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5 選ばれた女の結末
魔法式に優れた才能をもつ公妾。
頑として妃を迎えない第二王子の、最愛の女性。
それが今の私の立場。
国務会議では殿下の隣に座り、意見を述べる。私の考案した魔法式はすでに複数が実用化され、国の防衛と発展に寄与していた。
パーティーに出席すれば、多くの貴族に取り囲まれて、誰もが私の機嫌をうかがう。
肩は凝るけれど、充実した毎日。
ほんの息抜きに、お茶に手を伸ばす。
「エルミナ様、ブラント伯爵が…」
「また手紙?」
「いいえ、直接いらっしゃっておいでです。門番が止めておりますが」
殿下と先代ブラント伯爵と交わした覚書には、「契約時の当代伯爵への援助」のみが明記されていた。爵位を継いだレオン様には公妾予算は配分されず、彼の散財も相まって伯爵家の財政は悪化の一途。
学園時代の彼の取り巻きも、私とのコネクションを期待して彼に近づいた人たちも、そしてミレイユまでも、彼から去っていったらしい。
窓から覗くと、門の前で喚いている彼が見える。門番も慣れたもので、まるで子どもをなだめるように接している。
「エルミナ!エルミナァ!まだ俺を愛してるだろ!?金と一緒に戻ってきたら許してやるからっ!家に帰ってこい!」
彼がなりたがった「甲斐性のある男」は影も形もない。「優しい妻」の幻想を追いかけて、私に金をねだるしかない憐れな男。
「外が騒がしいな」
愛しい声がして、首に重い腕が回される。
「夫がごめんなさい、オルフェウス」
オルフェウスはむっとした表情を浮かべる。
「あんな男を夫と呼ばないでほしい」
「でも事実、夫だもの」
以前「レオンという名前を出すな」と言われているから、彼をどう呼べばいいのか、もはやわからない。
「門番が気の毒。追い払わないと」と立ち上がろうとすると、「だめだ」と引き止めらえる。
「君の目にあいつが映ると思うだけで…」
「ふふ」
一緒に暮らし始めてから知ったけれど、私が思うよりもずっと、オルフェウスは私を愛しているらしい。
会議のあともパーティーのあとも、「エルミナが他の男の目にさらされてしまった。本当は誰にも見せたくないのに。けれどそれでは君の才能が…」と懊悩しながら口づけしてくるのだから。
私を抱き寄せる腕は、「腕の中にずっと閉じ込めておきたい」と言っているように強くて。
私とレオン様の問題に気づいてから彼を監視していたことも含めて、密度の濃い愛情を感じざるを得ない。
「だからレオン様が恋人を連れてきたとき、すぐ気づいたのね」
「ああ。彼が君を傷つける前に止められなかったのは手落ちだが」
しかし彼が私を傷つけたからこそ、私は今の道を選べた。
そう言うと彼は、ほっとしたように息を吐いたのだ。
「…ところで、私が彼に会わず彼を追い払うには、どうすれば?」
「こうしよう」
オルフェウスはがたりと窓を開ける。
レオン様の目がこちらを向いて、歓喜に満ちる。
「エルミナ!エルミナ!!俺だ!お前の愛する夫だ!!」
その彼に見せつけるように、オルフェウスは私の顎に手を添えて、深いキスをした。
「やめろぉおおお!」という咆哮を遠くに聞きながら、甘く絡みつくような口づけを受け入れる。
長い。
「オルフェウス…も、見せつけるのは十分…」
「足りない、まだ…私が」
切実な声とともに、腰を抱いてもっと近く深く。
「エルミナァアアアア!くそ、くそおおおおおおっ!エルミナァアアアア!」
クズな夫に絶望を与えながら、甘い舌と荒くなってくる吐息を味わう。
オルフェウスは「もう見せてやらない」というように窓を閉める。
「これ以上は、あの男にはもったいない…君は私だけのものだからな」
「そうね」
これが、本当に「選ばれた」女の結末。
いいえ、「自分で選んだ女」の結末だ。
天才王子の隣に立ち、誰よりも愛され、情熱を傾ける仕事で称賛を受ける人生。
あのクズは、これを「ロマン」とでも呼ぶかしら。
頑として妃を迎えない第二王子の、最愛の女性。
それが今の私の立場。
国務会議では殿下の隣に座り、意見を述べる。私の考案した魔法式はすでに複数が実用化され、国の防衛と発展に寄与していた。
パーティーに出席すれば、多くの貴族に取り囲まれて、誰もが私の機嫌をうかがう。
肩は凝るけれど、充実した毎日。
ほんの息抜きに、お茶に手を伸ばす。
「エルミナ様、ブラント伯爵が…」
「また手紙?」
「いいえ、直接いらっしゃっておいでです。門番が止めておりますが」
殿下と先代ブラント伯爵と交わした覚書には、「契約時の当代伯爵への援助」のみが明記されていた。爵位を継いだレオン様には公妾予算は配分されず、彼の散財も相まって伯爵家の財政は悪化の一途。
学園時代の彼の取り巻きも、私とのコネクションを期待して彼に近づいた人たちも、そしてミレイユまでも、彼から去っていったらしい。
窓から覗くと、門の前で喚いている彼が見える。門番も慣れたもので、まるで子どもをなだめるように接している。
「エルミナ!エルミナァ!まだ俺を愛してるだろ!?金と一緒に戻ってきたら許してやるからっ!家に帰ってこい!」
彼がなりたがった「甲斐性のある男」は影も形もない。「優しい妻」の幻想を追いかけて、私に金をねだるしかない憐れな男。
「外が騒がしいな」
愛しい声がして、首に重い腕が回される。
「夫がごめんなさい、オルフェウス」
オルフェウスはむっとした表情を浮かべる。
「あんな男を夫と呼ばないでほしい」
「でも事実、夫だもの」
以前「レオンという名前を出すな」と言われているから、彼をどう呼べばいいのか、もはやわからない。
「門番が気の毒。追い払わないと」と立ち上がろうとすると、「だめだ」と引き止めらえる。
「君の目にあいつが映ると思うだけで…」
「ふふ」
一緒に暮らし始めてから知ったけれど、私が思うよりもずっと、オルフェウスは私を愛しているらしい。
会議のあともパーティーのあとも、「エルミナが他の男の目にさらされてしまった。本当は誰にも見せたくないのに。けれどそれでは君の才能が…」と懊悩しながら口づけしてくるのだから。
私を抱き寄せる腕は、「腕の中にずっと閉じ込めておきたい」と言っているように強くて。
私とレオン様の問題に気づいてから彼を監視していたことも含めて、密度の濃い愛情を感じざるを得ない。
「だからレオン様が恋人を連れてきたとき、すぐ気づいたのね」
「ああ。彼が君を傷つける前に止められなかったのは手落ちだが」
しかし彼が私を傷つけたからこそ、私は今の道を選べた。
そう言うと彼は、ほっとしたように息を吐いたのだ。
「…ところで、私が彼に会わず彼を追い払うには、どうすれば?」
「こうしよう」
オルフェウスはがたりと窓を開ける。
レオン様の目がこちらを向いて、歓喜に満ちる。
「エルミナ!エルミナ!!俺だ!お前の愛する夫だ!!」
その彼に見せつけるように、オルフェウスは私の顎に手を添えて、深いキスをした。
「やめろぉおおお!」という咆哮を遠くに聞きながら、甘く絡みつくような口づけを受け入れる。
長い。
「オルフェウス…も、見せつけるのは十分…」
「足りない、まだ…私が」
切実な声とともに、腰を抱いてもっと近く深く。
「エルミナァアアアア!くそ、くそおおおおおおっ!エルミナァアアアア!」
クズな夫に絶望を与えながら、甘い舌と荒くなってくる吐息を味わう。
オルフェウスは「もう見せてやらない」というように窓を閉める。
「これ以上は、あの男にはもったいない…君は私だけのものだからな」
「そうね」
これが、本当に「選ばれた」女の結末。
いいえ、「自分で選んだ女」の結末だ。
天才王子の隣に立ち、誰よりも愛され、情熱を傾ける仕事で称賛を受ける人生。
あのクズは、これを「ロマン」とでも呼ぶかしら。
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