黒狼陛下は人質皇子に抱かれたい

こじまき

文字の大きさ
28 / 35

28 俺のものにならないか【マクシス目線】

しおりを挟む
停戦交渉の舞台となるケニ族のテントは、東方の香と獣脂の混ざった濃密な匂いに包まれていた。中央には「黒獅子」と呼ばれる族長ハジュンがゆったりと座す。浅黒い肌、黒い髪、黄金に光る瞳をもち、背には黒い獅子の毛皮をまとっていた。

どこかガイセルに似ている。「彼はどんな声をあげるだろう」と反射的に考えてしまって、意識をここに戻す。カエルンブリアの命運がかかった話し合いであり、ひとつ間違えたば自分はここで殺されるはずなのに、思ったより余裕があるのかもしれない。

それとも僕には、カエルンブリアになど思い入れがないのかもしれない。そもそも皇族らしく扱われてこなかったのだから、皇族としての責任を説くグレンクスの話も、まったく腑に落ちなかった。ただ罪もない人達が無駄に死ぬのは嫌だから、できることはしようとここにいるだけだ。

「お前がカエルンブリアの帝兄か」
「雄々しきケニ族のハジュン族長にご挨拶申し上げます。カエルンブリア帝国先帝の第一子マクシス=アウレリオです」
「皇帝夫妻を二人まとめて骨抜きにしている男娼だと聞いていたが、思ったより骨がある顔をしているな」
「お褒めいただき光栄でございます」

僕はまず両手で箱を差し出す。中にはカエルンブリアが昔ケニ族から奪った翡翠の女神像。

「ほう…生きているうちに見られるとは、帝都を襲ってみるものだな」
「テントの外に、他の宝物も用意してございます」
「それで軍を引き揚げろと?」
「ええ」

ケニ族は各地を回って掠奪を繰り返して生計を立ててきた民族だ。しかし掠奪を繰り返していれば、掠奪される国が弱ってしまう。宿主が死ねば寄生虫も死ぬ。であれば、カエルンブリアを生かして和平を結び、交易による富を得てはどうだろう。

「悪くない」

僕の提案に、ハジュンは豪快に笑った。

やっぱりガイセルとは違う。彼はこんな笑い方はしない。表面上は豪胆でいながら、実は誰よりも繊細で優しい人だから、いつもどこか照れたように笑うのだ。彼を思い出して、切なさが胸を通り抜けていく。

「だが宝石だけではな」
「何が御望みでしょうか」
「お前だよ、マクシス=アウレリオ。俺のものにならないか」

その声には、熱に浮かされた欲望があった。

「いい暮らしをさせてやる。それに俺は…大きいぞ。逃げた皇帝みたいなふにゃちん野郎とは違う」
「恐れながら、抱かれるのは趣味ではありません」

ハジュンはまた豪快に笑った。

「そうか、本当は俺の側なのか。残念だよ。では和平の成立を祝って一杯やろう」

意外にあっさり引き下がる。そう思っていたら「俺はルキウスと違って、無理やり自分のものにする趣味はない」と笑いかけられた。無理して豪快に笑っているのではない、どこか少年のような笑顔だ。

小姓が酒を運んでくるが、口だけつけるふりをするとまたハジュンが笑った。

「なにも入れてないぞ。外に殺気だった客も来てるようだからな。流石に俺もここで死にたくはない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

既読無視の年下幼馴染みの部屋に行ったら、アイドルグッズだらけだった。しかも推しは俺

スノウマン(ユッキー)
BL
国民的アイドルの朝比奈 春人(あさひな はると)はいつもラインを既読無視する年下の幼馴染、三上 直(みかみ なお)の部屋をとある理由で訪れる。すると部屋の中はアイドルのグッズだらけだった、しかも全部春人の。 『幼馴染の弟ポジジョン×国民的アイドルのお兄さん』になる前のドタバタコメディです。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

処理中です...