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3 男のロマンの末路
卒業パーティー当日、俺は会場でエルミナを待ってやっていた。ミレイユと一緒に。
エルミナ、早く来ないかな。
右に成績優秀で清楚なエルミナ、左にドジっ子で可愛いミレイユを置けば、「婚約者と恋人のどちらにも愛される俺」の完成。
名門伯爵家のたったひとりの跡取りで、剣の腕もあり、見た目もいい。そんな男だけに許されるシチュエーション。
男子生徒たちが俺に向けるだろう羨望の眼差しを想像するだけで、気持ちよくなる。
「エルミナ様ったら、遅くないですかぁ?」
「そうだな」
「傍流の子爵令嬢のくせに、レオン様をお待たせするなんてぇ!ミレだったらレオン様に会いたくて、早く来ちゃいますぅ」
「まったくだ」
あとで指導してやらないと。
俺の前でもじもじするばかりだったエルミナは、いつの間にか口うるさくなった。そのうえ魔法科の首席を、「天才」と争ったりして。
「卒業したらすぐ結婚するんだから、頑張る必要ないだろ」
そう言うと彼女は「認めてくださる方がいるので、期待を裏切りたくない」と口答えしたのだ。俺に守られるはずの女の子が手の届かない存在になったようで、あれは相当イラついた。
周囲がざわめく。
「エルミナ様、なんで…っ」というミレイユの声で、俺は視線を上げた。
「おいエルミナ、遅い…」
視線が一点に集中し、ざわめきが遠ざかる。
上質な艶やかなネイビーのドレスを纏ったエルミナ。だけどそのドレスは、俺が贈ったものじゃない。
「な、なんで…」
ミレイユを振り払う。足が勝手に動いていた。
「レオン様、ごきげんよう」
「俺が贈ったドレスはどうしたっ…!」
エルミナは首をかしげた。
「…いただいておりませんけれど?」
そして隣の男に目を向ける。
「まさか…オルフェウス、なにかしたの?」
そのとき初めて、エルミナに腕を出している背の高い男に目が行く。
俺よりずっと濃い金髪に、赤い目。
魔法の天才、オルフェウス第二王子殿下。
「エルミナに似合わない軽薄なドレスだったので、処分させてもらったよ」
金と薄いピンク…俺の色のドレスが…そんな簡単に…
「そもそもなんでエルミナが殿下と…っ!」
立派な裏切りだ。俺に恥をかかせやがって。
「お前は俺の婚約者だろうが!」
掴みかかろうとすると、反対に腕を掴まれた。すごい力で。
「そのような態度で、彼女に接するな」
「し、しかし…こいつは俺の婚約者で…」
「確かにそうだが、同時に…」
焦る俺の声に、淡々とした殿下の声が答える。
「私の公妾になる女性でもある」
理解が、追いつかなかった。
「意味がわかるか?」
公妾の、意味?
公妾っていうのは、王族がもてる「特別な愛人」で、地位も正妃並みに高くて…
公妾になったら、夫よりも、自分が仕える王族を優先するのが当然…
エルミナが…俺よりも殿下を優先して…当然!?
「そんな…!俺に無断で…俺の妻なのに…そんなの絶対おかしいっ!」
「許可なら君の父が出している」
「なっ…!?」
父は「エルミナに配分される公妾予算」の一定額を受け取ることで同意したらしい。
「君はまだ彼女の夫ではない。それになんの権限もない、ただの学生…子どもだからな」
手がぶるぶると震えてくる。
だけどエルミナは俺の妻になるんだ。だからいつだって俺のそばにいて、俺のことだけ見ているべきじゃないのか。
王子殿下に腕をとられて幸せそうにしているなんて、間違ってる。
「ご安心を、レオン様。私はあなたの妻となりますわ」
エルミナが笑う。晴れやかに。
「ただし…”あなたのことを愛している妻”にはなりませんけれど」
思い描いていた未来が崩れていく。
「男のロマンとやらは、諦めてくださいませね」
息が苦しくなる。立っていられなくて、膝をつく。
周囲からの視線が突き刺さる。
欲しかった羨望じゃなくて、軽蔑と野次馬根性の視線。
ミレイユが「レオン様ぁ」と駆け寄るけど、俺が欲しいのはお前じゃない。
むしろ愛人風情が寄って来るな、邪魔だ。
「エルミナ…なあ、ただのやきもちと気の迷いだよな?ミレイユとは別れてやるから…」
こう言えば許してもらえるはずだ。エルミナは優しいから。
「嫉妬させるようなことをしたけど、俺は君が好きだ…エルミナも、そうだよな?」
エルミナはにこりと笑って、少し屈む。
ほら、やっぱり許してくれる…
「嫉妬など、しようがありません。あなたのことなんて、露ほども愛していないのですから」
完全に、音が消えた。
でも、だめだ。なんとか引き止めないと。
「殿下の寵愛を失ったらどうなる!?俺は助けてやらないからな!収入がなくなって路頭に迷う悲惨な未来が待ってるんだぞ!今戻ってくれば…」
また殿下とエルミナが顔を見合わせて、ふっと笑う。
「私にエルミナ以外の女性は必要ない。妃も公妾も愛人もな」
第二王子殿下は「学友諸君、今の私の言葉をぜひ覚えておいてくれ。そしてもし私がエルミナ以外の女性を側に置いたら、断罪してほしい」と宣言する。
公衆の面前での、永遠の愛の誓い。
それをお膳立てさせられたのは、俺?
忌々しくも誰かが拍手を始めて、それが会場中に広がっていく。
主役は「妻と愛人を侍らせる俺」だったはずなのに。
まるで二人が「愛し合う夫婦」で、俺は横恋慕している間抜けな男。
エルミナが俺の目を見て、心底嬉しそうに微笑む。
「ロマンの末路ですわね、レオン様」
エルミナ、早く来ないかな。
右に成績優秀で清楚なエルミナ、左にドジっ子で可愛いミレイユを置けば、「婚約者と恋人のどちらにも愛される俺」の完成。
名門伯爵家のたったひとりの跡取りで、剣の腕もあり、見た目もいい。そんな男だけに許されるシチュエーション。
男子生徒たちが俺に向けるだろう羨望の眼差しを想像するだけで、気持ちよくなる。
「エルミナ様ったら、遅くないですかぁ?」
「そうだな」
「傍流の子爵令嬢のくせに、レオン様をお待たせするなんてぇ!ミレだったらレオン様に会いたくて、早く来ちゃいますぅ」
「まったくだ」
あとで指導してやらないと。
俺の前でもじもじするばかりだったエルミナは、いつの間にか口うるさくなった。そのうえ魔法科の首席を、「天才」と争ったりして。
「卒業したらすぐ結婚するんだから、頑張る必要ないだろ」
そう言うと彼女は「認めてくださる方がいるので、期待を裏切りたくない」と口答えしたのだ。俺に守られるはずの女の子が手の届かない存在になったようで、あれは相当イラついた。
周囲がざわめく。
「エルミナ様、なんで…っ」というミレイユの声で、俺は視線を上げた。
「おいエルミナ、遅い…」
視線が一点に集中し、ざわめきが遠ざかる。
上質な艶やかなネイビーのドレスを纏ったエルミナ。だけどそのドレスは、俺が贈ったものじゃない。
「な、なんで…」
ミレイユを振り払う。足が勝手に動いていた。
「レオン様、ごきげんよう」
「俺が贈ったドレスはどうしたっ…!」
エルミナは首をかしげた。
「…いただいておりませんけれど?」
そして隣の男に目を向ける。
「まさか…オルフェウス、なにかしたの?」
そのとき初めて、エルミナに腕を出している背の高い男に目が行く。
俺よりずっと濃い金髪に、赤い目。
魔法の天才、オルフェウス第二王子殿下。
「エルミナに似合わない軽薄なドレスだったので、処分させてもらったよ」
金と薄いピンク…俺の色のドレスが…そんな簡単に…
「そもそもなんでエルミナが殿下と…っ!」
立派な裏切りだ。俺に恥をかかせやがって。
「お前は俺の婚約者だろうが!」
掴みかかろうとすると、反対に腕を掴まれた。すごい力で。
「そのような態度で、彼女に接するな」
「し、しかし…こいつは俺の婚約者で…」
「確かにそうだが、同時に…」
焦る俺の声に、淡々とした殿下の声が答える。
「私の公妾になる女性でもある」
理解が、追いつかなかった。
「意味がわかるか?」
公妾の、意味?
公妾っていうのは、王族がもてる「特別な愛人」で、地位も正妃並みに高くて…
公妾になったら、夫よりも、自分が仕える王族を優先するのが当然…
エルミナが…俺よりも殿下を優先して…当然!?
「そんな…!俺に無断で…俺の妻なのに…そんなの絶対おかしいっ!」
「許可なら君の父が出している」
「なっ…!?」
父は「エルミナに配分される公妾予算」の一定額を受け取ることで同意したらしい。
「君はまだ彼女の夫ではない。それになんの権限もない、ただの学生…子どもだからな」
手がぶるぶると震えてくる。
だけどエルミナは俺の妻になるんだ。だからいつだって俺のそばにいて、俺のことだけ見ているべきじゃないのか。
王子殿下に腕をとられて幸せそうにしているなんて、間違ってる。
「ご安心を、レオン様。私はあなたの妻となりますわ」
エルミナが笑う。晴れやかに。
「ただし…”あなたのことを愛している妻”にはなりませんけれど」
思い描いていた未来が崩れていく。
「男のロマンとやらは、諦めてくださいませね」
息が苦しくなる。立っていられなくて、膝をつく。
周囲からの視線が突き刺さる。
欲しかった羨望じゃなくて、軽蔑と野次馬根性の視線。
ミレイユが「レオン様ぁ」と駆け寄るけど、俺が欲しいのはお前じゃない。
むしろ愛人風情が寄って来るな、邪魔だ。
「エルミナ…なあ、ただのやきもちと気の迷いだよな?ミレイユとは別れてやるから…」
こう言えば許してもらえるはずだ。エルミナは優しいから。
「嫉妬させるようなことをしたけど、俺は君が好きだ…エルミナも、そうだよな?」
エルミナはにこりと笑って、少し屈む。
ほら、やっぱり許してくれる…
「嫉妬など、しようがありません。あなたのことなんて、露ほども愛していないのですから」
完全に、音が消えた。
でも、だめだ。なんとか引き止めないと。
「殿下の寵愛を失ったらどうなる!?俺は助けてやらないからな!収入がなくなって路頭に迷う悲惨な未来が待ってるんだぞ!今戻ってくれば…」
また殿下とエルミナが顔を見合わせて、ふっと笑う。
「私にエルミナ以外の女性は必要ない。妃も公妾も愛人もな」
第二王子殿下は「学友諸君、今の私の言葉をぜひ覚えておいてくれ。そしてもし私がエルミナ以外の女性を側に置いたら、断罪してほしい」と宣言する。
公衆の面前での、永遠の愛の誓い。
それをお膳立てさせられたのは、俺?
忌々しくも誰かが拍手を始めて、それが会場中に広がっていく。
主役は「妻と愛人を侍らせる俺」だったはずなのに。
まるで二人が「愛し合う夫婦」で、俺は横恋慕している間抜けな男。
エルミナが俺の目を見て、心底嬉しそうに微笑む。
「ロマンの末路ですわね、レオン様」
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