光を宿している。ヴィオレッタに人払いをさせて、いかにも疲れた様子で椅子に座った。

「ロ、ローザ様…」
「憐れみの目で見ないでくださいな。あなたのせいなのですから」
「私の…?」
「とぼけないで。あなたは私の友人のふりをする一方で、レアンドロ様の心を掴んで離さないのですから。どうしてなの?平民出身なのに聖女して崇められる私が憎い?」

ヴィオレッタは思わず立ち上がった。

「ローザ様、誤解です。私はあなたを妬んでも憎んでもいませんし、レアンドロ様の感情は一時の気の迷いにすぎません。彼はあなたと一緒にいるからこそ、幸せになれるのですから」

ローザはクツクツと笑いだす。

「幸せ…?レアンドロが幸せですって?今の彼の姿を見ても、あなたはそう言えるかしら。毎日あなたの姿絵を見ながら涙を流すレアンドロを見ても…」
「そんな、そんなこと…!」

(信じられない。どうして?ローザと結婚したらレアンドロは幸せの絶頂のはずなのに…)

「私の何がみじめか、わかる?夫が他の女性を愛している。でも夫が愛している女性は、夫をてんで相手にしていないの」

「そう、あなたのことよ」とローザは扇子でヴィオレッタの顔を指した。

「私に嫉妬して嫌がらせをする女や、愛人にしてくれと夫にすがりつくような女なら、正々堂々と憎めるものを…こんなの、あなたを憎んでいる私がただただみじめなだけじゃない」

ローザ様はテーブルのティーカップを取り、人差し指でそっと縁をなぞる。そして自分で一気に飲み干した。

「あなたが私を不幸にしたの。だからあなたも、私のせいで不幸になってもらうわ」

そう言って、ローザは血を吐いて椅子から崩れ落ちた。

「ローザ様!誰か…誰か来て!!医者を呼んで!」

ヴィオレッタの叫び声。

騎士の足音。

侍女の悲鳴。

混乱する伯爵邸。

ヴィオレッタの部屋からは、ローザが飲んだものと同じ毒が発見された。

ローザの侍女は、ローザが「レアンドロに思いを寄せるヴィオレッタに脅迫されている」と漏らしていたと証言する。

ローザは捕らえられ、牢屋に放り込まれた。

ーーー

暗く湿った牢。

ヴィオレッタの味方はいない。

夫であるボロメオ伯爵からは離縁状が届いた。ヴィオレッタと結婚したばかりに、殺人容疑者の夫になってしまった、不運な男だ。

(申し訳ない。離婚されるのは全然いいけど、なんでこんなことに…)

ローザの自作自演だと主張するのは簡単だ。しかしそうすれば、ローザとレアンドロが離れ離れになってしまう可能性がある。

「そんなのだめ」

唯一の救いはローザが一命をとりとめたというニュースだった。

(大丈夫。私がいなくても、ローザさえ生きていればレアンドロは幸せになれるから)

そう気を取り直したとき、「ヴィオレッタ」と男性の声がした。夫の声ではない。

牢の格子の向こうに、ランタンを持った銀髪の男が立っている。

(レアンドロ…!どうしてここに…ローザについていないとダメでしょう)

「公爵閣下。ローザ様のご容体は…」
「あなたはこんなときでも、他人の…あの女のことを心配するのですね」
「閣下、ローザ様のことをあの女だなんて!」
「あの女があなたを陥れたのですよ」
「どうしてそれを…!いえ、とにかく今ローザ様のそばを離れるべきではありませんわ」
「どうして!」

レアンドロが大きな声を出すので、ヴィオレッタはビクッと硬直した。

(こんな姿…原作では見たことない)

「私がどれだけあなたを愛しても、あなたは私とローザが一緒にいるようにと繰り返すだけ…」
「だってそれが…あなたが望んでいた幸せだから…」
「私が何を望んだと?あなたはわかっていない、まったく」

レアンドロはローザの牢に近づき、カギを開けた。

「出てください」

有無を言わせない口調に、ヴィオレッタはおずおずと牢から出る。

(いやそもそも冤罪なんだけどさ…こんな簡単に囚人を外に出しちゃっていいのかな…?)

「手を」

また有無を言わせない口調に、ヴィオレッタはレアンドロの手に自分の手を重ねた。

レアンドロは身体を震わせる。

「ああ、ヴィオレッタ…私の…私だけのヴィオレッタ…」

恍惚とした表情。

(なんで…なんでそんな表情を私に…)

「すみません。抑えきれません」

レアンドロはヴィオレッタの顎をクイと持ち上げて、情熱的なキスを落とす。

「あなたほど私を愛し、私の幸せを願ってくれる人はいない…そして謙虚で美しい…ああ、ヴィオレッタ…」

(レアンドロいい匂い…唇柔らかい…じゃなくて!)

「閣下…だめ…ですっ!んっ…」

ヴィオレッタはレアンドロを渾身の力で突き離そうとするが、レアンドロはびくともしない。

「可愛いですね。それで抵抗のつもりとは」

(そうだ、この人…ローザを守るために鍛えてたんだった…そうよ、ローザのために…)

「あなたにはローザじゃないとだめなんです!」

ヴィオレッタが叫ぶと、レアンドロは「そうですよね。何度も言わなくても、もうわかりました。私はローザとじゃないとだめなんですよね」と穏やかに頷いた。

(通じた…?やっとわかってくれた…?)

レアンドロはヴィオレッタを抱き上げ、「だからあなたに納得してもらえるように、ちゃんと準備したんです。行きましょう」と耳元で囁く。

「準備って、何の…?行くって、どこへ…?」

ーーー

ヴィオレッタが長い眠りから覚めたとき、隣にはレアンドロがいた。

「おはよう、ローザ」
「ローザ…?」

レアンドロはヴィオレッタに鏡を差し出す。

ヴィオレッタは自分の顔を見て、言葉を失う。そこには、ローザの顔になったヴィオレッタがいた。

レアンドロは「これであなたはローザです」と、レアンドロは心から嬉しそうに笑う。

「公爵閣下、これは一体どういうことですか?」
「あなたの顔を、魔法でローザの顔に変えてもらったんです。高くつきました」
「なっ…!?」

レアンドロは事の経過を話して聞かせる。

ローザがヴィオレッタの家で毒をあおったあと、レアンドロは一命をとりとめたローザを監禁し、ローザの顔をヴィオレッタに変えた。

ヴィオレッタを牢から連れ出し、代わりにヴィオレッタの顔をしたローザを牢に入れる。

そして自分の屋敷で、ヴィオレッタの顔をローザに変えた。

「あなたがあくまで『私がローザと結婚することでしか幸せになれない』と言い張るのなら、あなたがローザになればいいんだとひらめいたんです」

レアンドロは狂愛に満ちた目で、ヴィオレッタを見つめた。

(違う、こんなの…こんなレアンドロを望んでたわけじゃない…!レアンドロは冷静で穏やかで…こんな…こんな目をする人じゃないの…)

「自分が変わらなかったために、推しが変わってしまった」という現実を、ヴィオレッタは突きつけられた。

「これであなたの望み通りでしょう。ね、ローザ」

◆◆◆

「このあと、ヴィオレッタはローザとして一生レアンドロに監禁されて過ごしました。以上が源田すみれさんの転生ストーリーとなります」

中川美咲が報告を終えると、イセカイエージェント株式会社の会議室が、シーンとなる。

「最初にレアンドロからプロポーズされた時点で、受け入れておけば…普通に幸せになれたはずなのに」
「オタクの美学を貫きすぎて、裏目に出たよね」
「っていうか、オタクが推しと結ばれちゃいけないって、誰の主張?推しが望むならいいと思うけど…」
「いや、推しはみん彼だからさ」
「いや、でもさ…」

(みん彼ってなに…?)

上司の大塚は「推しとオタクを巡る議論」にはまったく興味がなさそうに、「ふーん」と資料をめくった。

「でもまあ、初志貫徹できるタイプはいいよね。この世界ではバットエンドだったけど、他の世界なら成功するかもだし。他の異世界オーナー様にもプッシュできる人材じゃないかな。本人の希望があれば、また転生先紹介してあげて」
「はい」
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