1 / 5
1 愛人は貴族の嗜み
「エルミナ、紹介しよう」
貴族学園の卒業を控えたある日、婚約者のレオン様との放課後のお茶の席。
彼はなぜか、ピンク髪の一年生を同席させた。
「俺の恋人、ミレイユだ」
ミレイユは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「愛人は貴族の嗜みだ。だから婚約中に恋人をもつのも、別に問題ない」
「…」
「ガリ勉にはわからないかもしれないが、これが男の甲斐性ってやつさ」
そして決め台詞のように言うのだ。
「妻をもちながら愛人も養ってやるなんて、男の中の男だろ?」
ミレイユは当然、彼の味方をする。
「ミレも本当にそう思いますぅ♡レオン様かっこいぃ♡♡」
レオン様の顔に、にやりと笑みが浮かぶ。
「貞淑な妻と可愛らしい愛人から同時に愛されることが、選ばれし男のロマンだ」
「選ばれし男」にも疑問が残るが、それよりも「同時に愛される」という前提は、どう考えても成立しない。
私は彼を愛していないのだから。
とうの昔に、愛想は尽きている。
同級生に影響されて花街や仮面舞踏会に出入りし、成績はどんどん下がって。
何度忠告しても、「俺は天才だから、やる気になればできる」と笑って。
レオン様が、あの方のような天才なはずがない。
よくて「中の中」。
伯爵家にようやく生まれた跡取りで、年老いた両親に溺愛されて育って。
魔法学園では、自分より家格の低い取り巻きとだけ交流して。
ちやほやされて慢心し、そこそこの才能を磨こうともせず。
子どものまま育って、自己肯定感だけやたら高くて。
そんな彼を、「婚約者だから」という理由だけで、愛せるはずなどないのに。
ついため息が出てしまう。
「ああ…心配だよな。でも大丈夫だ」
心配ではなく呆れているのに、彼はいいように誤解する。
「ミレイユを愛人にしても、エルミナは正妻として尊重される。俺は二人とも平等に愛せる男だから」
それが彼なりの…自分勝手な甲斐性だと理解する。
「…そうですか」
私がそれだけ返すと、レオン様は不満げな顔をした。
「なんだよ、その反応。もっとさ…他にあるだろ?」
「他に…とは?」
「俺と結婚できるうえに、妻として尊重されることが嬉しいとか」
信じられないが、どうやら本気で言っているらしい。
「そうは言われてもミレイユと競うのは不安だから、俺のためにもっと自分磨きを頑張る、とか」
眩暈がする。
「レオン様、そんな風に言っちゃ可哀そうですぅ♡いちおだけど、正妻なんだしぃ♡」
「ミレイユは優しいな。でもエルミナはもっと俺のために努力しなきゃだめなんだ」
吐き気までしてきた。
「レオン様のお考えがどうあれ…私の感情は、誰かに強要されるものではございません」
それだけ言って、踵を返す。
「おい、待てよ!茶は!?」
レオン様の声が追いかけてくるけれど、振り返ることはない。ほんの少し残っていた情も摘まれた今は、ただできるだけ早くテラスを離れたい。
「彼から離れる」と心に決めて。
貴族学園の卒業を控えたある日、婚約者のレオン様との放課後のお茶の席。
彼はなぜか、ピンク髪の一年生を同席させた。
「俺の恋人、ミレイユだ」
ミレイユは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「愛人は貴族の嗜みだ。だから婚約中に恋人をもつのも、別に問題ない」
「…」
「ガリ勉にはわからないかもしれないが、これが男の甲斐性ってやつさ」
そして決め台詞のように言うのだ。
「妻をもちながら愛人も養ってやるなんて、男の中の男だろ?」
ミレイユは当然、彼の味方をする。
「ミレも本当にそう思いますぅ♡レオン様かっこいぃ♡♡」
レオン様の顔に、にやりと笑みが浮かぶ。
「貞淑な妻と可愛らしい愛人から同時に愛されることが、選ばれし男のロマンだ」
「選ばれし男」にも疑問が残るが、それよりも「同時に愛される」という前提は、どう考えても成立しない。
私は彼を愛していないのだから。
とうの昔に、愛想は尽きている。
同級生に影響されて花街や仮面舞踏会に出入りし、成績はどんどん下がって。
何度忠告しても、「俺は天才だから、やる気になればできる」と笑って。
レオン様が、あの方のような天才なはずがない。
よくて「中の中」。
伯爵家にようやく生まれた跡取りで、年老いた両親に溺愛されて育って。
魔法学園では、自分より家格の低い取り巻きとだけ交流して。
ちやほやされて慢心し、そこそこの才能を磨こうともせず。
子どものまま育って、自己肯定感だけやたら高くて。
そんな彼を、「婚約者だから」という理由だけで、愛せるはずなどないのに。
ついため息が出てしまう。
「ああ…心配だよな。でも大丈夫だ」
心配ではなく呆れているのに、彼はいいように誤解する。
「ミレイユを愛人にしても、エルミナは正妻として尊重される。俺は二人とも平等に愛せる男だから」
それが彼なりの…自分勝手な甲斐性だと理解する。
「…そうですか」
私がそれだけ返すと、レオン様は不満げな顔をした。
「なんだよ、その反応。もっとさ…他にあるだろ?」
「他に…とは?」
「俺と結婚できるうえに、妻として尊重されることが嬉しいとか」
信じられないが、どうやら本気で言っているらしい。
「そうは言われてもミレイユと競うのは不安だから、俺のためにもっと自分磨きを頑張る、とか」
眩暈がする。
「レオン様、そんな風に言っちゃ可哀そうですぅ♡いちおだけど、正妻なんだしぃ♡」
「ミレイユは優しいな。でもエルミナはもっと俺のために努力しなきゃだめなんだ」
吐き気までしてきた。
「レオン様のお考えがどうあれ…私の感情は、誰かに強要されるものではございません」
それだけ言って、踵を返す。
「おい、待てよ!茶は!?」
レオン様の声が追いかけてくるけれど、振り返ることはない。ほんの少し残っていた情も摘まれた今は、ただできるだけ早くテラスを離れたい。
「彼から離れる」と心に決めて。
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言
夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので……
短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
このお話は小説家になろう様にも掲載しています。
つかぬことを伺いますが ~伯爵令嬢には当て馬されてる時間はない~
有沢楓花
恋愛
「フランシス、俺はお前との婚約を解消したい!」
魔法学院の大学・魔法医学部に通う伯爵家の令嬢フランシスは、幼馴染で侯爵家の婚約者・ヘクターの度重なるストーキング行為に悩まされていた。
「真実の愛」を実らせるためとかで、高等部時代から度々「恋のスパイス」として当て馬にされてきたのだ。
静かに学生生活を送りたいのに、待ち伏せに尾行、濡れ衣、目の前でのいちゃいちゃ。
忍耐の限界を迎えたフランシスは、ついに反撃に出る。
「本気で婚約解消してくださらないなら、次は法廷でお会いしましょう!」
そして法学部のモブ系男子・レイモンドに、つきまといの証拠を集めて婚約解消をしたいと相談したのだが。
「高貴な血筋なし、特殊設定なし、成績優秀、理想的ですね。……ということで、結婚していただけませんか?」
「……ちょっと意味が分からないんだけど」
しかし、フランシスが医学の道を選んだのは濡れ衣を晴らしたり証拠を集めるためでもあったように、法学部を選び検事を目指していたレイモンドにもまた、特殊設定でなくとも、人には言えない事情があって……。
※次作『つかぬことを伺いますが ~絵画の乙女は炎上しました~』(8/3公開予定)はミステリー+恋愛となっております。
だって悪女ですもの。
とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。
幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。
だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。
彼女の選択は。
小説家になろう様にも掲載予定です。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
「子守係風情が婚約者面をするな」と追い出された令嬢——公爵家の子供たちが全員、家出した
歩人
ファンタジー
「所詮、子守係にすぎない女だった」
公爵嫡男エドワードはそう吐き捨て、華やかな伯爵令嬢との婚約を発表した。
追い出されたフィオナは泣かなかった。前世で保育士だった記憶を持つ彼女は知っていた——子供は見ている。全部、覚えている。
フィオナが去って一週間。公爵家の三人の子供たちが、揃って家を出た。
長男は「フィオナ先生のところに行く」と書き置きを残し、次女は新しい婚約者に「あなたは僕たちの名前すら知らない」と告げた。
「お返しする気はございません——この子たちは、私を選んだのですから」
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
白い結婚をご希望ですか? 良いですよ。私はジャガイモと筋肉を育てますので!
松本雀
恋愛
「……いいか、エルゼ。あらかじめ言っておくが、私は君を愛するつもりはない」
「願ったり叶ったりです! 実は私、国境警備隊に幼馴染の恋人がいまして。この結婚が決まった時、二人で『体は売っても心は売らない』って涙ながらに誓い合ったんです。閣下が愛してくださらないなら、私の貞操も守られます! ありがとうございます、公爵閣下!」
「……こいびと?」
◆
「君を愛するつもりはない」
冷徹な公爵ギルベルトが新婚初夜に放った非情な宣告。しかし、新妻エルゼの反応は意外なものだった。
「よかった! 実は私、国境警備隊に恋人がいるんです!」
利害が一致したとばかりに秒速で就寝するエルゼ。彼女の目的は、愛なき結婚生活を隠れ蓑に、恋人への想いを込めた「究極のジャガイモ」を育てることだった!
公爵家の庭園を勝手に耕し、プロテインを肥料にするエルゼに、最初は呆れていたギルベルト。だが、彼女のあまりにフリーダムな振る舞いと、恋人への一途(?)な情熱を目の当たりにするうち、冷徹だった彼の心(と筋肉)に異変が起き始めて……!?